千雨Cubed   作:雑草弁士

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011話・超鈴音は不運か幸運か

 その日の始業前、長谷川3人娘は近衛学園長、エヴァンジェリン、高畑らと連れ立って、噂の超一味の路面電車を改造した中華点心屋台『超包子』へと朝飯を食いに来ていた。この学園祭準備期間中に出店される屋台は、超が立ち上げた肉まんのブランド『超包子』の宣伝と、更なる儲けを期して開いたものである。

 

「これは旨いのう。いや、これで酒があればの」

 

「馬鹿者。ジジイ、今は始業前の朝飯だ」

 

「はっはっは」

 

「いや、マジな話美味い。と言うか、驚くべきはこの料理のレベルで、客に出すのに味のバラツキとか無しに、一定の品質をきちんと保ってる事だ。わたしなら出来なくもないが……」

 

「さすが四葉を抱き込んだだけの事はあるな」

 

「うーん、わたしだと作業工程の機械化とか、つい考えちまうんだが。それは無粋ってもんだな」

 

 一同は供された点心に、舌鼓を打つ。そこへ茶々丸が、追加の蒸篭(セイロ)を運んできた。

 

「追加の肉焼売です」

 

「おお、ありがとう茶々丸君。いや、とても旨いわい。調理担当は、四葉君と超君じゃったかな? 物凄く凄い、と伝えてくれい。できれば直接労いたいところじゃが、今は忙しいじゃろうしのう」

 

「ありがとうございます。超も喜ぶでしょう」

 

「それでじゃの。超君に、近いうちに腹を割って話がしたいと伝言を頼みたいんじゃが。何せ、残り時間はあと11年と半年しか無い事じゃしのう。火星の『裏』の話じゃと言えば、わかってもらえると思うんじゃが」

 

 茶々丸は意味が分からなかった様だが、超と近右衛門の間で通じるなんらかの符丁だと思ったようで、頷く。

 

「わかりました。超に伝えておきます」

 

「頼むわい。可能な限り、急いで欲しい。その際には、今ここに居る面々も共に、と。……ほ!? ワシの分の焼売はどうなった!?」

 

「なんだ、食わんからいらんのかと思ったぞ」

 

「それはないじゃろうエヴァ! とほほ、茶々丸君。済まぬがもう1度、焼売の追加を頼む」

 

 情けなさそうな近右衛門に、その場の面々は一斉に笑った。

 

 

 

 

 

 

 ちなみに近右衛門からの伝言を聞いた超鈴音の顔が、盛大に引き攣ったのは言うまでも無い。

 

 

 

 

 

 

 もうあと数日で麻帆良学園全体、全学園合同での学園祭である『麻帆良祭』が始まる。麻帆良学園本校女子中等部1-Aのクラスでは、『麻帆良祭』の出し物としてカレースタンドを出店する事になっていた。カレーの辛さは甘口の0番から激辛の10番まで用意し、お客に選んでもらう形式である。

 ちなみにカレー粉は、千雨が大量にかつ丁寧に調合して、しばらく前からじっくり熟成させてある。当然ながら彼女及び希雨、氷雨は調理担当専任だ。3人で手分けをし、3交代で調理場を取り仕切る事になっている。他にも近右衛門の孫娘である近衛木乃香、ちょっと中学生には見えない那波千鶴などのお料理上手が幾人か居るので、調理担当の面々は万全であった。

 まあ、お料理研究会や『超包子』などで四葉五月や超鈴音の手が放せないのは、戦力的に残念ではあったが。だがまあ、それはどうにかなる範疇だ。

 

「問題はだな」

 

 千雨が語る。それはもう、苛立たし気に。

 

「店舗設営が」

 

 希雨も呟く。それはもう、不機嫌そうに。

 

「中々進まない事だ」

 

 氷雨が締めくくる。それはもう、蟀谷(こめかみ)に血管を浮かべて。

 

「「「「「「ご、ごめんよー!」」」」」」

 

 長谷川3人娘の(かも)し出す不機嫌さに、調理班以外の面々がひたすらに土下座をする。いや、調理班連中は誠心誠意一生懸命にディスカッションを繰り返し、カレースタンドで出すカレーの種類や盛り付け、その他サラダやデザート類などのサイドメニューについても丁寧に真剣に検討していた。それは問題無いのだ。

 だが調理以外の担当者、店舗設営を担当する班の連中が、なんというか能天気にふざけてキャイキャイ騒ぎまくり、学年主任の新田先生に怒られるまで遊んでいる状態だったのだ。しかもその後、遊んでいた連中は当然の如く正座をさせられ、更に時間を無駄にした。

 千雨は右手で蟀谷(こめかみ)を押さえつつ、溜息混じりに言う。

 

「はぁ……。はしゃぐのが完全に悪い事だとは言わねえよ? だけど、やるべき事は、ちゃんとやりやがれ。店舗の図面出来てんのか?」

 

「は、はいコレ……」

 

「……再提出(リテーク)だ、馬鹿者」

 

「「「「「「ええーっ!?」」」」」」

 

 図面を千雨から受け取った希雨も、それを見て溜息を洩らした。

 

「ふう……。まずはここのレジの配置。見たところ、目新しさを狙ったんだろうが。客の動線を邪魔するような場所に置いて、どうすんよ? そしてテーブル配置も。凝った物にしたいのは、わからんでもない。けどな? ここの狭さ。ウェイトレスが料理持って通るんだぜ? ぶつかったりしたら、どうすんだ。

 それに席数も、いっぺんに収容できる客数を多くしたかったんだろうが、ごちゃごちゃしててダメ。さっきも言ったが、ウェイトレスや客同士がぶつかったらどうする。それに客に圧迫感感じさせたら、負けだ。思い切って、席数は減らせ。その方が客捌きも楽になって、接客への負担も減る」

 

「「「「「「あうう……」」」」」」

 

「あー、希雨。調理の方はとりあえず大丈夫そうだから、店舗の方を手伝ってやってくれよ。こっちはわたしたちで、何とかしておくから」

 

「そうするか。頼んだ、氷雨。さて、店舗の設計を大車輪で仕上げるぞ。そしたら必要な資材を見繕って、大急ぎで買い出しに出るからな。麻帆良のホームセンター閉まる前に、大至急だ。……返事は?」

 

 希雨のキツい視線に、周囲の連中は必死で応える。

 

「「「「「「りょ、了解!」」」」」」

 

「よぉーし」

 

 希雨に率いられて、店舗設営の連中は教室の片隅へと移動する。それを見遣りつつ肩を竦める千雨と氷雨に、1-Aのいいんちょである雪広あやかが謝って来た。いいんちょは、クラス委員長であるが故にクラスの出し物に関する総指揮を取っていたのだが、その役割を自身が充分に果たせていない事に不甲斐無さを感じていたのである。

 

「千雨さん、氷雨さん、申し訳ありません。希雨さんにも、ご迷惑を……。本当であれば、わたくしが言わねばならない事でしたのに……」

 

「……まあ気にすんな。お前さんは、良くやってるよ」

 

「この能天気なクラスをまとめんのは、大変だからな」

 

「ううっ、すみません」

 

 そして千雨は、いいんちょにちょっとしたアドバイスを送る。

 

「……こう言う時は、味方になる人材を上手く使う事を覚えた方がいいぞ? たとえば神楽坂だ」

 

「ええっ!? あの騒ぐ筆頭のおサルさんを!?」

 

「そうだ」

 

 千雨の視線は、今しがた話題に上らせた、神楽坂明日菜へと向けられる。いいんちょの視線も、また。服飾班に配属された明日菜はウェイトレスの衣装決めで、奇抜な衣装を推す連中に必死に突っ込みを入れている。

 

「神楽坂は確かに元気が良すぎて、秩序や規律を重んじるお前さんとは、あんまりソリが合わんかも知れん。けどよ、だからと言って良識が無いわけじゃ無いのは、一歩下がって見ればわかるだろ? 今も無茶な衣装には、文句を言ってるしよ」

 

「ま、まあ、そうですわ、ね」

 

「理で押すお前さんと、情の面で押す神楽坂が協力して統一意見を言えば、それに反論っつうか、それでも無茶な事を言える奴はそうは出て来ねえだろ。それにお前さん、良い意味でのライバル意識は抱いてても、敵愾心があるわけじゃ無えだろ? とりあえず、神楽坂が押し切られて変な衣装が可決される前に、ちょっと行って来た方が良くねえか?」

 

「そ、そ、そうですわね。少し行ってきますわね」

 

 そしていいんちょは、明日菜に協力して変な衣装を阻止するべく、そちらへと歩いて行く。氷雨が苦笑交じりに言葉を漏らした。

 

「やれやれ、世話が焼ける」

 

「ま、これでどうにかなれば……。神楽坂、か……」

 

「……」

 

 神楽坂明日菜は、実は彼女の本名ではない。彼女の真の名は、アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシアと言う。彼女は本当は、『魔法世界(ムンドゥス・マギクス)』の今は無きウェスペルタティア王国の王族であり、強力な魔法無効化能力を持つ『黄昏の姫巫女』であった。その事を、千雨、希雨、氷雨は近右衛門や高畑から聞かされている。

 それが何故、日本の女子中学生などをやっているのかと言うと、ちょっとばかり複雑な理由がある。故国にて人間兵器として扱われていた彼女を、例のナギ・スプリングフィールド率いる『紅き翼(アラルブラ)』が救出。その後に紆余曲折あって、高畑や近右衛門の手により過去の記憶を消して、『現実世界(ムンドゥス・ウェトゥス)』の麻帆良学園に小学生の頃に、転校と言う形でやって来たのだ。

 

「……さて。サイドメニューの試作、続きに入るか」

 

「ああ……」

 

 千雨は自らの両頬を、両手で挟み込む様に叩いて、気合を入れる。氷雨もまた、明日菜から目を逸らして踵を返した。

 

 

 

 

 

 

 超鈴音は、学園長室の前でその扉を睨みつける。だがその表情は、不敵な微笑を浮かべていた。こうして学園側から接触を取って来ると言う事態は、彼女にとって幾つかの想定の内に、確かに存在した。

 

(想定外の要素ト言うならバ……。長谷川さん『たち』の事だけネ。茶々丸によれば、ワタシと話したいと学園長が言っタ時に、長谷川さん『3人』も一緒に居たそうヨ。ツマリ、この扉の向こうにハ、長谷川さん『たち』も居る可能性が高いネ)

 

「ちゃ、超さん……。大丈夫なんでしょうか、学園長に呼び出されるなんて……」

 

「大丈夫ヨ、葉加瀬。こうなれバ、学園上層部連中もワタシの計画に巻き込んでしまうしか無いヨ。難易度は確かに上がたケド、成功した時のリターンは極めて大きいネ」

 

 超の脇に立っている葉加瀬聡美は、流石におどおどしていた。しかし超が文字通り超然とした態度を崩していないがためもあり、逃げだしはしていない。逃げ出したかったのは山々ではあるのだが。

 

 そして超はドアをノックする。

 

『誰かの?』

 

「超鈴音ですヨ。葉加瀬聡美もいますネ。お約束の時間になたので、来ましたヨ」

 

『おお、待っておったよ。入ってくれい』

 

 学園長の声に従い、超と葉加瀬はドアを開けて室内に入る。そして彼女らは、大歓声で迎えられた。

 

「「「「「「おお!! よく来た!!」」」」」」

 

「「ハ?」」

 

「超! 葉加瀬! 早速だけど、この図面見てくれ!」

 

 千雨が叫ぶように言う。いや、言葉を発しただけでなく、強引に引っ張って机上の図面のところまで無理矢理に連れて行く。と言うか、学園長室の中には何故か会議机が運び込まれ、その上には何枚もの図面が広げられていた。その周囲にはこの場の全員、長谷川3人娘の他、近右衛門、高畑、エヴァンジェリン、茶々丸が立っている。

 

「ちょ、何がどうしたネ! いったい……」

 

「ちゃ、超さん! この図面は!」

 

「葉加瀬!? ……これハ!!」

 

 葉加瀬は図面を見て硬直し、超自身も愕然とする。氷雨が重々しく、言葉を発した。

 

「わたしらは、これまで幾つかの『魔法世界(ムンドゥス・マギクス)』救済プランを考えてみた。それについての意見を聞きたくてな」

 

「ムゥッ!?」

 

「お前の前にあるのが、まず第1案。火星の静止軌道上に核融合炉での大規模発電ステーション作って、軌道エレベーターで地上に送電。その電力を魔力に変換して、火星の大地に送り込む方法だ。この場合、専用の宇宙船作って木星から燃料運ばないといけねえが。

 電力を魔力に変換するのは、麻帆良結界を電力で運用している事例から得られたデータや、あとは『わたし』の知識内にもその類の手法が多々ある。第1案を採用するんなら、その知識とか提供するつもりだけどな」

 

「第2案は、これもまた別のエネルギーを魔力に変換しようって案だから、第1案の変形とも言えるな。だがこいつは『魔法世界(ムンドゥス・マギクス)』の内部に『魔法世界(ムンドゥス・マギクス)の物質』で『転換炉』を造る事で、直接に魔力そのものを生成し、『魔法世界(ムンドゥス・マギクス)』自体に注ぎ込む手法だ。

 効率自体は直接的な分、圧倒的にいいんだが……。実際の『炉』の設置とか、あっちの世界の政治とかが絡んで来る分、厄介でなあ……」

 

 千雨が不味い物でも食べたかの様な表情で言う。そして希雨が第3案を披露した。

 

「第3案なんだが。これは火星を地球化(テラフォーミング)して、火星に根を張った生命体自身に魔力を生み出させよう、って発想だ。ただ、11年と半年しか時間が無い事考えるとな。地球化(テラフォーミング)の手段は限られる。一番お勧めなのが、ジェネシス魚雷をブチ込む事だな」

 

「じ、ジェネシス魚雷て何カネ!?」

 

「ん? 簡単に言うと、インスタント地球化(テラフォーミング)爆弾だ。これをブチ込むと、ブチ込まれた惑星は亜原子粒子レベルにまで分解された後、プログラムに従って再構成され、元々の物質構成とは関わりなく、人類居住に適した環境に作り変えられる。

 ただなあ……。人道上の問題とかあってな。これを人類居住惑星にブチ込んだりしたら……。惑星破壊兵器としてこの上無いシロモノなんだよな。惑星上の人類を綺麗さっぱり粉砕したあげく、ブチ込んだ側に都合のいい惑星に作り変えちまうから。そんなわけで、これを開発した学者とかは色々とあってアレな事になってなあ。

 だもんで、今現在ジェネシス魚雷は実機の図面や理論の論文こそあるが、現物は無いんだ。使うとしたら、実機製作とプログラミングしないといかんな」

 

 目の前に提示された3つの『魔法世界(ムンドゥス・マギクス)』救済案を見つめ、超は硬直する。だが数秒後、彼女は再起動して問いを放った。

 

「……知っているんダロウ? メガロメセンブリアの『旧世界(ムンドゥス・ウェトゥス)への脱出作戦』……ツマリ『地球侵攻作戦』には、どう対処するネ? これラの計画を実施していル最中に侵攻が開始されたラ……」

 

「ん、学園長は麻帆良ごとメガロメセンブリアの支配下から離反して、地球の魔法使いたちから同志を募り戦いを挑むつもりだったみたいだけどな。ちょっと総力的に勝ち目は無さそうなんで、別の案を提示してる。

 ちょっとした魔法装置を氷雨が設計したんだ。『現実世界(ムンドゥス・ウェトゥス)』と『魔法世界(ムンドゥス・マギクス)』の間の転移が不可能になるようなやつ。元々2つの世界間の転移自体が大変なんだから、ちょっと時空の位相をいじる事で転移を封じるのは容易。それでも軍勢を無理に転移させようってんなら、次元の狭間で行方不明になってもらおう。そんなのまで、知らん。

 それ使って、『魔法世界(ムンドゥス・マギクス)』が安定するまで2つの世界を遮断する」

 

「ナルホド……。2つの世界間の繋がりそれ自体を断つのカ。……次の懸念は、実際ニ必要となる工期だたガ。おそらくハ、3案のどの計画案でも11年ト半年後のタイムリミットまでには工期は間に合うンだろうネ。

 となると残る懸念ハ……」

 

 そして超は、一拍置いて言葉を続ける。

 

「アチラの世界……。『魔法世界(ムンドゥス・マギクス)』ヲ安定させるにハ、必要な物ガ有る……。必要な『者』が……ネ。元々『魔法世界(ムンドゥス・マギクス)』は不安定な人造の世界ヨ。しかも壊れかけてるネ。単に魔力足したダケでは、土台からグラついてる建物は崩れルだけヨ」

 

「……なるほどな。となると、柱が……。というよりも、お前の言い方だと『人柱』が必要なわけか」

 

 千雨の言葉に、超は頷く。

 

「必要なのハ、アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシア……。分かり易く言えバ、神楽坂明日菜さんネ」

 

「「「「「「!!」」」」」」

 

「『魔法世界(ムンドゥス・マギクス)』を救うためにハ、明日菜さんヲ、『黄昏の姫巫女』ヲ! おおよそ100年間の眠りにつかせて、ソレを人柱とせねばならないネ! さなくバ、結局のところ『魔法世界(ムンドゥス・マギクス)』はグズグズに崩れ去って崩壊してしまうンだヨ!」

 

 超の声は、楽し気に聞こえた。いや、その表情もまた楽し気だ。口元は笑みの形に歪んでいる。

 

 ……だがその瞳は欠片も笑っていない。それどころか、何がしかの怒りを湛えていたのだった。




 超鈴音、巻き込むつもりが巻き込まれてます。本当に、不幸なのかそれとも幸運なのか。
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