「イッセー!無事で良かったわ...!」
部室に入って早々部長がイッセーを抱きしめる。
「ぶ、ぶぶぶぶ部長!?」
「全く...主に心配をかけて、本当に悪い子ね」
「す...すみません」
殊勝そうな声を発してはいるが顔が緩んでいるのが丸見えだ。イッセー...お前って奴は。
「あなたが言った事とはいえ、イッセーを助けてくれた事にはお礼をさせてもらうわ」
部長がイッセーを離してこちらに顔を向ける。
「当然の事をしたまでだってばよ」
「その上で言わせてほしいのだけど...さっきは話を聞く暇もなくあなたが飛び出していったから、言われた通りここで待機していたわ...でも、イッセーが狙われた以上こちらも黙っている訳にはいかないの。ここは私の管轄地なのだし、許すわけにはいかないわ」
そう言って抗議の視線と向けてくる...まぁ、言いたい事は分かるんだけど手遅れなんだよなぁ。
「そこは俺に任せてほしい...というか、もうそろそろ終わるはずだってばよ。皆には事後処理をお願いしたいんで、ここはこらえてもらえると...」
「......はぁ。分かったわ。元々堕天使をどうにかするのが貴方の任務で、それを許可したのが私ですものね。もちろん堕天使達の身柄はこちらに渡してくれるのでしょう?」
「それはもちろん。さっきの二人同様、そちらに引き渡す予定だってばよ。それよりその二人の尋問はどんな具合ですかね」
「今朱乃達に任せている最中よ。もう少し待ってもらえると助かるわ」
「了解です」
「堕天使云々は一旦置いておくとして...どうして堕天使の所のシスターが居るのかしら?」
「え、えっと...それはその...」
アーシアさんはあたふたしている。まぁ、ただでさえ怖い悪魔の前でしかも相手にしているのが少し虫の居所が悪い部長なのだから致し方ない。
「すみません部長!!俺が連れてきました!!」
イッセーがアーシアさんを庇うように前に立つ。
「まぁ大方の予想はついているけれど...イッセー、貴方がやっている事がどういう意味を持つのか分かっているのかしら?」
「...分かってるつもりです!でも、堕天使と悪魔が相容れないとかそういうの関係無しでアーシアを助けたかったんです!お願いします部長!!アーシアを匿うのを許してください!!なんでもしますから!!お願いします!!」
イッセーは頭を下げて叫ぶ。あまりの剣幕に部長も少したじろいでいた。
「イッセー...頭を上げなさい。貴方の思いは十分伝わったわ。それに、ダメだと言うつもりもないから安心なさい。アーシアさん...怖がらせてごめんなさいね?それでもイッセーは私の眷属で、悪魔なのだから弁えなければならない事があると理解だけはして欲しかったの」
「い...いえ!こちらこそすみません...」
「すみません部長...」
「謝らなくていいわ。かわいい下僕が必死に頭を下げた願いですもの...叶えてあげるのが主の務めよね?...リアス・グレモリーの名において貴女を保護する事を誓うわ」
「部長!!ありがとうございます!!」
「あ、ありがとうございます!」
二人が仲良く頭を下げる。
「さて...保護するとは言ったけれど、具体的にどうするか決めないとね」
「どうすると言いますと?」
「私がアーシアさんにしてあげられる事はいくつかあるから、その内どれを選ぶかを決めてほしいのよ。もちろん今すぐって訳じゃないわ、落ち着くまでここに居てくれても構わないから選択肢だけ言っておくわね」
「はい、ありがとうございます」
「それじゃあまずは一つ目、ここ駒王町に住処を用意してあげられるわ。もちろん生活費も支援してあげる。その場合は貴女を他の勢力から守る為にも監視をつけさせてもらうけれど、絶対に手は出さないし視界に入らないようにするから許してちょうだい?」
「おぉ...」
結構太っ腹だな。まぁ、グレモリー家の財力なら余裕で何人でも養えるんだろうけど。
「二つ目の選択肢ならここ以外のどこかの土地に住処を用意してあげる事が出来るわ。三大勢力の息が大きくかかってない土地...そうね、ナルト。あなた達忍の所で匿ってもらうのが一番手っ取り早いかもね。金銭的な支援はしてあげてもいいし、それくらいはしてくれるのでしょう?」
「まぁ...それが選ばれたなら出来るってばよ」
「それじゃあお願いね。そして最後の一つ...私としてはこちらがおすすめよ。私の眷属になってみないかしら?」
「えぇ!?アーシアが眷属にですか!!?」
「えぇ。もちろん強要するつもりは全くないわ。正直こちらは私の願望の方が大きいですもの...でも、貴女が私の眷属になってくれれば私は嬉しいわ?それに、眷属になってくれれば貴女の立場も随分安定するでしょうし、貴女の事を正式に守ってあげることもできるわ」
「え...えっと...私は、その...」
アーシアさんはぐるぐると目を回していた。突然そんな選択肢を突き出されたらびっくりするだろう。
とはいえ、確かに悪くない選択肢ではある。他の選択肢はどっぷり他人に依存する形になっていて、死ぬまでそうしている訳にもいかないし、かといって身一つでどうにか出来るほど世間は甘くない。身分証云々から問題は山積みだし、教会や堕天使達に再び狙われる可能性だっていくらでもある。守ってあげると言っても、眷属でもない保護対象者を守るために他勢力と戦うのかと言われると厳しい時はあるだろう。
そういう意味ではリアス・グレモリーの眷属という身分はすごく安定している。グレモリーの名はそれだけで十分な防衛能力を持っているだろう。それに眷属を大事にする部長の事だ、大切にされるだろう。
「焦らなくていいわアーシアさん。貴女の今後の人生を左右する問題だもの。それに、貴女も目まぐるしく状況が変わって大変だったでしょうし、今日はここで休んでいきなさい。それとも悪魔の根城は落ち着かないかしら?」
「い、いえ!そんな事はありません。本当にありがとうございます...私なんかの為に色々として頂けて、保護までするとおっしゃってもらえて...」
「大丈夫よ。あんまりこういう物言いは好きじゃないけれど、貴女一人養うくらいなら痛くも痒くもないもの。それに、もちろん貴女を保護するのにも私のメリットはきちんとあるわ。貴女の治癒の力を借りたい時がいつか来るかもしれない。そんな時は遠慮なく頼らせてもらうから、本当に気にしなくていいのよ?」
「は、はい!その時は全力でやらせていただきます!」
「いい返事ね。それじゃあ客室があるからそこに案内させてもらうわ。イッセーは...」
「今日は残っていきます!俺だってほとんど初対面みたいな物ですけど、アーシアも知ってる顔が居る方が少しは気が楽だと思うので」
「そうね。アーシアさんもその方が安心できるかもね」
「ありがとうございます、イッセーさん!」
アーシアさんがイッセーへと笑いかける。
「これくらい当たり前だって!なんでもするって言ったからな。アーシアの力になれるならこれくらい!」
「イッセーさん...嬉しいです」
なんだこいつらデキてるのか...?なんというか、爆発しないだろうか。
「貴方はもちろんこの後も働いてくれるんでしょう?」
部長が俺を指さしてくる。
「えぇ...堕天使とエクソシスト全員倒したから終わりじゃダメですか?」
「ダメに決まってるでしょう?散らかすだけ散らかして、片づけは全部私達に丸投げすると...貴方はそう言いたいのかしら?」
「うぐ...分かったってばよ。それじゃあ俺はもう消えるんで、後は本体にでも言っておいて下さい」
「そう、分かったわ...それじゃあね」
その言葉を最後に分身を解除する。このまま残って後片付けの手伝いとかまじごめんなので消えるに限る。
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「よし...いっちょあがりっと」
ぱんぱんと手をはたきながら一息つく。堕天使とエクソシスト達を全員討伐し終わったのだ。周りの分身達がせっせと身柄を拘束していく...町の各地に散らばって逃げているエクソシスト達もそろそろ捕獲されているだろう。公園に拘束されて座っている大量のエクソシストと気絶している堕天使達を見下ろしていると、さながら引率の教師の気分になってくる...これから皆さんには悪魔の領域への転移投獄体験をしてもらいますのでクラス毎に列に並んで座ってください...だなんて、糞くだらない事を考えるくらいには暇になってきた。やっぱり影分身はチートだわ...特に雑魚狩りに強すぎる。
「...本当に終わっているのね。流石は忍と言った所かしら」
後ろから声をかけられる。部長がイッセー以外の眷属を連れてやってきたようだ。
「ようやく来た...それで、尋問の結果はどんなもんでした?」
「はい。ここにいる数人の堕天使の独断だったそうですわ。アーシアさんの
姫島さんが説明してくれる。
「そうですか...じゃあまぁ、後は後片付けだけしたら今回の問題は解決って事ですね」
「そうなりますわね」
「あの短時間でこれだけの人数を倒してしまうなんて、やっぱりすごいねナルト君。また今度手合わせをお願いできないかな」
「やめてくれってばよ...こういうのが得意なだけだし。まぁ、手合わせに関しちゃ全然受けてもいいけど」
「ありがとう。時間があればよろしく頼むよ」
「おう!」
木場とも随分親しくなった気がする。
なんだかんだ、グレモリー眷属はみんないい人達だったな。
...でも
「これで、任務は終了か...」
ぼそりと呟く。
視線の先では、堕天使やエクソシスト達が魔法陣で冥界へと転送されている。
後は戦いで壊れてしまった道などの修復だけど、そっちは部長達に任せる事になるし俺の仕事はこれで本当に終わってしまった。
少し寂しいけれど、今までの生活が戻ってくるだけだ。エロ仙人との生活だって別に嫌いな訳じゃない。
それに、みんなの連絡先は持ってるし今生の別れという訳でもあるまい。好きな時に遊びに行けばいいのだ...それくらい許してくれるだろう。許してくれなかったら泣く。
「さて...これで貴方の任務も終わりね、ナルト」
「はい。他の忍ならもうちょっとスマートに解決できたんでしょうけど、時間かかって申し訳なかったです」
「気にしなくていいわ。町で起こる問題の対処をしてくれてたから、こちらも貴方の居た数日間随分楽をさせてもらったもの」
「それなら良かったってばよ」
「本来ならここでお別れって事になるのでしょうけど...少し話があるの」
「なんです?」
「貴方には私に雇われてもらうわ」
「へ...?俺が、部長に...?」
突拍子もない言葉に驚きを隠せない。
「そうよ。別におかしなことじゃないでしょう?有能で信頼できる忍が手元に居るってのは悪魔としてのステータスの一つにもなるし」
「いや、いやいや...今回こんな風に単独で任務に出れたのは人手不足だっただけで、本来俺は監視付きですし、個人の専属になるなんて以ての外...」
「知っているわ。貴方は人柱力、おいそれと表舞台に出る物じゃないって言いたいのでしょう?」
「知ってたんですか」
「当たり前じゃない。それに、私の兄に専属の忍が居て顔見知りだから、これでも忍については結構知っているつもりよ?」
「そうなんですか?...なら」
「きちんとそちらの代表から許可は貰っているわ」
そう言うと、部長は一つの巻物を差し出してくる。
そこには膨大な金額とうちの里への支援を引き換えに、確かに俺をリアス・グレモリーの専属にするという内容の約定が書かれていた。明らかにうちの里に有利すぎる契約だ、里からの緊急の呼び出し...つまり、俺が人柱力としての仕事をする際は、一時的にこの契約内容を無視しても良いとまで書いてある。
「えぇ...こんな契約ほんとにしたんですか...?忍を雇うにしてももっとコスパの良い人いくらでも居ますよ?」
「そうかもしれないわね。でも、本当の事を言ってしまうとこの契約は私が知らない間にお兄様が仕組んでいた物なの。過保護すぎるとは思うのだけれど、正直な話ありがたいのも事実だわ。ここ数日で貴方が人柄も実力も十分魅力的なのは分かっていたし、人柱力云々の話が無ければ私自身でも絶対に契約を結ぼうと動いていたもの」
「そ、そうですか...」
「今回の貴方の任務も、専属契約の為の顔合わせ的な側面があったみたい。お兄様が私の護衛に悩んでいる時に、先程言った忍の方が貴方を推薦したらしくて...」
「待ってください。もしかしなくてもその忍って...」
「そりゃあワシの事だのぉ!」
突如隣に誰かが現れて俺と肩を組んでくる。
「うわぁあ!やっぱりエロ仙人!!」
「久しぶりだなナルト。元気そうでなりよりだ」
「お久しぶりです蝦蟇仙人様」
「おーおー大きくなったのー!リアスちゃん!本当に、色々な意味で...」
にやにやと視線が下がっていく...
「ふん!」
俺はエロ仙人の頭を殴りつける。
「あだっ!貴様、師匠に向かって何をするか!」
「いい年してそんな顔してるのが悪いってばよ!」
「なにおう!」
「ふふ...相変わらず愉快な方ね」
「愉快というかただの変態ですけど...ってかエロ仙人!一体どういう事なんだよ!俺が専属って本当にそんなの...」
「本当だ。約定見ておっただろう、あそこに書いていることが全てだ。サーゼクスは気のいい奴でのぉ、お前にもっと外の世界と関わらせてやりたいと言っていたらすぐにこの契約を用意しよった。まぁ、リアスちゃん専属の忍を用意したかったのも本当だろうがの」
「俺の為に...?」
「この数日楽しかったんだろう?見てればわかる。お前はこーんな小さい頃からガキの癖にしけた面ばっかりしておったからのぉ、同世代の奴らと仲良くでもすりゃ少しはましになるだろうと踏んでおった。だから、お前は何も考えず大人しく契約を受ければ良いのだ...な?」
にやりと笑いかけてくる。
「エロ仙人...」
そんな風に考えてくれていたのか...
「じゃあ、最近ずっと忙しそうにしてたのも、部長のお兄さんへの借りを返すために?」
「バカ言うな!金が欲しかっただけじゃカ・ネ・が!」
「ははっ、ありがとうだってばよ。確かに、ここ数日は楽しかった。専属の話も、嬉しいよ」
「良かったな」
エロ仙人が俺の頭をぽんと叩く。
「リアスちゃん。こやつは妙に小賢しいから分かりにくいが、これで結構寂しがり屋での。仲良くしてやってくれ」
「えぇ、もちろんです。こうなった以上一杯働いてもらいますから、安心してください」
「やめてくれよこっ恥ずかしい...」
「がはは!それじゃあワシはお前の任務の報告と次の仕事があるんでもう行く。元気でやれよナルト」
「...おう!」
エロ仙人は瞬身で消えていった。
「ふふ...お互いお節介な家族を持ったものね」
「エロ仙人は家族じゃないけど...まぁ、そうだな」
「それじゃあ改めて、よろしく頼むわ...ナルト」
部長が手を差し出してくる。しっかりと握り返した。
「よろしくだってばよ!」
一時の泡沫だと思っていた生活は、ひょんなことから日常へと変わっていった。
その喜びを噛みしめながら俺はみんなとオカルト研究部へと帰っていった。