「...ってて」
目が覚めた。まだ周囲は暗いらしい。
体の節々が痛む。
「くっそ...」
なんなんだあいつは。漫画のラストバトルが不満だからって人様巻き込んで、ボコボコにして...完全に精神異常者じゃないか。
「あいつを倒したら元の世界に帰れるのかな...」
わからない。あの変な空間の声の主は願いを叶えてやれと言ってた。願いが叶ったら俺はお役目後免で帰れるのだろうか?それとも死んだらそのまま死ぬのか...?そもそも何をもって願いが叶う?それこそ俺を殺す事だったら最悪だ...
グルグルと思考を巡らすが何ひとつわからない。誰も、何も説明してくれない。わかってるのはこの体がうずまきナルトの物で、漫画と同じような力を手に入れられるという事だけだ。
「全然嬉しくねぇよ...」
なんで俺がこんな目に遇わなくちゃいけないんだ。俺が一体何をしたって言うんだ...
「畜生」
行き場のない怒りを拳に乗せて地面に叩きつける。
「とりあえず...この汚れた服と体をなんとかしないと」
あの誰だか知らないじいさんが帰って来るまでに証拠は隠滅しなければ。幸い出血は全て止まっている...あんまり言いたかないけどバケモノみたいな体だな。
家に戻って浴室を探し出し、シャワーを浴びながら血を落としていく。
「....強くならないと」
元の世界に帰る云々も重要だが、あいつにボコボコにされた借りを返せないのもムカつく。不意打ちしやがって、絶対に痛い目見せてやる...
殺されるのもまっぴらだし。
あいつの言うことを信じるなら俺は基本的にナルトの辿った成長の道筋を進んでいけば良いのだろうか...?
となると、何はともあれ影分身の術だ。ナルトの最も得意とする忍術で、1話から最後の最後まで活躍し続けた。なんなら続編でも活躍してる。
おまけに分身の経験のフィードバックという設定のお陰で修行時間が何倍にも短縮出来るあまりにも都合の良すぎる術。
ただし一般人が多重影分身をしたらチャクラが足りなくて死ぬ。
「いや、そもそも材料は全てあるって言ってもどこにあるのか分からないんじゃ無いのと一緒じゃないか」
どうしようか。とりあえずこの家の中だけでも探索してみるか...?よく考えると最初に出会ったおじいちゃんは忍者っぽい服装だったし、忍具とか術の巻物とか、何かあるかもしれない。
後、この世界のうずまきナルトの情報とか、この世界の事とかも諸々知りたい。
今はとにかく情報が無さすぎる。
というか服も無かった。まずはナルトの部屋から探さないと...
素っ裸で部屋という部屋を駆け回り、茶の間や台所、便所の場所を把握していく。
「...あった」
とある襖を開けると、明らかに子供部屋っぽい所にたどり着いた。
とりあえず服を着て、部屋中を見回る。
「忍に関する物は...教本みたいなのと忍具用のポーチに入ってるクナイと手裏剣、よくわからない巻物...あんまり無いな。他には...げ、ランドセル...そうか、この年だと学校に行かないといけないのか」
幸い今日は金曜日なようなので、準備の時間はあると言えるだろう。
「他にめぼしい物は無い...か」
見た感じ確かに忍の存在を感じさせる道具こそあるが、他の部分がごくありふれた現代の小学生の部屋すぎる。
...よし、一旦こんなもので良いだろう。
隣の部屋は、随分落ち着いた雰囲気の部屋だった。多分あのおじいさんの部屋なのだろう。
適当に漁っても特にめぼしい物は無い。強いて言うなら名前が猿飛以蔵であるという事だけ分かった。誰や...
「やべぇな何の情報も得られて無いぞ」
それからも数部屋回ったが特に何も見当たらない。残るは...
「この明らかに怪しい土蔵だな」
庭の端っこに設けられている土蔵は、これでもかというくらい厳重に鍵がかけられている。
恐らくここに俺の知りたい物はあるのだろう。
「うぉっ!」
窓に手が届かないかなぁと思って飛び上がると信じられないくらいジャンプ出来た。身体能力がすごく高い。
「そういえば...」
体には妙に力が漲っている。そしてその源流が体内を巡る違和感なのがなんとなくわかる。
「これがチャクラ...?」
身体エネルギーと精神エネルギーを練り上げる事で生まれる力。あるのはわかるけど利用方法が分からない。足に集中させるとかどうやるんだ...?
ただの身体エネルギーかもしれない。わっかんね...
「ふん...!むん!」
お腹に力を入れてみたり、体中を強張らせてみたがやはりよく分からない。
「むむむ...!」
「これ、こんな時間に何をやっとる!」
突然拳骨を食らった。
「痛ってぇ!」
「馬鹿者。こんな時間に起きておるからだ...全く、少し様子が変だったから早めに切り上げて帰って来たらこれか」
「うぅ...すみません」
「すみませんだと...?素直に謝るとはどういう風の吹き回しじゃ?」
「え?あっ...」
そうか...そりゃそうだ。俺がこの体に入る前には本当のナルトが入ってたんだから、急に様子が変われば疑われるに決まってる。
まずい...ごまかさないと。どうしよう、原作のナルトっぽくしてりゃいいのか?普段謝らないって事は、原作通りのいたずら小僧だったのかもしれない。
「さ...流石にこの時間に起きてるのは良くないから、謝っただけだっ...てばよ」
なんだてばよって。そんな語尾があってたまるか。
「わかっとるなら寝んか全く...それで、わかっていてどうして起きていたんじゃ?」
「それはえっと...」
ちらりと土蔵を見る。
「またか...忍術の修業はまだつけんと言っておるだろう。おぬしはまだ子供じゃ。そう急く事はないだろう?」
おっと...?これは好機かもしれないぞ?
「でも...じ、じいちゃん。俺、どうしても早く忍者になりたいんだってばよ」
「だからまだ...」
「ちゃんと修業つけて、少しでも早く強くなりたいんだ!そうじゃないと...」
あいつに殺される。
そういうと、目の前のじいさんは目を細めながらこちらをじぃっと見つめてくる。
悪いがこっちも命かかってる。そう易々とは引いてやれない。
「....ふむ。何があったかは知らんが、興味本位や遊びだけで言っている訳でもないようじゃな...良いだろう。明日から時間がある時は指導してやろう。しかし言っておくが、一度始めるからにはきちんと修業をつけてもらうぞ?」
「...ああ!なんでもやってやる...!ってばよ」
「うむ...ならば猶更早く寝んとな」
「わかった!おやすみ...!」
「おい...まったく」
これ以上ボロを出す前に退散だ。にしてもこれで最低限自衛の為の目途がついたな...!
さっさと自分の部屋に戻って布団を敷く。他人の臭いがする布団っていまいち気が休まらないな...
寝付けなかったので一応先ほど見つけてあった教本を見ておく。
忍とは何なのか、忍の心得、印の組み方、チャクラとは何なのか、経絡系云々、初歩的な術の印...うーん。こういっちゃなんだけど、子供向けの本なのと原作知識のお陰でそんなに難しくないな。
よし、まぁまた明日読めばいいか。睡魔もいい感じにやって来てくれた。眠るか...
電気を消して布団に潜り込む。
「これが全部夢で、明日起きたら覚めてたりしないかな」
そうならどれだけ良いか...まぁ、それは今考えても仕方ない。
今はとにかく寝よう。なんだか疲れた...
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「あれ...ここは?」
気が付くと、どこかにいた。こんなのばっかりだなほんと...
人気の無い廊下を歩いていく...
時折部屋への入り口が見えるが、中は全く見えないし、興味も起きない...
何もないことが無意識に理解できた。
頭では分かっていた。このまま進んでも碌な事にはならないと。一歩一歩踏みしめる度に近づいていくこの恐怖に、近づいてはならないと...
それでも俺は着実に前へと進んでいく。
しばらく歩くと、巨大な檻があった。中に何かが居る...圧倒的な存在感の何かが。
「誰だ貴様は...」
その短い一言で体中が震え上がった。格が違う...一瞬でどちらが強いのか、どちらか生物として上なのか本能で察した。嫌になるほどに...
「貴様は誰だと言っておるのだ....!答えんか!!」
咆哮が俺の体に叩きつけられる。
「お...お、れは...うずまき、ナルトだ...」
「違うな。確かに貴様はうずまきナルトなのだろうが、根本的に違う。そう...肉体に異なる魂が無理矢理捻じ込まれたかのような違和感だ」
ギロリと睨んでくる。それだけでごまかそうみたいな考えは吹っ飛んでしまった。
嘘を考える思考のリソースが無い。思考の全て目の前の恐怖を少しでも理解しようという事に注がれている。
「...う、そうだ。俺は...俺は、うずまきナルトの体に無理矢理捻じ込まれたんだ。全然関係ない、赤の他人だ...」
「ふん...先ほどあの黒髪のガキと話してたのはそういう事か。クク...ワシの封印に利用された挙句魂を塗りつぶされて自我が消滅するとは...本当に救いようがないな」
クツクツと笑う声がする。
「まぁこれから受けるであろう責め苦を他人に擦り付けられたのだ。ある意味勝ち逃げとも言えるかもしれんがな」
「お前は...九尾、なのか?」
「あ?あぁそうだ。今はこんなクソガキの中に封印されてこの様だがな...おいお前、ワシをここから出してはくれないか?他人の体に入れられた挙句、腹の中に化物がいるなんて耐えられんだろう?お前はさっさと解放される、ワシは封印から出れる...互いに損は無いと思わんか?」
言外に従えという意思を感じる。
でも..
「....それはできない」
「何故だ」
「俺はまだ、何も知らない。だからむやみにお前を解放出来ない...したくない...後死にたくない」
「チッ...知っておったか。クク...まぁいい。そうだ、今後は貴様にチャクラを分けてやろう...力及ばなくなればいつでもワシを頼れば良い。あの黒髪のガキをぶっ倒したいんだろう?今の貴様では天地がひっくり返っても勝てんぞ?ワシのチャクラを使えばあんなガキ一人敵では無いがな...」
にやりと嫌らしい笑みを浮かべてくる。
チャクラを送る事で封印を緩めていくつもりなのだろう。または単純に俺を憎しみに染めて暴走させるか。
そうはいくかと言いたい所だが、これからもあいつが襲ってくるなら九尾のチャクラは必要だろう...既に千鳥を使ってやがった。螺旋丸も無い現状では対抗策が無い。
「....」
「ふん、まぁいい。もう用はない、さっさと消えろクソガキ」
突如体が引っ張られる感覚に襲われて、急速に九尾から離れていく。
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「...っは!っはぁ...はぁ...」
冷汗が止まらない。
「怖かった...」
あれが九尾か...封印があるんだし、居るのは分かってたけど実際に対面するとこんなに恐ろしいとは...
「あれと和解とか俺には絶対無理じゃないか?」
なんとなく優しく接してもらえた感はあるけど、あれは俺を利用してさっさと封印を解除させる為だろうな。
サスケの言うことを信じるのなら、あいつは最大で輪廻眼と尾獣のチャクラ吸収のダブルコンボで襲ってくるって事だよな...九尾との和解無しじゃ1000%負ける。
「あぁもう考えるのは無理!!たった数時間なのに考えることが多すぎる!!頭痛い!!」
何も考えないようにして布団を被る。
「とりあえずチャクラを練れるようになって、影分身を覚える。これが最低ラインだ」
再び目を瞑る。せめて眠る今この時だけは安らげる事を祈って...