死の支配者/大地の支配者   作:海月坊主

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【第一話】状況把握も楽じゃない

「……アルベド、そしてセバス及びプレアデス。指示があるまで待機せよ」

『はっ!』

 

 揃った返事が玉座の間に木霊する。

 モモンガ、そしてぶくぶく茶釜とペロロンチーノは彼らに指示を出したギルドメンバー──アセナに目をやる。

 

「皆さん……見ました?」

 

 思わず「何を?」と返しそうになるがアセナは続ける。

 

「アルベドの動く表情。それに私達、彼女に何も指示は出していませんでしたよね?」

 

 特に、自分たちが玉座の間に入る前にアルベドの前に立っていたモモンガへ確認を行うアセナ。

 

「私も愚弟も何もしてはいないわねぇ」

「俺も、アルベドの設定を覗こうと思っていただけで……。それより、さっきアルベドだけじゃなくてセバスやプレアデスもアセナさんの指示に反応してませんでした!?」

 

 円陣を組むように四人が固まりヒソヒソと状況把握に動き出す。モモンガの言葉に反応を示したのはペロロンチーノだった。

 

「そうだ、実はアセナさんがこっそり仕掛けたドッキリだったり?」

「いやぁ、流石にサービス終了後に発動するドッキリなんて仕掛けられませんよ……。それに、やっぱりコンソールは開かないんですよね?」

 

 円陣の中心に四方向から手が伸びるが、やはりそこには何もない。ここでこうしていても埒が明かないと判断したのは全員だろう。ギルドマスターであるモモンガが主導で認識に齟齬がないかを確認していく。

 

「まず、俺たちはユグドラシルのサービス終了をこの玉座の間で迎えてサーバーダウンでリアルに戻るはずたった。そうですよね?」

「はい、それはアタシが昨日モモンガさんから聞いた通りですね。最後は玉座でアインズ・ウール・ゴウンを讃えて終わろうと」

「でも、俺たちはナザリックに取り残されていると」

「コンソールも開かないしねぇ」

「それに、アルベドが話しかけてきたよね」

 

 自律して動くNPCは存在せず、ましてや表情が動くなどもユグドラシル内ではなかったことだ。不安そうにこちらを見るアルベドやセバス、プレアデスらから敵意は感じられないが、他の階層ではどうだろうか。

 

「あっ、ヤバ……。モモンガさん、第八階層ってどうなってます?」

「そうですよ! 『あれら』が移動していたらたまったもんじゃない!」

 

 第八階層の『あれら』──。

 かつてこのナザリック地下大墳墓の攻略を目論んだ八ギルド連合による総勢1500人による大侵攻。同レベル帯のプレイヤーを含めた数による侵攻作戦はナザリック地下大墳墓の第八階層へと達した。しかし、彼らは第八階層「荒野」で『あれら』と対峙することになる。

 その一体一体がモモンガが本気を出したとて凌駕しうる強大なシモベたち。その圧倒的な力の前に侵攻を行った者たちは悉く武器を、そして膝を折っていった。

 目の前にいるアルベドやセバス、プレアデスはその役割から自分たちに忠誠を誓っている様子だが、果たして『あれら』はどうだ──?

 例え忠誠心があったとして、こちらの命令に従うのだろうか。いや、そもそも……。

 呑み込めない事態にこれ以上──しかも最大級の──混乱を齎す訳にはいかない。

 コホン、と咳払いをするとモモンガはこの場にいる者達に指示を出す。

 

「セバス! メイドたちよ!」

『はっ!』

「玉座の下まで」

『畏まりました』

 

 全員が見事に揃った動きで立ち上がり、玉座の目で片膝を落とし、頭を下げる。

 

「──セバス」

 

 顔を上げるセバスの表情は生気を宿した人間のそれだった。

 

 ありえない──。

 

 率直な感想はほんの数分前までユグドラシルというゲームの世界に浸っていた自分の常識を悉く破壊していく。他の三人も同じ気持ちなのだろう。改めてセバスらの反応、その表情を見て目を見開いている。

 ここは、ギルドマスターとしてでき得る最善手を打つしかないだろう。ナザリック内の状況への対処と、この混乱に墓暴きを行うやもしれない愚か者の探知をすべきだ。

 

「大墳墓を出て、周囲にナザリックに所属する者以外の知的生命体が存在していないか確認せよ。もし、存在を確認した場合は無闇に戦闘行為を行わずその場を離れ直ちに報告のために帰還するように。行動範囲は一キロ圏内とする。また、知的生命体以外のモンスターや生物に対する戦闘行為も回避せよ」

「了解いたしました、モモンガ様。直ちに行動を開始します」

「──ちょっと待って」

 

 モモンガの命令を聞いている間に落ち着きを取り戻したアセナが顎に手を当てながらセバスを呼び止める。

 

「……プレアデスから一人だけ連れて行って。戦闘を回避して調査をする方向なら、シ……ソリュシャンかエントマを。万が一戦闘となった場合や私たちに指示を仰がなくてはならないような存在がいた場合は即座に撤退して情報を持ち帰らせなさい」

「畏まりました」

 

 セバスは一礼するとソリュシャンを連れ立って玉座の間を後にする。

 

「さて、残ったプレアデスは第九階層へ上がり、第八階層からの侵入者がないか警戒に当たれ」

「畏まりました、モモンガ様」

「直ちに行動を開始せよ!」

「はっ!」

 

 こちらも一礼すると、玉座の間を後にする。

 これでこの場に残ったのは自分とアセナ、そしてぶくぶく茶釜とペロロンチーノ姉弟だけ──。

 

「いやー、驚……」

「モモンガ様、私はいかがいたしましょうか?」

 

 忘れていた。ナザリック地下大墳墓の支配者然として指示を出すことに囚われてアルベドの存在がスッポリと抜け落ちていた。

 

(あーー! アルベドの事を忘れていた!!!)

 

 意識の外から声を掛けられたことと、それがギルドメンバーではなくアルベドであったことから心臓──はないが──が跳ね上がり骸骨の下顎がパカッと開く。と、数瞬の後に強制的に驚きや狼狽といった感情は抑制される。まるで、「これ以上は感情が大きくはならないし、持続させない」と言わんばかりに抑え込まれたのだ。

 

(これは──アンデッドの特性?)

 

 アンデッドであることの特性として精神の鎮静化が起こったのだろうか。しかし、今はそのことを考えるよりも目の前のアルベドだ。目下の最大の危機と懸念点──第八階層の動向調査とプレイヤーによる襲撃への調査は命じてある。となると、確認すべきはアルベド及び各階層守護者の忠誠心だろう。敵対的な設定を持つNPCの存在は聞いていないが、今後のナザリック地下大墳墓の運営において重要な確認事項だ。

 それに、第一から第三階層、第六階層の守護者を創造したプレイヤーがついているのだ。有事の際の対処は可能だろう。

 

「アルベド、お前は第四、第八階層を除く各階層守護者たちに第六階層にある闘技場に集まるように伝えよ。時間は……そうだな、今から一時間後とする」

「畏まりました。その様にいたします」

 

 一礼したアルベドは──どこか名残惜しそうな、熱を持った目でモモンガを見てから玉座の間を発つ。扉の閉じる音がして暫くすると、張り詰めた空気が一気に緩んでいった。

 

「は~~~、緊張した……」

「俺もですよー。暫くナザリックにはいませんでしたし、色々考えて手伝おうにも考えがまとまらないし」

「愚弟にしては意見が合うわね。ごめんなさいね、色々指示を出してもらっちゃって」

「ああ、いや、そんなことないですよ! お二人がいてくれて心強いですし! それにしてもアセナさん、真っ先にNPCたちを止めてくれて助かりました」

「いえいえ、何か指示を与えたわけでもないのにNPCから行動を起こしたんで慌てましたよ。物は試しで口にして正解でした」

 

 全員が胸を撫で下ろす。と、それぞれの姿に目が留まる。

 

「茶釜さん、その姿のままなんですねぇ」

「そうみたーい。でも、役割はちゃんとこなせるわよ」

 

 えっへん、とでも言いたげにピンクの肉棒が胸(?)を張る。よく見ると、ぶくぶく茶釜とペロロンチーノは本来の最強装備ではなかった。

 

「そうだ、これから階層守護者とも顔を合わせるんですし、念のため装備を取りに行きませんか?」

「おっと、そうだ。これからシャルティアに会えるんですよね!」

 

 両手でガッツポーズをとりながら興奮気味に話すペロロンチーノに対して、ぶくぶく茶釜の声は先程よりワントーン落ちていた。

 

「それねぇ、楽しみだし嬉しいんだけど……。ほら、趣味を前面に押し出してるから気恥ずかしさもあるのよねぇ」

「あぁ~」

 

 モモンガは彼らの装備を取りに行くときに必ず遭遇する自身の創造物を思い出す。ナザリックに所属するNPCたちが自律して行動する今、彼はどのような態度をとるのだろう。

 

「ううぅん、ま、まずは装備を整えた方がいいです。やっぱり」

 

 思わず身震いした後、黒歴史と向き合わねばと思いなおす。

 

「そっか、他のNPCも動いてるんですもんね。私の子も動いてるのかぁ……」

「アセナさんの子と言えばシルヴァ・ウルムでしたっけ。やっぱり、呼んだ方が良かったですか?」

「ううん、シャルティアが第六階層に来るのなら代わりは必要ですもん。それに、もう一人──」

 

 シルヴァ・ウルム。アセナがギルドアインズ・ウール・ゴウンの持つNPC作成レベルの余剰分を使って生み出したNPC。侵入者に対する最大の妨害ギミック担当である。その役割は第一階層から可能であれば第七階層まで生存し、他NPCの回復や後方からの支援に攻撃。果ては幻覚魔法による侵攻そのものの遅延と、その存在を知っていれば他の何よりも優先して倒してしまいたいNPCだ。もっとも、かつての1500人侵攻の際にはその存在を知るプレイヤーが加入していたことで第三階層で散っている。とは言え、第七階層突破まで生存していればその役割は第九階層のプレアデスの援護の為に再び現れるという、敵対者からすると厄介極まりない設定には変わりない。当初、アセナの口から聞いたギルドメンバーたちは悪い笑みを浮かべていた。特に、三人程がこのロマン構築となるこのNPCの誕生に対して口角を釣り上げて手伝っていたぐらいだ。

 だが、もう一人──。

 いつの間にとぶくぶく茶釜とペロロンチーノだけでなくモモンガもきょとんとした表情を浮かべる。

 

「もう! モモンガさんは覚えていてくださいよぉ~。リュコス・G(ゴーゴン)・リスト、私が必死になって作成レベルを稼いで作った子ですよー」

「あ、ああ! 第八階層の!」

 

○●○

 

 あれは何時だったか。ギルドメンバーが次々と離れ、モモンガとたまに手伝いにやってくるアセナだけになって暫くした頃だっただろうか。アセナからもう一体NPCを作りたいとお願いされたのだ。できることなら叶えてやりたいとも思ったが、ギルドに残る作成レベルは最早残り一桁。加えてNPCに持たせる役割もほとんどが埋まっている状況だった。そのことを説明すると、彼女は数か月後に作成レベルを増やし、100レベルのNPCを作れると言ってきたのだ。

 

「熱意は分かりました。でも、どこを担当させます?」

 

 流石にレベルを自前で稼いできたとあっては無下にはできない。何より、ギルドの為に──ひいてはユグドラシルを楽しむための行為を無理だと一蹴する気にはならなかった。

 

(でも、言ってくれれば手伝ったのになぁ……。あの時、ちょっときつめに反対しすぎたんだろうか)

「それはですね、今現在モモンガさんと私だけでナザリック地下大墳墓を護るにあたっての最後の砦、第八階層の強化ですよ!」

「ぶふっ!」

 

 アセナの話はこうだった。様々な要因で決められるギルドランク。一時は九位に就いていたアインズ・ウール・ゴウンは、今や徐々にランクを落として行っている。他のギルドも状況は似たり寄ったりである様だが、問題は上位ランクに就いていたギルドが攻め込みやすいと思われることにあるのだという。

 

「逆に考えましょう。また、あの時の様な大規模侵攻を受けた時、その中に1500人の内の100人でもいればギミックは粗方知られてしまっています。特に初見殺し的な物については期待が薄いでしょう。守護者の事も考えればまた第八階層まで侵入を許すことはないと思いますが、それでも一度到達された以上はその可能性は十分高いです」

 

 なるほどな、とモモンガは感心していた。実際、ギルドメンバーが減ってからも侵入者は存在しており、その悉くが最初の守護者であるシャルティアと対峙することなく散っている。しかし、チャレンジャー感覚のプレイヤーだけであれば問題はないが、ギルドが保有するアイテムを奪うなどを考えているプレーヤーが中心となればかつての大規模侵攻に近い規模の侵攻は絶対に起こらないとも言い切れない。それこそ、かつて仲間が「世界征服」を掲げたようにあの時の思いから「ナザリック地下大墳墓踏破」を掲げる者がいたとしてもおかしくはないのだ。

 

「なるほど。それで、第八階層の強化とは? 既に『あれら』も存在しますし、階層守護者はヴィクティムですし──」

「それです。ヴィクティムのスキルは強力ですが狙って少数が先行してきた場合、敵はトラブルもなく力のぶつかり合いになるんですよ」

「確かに、ヴィクティムのスキルについては知られているかも知れませんね。それで、強力なNPCを?」

「はい、盾役です。こちらが予期せぬタイミングというのは、敵の多くをヴィクティムのスキルに巻き込めないことだけ。なら、その状況からヴィクティムを守って、あとはいつもの様に混戦に持ち込む。侵攻する側からすれば、『あれら』を倒したいのにヴィクティムを攻撃に巻き込みかねない訳ですから、プレッシャー以外の何物でもない」

 

 つまりは、階層守護者であるヴィクティムとこれから作成するNPCの間だけでも連携が取れるようにしたいということだ。勿論、役割としてのタンクがNPCとして存在するのであれば第八階層のシモベ討伐自体が困難になるのだから強化には十分だった。

 

「その……モモンガさんにだけ全部を背負わせたくなくて。──ご迷惑でしたか?」

(──!?)

 

 楽しむだけではない、今やほぼ一人でアインズ・ウール・ゴウンを切り盛りしている自分を案じてくれているのだ。

 

「そんなことないですよ。やりましょう!」

「わあ、ありがとうございます! それで……もう一つお願いがあるんですけど」

「どうかしましたか?」

「私、前衛職なのでタンク用の装備って良いのを持ってなくて……」

「分かりました、ログインできるときは声をかけてください。久々の装備集め、頑張りましょうね!」

 

 先程のもやっとした思いも吹き飛んでいたのだった。

 

○●○

 

「いやぁ、リュコスも動いてるとなると茶釜さんの気持ちもわかるなぁ……」

「そう言えば、姿は見せてもらいましたけどどんなキャラクター付けにしたんです?」

 

 その後の作成はアセナが行ったため、完成後の姿しか見ていなかった。深紅のドレスに身を包むその姿を、確かアセナは──。

 思考の端で、何かが繋がる感覚がする。

 

伝言(メッセージ)》?

 

 直感でそう感じたモモンガは耳に手を当てた。

 

「モモンガ様、ユリ・アルファです。第八階層からの侵入者が謁見を求めておりますがいかがいたしましょうか」

「侵入者……?」

 

 緊張で声が重くなる。呟いた言葉に三人が身を寄せてきているのが分かった。

 

「はい。自らを"赤の女王"と名乗り、第八階層守護者──ヴィクティム様の代理として第八階層の状況説明と今後の運営について報告したいと申しております。ですが……私共も赤の女王なる者の存在は存じ上げておりませんでしたので併せてご報告をと」

(アセナさーん!)

 

 しっかり自分で考え、行動を起こして第九階層まで下りてきてるじゃないですかー! と声を上げそうになるが、すぐに鎮静化が起こる。しかし、これは願ってもない状況だ。プレアデスですらそのレベルから警戒に留めていたものを、状況報告を行いたいと向こうからやってきたのだ。

 

「状況は理解した。その赤の女王なる者はアセナさんが創造したヴィクティム付きの護衛だ。ユリ、お前は彼女に50分後に第六階層の闘技場で開かれる階層守護者たちの顔合わせに出席するように伝えよ。ヴィクティムは引き続き第八階層に待機するようにな。アルベドには私から伝えておく」

「畏まりました」

 

 《伝言》が途絶え、モモンガはアセナに目をやる。彼女は少し困った様子で頭を搔いていた。

 

「いや~、出てきちゃいましたね」

「まあ、あとで顔を合わせる訳ですしその時詳しく聞きましょう。それじゃあ、俺は今の事をアルベドに伝えるので、それが終わったら宝物殿に行きましょうか」

 何度目になるか分からない落ち着きを取り戻す溜息が響いた後、モモンガはアルベドへ《伝言(メッセージ)》を飛ばすのだった。

 

◆◇◆

 

「──と言うことですので、謁見は第六階層の闘技場にて願います。他の階層守護者の方々も出席される場です。どうか無礼の無いように」

「ええ、心得ていますわ。ところで貴女──ユリ・アルファさんでしたか。貴女は、他のメイドの様にはならないのですね?」

 

 コツ、と先程まで蹄の付いた獣のものであった脚を、スラリと伸びた人間の脚に戻し、深紅のヒールを鳴らす目の前の怪物。話に聞いていた第八階層の『あれら』、とは明らかに毛色の違う女。何故、この様な者が第八階層に? それが、目の前の赤の女王と名乗る女と遭遇し、ユリ・アルファが抱いた最初の感想だった。

 だが、物理的な強さではないところに目の前の存在の真髄があるのだと、広がる光景から嫌でも思い知らされる。

 そもそも、この女に──ナザリックに属する者であると知らなかったとしても──尋ねるべきではなかったのだ。

 

「第八階層で知る姿ではない。本当に、第八階層からの使者か?」と──。

 

「う、うああぁぁぁ……」

 

 頭を抱えて倒れ伏す妹、ナーベラルが力無く身を捩る。例え時間稼ぎでしかないとしても戦闘メイドである自分たちは第八階層からの侵入者に対して至高なる御方々へ指示を仰ぎ、増援が到着するまでの時間を稼ぐことができるという自負があった。だが、遭遇して僅かの間に戦闘ではなく、その本性の一端を目にしただけでこの女は戦闘メイド四人を無力化して見せた。一人欠けていた等は申し開き以前の問題だ。

 

「私は、【首無し騎士(デュラハン)】ですので」

「ああ、それで──。これは一つ対策が必要になったわね。そこの【自動人形(オートマトン)】も理解さえしなければこうはならなかったでしょうに。でも、無理な話よね、こういうことを理解することについては処理が速そうだもの」

 

 今度は、唇を震わせながら自分を抱きしめ座り込む妹、シズを見やる。そう、ソレはこの女が自らの姿をさらした瞬間に起きた。ユリ自身も彼女が何なのかを理解はしたが、激しい精神の鎮静化が何度も起こり直後に起こった恐慌状態からの沈黙の仲間入りをせずに済んだのだ。

 

「ごめんなさいね、そういうつもりはなかったの。貴女たちは何も知らなかった様子だったし、私もナザリックでの道理を知らなかった。言葉で返せば良かったものを安直に視覚で伝えた私の失敗だわ。ごめんなさい」

「い、いえ。私共も事前に第八階層の情報を得ておくべきでした。どうかお顔をお上げください」

 

 深く頭を下げる淑女──赤の女王は顔を上げると人好みしそうな笑みを浮かべて語り出す。

 

「私、リュコス・G・リストと申します。至高なる御方々が一人、アセナ・F・ミゼーア様に創造された、皆様と同じ主に忠誠を尽くす仲間ですわ。ただ、誕生から日が浅いもので重ねて申し訳なかったわ。お詫びと言っては何だけど、皆様にも、リュコスと呼んでいただいて構わないとお伝えいただけるかしら?」

「はい、リュコス……様。それで、一つご教授願いたいのですが私の妹たちは何時までこの状態なのでしょうか」

 

 先程モモンガから階層守護者であるヴィクティム付きの護衛と聞いたが、その立場がどのようなものか、他に比較する対象がなかったために一先ずは敬称を付ける。リュコスは「もう、敬称なんていらないわ」などと言っているが決して不興を買いたくはないのである。

 

「そうね、後十分もすれば完全に落ち着くと思うわ。三分もあれば立って多少の反応を示すことはできると思う」

「そう、ですか。ありがとうございます」

「そんな、私が起こしたことだもの。このことについては私が起こした重大事故として、後で至高の御方々に報告します。大切な妹さんたち、ゆっくり休ませてあげてね」

 

 リュコスは時間まで第八階層に戻るといい、来た道を引き返す。幸か不幸か、ユリに背を向ける際に見せた邪悪な微笑みは誰にも気づかれることはなかった。

 その後、リュコスの言った通り三分もすれば全員が立ち上がれるようになり会話が可能になった。次の指示があるまでは待機という名目で使用人室で休息をとるのだった。




今回からオリNPCもその活動を開始します。
今後とも、楽しんでいただけましたら幸いです。
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