機動戦士ガンダムSEED〜ラスティ生存√リメイク〜 作:残月
「お兄ちゃんが本当にゴメンなさい!」
「……すんませんでした」
「ああ、いや……俺も反射的に手を出しちまったから。スマン」
あれから、少女の説得により黒髪の少年の誤解を解き、お詫びとしてカフェテラスでコーヒーをご馳走になった俺は再び、兄妹から謝罪の言葉を受けていた。尤も兄の方は不満が溢れ出ていたが一応、自己紹介され、この二人は間違いなくシン・アスカとマユ・アスカだと判明する。
しかし、シンにマユか……まさか、このタイミングで次作の主人公とキーキャラに会うとはね。オーブだから可能性はゼロじゃなかったけど、まさかのエンカウントである。
「兄としては可愛い妹が心配だったんだろ?」
「それは……そうかもですけど……」
先程、聞いた話の経緯はこうである。
街に買い物に来ていたシンとマユだが少し目を離した際にはぐれてしまったとの事。やっとの思いでシンはマユを見付けたと思ったら地べたに座り込み、男に襲われそうになっている、と勘違い。咄嗟に男を突き飛ばそうとして俺に返り討ち……ってのが事の顛末だ。
この頃のシンってまだ家族を失ってないから、やさぐれてはいないと思ってたけどシスコンフィルターが掛かったらしいな。
加えて、二人が通うスクールではオーブ国内でも不審者の目撃情報があった為に注意する様に促されていたらしい。それってもしかして俺達と同様にオーブに潜入した地球軍かザフトなのでは?確信は無いがそんな気がした。
そんな事情もあったのだから俺が仕方無い事だから気にするなと言うけどマユはそれを気にしていてシンは俺がマユに絡むのが気に入らないらしい。
「やらかした事は兎も角……大切な人が居て守ろうとする姿勢は間違っちゃいねーよ。後はもう少し状況を見ような」
「……はい」
俺の一言にシンも素直に頷く。少しは頭が冷えたらしいな。俺はそう思いながらコーヒーを飲んで……その香りと味にバルドフェルドさんが淹れてくれたコーヒーを思い出してしまう。豆が同じなのかな?
「どう……したんですか?」
「急に黙ったから……大丈夫ですか?」
「ん……ちょっと思うところがあっただけだよ。このコーヒーが知り合いの淹れてくれたコーヒーに少し似てる気がしてな……」
先程まで俺を不満そうに見ていたシンが今度は心配そうな表情でマユと共に俺を見つめていた。DESTINYの頃も捻くれてはいるけど素直な部分が多かったからな。まだシスコンを拗らせた程度だから不満よりも素直な気持ちが上回るんだろう。
「その人は……面白くて、俺と気が合う人だったんだ。コーヒーのブレンドが趣味の人で部下や友達にもよく飲ませていたらしい。でも、その人は少し前に大怪我を負ってな。今は彼女さんと入院中だ。それを思い出したから……ちょっとな」
「そうなん……ですね」
なるべく暗くならない様にしようと思ったがバルドフェルドさんとアイシャさんの事を話してる内に俺自身がへこんできた。それを察したのかシンとマユの表情も曇ってしまう。テーブルの上のシンのコーヒーとマユのココアがカップの中で揺れていた。
「それよりもシンは大丈夫なのか?綺麗にカウンターが決まっちまったからな」
「だ、大丈夫ですよ。それよりも……」
俺がシンの肘を落とした辺りに手を添えるとシンは子供扱いすんなとばかりに俺の手を振り払う。そして、また謝ろうとする流れだったのでパンと俺は両手を叩く。
「ま、俺が気にするなっていってんだから、もうこの話はおしまい。コーヒーもご馳走になったしな」
「はい。あ……そう言えば、お名前を聞いてませんでした」
これで話を終えようとしたがマユが俺の名を聞く。さて、どうする……まさか、本名を名乗る訳にもいかんしな。
「見付けたぞ、ラ……貴様!何をサボっている!」
「探しましたよ、ラ……ライ!」
そんな風に悩んでいたら車道から聞き慣れた叫び声に振り返る。車に乗ったアスラン、ニコル、イザーク、ディアッカが俺を探していたらしい。イザークとニコルがうっかり俺の名を叫ぼうとした所でギリギリ踏み留まり、ニコルが咄嗟に俺の偽名を決めてくれた。
「おう、悪い。今行くよ」
「あ……ゴ、ゴメンなさい。私達の所為でライさんの、お仕事の邪魔をしちゃったんですか!?」
俺はニコル達に返事をしつつ席を立つ。マユは自分達の所為で仕事の邪魔をしてしまったのかと心配しているがモーマンタイ。
「ちょっと長めに休憩を取っただけだよ。コーヒー、ご馳走様。シン、俺に殴りかかってくる度胸があるんだからマユの側に居て、守ってやれよ?じゃあな」
俺はマユの頭を撫でながらカフェを後にしようとして……最後にシンにアドバイスと言うか忠告をしてから去る。こんなもんで運命が変わるとは思わんが言わなきゃならない気がした。
俺は車の後部座席の真ん中に乗る。運転手がアスランで助手席にディアッカ。後部座席はイザーク、俺、ニコルの順に乗っている。
「貴様……サボってお茶とは良いご身分だな……」
「羨ましいだろ?」
イザークの発言にボケで返すと拳が飛んできたので軽く受け止める。フ、甘いなイザーク。さっきのシンの方が勢いがあったぜ?
「ナンパしたのか、ラスティ?」
「可愛い子だったろ?兄貴も付いてきたけどな」
「ラスティは年下が好きなんですか!?」
ディアッカがニヤニヤした表情で質問してきて、何故かニコルが食い付いた。ふむ、どう答えるのが正解か……
『トリィ』
「ん?止まってくれ、アスラン」
そのタイミングで俺達が入れない工場の敷地内から何かが飛んで来た。その独特な鳴き声に俺は何が来たかを察してしまう。俺の言葉に車を止めたアスラン。俺が車を降りるとアスラン達も車を降りた。すると先程、飛来した物がアスランの下へと飛んでくる。
『トリィ!』
「何だ、コイツ?」
「へえ、ロボット鳥だ」
アスランの腕にとまった、精巧な作りのロボット鳥にディアッカやニコルが覗き込む様に見ていた。そして、その直後、工場から俺達と同じくらいの年齢の少年が出てきた。
「おーい、トリィ!もう、何処に行っちゃったんだよ?」
「アスラン、ソイツはあの人のじゃないか?」
「あ……ああ、そうだな」
その少年は困った風に辺りを見回し、何かを探している様だった。間違いなくキラである。俺の言葉にアスランはハッとなった表情を浮かべた後にトリィを腕に乗せたまま工場のフェンスの方へと歩み寄る。キラの方も歩いて来たアスランに気付いてフェンスの方に歩み寄っていく。
フェンス越しに見つめ合うキラとアスラン。
「おい、行くぞ!」
「……ああ」
「友達に……大切な友達に貰った物なんだ!」
何も知らない者が見ればなんなのか分からない状況に業を煮やしたイザークが車からアスランを呼ぶ。その声に踵を返し戻ってくるアスラン。その背中に叫ぶキラ。アスランは振り返る事もなく車に乗り込んだ。
帰り道でアスランが「足付きはオーブに居るからオーブ海域の外で待ち構える」と今後の方針を決めたので数日待機する事が決定した。