怨虎竜、マガイマガドを討ち果たしたハンター、
師であるウツシは彼女を大いに褒め称えた。
昔話に花が咲き始めたそんな時
ふいにウツシはそんな事を言い出す。
・愛弟子と教官のif話です
・捏造妄想を多く含みます
・愛弟子は男女両方出てきますが、絡みはありません
・愛弟子はネームレス
あれはマガイマガドを倒した辺りだっただろうか、
私の師は、隣でお酒を飲みながらこう告げた。
『キミには兄弟子が居たんだよ』、と。
*****
「俺、知りたい事があるんです」
カムラの里、集会所の片隅。
久しぶりに愛弟子とお酒を酌み交わしいい気分で会話をしていたが、
ふいに彼が切り出した。
「どんなことだい?愛弟子」
隣に座る彼の横顔から真面目な話だと悟る。
手にしていた猪口を卓に置いて、そちらを見ると
彼は正面を向いたままどこか遠い目をしていた。
「この百竜夜行は、自然現象などではなく
何か理由があって、引き起こされたものだと思っています」
「・・・興味深い話だね、聞かせてくれるかい?」
実のところ、フゲンとゴコク、一部の里守との間では
そのような可能性の話が出ている。
自分が調べた限り、この百竜夜行は自然に起きたものではない。
大型モンスターが突如荒れ狂ったように里へ向かって強襲する。
一部の研究者や調査団が言うには、
〝日頃狩られているモンスターの反撃ではないか〟などと
冗談交じりに言う者もいるが、決してそうではない。
確かにモンスター達は家族に対する情があり、リオ夫妻が良い例だ。
相方を狩られてその復讐に出た、と受け止められなくもないが
それにしては多種多様なモンスターが集まっている。
他に何か理由があるのではと、自分達も睨んでいるのだ。
「外から来たハンターや、上位ハンターの女性から聞いたところ、
攻め込んでくるのはいずれも大型モンスター、
いずれも我を忘れたように襲い掛かって来ると」
「うん」
「ですが、ハンター達が言うには
〝ある一定の統率を取っているのでは〟とも感じたそうです」
「統率ねぇ・・・」
攻め込んでくる大型モンスターは普段単独で行動することが多い。
番などはともに移動することがあるものの、
基本的に1体で移動をしたり縄張りを見廻ったりしている。
「普段一体で活動しているモンスターが
あの時だけ一ヶ所に集まってくるなんて、不自然だと思うんです」
「ふむ・・・。」
顎に手を添え考える仕草をする。
それから改めて、今だ正面を向いたままの彼を見た。
「それで、キミはどう思っているんだい?」
「分かりません、だから、それを調べに行きたいんです」
「調べにって・・・ハンターとして依頼を受けたいって事かい?」
「いえ、」
彼はそこで一旦言葉を切る。
手元にある猪口を見つめた後、ようやくこちらを見た。
「・・・俺、ハンターを辞めます」
「・・・・・え?」
「ハンターではなく、研究者として、
モンスター達の動きをもっと調べたいんです」
「待ってくれ、何も辞める事は、」
「いえ、」
彼は頭を横に振る。
幼い頃から言い出したら聞かない性格ではあるが
既にハンターとしても鍛え上げられており、里からの期待も大きい。
その大事な戦力が突然里から居なくなるなど、大きな損害になるだろう。
「・・・ハンターは、モンスターを狩ります。
時には捕獲もしますが、害を与えるモンスターは容赦なく狩り、
素材を剥ぎ取り、金に換えます」
手元にある猪口を両手で握り、彼は目を伏せた。
「俺はそれを見ていて・・・疑問に思ったんです」
「疑問、って・・・」
「彼らだって命だ、家族が居て子供が居て、
仲間が居て大事なものがある。
俺達が見ているのはそのほんの一部だけなのに、
その見える部分だけを見て、理解したつもりでいる事は
本当に正しいのだろうか、と」
(ああ、この子は)
瞬時に、〝しまった〟と思った。
時折真面目なハンターはこういう考えに辿り着いてしまう。
命を狩る事、命が狩られる事
それを〝生きる為の自然との共存〟と捉えて終わるのではなく
〝なぜ、それが共存になるのか〟という疑問が浮かぶ。
(だが、)
彼の行こうとしている道を止めるのも、師の役目だ。
「その気持ちは分からないでもない、だけど
その疑問はハンターとして続けて行くうちに
解決していくかもしれないよ?」
「・・・いえ、今までも考えて来たんです。
だけど、あのモンスターに出会ってから
なんだか、納得がいかなくなってしまったんです」
〝あのモンスター〟とは、マガイマガドの事である。
百竜夜行が里を襲った時、一度だけ現れて去って行った
全身に禍々しい鬼火を纏い、百竜夜行により集まったモンスターを狙う
相手が大型モンスターであろうと構わず、喰らい付く狂暴な奴だ。
見た目も恐ろしく、〝怨虎竜〟と呼ばれている。
「あの鬼火・・・、あれを見ていたら、
どうしても、ただのモンスターには見えなくて」
(ああ、この子は、もう手遅れだ)
彼から視線を外し、正面を向いて目を伏せる。
手塩にかけて育てた弟のような我が愛弟子
だけど、この子はもうハンターとしては戦えない。
あの鬼火に出会い、魅せられ、そして
疑問を持ってしまったから。
「・・・・・・・・・・・・・」
さわさわと、夜風が紅桜を揺らす。
長い沈黙のあと目元を上げ、やっと言葉を吐き出した。
「・・・分かったよ。里長には、俺から説明しておく」
「・・・!本当ですか、教官!」
「ああ。キミはこれまでよく頑張ってくれていた、
だから、我がままを言う資格は充分ある。
・・・知りたいんだろう?モンスターについて、もっと深く」
「・・・はい!ありがとうございます、教官!」
彼は目を輝かせ、本当に、本当に嬉しそうに頭を下げた。
小さい頃から真っすぐで、疑問を持てば解かずに居られない
真面目な彼だからこそここまで強くなれた。
森を荒らすモンスターを討伐し、ついに訪れた百竜夜行も退けた、
マガイマガドとも邂逅を果たし、また真実に一歩近づいた。
(そう、彼の成果だ。師として鼻が高いよ)
何も迷う事などない、彼の門出を祝おう。
彼の好奇心のまま、気持ちが向くまま、未だ明かされていない真実へ
その旅立ちを、心から祝おう。
彼の師として
彼の
〝師だったもの〟として。
「教官、今までお世話になりました、
俺、沢山の事を学んで来ます!」
そう告げ、彼が旅立つ夜は綺麗な月が浮かんでいた。
背を向けてその月を見上げていたら、次第に喉の奥が熱くなって来た。
「・・・○○○、」
「はい、〝 〟教官。」
彼の名を呼ぶと、いつものように彼が返事をする。
このやり取りも今夜が最後。
そう、全部
何もかもがここで終わりだ
「ごめんね」
俺はこの里を護る者として、皆を護る者として
そして、〝彼ら〟を護るものとしてここに在る。
そしていつまでも、キミと共に
*****
長い、長い話の後、師である〝ウツシ〟は顔を上げた
どこか悲しげで、そして恐ろしい、そう感じさせる表情で
『その兄弟子の人は、今どうしているんですか?』
この人の弟子は自分だけだと思っていた、
先に弟子になり、腕利きのハンターだったと聞いたら
興味が沸いて、何も考えずに訊ねる。
〝ウツシ〟教官は黙ったまま見つめていたが、
やがて、夜空に浮かぶ月を見上げた。
「もう、遠い所へ行ってしまったから
会えないと思う」
『どうしてです?手紙とか、来ないんですか?』
「・・・・彼は字が書けないからね
手紙を書いたとしても、上手く出せなくて燃やしてしまっただろうし」
(燃やす?)
余程文章を書くのが苦手なのだろうか。
真面目で何事も身に着けて来たと聞いたが、案外そうではないのかもしれない。
『出来る事なら、一度会ってみたいです』
「そっか・・・、そうだね
また、会えるかもしれないね」
『・・・教官?』
俯くその表情が重く昏くて、不思議そうに見上げる。
教官はこちらを見ると、何も言わず腕の中に私を抱き入れた。
「・・・キミは、真実を追ってはいけないよ」
ぽつりと、風の音に消えそうな程小さく教官が呟く。
「俺はもう、愛弟子を見送りたくない」
何のことだろう?と首を傾げた。
出て行ってしまった兄弟子の事だろうか
会おうと思えばきっと会えるのに、何故泣いているのだろう。
その時、ふと脳裏にあの鬼火が浮かんだ
そういえばあの個体には、額に大きな傷痕が2つあったな
まるで、ずっと前に鋭い2本の刃に貫かれたような
既に討伐し素材を剥ぎ取り、その素材で新しい装備もこしらえたので
もう一度確認する事は叶わないが
出会った時、向こうから襲ってくるわけでもなく
何か訴えるようにこちらをじっと見ていた気がするのは
私の気のせいだったのだろうか。
ここまで読んで頂きありがとうございました!
※ひとりごと※
・カムラはこれまでも怨虎竜の強襲に遭っていた
・ある一定時期から、怨虎竜は計画性を持ち
単に大型モンスターを追い回すだけの行動ではなくなった
・やがてカムラの英雄となる愛弟子(♀)が倒した怨虎竜は
自ら襲いかかろうとせず、様子をうかがうようなそぶりをしたという
・かつて教官が見送った彼の行方は、あの夜以降誰も知らない
・彼を見送ったのち里に戻って来た教官は、全身血と泥まみれで
〝帰りに厄介なのに遭遇しちゃって〟と笑っていたが
愛用していた双剣も同じく血と泥まみれでボロボロ、修復不可能であり、
相当手ごわい相手だったと見える