運命の時、キチ〇イとの出会い
「...んえ、どこだここ」
ふと気が付くと、何処かにいた。一面真っ黒で何も見えない。
はて?俺はさっきまで自分の部屋で漫画を読んでたはずなんだけど...?
「ようやく覚醒したか人の子よ...」
「は...?」
何処かから声が聞こえた。
「人の子よ。貴様はとある男の願いによって異界へと向かう事となる。そしてその世界でその男の願望を叶えて貰う」
「はい?ちょっと意味がわからないです!説明、説明を下さい!」
「ならぬ。お前はただ、向かえば良い」
「えぇ...」
取りつく島もない。これほど一方的な事があるだろうか...もう少し説明責任を果たしてくれても良いではないか。
「では、向こうに転送する。すまない...無作為に選ばれた故、運が無かったと諦めてくれ」
今まで無感情だった声色に初めて色が写った。なんだよ、ちょっとは悪いと思ってるんじゃん。
「えぇと...意味がわからないですけど貴方に悪意があるわ「ではさらばだ」けでは...」
慰めようとした途端これだ。やっぱりこいつは悪意を持ってるのだ。何をするつもりか知らないが俺に都合の悪いことをするから隠すのだ。
「おおお...!」
突如体中を違和感が襲う。
体が引き伸ばされるような感覚、何かが欠落していく奇妙な感覚を受けながら、真っ暗だった視界がじわじわと白に染まっていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「......っは!」
再び意識が浮上する感覚に襲われる。
「ナルト...?どうしたのじゃ?」
目の前の老人が俺の顔を覗き込む。
「え...?」
「どうした?突然黙ったかと思えばビクリと震えよって...変じゃぞ?」
「え...あ...」
「全く...儂はこれから出掛けねばならん故、いつも通り留守番を頼むぞ?」
「え、うん」
意味もわからず頷く。
「うむ、それではな。明日には帰ってくる」
そういうと目の前にあった玄関から出ていった。
「えぇ...と」
ひとまず周囲を見渡す。古き良きといった感じの日本家屋だった。玄関だけでも俺の部屋の倍くらいあるな...
「あのじいさん誰だったんだろ?」
先程の黒い空間以降、理解が追い付かない事ばかりだ。
テクテクと歩きながら考えようとしてふと気が付く。
あれ...?背、低くね...?
ついでに手も足も、何もかもが小さい。
「え?え?」
俺は慣れない体を引きずりながら廊下を駆け回る。
「鏡...鏡...!鏡どこ!!?」
障子を開けたり転倒したりしながらなんとか洗面所にたどり着く。
見たくない気持ちを殺して自身の体を鏡に映す。
「嘘...誰だよ...」
そこに映っていたのは齢10歳ほどの金髪碧眼の少年であった。
頬には特徴的な線が三本づつ、ツリ目がちな瞳は驚愕に揺れていた。
ふと思い出す。先ほどの老人の言葉を...
理解が追い付かず捨て置いた違和感。俺を「ナルト」と呼んでいた...
ナルト、大人気漫画。俺が大好きだった漫画。
その主人公の容姿は一体どんな物だったか...
「....俺じゃん」
あまりのショックに後ろに倒れ、後頭部を強打する。普通なら激痛に悶える所だが、想定よりもずっと痛くない。
起き上がろうとした時、少し捲れた服の裾の下に映る肌には妙な黒い字が見えた。
上の服を勢いよく脱ぎ捨てると、うずまき模様を囲うように何かが書かれているあまりにも見覚えのある文様が刻まれていた。
「はは...めっちゃ八卦封印だし」
ごろんと寝転んで天井を眺める。
意味が分からなさ過ぎて何も考えたくないが、考えないといけないだろう。
まずは先ほどの妙な空間での話。俺は誰かの願いで異界に連れてこられたらしい。それがここだって言うのなら、俺はそいつの願いでナルトになったのだろうか?
いや、そもそもここはナルトの世界なのか?少なくとも幼少期のナルトがこんな場所にいた描写は無かったはずだ。
....確かめる方法はある。外に出ればいい。
玄関を出て、門を超えて外に出る。夜のようだが、満月と街灯の明かりで何も見えないということは無さそうだ。
そこに広がっていたのは見覚えのあるコンクリートの道と一般的な住宅街であった。呆れるほどにありふれた光景だ。ありふれた光景がありふれている故にあまりにも異常に映った。
「違う...」
木ノ葉隠れの里はこんな場所じゃなかったはずだ。
となるとここはNARUTOの世界そのものという訳ではない?でも、じゃあなんで俺は、ナルトは存在している?
頭を抱えて蹲る。
「...つまり、どういう事だってばよ」
ついつい漏らしてしまった。
「随分とお困りのようだな」
後ろから声が聞こえる。振り返ると門の上に小さい子供が立っていた。俺のすぐそばに音もたてずに飛び降りる。
「え...?」
目の前の子供は、黒髪黒目の端正な顔をした少年だった。街中で見かければあの子かっこいいなぁとしばらく覚えるくらいには顔立ちが整っている。今この場においてはそれどころではない強烈な既視感を与えてくるが...
「お前...サス...ケ?」
「あぁ、俺はうちはサスケだ。うずまきナルト君?」
にやりと笑ってこちらを見つめてくる。もうやだ、意味わかんない。
「うげ...ちょっと受け止めきれない。一旦待ってもらってもいい?」
「やはり、その様子だとようやくその体にもう一人の転生者が入ったみたいだな」
「え?もう一人って...もしかしてお前...!」
「あぁ、俺も転生者だ。お前よりもずっと前にこの体に入った」
...こいつも俺と同じ状況に陥っていたのか?
「なぁ、じゃあさ!なんで俺がナルトの体になってるかとかわかるのか!?戻る方法は!?」
俺は自称サスケの肩を掴んで問い詰める。
「落ち着け...悪いが戻る方法は知らない」
自称サスケはそう答えた。
「そんな...じゃあその体に入る前、真っ黒な空間で変な奴に何か言われなかったか?」
「さぁな。なんて言われたんだ?」
「誰かの願いで異界に飛ばすって!多分俺やお前がナルトやサスケの体に入ってるのはそいつの仕業なんだ!...何がしたくてこんな事をしたのかは分からないけど...」
「そうか...悪いが俺はお前の求めている情報を持ってはいない」
「そうだよなぁ...」
ため息をつく。仲間が居たのは嬉しいけど、結局何もわからず終いか...いや、同じ境遇の人が居るってだけで嬉しいけど。
「まぁそんなに気落ちするな。折角の体と新しい人生だぞ?素直に楽しめば良いんだよ」
「何を言ってるんだ。そんなに楽観的になれないし、戻れるなら今すぐ戻りたいよ...」
「そうか?難儀な奴だな...まぁいい。とにかく、これで役者は揃った訳だ」
「役者...?」
「あぁ。うずまきナルトとうちはサスケ。NARUTOにおける最重要人物だろ?」
「それはそうだけど...」
「この二人が揃ったのならやる事は一つしかない...違うか?」
「何を言って...」
「ようやく...そう、ようやくだ。この時をずっと待っていた...ずっとずっと!」
「さっきから急にどうしたん...だ...」
サスケの顔を見ると、目が赤く輝いていた。
「写輪...!」
「はぁっ!!」
「ぐきっ!」
突如視界が反転する。そしてすぐに湧き上がってくる側頭部の激痛。
ごろごろと転がっていく。
「っっってぇ...!!」
痛みに耐えながら起き上がろうとすると、今度は腹を蹴られた。
「ぐっっっ!!げっほげっほ!!ぅぅぅぅぅ...」
腹を抱えて蹲る俺の頭を踏みつけてくる。
「ぐあ...!」
「本当はまだまだ我慢するつもりだったが、この10年間はあまりにも退屈過ぎた!ようやく機会が巡って来たんだ...!今すぐやりたくてやりたくて仕方がなかったんだ...恨むなよ?」
「うう...」
痛みで何が何やらわからないが、こいつの声だけは鮮明に聞こえてくる。
「何を言って...」
「あ?あぁ、意味が分からないか?そりゃそうだ...お前の回復を待ちながら説明してやるよ」
「うぐ...」
もう一度腹を蹴られた。
「さっきも言ったが俺はお前と同じ転生者だ。ただし、お前と違って俺は望んでこの状況に陥った訳だがな」
「望んで...?」
「あぁ...俺には生前、心残りがあった。お前も知っているだろうNARUTOにおける最後の決戦だ...ナルトとサスケは終末の谷で最後の戦いを迎えたが、どうにもあの結果に納得が出来なかった」
「は...?」
俺はそのあまりに突拍子もない言葉のせいで痛みも忘れて呆気にとられた。こいつ正気か...?あのバトルが納得できないだと?
「あれの...どこが、納得できなかったんだ...」
綺麗に終わったじゃないか...確かに忍界対戦全体で言えば100点満点とは言えないけど、少なくともあの最後の戦いは、NARUTOの集大成だった。すごく感動した。繋がりの力、絆の力が最も崇高で強い力だってNARUTOのテーマの結晶だった。
ゆっくりと立ち上がる。
「やはりそうだ...お前もそっち側の人間だ。まぁ、確かにいい話だったのは認めるさ...あの結末が綺麗だというのも認めよう。だが、だがなぁ!どうにも納得出来ないんだよ...!輪廻眼を有し九体の尾獣のチャクラを吸収してたあの時点のサスケがナルトに負ける道理が無いだろうが!!特に最後とか!!九尾のチャクラを奪って作ったカグツチと千鳥の合わせ技がどうしてただの螺旋丸と互角なんだ!!輪廻眼の六道の能力から考えても!どう考えてもサスケの方が強いだろうが!」
オタク特有の早口に唖然としてしまう。そしてちょっとは考えた事のある理由だった。確かにあの時点のサスケの力はある意味絶望的だった。まさにラスボスに相応しい。
「そ...それはそうかもしれないけど」
そこに引っかかるならもう漫画なんか読めないだろ...最強の敵に力で劣る主人公が勝つなんて良くある話だし、そもそもナルトとサスケにそれほどの差は無いだろうが。
「結局あの時サスケが負けたのはナルトの方が強かったからじゃない。サスケが情に流されたからだ」
「だからこそずっとサスケを追いかけてたナルトの根性勝ちで、絆を断ち切れなかったサスケが負けを認めたんだろうが...!」
「そんな講釈は飽きるほど聞いたさ...だが俺はどうしても納得できなかった。だから願った!純粋にナルトとサスケが力を比べられる場を...!一切情など生まれないように!手心を加えないように俺がサスケの能力を持ち、俺と同程度の知識を持つ適当な誰かにナルトの力を与える事で...!」
何を言ってるんだこいつは。頭おかしいのか?
「じゃ...じゃあ俺がこんな目にあってるのは」
「そうだ。俺がそうさせた...お前は特大級にツキが無かったが故にたった一人選ばれ、この世界で俺に殺されるのさ...!」
「ふざけ...!ぐっっ!!」
立ち上がろうとした所で腹を殴られた。なんとか腕は挟めたがそのまま吹き飛ばされる。
痛みをこらえて前を向くと目の前に足があった。
「んぎっっ!!」
後頭部を地面に叩きつけられて倒れる。
「まぁ安心しろ。今すぐ殺したりはしない...殺すのは最後の最後。互いに全ての力を手に入れてからだ」
「がぁぁぁ!!痛ってぇ...!」
ナルトの体じゃなかったらとっくに死んでるか気絶してる。
ふらりと立ち上がって拳を構える。やらなきゃやられる...何より俺をこんな目に遭わせた元凶がこいつだって言うのなら100発は殴らないと気が済まない。
「なんだそのふざけた構えは」
サスケは反応できない速度で接近して殴りかかってくる。
「んぎ!ぐっっ!!づっっ!!ぶはっ!!」
何度も何度も殴りつけられる。殴りかかる間に二回は殴られて、一切の抵抗が許されない。
やがて耐えられずに膝から崩れ落ちた。
「がはっ...!」
「ダメだな。まぁ、当たり前か...いくらガワがナルトでも中身はただの一般人だしな」
「...く...そ...」
「いいか、この世界にはあの終末の谷の決戦の時と同じ力を手に入れる為の材料が全て揃っている。影分身も螺旋丸も、仙術も何もかもだ...次に俺が姿を現す時にはもう少しマシになってる事だな。あんまり不甲斐ないようだと...殺すぞ?」
そういうとサスケは印を結び始めた。
「どう...いう...」
「千鳥...!」
反応できない速度で放たれた一撃は俺の目の前の地面を打ち砕き、その衝撃で俺はボールのように吹き飛んだ。
「ぐ...う...」
「じゃあなウスラトンカチ野郎」
サスケが去っていく光景を最後に俺の意識は途絶えた。