なるほど、ヘロヘロ氏の生活とはこれ程までに過酷だったのか……と言わんばかりの日々でした。
頭を大地につけんと押し寄せてくる重圧が掻き消える。立ち上がる者のいない中、誰かの安堵の息によって空気が弛緩すた。
最初にアルベドが立ち上がり、土で汚れた白いドレスの膝部分を翼のはためきによって払う。そして、他の守護者たちも立ち上がり、誰ともなく口を開いた。
「す、すごかったね、お姉ちゃん」
「ほんと。あたし押しつぶされるかと思った」
「流石は至高の御方々。私達守護者にすらそのお力を発揮するなんて……!」
「至高の御方々デアル以上、我々ヨリ強イトハ知ッテイタガ、コレホドトハ」
口々に至高の御方々への印象を言い合う。
彼らの感じた重圧とは、ギルドメンバーである四人が緊張していたことによる空気の重みもあったのだが、一番の要因はやはりアレだろう。
至高の御方々の一人、アセナ・F・ミゼーアが自身の被造物に向けた感情。
「シカシ、アセナ様ガ怒気ヲオ纏イニナッタ時ハ、エモ言エヌ圧ヲ感ジタ」
武人としてのコキュートスは前衛職であるアセナについて、ギルドメンバーの話を耳にしたことがあった。そのほとんどが穏やかながら頭の切れるという人となりの話ばかり。そんなアセナがあの様な怒気を放った。コキュートスは相対した時の自分を想像して武者震いを起こしたようだ。
「全くだね。リュコス、今回は至高なる御方々の御目溢しを頂いたが、今後は気を付けてもらいたいものだね」
各守護者からの視線の先には、柔和な笑みを浮かべた淑女が立っていた。
「はい、ですがあの考えはアセナ様よりかくあれと賜った私の本心。それに背く事こそ創造主と己に対する不敬ではありませんか?」
これが自分である、という態度を崩すことなく語るリュコスの言葉に守護者たちは危機感ともとれる違和感を覚える。
創造主と"己"に対する不敬──。
至高の御方々に絶対の忠誠を誓うべき自分たちが、たかが己に不敬の念を抱くなどありえない、いや、あってはならない。
「ちょっと、そういう考え自体が不敬だって言うのよ!」
「ぼ、僕もそう思います……」
「我ラハ至高ニ御方々ニコノ身ヲ捧ゲルノダ。己ノ意思ヲ殺シテモ」
口々に反論を受けるリュコスの表情から柔和な笑みが消えることはない。
「ええ、ですから今後はシルヴァやアセナ様以外の至高の御方々の前でこの様な醜態は晒しません」
「ひ、ひぅ……っ!」
マーレが思わず声を漏らす。淑女が浮かべた柔和な笑みは、紅く縁取られた三日月の様に吊り上がっていた。
「そこまで言うとは興味がありますね。リュコス、我々はこのナザリックを守護する同志だ。他の階層守護者とはある程度の関係が築けているがきみのことは何も知らないと言っても過言ではないのだよ。良ければきみの事を聞かせてくれるかな?」
デミウルゴスの言葉に凶悪な笑みは優しさを帯び、礼儀正しく言葉を紡ぐ。
「畏まりました。私自身の判断で語ることのできる範囲であれば申し上げましょう」
深紅のドレスのスカートを両手で摘まみ一礼する。
「経緯はどうあれ第九階層の守護に携わるのだから、敬語など必要ないと思うのだがね。どう思う? アルベド」
「……ええ、働きで応えるのであれば良いでしょう。私もヴィクティムの名代を無下に扱うつもりはないわ」
「それでは私は一足先に第九階層に戻ります。至高の御方々がどちらにおられるかは分かりませんが、護衛は必要でしょう」
「分かりました、セバス。至高の御方々に失礼が無い様に仕えなさい。それと何かあった場合はすぐに私に報告を。特に、至高の御方々が私をお呼びという場合は即座に駆けつけます。他の何を放っても!」
聞いていた守護者たちが思い思いに溜息をこぼす。
「了解しました、アルベド。これで失礼します。ついて来なさい、ソリュシャン。では、守護者の皆様──リュコス様も」
「失礼いたします」
セバスとソリュシャンは別れの挨拶と共に一礼する。去り際に、二人がリュコスを一瞥した気がした。
「さて……珍しく黙ってどうしましたか? シャルティア」
「その、下着が少し濡れてしまってまずいことになってありんすの」
誰も二の句が継げない。
全員が何を言うべきか、そんな顔で互いを窺う。至高の四十一人の一人、ペロロンチーノより、シャルティアは守護者の中でも最も歪んだ性癖を与えられている。マーレが理解できず、不思議そうな顔をしているが。そして二人、それで終わらない守護者がいた。
嫉妬に似た蔑みの表情を浮かべるアルベドと、聖母の様な微笑を湛えるリュコスだ。
その口を動かそうとしたアルベドの前に出た聖母がシャルティアの前に腰を屈め、耳打ちする。
「汗でも掻かれたのですか? 胸に着込んでいらっしゃる様子ですし、ご無理はなさらず」
何を言っているのか耳を
「な、なな、なんで知ってるのよ!」
その言葉にアウラはあちゃーと言わんばかりに額に手を当てる。一方リュコスはころころと笑いながら、
「一目見れば分かりますとも。ほら、そんなに動き回ると危ないですわよ? ……もっとも、ペロロンチーノ様はその様な小細工なしでも貴女に慈愛を賜ると思いますが」
嘲笑の表情から一転、真顔になりシャルティアに告げる。
怒りで顔を真っ赤にしていたシャルティアはリュコスの言葉で何を妄想したのか、呆けた顔をし、顔を赤くする。
「そんな、ペロロンチーノ様の寵愛を賜るなど当たり前でありんす。ぐふふふ……」
両手を頬に当て妄想の世界に旅立つシャルティアをよそにリュコスは守護者たちの方へ向き直る。
「と、まあ、心を擽るのはスキル、言動共に得意ですわ。それと、アルベド」
「な、何かしら?」
シャルティアの有様に口角をぴくぴくとさせるアルベドにリュコスは続ける。
「私、アセナ様と一対一でそれはそれは至高の御方々のお話を聞いてきましたの。例えば──我らの支配者たる四人のお方の性癖やキュンとするシチュエーショ……」
アルベドは言い切る前にリュコスの両肩を強く掴む。荒い息をしながら頬を紅潮させた彼女はリュコスに詰め寄った。
「それは一体どんな? 私、至高の御方々が寝室にお呼びとあればそれはもう夜伽の準備をして馳せ参じる心積もりはできているの。だけど、そうよね。その手前から希望される方もいらっしゃるわよね? どういった衣装がお好みでどんなシチュエーションがお好みなのかしら。さあ!」
アルベドから顔を背け何故か自慢げな顔をするリュコスを見て、デミウルゴスがやれやれと首を振る。
「アルベド、落ち着きたまえ。その話は今後いくらでもできるだろう。シャルティアも、きみの恋敵が一歩先へ行ってしまうよ」
双方異なる意味ではっとした表情をすると口惜しそうにする。
「さて、今のはあくまで言葉で彼女たちの心を擽ったのだろうけど、スキルもそういったものがあるんだね?」
「ええ、直接的な支配ではなく心を少しずつ削っていくような、そんな精神異常系スキルが多いわね」
「なんとも悪魔らしいことだ。期待しているよ」
デミウルゴスとのやり取りに一部の守護者たちが驚きの表情を見せる。それは、彼女の種族に関すること。深紅の衣装を纏った淑女の一体どこに悪魔の要素があるというのかと言いたげだ。
「私、人化には抜かりありませんので。代わりに、能力は下がりますが」
「防御を担うということはフルプレートなのでしょう? であれば戦闘の時には本来の姿に近くなるのよね?」
「そういうことです。流石は悪魔の先輩方ですわ」
ふふふ、と妙に意気投合した守護者統括との笑い声が響く。
「戦闘以外では外政、内政共にお役に立てます。至高の御方々のお気に召す策をご提供致しましょう」
「それでもまずは、アセナ様の下でナザリックについて学んでもらうがね。きみも、無闇に他人の逆鱗に触れるのは望まないだろうからね」
「そうですわね。いずれまた、プレアデスの方々にもきちんと謝罪せねばなりませんし」
苦笑を見せ、リュコスは恭しく一礼する。
「それでは、皆々様。私は一度アセナ様の下へと参ります。後日お訪ねした際にはどうぞよろしくお願いいたしますね?」
優雅な足取りで第六階層を後にするリュコスを見送ると、アルベドが口を開く。
「アウラとマーレは少し休んだら地表部の隠ぺいを開始しなさい。シャルティア、上空に幻術をかける件で私からモモンガ様たちにシルヴァを推薦するわ。話を通しておいて」
「構わないでありんすよ。シルヴァも、難儀な妹を持ったものでありんすねぇ」
リュコスの去った方向を見ながら、シャルティアが呟く。
「あら、そんなことを言っていいのかしら? 彼女を敵に回した者はモモンガ様の正妃になれないかもしれないわよ?」
「なあっ!? 汚いでありんすよ、大口ゴリラ!!」
「はぁ? ヤツメウナギが何ですって?」
二人の様子に呆れる男性陣──とアウラ──と、おろおろするマーレ。しばしの歓談の後、守護者たちは各々の仕事へと戻るのであった。
◆◇◆
ナザリック地下大墳墓第九階層、廊下。円卓の間にてリュコスのステータスや設定の話などを終え、アセナは休息を挟む為に私室へと向かっていた。
(ああ……モモンガさんの心労を増やしてしまった……)
ぶくぶく茶釜はNPCが生物から感情を学び、どの様に成長するのかについて興味を持った様子だった。ペロロンチーノは言わずもがな、「年上に興味はないけど、じわじわと心を嬲ってくるって言うのはアリだなぁ」と口にして茶釜に張り倒されていた。つまり、そこそこウケは良かったのだろう。
一方、モモンガは改めてリュコスの管理を私に任せ、「なんなら、アルベドやデミウルゴスが知的なことを言ったら対応をお願いしてもいいですか?」と追加分まで託してきた。まあ、自分でできる範囲であれば問題ないとの返事はしたが、やはりギルドマスターであるモモンガはNPCたちの中でも特別な存在である様だと伝えたうえで、モモンガが対応に困った場合はアルベドにデミウルゴスに対応すると返答した。言外にパンドラズ・アクターを外したのは、ちょっと悪戯が過ぎただろうか?
(……あれ?)
アセナの私室の前にリュコスが立っていた。彼女は、アセナを見つけるとにこやかに微笑みかけ一礼する。
「お帰りをお待ちしておりました。その……第八階層に戻らない場合、私の待機場所がありませんでしたのでアセナ様の私室の前で待機をしておりまして……」
そう言えば、第八階層は隔離されたのだったか。アルベドも待機場所がなかったために部屋を与える案があったがリュコスの事は失念していた。今更部屋を割く必要もない。神経を逆撫ですることに長けた性格ではあるが自作の娘なのだ。そう思い、アセナは私室のドアを開きリュコスを中へ促す。
「とりあえず入って、足りないものがあれば何でも言ってね」
「ありがとうございます」
なるほど。と部屋に入るリュコスの様子を見て思う。恐らく、第六階層で顔合わせを行った守護者たちはこの様に促されれば慌てふためいたことだろう。
自分には勿体ない、畏れ多い──。
しかし、リュコスは恭しく一礼をするのみだった。創造主とその子供という関係性からだけではなく、彼女を自分の分身として創り上げた結果なのだと今になってようやく納得がいった。
とは言え、釘を刺しておくに越したことはない。扉を閉め、リュコスに優しく話しかける。
「リュコス、私と二人の時はそれでいいけれど、分かってるわよね?」
「勿論、他の至高の御方々に対してこの様な態度は取りません。それはお母様が一番良くご存じでしょう」
部屋に設置されたテーブルに備え付けられている椅子に腰掛けるリュコス。
「さっきより図々しくなってない? 私としてはまず、貴女がどれくらい私の意図を酌んでいるのかを知りたいのだけど」
「私はお母様が命じられたもう一人の私であると言う願い、そして感情への探求心を忘れぬように振舞っていくつもりです。問題があればご指摘を」
(あー、なるほど。私が直接入力した設定だけじゃなく目の前で溢した愚痴や独り語りもしっかり覚えてるのね)
リュコスの対面に腰掛け、アセナはこれからどうしたものかと考える。暫く思案した後、耳に手を当て《
「貴女が私と部屋を同じにすることは了承を得たわ。まったく、貴女、分かってやってないわよね?」
「まさかそんな。ですが、お母様のお話を聞いておりましたので畏れ多くも至高の御方々と一部の守護者の思考は大体想像がつくというだけです」
「そう言うところがいやらしい。まあ、私が創ったのだけれどね。さて、休むつもりだったけど準備をしたら地上に出るわ、ついて来て」
装飾品などのアイテムを漁ろうと席を立つアセナにリュコスが目を丸くする。まさかすぐに部屋を離れるとは思わなかったのだろう。
「休むおつもりだったのでは?」
「そのつもりだったけど、他のみんなが地上を見るって。ついでに疲労無効の装備と貸し出す人化のアイテムも持っていこうと思ってね」
なるほど、とリュコスは納得した表情をする。
「そう言うことでしたらお供致します」
暫くした後、目当てのアイテムを確保して二人はナザリック地下大墳墓の第一階層へと向かった。途中、仕事に復帰したプレアデスと遭遇し、謝罪とリュコスの今後について説明をしたのだった。
◆◇◆
ナザリック地下大墳墓地表部。地上へと繋がる階段は大所帯となっていた。
「いやー、私がプレアデスに会っただけでこうなるなんてすごいですね」
階段で頭を抱える漆黒の鎧──モモンガ──から聞いた話では、アセナがプレアデスと別れた後、他の至高の御方々も地上に出るのではと思ったユリからエントマ経由でアルベドに連絡があったそうだ。
結果、この地上に続く階段には今、アセナたちギルドメンバーと元々地上に出ようとしていたデミウルゴス、そしてアルベドとシャルティア、リュコスが一堂に会していた。
「まあまあ、モモンガさん。セバスとソリュシャンが調べてくれたとは言え何があるか分からないんだし、良かったんじゃない? 愚弟は最初からシャルティアを連れ出すつもりだったみたいだけど」
茶釜が(恐らく)冷ややかな視線をペロロンチーノへ向ける。
「だって、シャルティアと一緒にいたかったし、秘密は守ってくれるもんな?」
「そうでありんす!」
「はー、今回だけは見逃してやるわ」
隣でこくこくと頷くシャルティアを見て毒気を抜かれたのか、茶釜は追撃を諦める。
「予定を変えて少し辺りを見てみましょうか」
モモンガの言葉に賛成の意を示して地上へ向かおうとした時、階段の下から何かがふわりと昇って来る。それは、ローブを纏い宝玉をあしらった杖を装備した短髪の金髪碧眼の少年だった。見た目は十代半ばと言ったところで、少年はアセナたち至高の御方々の階下になるように降り立つと跪き頭を垂れる。
「この様な場でのご挨拶となります事に深く謝罪を。ナザリック地下大墳墓第一階層以下第七階層及び第九階層にて侵入者の妨害を一任頂いておりますシルヴァ・ウルム。ナザリック地下大墳墓上空への幻術展開の為馳せ参じました」
突然のシルヴァ・ウルム、忠誠の儀にギルドマスターであるモモンガも創造主であるアセナも固まってしまう。アセナはシルヴァの容姿を見て慌てて声を上げようとしたが、茶釜に機先を制されてしまった。
「アセナさん! 後で話があります!! そうです、シルヴァ・ウルムをリュコスの姉と言っておきながらこの様な容姿に創造した件です!」
ピンクの粘液である体から恐らく指であろうものをビシッとアセナに向ける。当のアセナは「やっちまった」と言わんばかりの後悔の表情を見せたまま口をパクパクさせている。
「畏れ多くも、ぶくぶく茶釜様。御身と接する機会に恵まれなかった私をお叱りください。私は正しく、そこにいるリュコス・G・リストの姉でございます」
先程の声変わり前の少年のものとは違う、透き通った少女の声が通路に響く。頭を垂れていたシルヴァの髪はウェーブのかかった長髪へと変わっていた。
「シ……シルヴァよ、顔を上げなさい。創造主である私が許可します」
はい、と返事をすると瞳の色も赤へと変わり、顔の作りも少女のものへと変化している。
「シルヴァは
苦しい言い逃れをしながらアセナはモモンガへと続きを促す。僅かに頷くと、モモンガはシルヴァに語り掛けた。
「うむ、シルヴァよ、よくぞ来てくれた。ナザリック地下大墳墓の上空をお前の幻術で偽装してほしいのだ」
「はっ、このシルヴァ・ウルム。至高の御方々とお母様の名に恥じぬ働きを致します」
再び頭を下げたシルヴァに作業を開始するように促すと、シルヴァは再びふわりと浮き上がる。そのまま地上へ出ると、その姿は見えなくなった。
「さ、私たちも上がりましょうか」
アセナは他の面々を促し階段を上る。徐々に視界に広がる外の光景。それはまるで天から大地が降り立つ様だった。
「わあ……!」
満点の星空の下、広がる平原と木々。自分たちの現実ではとうに肌に感じる機会などなくなってしまった自然に、四人は深く息を吸い込んでみたり天を仰いでみたりする。ふと、アセナの中にある願望が沸き立った。
「ねえ、誰が私を捕まえられるか試してみません?」
そう言うと、銀髪碧眼の少女はその姿を人から二足歩行の狼──人狼へと変貌させる。モモンガとぶくぶく茶釜、ペロロンチーノの三人は懐かしそうな声を上げ、同行していた守護者たちは感嘆の声を上げる。
月光に透き通る白銀の毛を持つ狼。かつてユグドラシル内で"白尾狼"と呼ばれたアセナ・F・ミゼーアの真の姿だ。
「この姿ならどこまで追いつけますかねー」
「飛んでいいなら行けるか?」
漆黒の鎧を纏ったモモンガに続きペロロンチーノも乗り気な返事をする。一方、ぶくぶく茶釜はその容姿からか迷っているようだった。
「茶釜さん、モモンガさん。それにペロちゃん、はい」
アセナは人化のアイテムを三人に手渡す。
「これなら、一緒に食事もできるし茶釜さんも追いかけっこできますね!」
「あれ、あら~……」
妙に体をくねくねさせるぶくぶく茶釜と共に、アイテムを受け取った三人は試しに人化アイテムを装備してみる。
「姉ちゃん、腕輪が体の中で浮いてる……」
「うるせえ! 腕に嵌めてんだよ!!」
暫くした後、三人の姿は現実の姿によったものへと変化した。耳にしたことだけはある
「し、至高の御方々が私の為にこの様なお姿を……。もう、いつでも寝屋へお呼びくださいませっ!」
「ペ、ペロロンチーノ様のお姿は格別でありんす!」
モモンガが人化したことで僅かに性的嗜好が弱まり、創造主であるペロロンチーノへの敬意と愛情が勝ったシャルティアとアルベドはうまく互いの思惑が嚙み合ったのか、デミウルゴスが唖然とするほど仲良く手を取り感想を述べ合っている。
「おおー、やっぱりペロちゃんはペロちゃんになるし茶釜さんは……姉さんって呼ばないとぶん殴られそう」
「ほう、後輩。この状況でも折檻をお望みか……。って言うのは冗談で、はいこれはお礼よ」
人化した茶釜は礼と言って腕輪を差し出した。受け取ったアセナは見覚えのない腕輪をまじまじと見つめていたため、それが何かに気が付いたモモンガとペロロンチーノの反応に気が付かなかった。
「奇麗ですけど、どんな効果が?」
「付けてみてのお楽しみってね。ささ、装備してー」
「はあ……」
促されるままに腕輪を装備したアセナの姿がみるみるうちに小さくなっていく。やがて、気高い白銀の狼であった姿はふわふわの毛を持つ小型犬へと変化していた。
「あれ、みんな大きくなった……。って、私が小さくなってるじゃないですか!!」
「あはははは! アセナちゃんかわいー!!」
「姉ちゃん、笑いすぎ……」
「そうですよ茶釜さん、流石に笑うのは……くくっ」
「モモンガさんも笑ってますけど!? これ、何なんですか!」
小さな右前足を持ち上げ地面をてちてちと叩くその姿は正しく純白のポメラニアン。どれだけ語気を荒くしても愛嬌のある姿ではかわいらしい行動にしか見えなかった。
「ひー、ひー……。それね、アセナちゃんがユグドラシルを始めるよりも前にあったイベントで手に入るアイテムなのよ。《
「俺も実物を見るまで忘れてましたよ。あの時は悪ノリで盛り上がりましたねー」
「ほら、姉ちゃん。あんまり笑いすぎると悪いって」
「さっきの仕返しなのだよ、ふっふっふ」
「なるほど、つまりこういう使い道があるということですね?」
右前足を挙げたポメラニアンの姿が一瞬で消える。
《
「ちょ、わあっ!?」
突然のことに尻餅をついた茶釜の胸の上でアセナは「ハッ、ハッ」と犬の様な呼吸をしながら小首を傾げて見せる。
「くそ~! 犬としてのあざとい演技まで身につけおって、反則でしょ!!」
「さあ、思う存分モフモフする権利を差し上げましょう」
再びくそー! と声を上げた茶釜は結局白いポメラニアンを撫でまわすのだった。
「お楽しみのところ申し訳ございませんが、あまりこのままと言うのもよろしくはないでしょう。先程、シルヴァから報告がありましたので上空から隠蔽効果をご確認いただいてもよろしいでしょうか?」
暫くした後、リュコスがモモンガへ進言する。そう言えば地上に出てきた目的を一つも果たしていなかったなと思い至る。
「そうだな。リュコスよ、気を遣わせたな。私が話をしてこよう」
リュコスは一礼するとその場に控える。他の三人のところへモモンガが歩み寄り何かを話すと、ポメラニアンと化したアセナの姿は元の白狼に戻り、茶釜に馬乗りになる人狼と言う絵面が生まれた。
「ギャー! 喰われる!!」
「中身スライムなんか喰うか!?」
「二人ともー、そろそろ飛びますよー」
女二人で漫才を繰り広げた後、一行は《
「わぁ……!」
上空へ上がるなり、各々思い思いの歓声が上がる。第六階層で造られた自然ではなく、目に飛び込むリアルの自然に、感慨深いものを感じていた。
「奇麗な星空……」
「シャ、シャルティア、星空よりもシャルティアの方が奇麗だからなぁ……」
「……」
「アセナさん、どうかしましたか?」
「ああ、いえ……。奇麗だなぁと思って」
姉弟が星空や平原に目を輝かせる中、神妙な面持ちでいたアセナにモモンガがいち早く気が付き声をかける。アセナは思わず取り繕った感想を述べるだけで精一杯だった。
「そうだ! ナザリックがここから見ても隠せているか見るんだよね!」
と、アセナの反応に気が付いたペロロンチーノが声を張り上げる。その言葉に促されるように地下大墳墓の方へ目をやると、その隠蔽は完璧に行われていた。
「ふむ、完璧だな」
「姉の魔法をお褒め頂き、歓喜の極みでございます」
デミウルゴスと共に悪魔の翼を羽ばたかせているリュコスが一礼する。ナザリックの外壁ではマーレが土を被せている最中だった。
「マーレも頑張ってるわねぇ。これは、ご褒美が必要かしら。モモンガさん」
茶釜がモモンガと何かを話している中、アセナは再び視線を星空と緑の森に戻していた。固く結ばれた唇が緩むことはない。
「あー……アセっちゃんさぁ、今は何も気にすることはないと思うぜ? ここは、
「……うん」
「そうだ、ウルベルトさん達が前に世界征服しようって言ってたけどさ、こっちでそれをしてみるってのはどう? この自然をアインズ・ウール・ゴウンが手に入れる!」
「──っ!?」
ペロロンチーノへ顔を向け、目を見開くアセナ。何かを言おうと口を開いたが、すかさずシャルティアとデミウルゴスが反応を示した。
「ペロロンチーノ様! 素晴らしいお考えでありんす!!」
「おお、我々でこの大地を支配するとは……素晴らしい」
肯定的な言葉の前に、アセナの口は閉じられる。未だ何か言いたげな彼女の表情を、物知り顔な笑みを湛えるリュコスだけが見つめていた。
「アセナさーん、ちょっといいですか?」
そこへ、モモンガと茶釜が戻りアセナへ何かを伝える。複雑な表情をしていたアセナは表情を元へ戻し、笑顔を浮かべていた。
「いいですね、それ。じゃあ、行きましょうか。ペロちゃん、その返事はまた今度」
「あぁ? おい愚弟よぉ、お前、口説いたか?」
「そそそ、そんなことするわけないじゃないか!」
「だよな、そんな度胸はお前にはない!」
賑やかなやり取りをしながら茶釜とペロロンチーノはマーレの下へ、モモンガとアセナはシルヴァの下へと降り立った。
「これは、モモンガ様、アセナ様。成果は私自ら確かめますのに……。その広い御心に最大限の敬意を」
「よい、我々が自らの目で確かめたいと思った。それだけだ。シルヴァよ、完璧な隠蔽に賞賛を贈ろう」
「勿体なきお言葉! このシルヴァ=ウルム、未だ至高の御方々のお役に立てた試しはなく」
「いいのよ、貴女は貴女の任を全うしている。そして、本来の管轄外である地上で成果を出した。誇らしく思うわ」
なんと……。と絶句するシルヴァの前にアセナは手を出し、拳を開く。そこにはアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーが所持する指輪、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが輝いていた。
「これは……?」
「此度の貴女の働きに褒賞を。これから万が一の時に貴女はナザリック地下大墳墓を駆け回ることになる。臨機応変な対応ができるという期待を込めての褒美よ」
「ああ……」
シルヴァは目に涙を浮かべ、アセナの手を小さい両手で握り締める。その手は僅かに震えていた。
「このシルヴァ=ウルム、アセナ様の事を尊敬しておりましたがかくあれと命じられたこの名によって同時に良くない感情を抱いておりました。ああ、私の在り方は……」
「よい、このままでよい。シルヴァよ。お前の在り方を忘れるな」
「……はっ、このシルヴァ=ウルム。造物主であるアセナ様の御心のままに」
そう言って、シルヴァは指輪を受け取る。とある猟犬の王と、地下大墳墓を霧と幻影で守護する者とのやり取りであった。シルヴァの首に下げられた、鈍く光る銀の鍵を、アセナとリュコスは見つめていた。
「さて、あっちも終わったようですね」
「ですね。それじゃあ戻りましょうか」
「アルベドよ。お前にもこれからナザリックを守護する守護者統括として与えたいものがある。あとで私の部屋──」
「はいぃっ! 湯あみをするので暫しお時間を頂ければと!」
「あー……玉座の間に行くぞ」
しゅんとしたアルベドを連れ、他の面々と合流した後、ナザリックへと戻るのだった。
改めまして、投稿が遅くなりました。
不定期更新とは言え、まさか「あっ」という間に1ヶ月をオーバーするとは……。
ざっくりとではありますが、ここでオリキャラの情報開示です。
名称:アセナ・F(フェンリル)・ミゼーア
属性:中立(カルマ値:±0)
種族レベル:人狼:15lv 人狼の殺戮者(ライカンスロープ):10lv 人狼の始祖(ベナンダンテ):5lv
職業レベル:アサシン10lv、マスターアサシン5lv、レンジャー5lv、ストーカー5lv、モンク10lvなど
呼び名:白尾狼
名称:リュコス・G(ゴーゴン)・リスト
レベル:100
属性:極悪(カルマ値:-500)
種族レベル:小悪魔(インプ)10lv、最上位悪魔(アーチデビル)5lv他
職業レベル:ビーストテイマー10lv、ガーディアン10lv、シールドロード5lvほか
創造主:アセナ・F・ミゼーア
呼び名:禁忌の守り手
名称:シルヴァ・ウルム
レベル:66
属性:凶悪~極悪(カルマ値:-450)
種族レベル:二重の影(ドッペルゲンガー)5lv
職業レベル:クレリック10lv、フジュツシ5lv、イリュージョニスト10lv
創造主:アセナ・F・ミゼーア
呼び名:霧の門の守護者