死の支配者/大地の支配者   作:海月坊主

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今回は前回の反省を生かして細かく区切っていくんじゃあ……。
いよいよカルネ村!
ちょっと浅い部分もあるかと思いますが、そこは、時間が……あっ。


【第四話】カルネ村・①

 

 ナザリック地下大墳墓第九階層、円卓の間。あれから三日後、円卓の間に集まったモモンガ、アセナ、ぶくぶく茶釜、ペロロンチーノはアルベド、セバス、リュコスを待機させ、地上でモモンガが試そうとしていたことを試していた。モモンガ曰く、『自分の職業に適性のない武具は装備することすらできない』らしい。

 実際に、各々が適性のない武器を持ってみては床に取り落としている状態だった。

「うわぁ、盾ぐらいしか持てない……」

「私も、短剣程度ですね。頻繁にあの姿になる訳にもいきませんし」

「俺も弓だわ。うーん、役割ははっきりしていいんだろうな」

 三日ぶっ続けで操作方法を模索した《遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)》覗くモモンガを他所に、三人は感想を漏らす。特に、ぶくぶく茶釜にとっては頭を悩ませる事態だろう。

「やだ……私、外でお仕事できない!?」

「うーん、人選は浮かびますけど、茶釜さんにタンク役をさせてくれるのはいないと思うんですよねぇ……」

 話は三日前に遡る。ナザリックに戻り解散となった時、アルベドが口を開いた。内容は、今後ナザリックから外に出る場合には護衛を付けて欲しいという進言だ。これにはリュコスを含めたその場に居合わせた守護者全員が同意した。アセナはリュコスを、茶釜はアウラとマーレを連れて行くと真っ先に返答したため特に思うところは無かったのだが、二人は違った。

 ペロロンチーノは、第一から第三階層守護者であるシャルティアを頻繁に連れまわす事はできないし、モモンガはパッと思い浮かぶだけで被造物であるパンドラズ・アクターを連れて行くとなると気が重くなったのだろう。即答はしかねていた。

 ギルドの女子二人は「外に出られるー!」とその時は喜びもしたのだが、解散後、モモンガから先立っての武具の装備についての話を聞かされる。そして今、実際に試した結果から茶釜があることを危惧しているのである。

「アウラかマーレを連れて行っても、私を盾にさせてくれないならどうしたらいいのっ!?」

 ピンクの肉棒であった時の名残だろうか、人化した姿でくねくねと動くものだから何とも珍妙な踊りに見えてしまう。

 そう、ぶくぶく茶釜はギルド、アインズ・ウール・ゴウンにおいてタンク役を担っていた。当然、ギルドメンバーはその役割を理解していたし、茶釜自身もヘイト管理を行って前線で攻撃に耐え続けてきた。

 しかし、至高の御方々が攻撃に晒される等あってはならないことである、とNPCたちは考えている。つまり、茶釜たち至高の御方々につく護衛はその御身を護る為に同行するのだから、タンク役である茶釜の出番がなくなってしまうのである。

「茶釜さん、思ったんですけど、護衛につく条件として攻撃力の高い敵と遭遇した時は茶釜さんがタンク役としての役割を果たすとしたらいいんじゃないですか? そうでない時は護衛の意思に任せたり、特にアウラとマーレであれば茶釜さんが直接指示を出してもいいと思いますし」

 ふと、頭の中にアウラとマーレに指示を出して戦う茶釜が浮かんだアセナは考えを口にする。できることなら一緒に戦いたいと思う気持ちはあるだろうが、折衷案としてはこれぐらいしか浮かばなかった。

「そっかぁ……。四人が創造したNPCの特性は聞けるけど、他のメンバーの特性は……あ、ユリは知ってるわ」

 じゃあ、ユリからせめてプレアデスの中で相性がいい護衛を見繕ってもらうのもありだなと独り言ちる茶釜を見て胸を撫で下ろすアセナとペロロンチーノ。問題が一つクリアになったところでアセナはペロロンチーノのシャルティア頻繁に連れ出せない問題にも言及することにした。

「ペロちゃんはさ、超遠距離からの狙撃もできるわけだし、原則私たちの誰かと一緒に外に出たら? ペロちゃんも、前衛をNPCに任せることに気を遣ってるでしょ」

「うっ……。最初の内はそうしようかな。暇な時に闘技場で相性良い子を探すとするよ」

 よしよし、とアセナは心の中で頷く。と、《遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)》を覗いていたモモンガが三人を呼んだ。

 朝から、モモンガは周辺に知的生命体はいないかとナザリックの周囲を捜索していた。呼ばれたということは発見があったのだろう。

「これは……祭り、ですかね?」

 鏡に映るのは走る人間。最初の感想として、人間がいたことに安堵する。そして、ピックアップしていた人物に鎧の人物が追いつくと、剣でその体を斬りつけた。

「いや、違いますね。どう見ても襲撃です!?」

「「「なるほど~」」」

 ……ん? と、アセナは違和感を覚えて三人を見る。人が襲われているというのに特に忌避感を持っていないのだ。

「あの、助けに行ったりします?」

「どうしましょうかね? 茶釜さん、ペロロンチーノさん」

 一瞬動揺するが、アセナの「助けに行く」という言葉にセバスが反応を示したことで思い至ることができた。もしかしたら、この状況に抱く感想にカルマ値が関係しているのかもしれないと。アインズ・ウール・ゴウンはロールプレイに振り切った部分もあるギルドだ。そのため、異形種たる自分たちは悪役然としてきた訳だが、ステータスもそれに合わせたものであることが多い。わかりやすいものがカルマ値であり、善悪を数値化したものである。アインズ・ウール・ゴウンのメンバーはNPCも含めてそのほとんどがカルマ値をマイナスに振っているため、この状況を見てもこの様な感想で済んでいるのかもしれない。加えて、異形種という人間から離れた種族であることも関係しているのかもしれない。実際、アセナ自身のカルマ値は『±0』であり、こうして三人の反応に対して違和感を覚えたものの発言を聞けば聞くほど『そういうものか』と流されつつある。

 どうしたものかと考えた時、ふと、過去に自分を助けてくれた人物たちの姿が浮かぶ。その一人であったモモンガへ目を向けると、彼はセバスを見ていた。

「そうですよね、たっち・みーさん」

「……ふふっ」

 かつて自分を助けてくれた人の名前に思わず吹き出してしまう。後は適当な理由を付けるだけだと不思議そうな顔で自分を見るモモンガへ言葉を投げかける。

「助けましょう。こんなことで近場の情報源を失うのは勿体ない」

「そうですね。理由は……そういうことにしましょうか」

 頬の緩んだアセナを見てか、モモンガも色々と察してくれた二人が決めたのなら、茶釜もペロロンチーノも納得してくれるだろうと考えていると、横からペロロンチーノが鏡を覗き込む。

「むむっ!」

 映し出されているのは今まさに騎士風の鎧を身に纏った男たちに追い詰められた少女二人。一人は幼く、もう一人は現実でいうところの高校生ぐらいだろうか。幼い女の子を護る為に身を挺して騎士の前に立ちはだかろうとしている。

「モモンガさん、すぐに《転移門(ゲート)》を! 俺は女の子を護ります!」

「理由はともあれ、行きましょう。護衛の選出はモモンガさんにお任せします」

 戦略や政治的な思考はともかく、戦術的な動きとなればモモンガの方が圧倒的に頼りになる。アセナはモモンガに指示を仰いだ。

「分かりました。アルベドは私とペロロンチーノさんの護衛を、リュコスは人間を学ぶ良い機会だ。アセナさんを護衛せよ」

「「はっ」」

「茶釜さんはすみませんが今回はナザリックで《伝言(メッセージ)》を受け取る連絡係をお願いします。セバスはシャルティアをここへ呼べ。追加の人員が必要な際は私と茶釜さんの指示の下、シャルティアに《転移門(ゲート)》を開かせる」

「畏まりました」

「その間、第一階層から第三階層の侵入者対策はシルヴァに任せよ。第一階層の幻術による迷宮化も許可する」

「はっ、直ちに伝えて参ります」

「まあ、外の事も分からないし、行ったっきりになったら困るものね、分かったわ~。次は最優先でお外に出してね」

「ははっ、分かりましたよ。では、準備はいいですね?」

 モモンガが翳した右手の先に漆黒の円形が空間を割くように現れる。《転移門(ゲート)》だ。この門を潜れば、その先は《遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)》で見ていたあの村なのである。

「先陣はアセナさんとリュコス。それに続いて行きましょう」

「分かりました。では、お先に失礼しますね」

「行ってらっしゃ~い」

 

◆◇◆

 

 眼前に広がるのは先程の光景。

 怯える二人の少女。

 よく見ると、姉妹なのだろうか。姉と思われる少女の肌は血の気が引き、その黒い瞳に涙を浮かべていた。妹の方──幼い少女は顔を姉らしき少女の腰にうずめ、全身を震わせて怯えていた。

 開かれた《転移門(ゲート)》から一歩飛び出し、守るべき対象の様子を見やったアセナはすう、と息を吸うと全体重を掛けた一撃を放つべく重心を低くしてその素早さを以って全身を矢の如く剣を振り上げた騎士に向かって飛び込ませた。

 狙うは剣を持つ手首。対象のレベルが分からない以上、舐めた一撃では自分ごと少女たちの命は両断されるかもしれない。一瞬にして眼前に迫った騎士の手首を、獣化させた右腕の爪で弾き飛ばす。

(これで、腕ごと弾き上げ──)

 一瞬、硬質な鎧の感触を感じるが、アセナの爪は腕を持ち上げることなくそのまま騎士の手首に喰い込んでいく。爪が騎士の骨を断った時点で加減を誤った事に気が付き、騎士の腕の先を見る。力を失った手からは剣が抜け落ちていた。その切っ先は、少女に向かって落ちてゆく。

(ああああ!? こんなに脆いだなんて見当はずれじゃない!)

 両目を見開く少女に、アセナは言葉少なに告げる。

「目を閉じなさい」

 慌てて両目を強く閉じる少女の視界に、これから起こる事が映らない事を確認すると、アセナは空中で体を捻る。

(まあ、悪漢の腕一本ぐらい許されるわよねぇ……)

 吹き飛ばず僅かに残った騎士の手首にぶら下がる形になったアセナは、余った左腕の爪を騎士の右肘に突き立て、下半身を捻る。そのまま、落ちていく剣を左足の踵で茂みの中へと蹴り飛ばした。

「何が……ぎゃあああぁぁぁぁぁっ!!??」

「な、何だ!」

 アセナと少女だけが認識できた数秒に、遅れて騎士二人が反応を示す。

 自分の腕を軸にされた騎士の右肘は捻られたことで吹き飛んでおり、肩もアセナの回転の勢いで外れているようだった。

「騎士が女子供相手に剣を振りかざすだなんて感心しないわね」

 二人の少女の真横に着地し、返り血が掛からないように身につけていたマント──装備可否の確認でそのままだった不用品──を広げ、少女たちを庇う様に立つ。

 右手を刈り取られた騎士は溢れ出る血と痛みを何とかしようと無くなった右手首を抱えるように蹲る様な姿勢をしている。二人の騎士から感じ取れるのか恐怖の色。いち早く、無事で済んだ騎士が我を取り戻す。

「逃げ……」

 後ろを向くが、そこには仲間の騎士が右手からぶちまけている物と同じ深紅が広がる。おずおずと顔を上げるとそれが場違いなドレスを着た女であると知る。

「あら、私も連れて行ってくださいます?」

 女のにこやかな語り掛けに、足を震わせ今度は茂みを目指して走り出す。しかし、恐怖で早鐘を打つこの騎士の鼓動は、そこで止まることとなる。

 どすっ、と音がした。騎士の背に、矢が一本刺さっている。

 一歩、前に出ることができたその体は俯せに倒れ込み、そのまま動くことはなかった。

「──逃げることはない、怯えることはない。せっかく来たんだ、君たち野党紛いの騎士には実験に付き合ってもらうぞ?」

 開かれたままの《転移門(ゲート)》からモモンガとペロロンチーノ、アルベドが姿を見せる。騎士を射抜いたのはペロロンチーノの様だった。モモンガは、二人の騎士の様子を見に来た別の騎士を遠くに認めると、静かに呟く。

「《龍雷(ドラゴン・ライトニング)》」

 龍の如くのたうつ白い稲妻が生じ、遠方の騎士を貫く。僅かに白く輝いたかと思うと、その人影は倒れ伏した。

「ふむ……」

(いや、「ふむ……」じゃないってば、女の子の目の前なんですよー!!)

 稲妻が放たれる直前に少女たちの目を守るつもりで眼前にマントを出して良かった。決定的な瞬間は目撃されていないし、友好的に情報を聞き出すという目的は達成できるだろう。と、思ったアセナの思いとは裏腹にモモンガは次の実験を行う。

 中空に現れる黒い霧。それが、矢で射抜かれた騎士の体に覆いかぶさるように重なった。

(ああああーーーっ!! 何やってんですか、よりにもよって──)

 人間とは思えぬ動きで立ち上がった騎士から、ゴボリという音がし、マント越しに「ひっ」という悲鳴が聞こえてくる。やがて、数秒の後に騎士は死の騎士(デス・ナイト)へと変貌を遂げた。

(ええい、これはもう隠し立てもできないでしょ。……後は上手いこと合わせてもらわないと怒りますからね)

 モモンガやペロロンチーノは死の騎士(デス・ナイト)創造の流れを目の当たりにして息を呑んでいたが、アセナはそれどころではない。マントを少女の前から除ける。

 少女二人は、最早声を上げる事も出来ず目と口を開いている。

「この村を襲っている騎士──」モモンガが指差したのは、右腕が無残な事になっている騎士。「──を殺せ」

「オオァァァアアアアア──!!」

 死の騎士(デス・ナイト)が咆哮を上げ駆け出す。その様を見届けた後、アセナは芝居に入る。

「これで、この村は護られるかと。リュコス、死の騎士(デス・ナイト)の動向を監視しなさい」

「はっ」

 一礼したリュコスは颯爽と死の騎士(デス・ナイト)の後を追う。アセナは少女に下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)を差し出すが、それと同時に周囲にアンモニア臭が漂った。

「……お前たち……」

 漆黒の鎧の下からでも分かるアルベドの殺意。大方、至高の御方々からの賜り物に対し粗相で返すとは何事か、と言う事だろう。しかし、彼女たちの気持ちも分かって欲しい。いきなり村が襲われ、追い詰められたかと思えばその騎士の右腕が吹き飛び、続いて出てきた男がアンデッドを使役したのだ。しかも、その男もアンデッドと言うオチ付きで。私がこの子なら漏らす前に発狂している。と、アセナは感じていた。

「アルベド、構わない。これは傷を癒す薬よ。飲みなさい、貴女たちの身体が心配だから」

 支配者然とした立ち振る舞いを忘れず、慈愛の瞳を娘に向ける。姉と思われる少女は意を決したように一息で飲み干した。

「うそ……」

 自らの身体を確認する少女に微笑みながら少女に問いかける。頃合いだ、死の騎士(デス・ナイト)の件でぶつぶつと呟いていたモモンガの意識もこちらへ向いている。

「痛みはないわね?」

「は、はい……」

 ポカーンとはしているものの、最初の接触はできたと言う事で目でモモンガへの引継ぎを促す。

「我々はここを通りかかった者でな。初めは祭りかと思ったのだが君たちの姿を見てそうではないと判断した」

「あ、ありがとうございます……」

「この子たちは私が守りますので、三人は村の方を」

「うむ、全てが終われば使いをよこす」

 そう言って、去っていく三人の背中を頼もしく思いながら、アセナは少女たちを見る。やっと、自分たちが救われたという実感を得たのだろう、少女たちの瞳には僅かに希望の光が宿っていた。

 その目を見てふと──アセナの中の悪魔(リュコス)が囁き掛ける。

「貴女たちは、私が守るから安心してね。私はアセナ・F・ミゼーア。アセナかミゼーアで良いわ」

「わ、私は──」

 名乗りかけた少女の口元に、アセナは人差し指を立てる。

「お願いがあるの。とても大事な──この村を救った後の為に大切なお願いが」

 

◆◇◆

 

 嗚呼──創造主も人が悪い。人間をこよなく愛し、とめどなく嘲笑い、心底嫌う私に人助けを命令するなど。

「とても、楽しめる話ではないですか」

 咆哮を上げる死の騎士(デス・ナイト)の傍らに立つ深紅のドレスを纏った女。彼女は、救った村の人々の中で身分の高そうな──つまりは村長でありそうな──人物の前に屈む。

「この村を、助けに来ました」

 そう呟いた彼女の顔を、他の村人は見ていない。村長の男性だけが、貌の無い絶世の美女を目の当たりにした。




多少更新頻度の方を優先した方がいいのかなとも思いましたので、お試しのような形になって申し訳ございません。
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