千雨と氷雨の2人は、近右衛門、高畑、エヴァンジェリンと学園長室で会見していた。議題は、超たちについてである。ちなみに茶々丸は、定期点検のために大学部のロボ工研へ出向いていた。と言うよりも、彼女らがこの話し合いを持ったのは、茶々丸が定期点検なのを見計らって行ったのである。
茶々丸には一応エヴァンジェリンから、超一味に対して長谷川3人娘の情報を黙っている様に命じてはある。しかしそれでも、葉加瀬や超からすれば茶々丸の記憶ドライブを覗く事など、
「済まねえな、マクダウェル。絡繰にもハブって済まねえとは思うが、こればっかりはなあ……」
「気にするな。で、超の事だったな。いったいどうしたのだ?」
「それなんだがな。超は火星人だ」
「「「は?」」」
エヴァンジェリンは呆れた様子で言う。
「それは超の奴が良く言う冗談だろう? まさか、お前たちアレを本気で本気にしたのか?」
「……奴があの台詞を言ったその時に、わたしと希雨と氷雨は、『
「「「は?」」」
「超のやつが未来から時間遡行して来たってのは、マクダウェルは知ってるんだろ? つまりその未来では、火星に人類が暮らしてる、って事だな」
氷雨の台詞に、エヴァンジェリンは眉を
「ま、待つんじゃ。超君が未来から時を
「本当なのかい!? ……いや、済まない。だが、あまりに信じがたい事で」
「超のもたらした技術で、葉加瀬は茶々丸の開発に成功している。茶々丸に使われている技術を見れば、あれが現代の技術力ではない事ぐらい理解できるだろう。それとも貴様らまでもが、麻帆良結界の認識阻害で脳をやられでもしたのか?
それに時間移動が可能な存在は、今この部屋に2人もいるし、ここに来ていない残り1人もそうだろうが。更に言えば、今現在では不可能でも、未来ならば時間移動技術が開発されていても、おかしくはあるまい?」
エヴァンジェリンの言葉に、近右衛門と高畑はぐうの音も出ない。そして千雨が言葉を続ける。
「奴の言葉を、他にも『
「「……!!」」
「ほお……。」
「正直わたしたち3人だけでは、どう判断していいものやら。それで御三方の意見をお教え願いたいと思いましてね。ただ、わたしたちも単に手を
千雨の言に続き、氷雨も問いを発した。
「火星に関係して、『世界の破壊』に関わっている様な事態、学園長先生や高畑先生は、ご存じでは無いですか?」
「「……」」
「その顔つきからして、何がしか隠し事がありそうだな。言ってしまえ。楽になるぞ? ククク」
「「……」」
エヴァンジェリンの台詞に、それでも言い淀む近右衛門と高畑だった。だが千雨が
「……ネットで調べた火星の地形と、『
「!! そ、それは……」
「……タカミチ君、言ってしまおう。長谷川君たちは、おそらく個々人が最低でも『
長谷川君たち、伏してお願いする。どうかワシらに力を貸して欲しい。ワシらでは今現在、解決に至る術が欠片なりとも見いだせずにおるのじゃ」
近右衛門は苦し気な声を絞り出す。そして長谷川3人娘に深く深く頭を下げて黙り込んだ。だがやがてゆっくりと顔を上げ、口を開く。その様子は、何処か一気に老け込んだ様にも見える。
「『
問題はの……。その『
「……」
「何!?」
「「……」」
高畑は黙し、エヴァンジェリンは
「かつて遠い昔に、『
そして『
「「「「……」」」」
「じゃが、の。『
正確には分かっておらぬが、おそらくは数十年後には火星の魔力は尽き果てる。そうなれば、『
そして高畑が、説明を代わった。
「今『
彼らの血肉は、全てが魔力で構成されている。魔力が『現実の物質のフリをしている』だけの存在なんだ。けれど彼らにも意志があり、心があり、魂がある。身体が魔力で構成されている以外は、ちゃんと人間なんだ。
だけどもし『
「……その、現実の人間の子孫6,700万人は、どうなりますか?」
「おそらくは、依り代になっている火星の大地に放り出されるだろう。だが生き延びたとしても、相当に……悲惨な……。だから僕らは、なんとかして『
そして、ここでもう1つ問題がある。先ほど学園長が言った、『
「「……」」
千雨と氷雨は黙って聞く。高畑は、淡々と語る。だがその瞳は、強い意志を宿して燃えていた。
「テロ組織『
それはね。『
この『幸せな夢の世界』では、実際にはまったく生命活動が行われない。故に、消費魔力は太陽から火星に降り注ぐ魔力で十二分に
「「「「……」」」」
「そしてエヴァを封じた魔法使い、ナギ・スプリングフィールドをリーダーとするグループ、『
僕も『
「……タカミチ君。いいかね?」
「学園長?」
ここで近右衛門が、再び割って入った。その瞳には、何かしらの決意の色が浮かぶ。だがこの時点では、誰もその決意の深さを窺い知る事はできなかった。そして近右衛門は語りだす。
「ワシもいい加減、覚悟を決めるとしよう。超君という異分子が、未来から時を超えて遡って来たのも、何かの運命なんじゃろうて。超君は今現在、既にその蠢動を始めておる。あちらこちらで資金を集め、あちらこちらに伝手を作り、更にはワシら魔法使いの事に関しても色々と調べまわっておる。
いい加減、潮時なのじゃろうて。ここから語るのは、タカミチ君ですらも知らぬ事じゃ。ワシがワシの責任で、ワシのところで情報その他を止めておった」
「「「「!!」」」」
「メガロメセンブリアという、『
メガロメセンブリアの政府……元老院はのう。メガロ住人6,700万人の、『
近右衛門が語ったその名を聞き、高畑は目を見開き愕然とする。その拳が握りしめられた。あまりの握力に、ぽたりと血が床に垂れ落ちる。
氷雨が溜息を吐いて、高畑に語り掛けた。
「高畑先生、落ち着いてください。……ちょっと手を見せて。あー、あー。爪が
「あ、ああ、済まない氷雨君」
氷雨の魔法で、高畑の
「……高畑先生の、お知り合いですか? そのクルト・ゲーデル議員……」
「……元『
「「「……」」」
しばし沈黙が続く。しかし千雨が不敵な笑みを浮かべ、辛辣に言った。
「何考えてんですかね? 今現在の地球に6,700万人を脱出させる? どうやって?」
「魔法を兵器としての、軍事侵攻じゃな」
「ですよね、馬鹿らしい。それが正義の『
学園長先生、いえ、関東魔法協会理事、近衛近右衛門殿。貴方のスタンスをお聞きしたいのですが」
居住まいを正し、近右衛門は言葉を紡ぐ。その目には、強い意志が伺える。
「ワシはいざとならば、メガロメセンブリアからの離反を考えておる。そして秘密裏に、その準備をしておるところじゃ」
「「「「!!」」」」
「ワシは『
メガロが地球侵攻を企むのであらば、ワシはワシの身勝手な想いにより、全身全霊をもって抗ってみせようぞ! そしてこれは正義ではない! ワシ個人の、自分勝手じゃ!」
近右衛門は、ふっと今までの気の張った様子を解き、柔らかな雰囲気で高畑に語りかける。
「タカミチ君……。君は、好きにするがよい。この事をメガロに、ゲーデル議員に伝えたくば、そうしても構わぬ。何、数年ばかり計画が早まるだけじゃて」
「……学園長。見くびらないでください。学園長が自分勝手でメガロと戦うのなら……。メガロが地球侵攻を企んでいるのなら……。僕もそれを止めるために戦いますよ。僕自身の、自分勝手でね。
やれやれ、これは大変ですね。『
「……ありがとう、タカミチ君」
そしてエヴァンジェリンが、千雨と氷雨に問いかけた。
「貴様らはどうするのだ? ここまで話を聞いておいて、無関係は通らんだろう」
「そっくりそのままマクダウェルに返したいところなんだけどよ。まあそうだな。わたしはせっかく、必死の思いで帰還してきた地球なんだ。それが大惨事になるのは、どうにかしてえな」
「同じくだ。たぶん希雨も同じ事言うと思うぜ? ま、だけどよ。『
「ふむ。ジジイやタカミチはともかく、貴様らには借りがまだあるしな。ちょっとぐらいは付き合ってやろうか」
「「サンキュ」」
千雨も氷雨も、エヴァンジェリン秘蔵の呪文書を写させてもらった事で、貸し借りは終わったと考えてはいた。だがせっかくの厚意を無駄にするのも悪い。この場は素直に、礼を言って置く。
そしてエヴァンジェリンが言った。
「ただしジジイ! 手伝ってやるから、学校運営はきちんとやるのだぞ! 最低でもあと3年、きっちりと! そうでなくば、わたしの呪いが解けんからな!」
「まあ、それは当然じゃ。きちんとやるとも。まずはもうちょっと先にある、学園祭かのう?」
まあ、呪いが正常化されて放課後や休日に麻帆良の外へ出られる様になり、修学旅行へも出かけられるとなっても、最低限次回の卒業式を迎えぬ限りは、エヴァンジェリンは解放されない。その場の一同は苦笑を浮かべる。
近右衛門が、打って変わって明るい声で言った。
「さて、では話を戻して、超君をどうするか相談せねばならぬのう!」
「そうですね。たぶん間違いなく、彼女は『
「そうですね。それと現状の超が立てている計画も、聞き出せればいいんですがね。可能ならば、超にわたしらが協力するんじゃなく、超の側がわたしらに協力する形で。……超のやつは、頭いい癖にちょっとなんと言うか……」
「頭のいいバカ的な?」
「言いえて妙だな」
そしてその場の面々は、超に対してどの様な対処を行うか、色々と意見を出し合い話し合ったのだった。
*
千雨と氷雨が自宅に戻ったのは、既に日が暮れた頃だった。流石に今から千雨が料理を作るのも何なので、邸宅の研究室で作業をしていた希雨が今晩の料理を作っている。彼女らは晩飯を食べながら、本日の情報交換を行った。
「……ってわけで、『
「うわー。そりゃ酷え状況だな。そっか、火星の魔力欠乏によって、『
希雨が呆れたように言う。千雨と氷雨も頷いた。希雨は続けて言葉を紡いだ。
「ま、わたしも地球を護る事にゃ、文句は無えよ。なんなら、保有する宇宙船群を投入するぞ。レーザー水爆とか
「まて待てマテ」
「なんか戦略兵器クラスの奴を戦術兵器として使う恥知らずが、ここに居た」
「いや、核爆発魔法をずんどこ気軽に使える奴に言われたか無えよ」
希雨は大きく溜息を吐く。
「ふう……。でも、そうすると『
「「……何?」」
「ん? 何が?」
千雨と氷雨の表情が強張る。近右衛門と高畑は、『おそらく』という枕詞付きではあったが、タイムリミットまで数十年程度と見ていたのだ。千雨と氷雨も、その言葉を今この瞬間まで信じていたのである。
「希雨、火星の残留魔力は、太陽から降り注いで増える分まで考慮に入れても、それしか保たないんだな?」
「あ、ああ、間違いない。火星圏に送り込んだ無人宇宙船が、探査機を大量に火星にばら撒いたんだ。その結果からシミュレートして、割り出した値だ。誤差は目一杯大きく見積もって、プラスマイナス100日程度だ。」
「ち、その資料を全部プリントアウトしてくれ! 今から学園長のところへ行って来よう! 氷雨はアポの電話を!」
「わかった!」
彼女たちは、晩飯も半ばで学園長室へと取って返す。そして幸いにも高畑とエヴァンジェリンがまだ帰宅していなかった事もあり、彼女らはこの情報を共有する事が出来た。しかし一同の表情は暗い。あまりにも、予想以上に、そして無慈悲にも、残り時間は短かったのである。
というわけで、近右衛門はメガロメセンブリアから、なんとかして地球を護ろうと考えてます。無論『
……もしかしてわたし、近右衛門のこと気に入っているのだろうか(笑)。