朝起きたら結月さんが台所で料理をしていた。
確か…結局昨日は彼女が家に来て、住むことに決まったんだったか。
まるで彼女ができたみたいだが俺達はそんな関係ではない。
「あー、別にご飯は作らなくても」
「別に貴方の為ではありません。貴方の健康は私の食生活に直結してるんですよ」
ツンデレのような言い方をってちょっと待ってその言い方じゃあ…
「まさか血、俺から吸うつもり?」
「勿論です。わざわざ吸えそうな人を探して吸うのは面倒ですし」
「えぇ…」
絶対に嫌だ。こんなことを誰かに話せば美人に密着されて血を吸って貰えるなんて羨ましいだとか言われるだろう。しかし一度体験してみればわかる筈だ。
そう、滅茶苦茶痛いのだ。それはもうとてつもなく。当然だろう。肩を食い千切られるのだから。
聞いたところあれは別にお腹が空いていたからとか言うわけではなくデフォであの吸い方らしい。
「こんな美人に密着されて血を吸われるなんて役得じゃないですか」
言われた。
「もっとこう…痛くないように吸ったりって無理なの?」
「無理です。諦めましょう。いつか慣れますよ」
断言できる。慣れる訳がない。
あの痛みに慣れるやつは多分俺とは別の次元に住んでるんだろう。正直慣れたくもない。
「じゃあお腹空いたんで…頂きます」
「え、ちょっとまっ」
「ふぅ。ご馳走さまでした」
「いだい゛…」
「ちょっと食い千切っただけじゃないですか。オーバーですね」
「食い千切るにちょっともくそもあるか…」
少し痛みは引いてきた。肩が今治っているのだ。
治っている感じがかなり気持ち悪いので喋りながら気を紛らわす。
「やる側にはこの痛みはわからないんだろうな」
「む、そのくらいわかっていますよ」
わかってるなら食い千切らないでもらいたいものだが。
「嘘つけ。肩食い千切られたことあんのか」
「それは無いですけど…昔はよく釘を刺されたり火炙りにされたりしてましたよ。そっちはあるんですか」
「…無いです」
あるやつは死んでる。というかよくって何だよくって。そんな頻繁に退治されかけているのか。
「じゃあ私の勝ちですね」
何がだよ。
まさか吸血鬼には受けた苦痛で上下関係が決まるのか。それならマゾヒストが一番上になってしまうが。まあいいや。
とりあえず作ってくれたご飯を食べよう。
「テレビを見るのも久し振りですね」
「勝手につけんな」
「テレビつけたけど良いですよね?」
「いや」
「良いですよね?」
結月さんはなかなか強引な性格らしい。まあ別に止めるようなことでとないし諦める。ついでに俺もテレビを見ることにした。
朝のニュースだ。ここから少し離れたところ辺りで血を全て抜き取られた死体が見つかったらしい。聞いてはいなかったが、吸血鬼というのは彼女以外にも沢山いるのだろうか。それとももしや…
「…というか貴方、本当にバカですよねぇ」
「え?」
「まぁ外で殺るより家の中の方が色々楽ですし、ありがたいですがね」
そういわれ結月さんのことを見るとニヤリと笑いながらこちらを見ていた。
動けない。
どうやら昨晩の恐怖が体に染み付いてるらしい。
結月さんが歩いて来た。
「あ…」
顔を近づけてきた。
昨日とほぼ同じ体勢になる。
そしてそのまま肩を…
「冗談ですよ」
「…」
「もう一度言いますけど私は少食なんです。全部吸いとるなんて出来ませんよ。失礼ですね」
「…」
「これに懲りたら二度と私を食いしん坊見たいに…ってどうしました?」
「チビった…」
「…」