「ズィー・ダル・ギル・ダル・マル・ゾーラ。
氷雨の呪文詠唱により、凄まじいまでの熱線が放射され、爆炎が月面を模した広大きわまりない亜空間結界の中に燃え盛る。この亜空間結界は、長谷川3人娘が魔法やその他の異能、または新兵器などを
ちなみにエヴァンジェリンの『
「おおー、やったなあ。流石氷雨、魔法が専門だけはあるぜ。凄え迫力だ」
「魔法の専門家としては、
まあ『
ついでに言えば、『
「むむむ、わたしは魔法は補助的にしか使ってないからなあ。最大呪文では簡単な方の『
やはりそうなると、わたしが専門の科学技術で補うしかねえな。そうだな、なんか『ちきゅうはかいばくだん』的なのでも造るか」
「「作るな!!」」
「冗談だ、冗談」
千雨と氷雨は希雨の笑えない冗談に、思い切り突っ込む。希雨は笑っていなした。まあ冗談だと言うのは千雨、氷雨も理解している。希雨は、自身の科学技術は『人』のためにあると公言しているし、他の2人はそれをちゃんと信じているのだ。
*
長谷川3人娘は亜空間結界から出て朝食を食べる。実はあの騒ぎは、朝食前の軽いトレーニングであったのだ。と言うか、そのトレーニング中になんとなく調子が良かったため、『
朝食後に彼女らは、とりあえず二手に分かれた。今日は『麻帆良祭』2日目であり、その午前中は氷雨が1-Aの出店であるカレースタンドの料理長をやらねばならない。そのため氷雨は急ぎ1-A教室へ赴き、残る千雨と希雨はのんびりと学園祭を見て回る事にしたのだ。
ちなみに希雨の衣装は昨日と同じ物だったが、千雨は少々悩んだ後で若干SFじみた感じを受ける軍服の様な衣服を身に着けていた。希雨はそんな千雨に問いかける。
「どっか行きたいところ、あるか?」
「んー、ぼーっと見てまわりてえな」
「了解」
2人はそれこそ本気で、ぼーーーっと『麻帆良祭』を見て回った。一歩ばかり引いた位置からゆっくりと、『麻帆良祭』を楽しむ人々を眺め遣る。なんとなく、年寄くさかった。千雨は念話でぼやく。
(……あー。しくったかな?)
(何がだ、千雨?)
(いや、イベントに参加もせずにこうやって、ぼけーーーっと人々を眺めてるのって、なんとはなしに婆さん臭くね? 地球に戻って来る前に人格を調整して、12歳ぐらいの『わたし』に近い状態にしてきたんだけどなあ。化けの皮、剥がれて来たかな?)
(……うーん。いや、そんなことも無くね? 遠い記憶を呼び戻してみてもよ。『わたし』はけっこう老成して、可愛げの無いガキだった気が。大勢の中に入り込むのも、上手くできてねえボッチだった様な思い出、が、く、げ……。い、色々思い出しちまった)
(おうふ……)
2人は、唐突に精神ダメージを負う。いきなり路上で2人の少女がドンヨリと顔に縦線を浮かべ、落ち込んでいるのを見た周囲の人々は、そのあまりのドンヨリ具合に心配するよりも引いてしまった。
そこへ元気いっぱいの声が掛かる。
「オオ! 千雨に希雨アルね! 中武研、見に来たアルか!?」
「あ……。古か。いや、ただ単に歩きながら、ぼーっと見物してただけなんだが」
「そっか、この辺は中武研のエリアだったか」
声を掛けて来たのは、中国からの留学生である
古は楽し気に語る。
「もし良かったら、一勝負どうアルか? いや、前々から千雨、希雨、氷雨の3人には目をつけてたアルよ。今は氷雨いないけど、3人は動きの芯にブレが無いアル。なかなかの実力と見てたアルね」
「あー、わたしたちはあんまり目立ちたくねえんだ。それに、わたしは午後から、希雨は明日に、クラスでのカレースタンド調理担当が入ってる。それに、何かあったら即座にヘルプに入らなきゃいかんしな。万が一にも怪我するわけにゃ、いかねえんだよ」
「あー、そうだったアルね……」
残念そうになる古菲に、苦笑を交えて希雨が言う。
「見物人いない場所でなら、後日なら相手してもいいからよ」
「ああ、わたしも構わねえぜ。希雨と同じ条件でな」
「そうアルか! 約束アルよ!」
2人は手を振って、古菲と別れる。しばし歩いた後で希雨が念話で呟き、千雨も念話で応えた。
(古の奴、案外あっさり引き下がったな)
(まあ、奴はクラスの連中の中でもそこまで非常識じゃないしな、性格面では。実力は、『表』の一般人の中では桁が外れて高いけどよ。って言うか、『裏』でかなりの実力を持つ龍宮や桜咲に、敗北したとは言えどもある程度食い下がれる『表』の存在って、何だろうな)
(それを言うなら長瀬もだろ。まあ、あいつはニンジャだから『裏』連中に立ち位置は近いが、アレは並の魔法関係者だったら圧倒して勝つぞ)
(素手で首を切り落とさないだけマシだと思っておこう)
(奴だったら、出来るけどやってない、って言う方が正しい気がするな)
(わたしは出来るけど、やってないぞ)
彼女たちは一見無言で、しかし裏ではとりとめのないお喋りをしつつ、『麻帆良祭』を眺めながら歩いて行った。
*
翌日『麻帆良祭』3日目である。学園祭のクライマックスという事で、『学園全体宝探し』というイベントが行われていた。準備委員会が学園のあちこちに『お宝』を隠し、それを制限時間内に見つけた者が、『お宝』の価値に従った賞金や賞品……学内の参加者であれば基本は麻帆良学園内で通用する食券であり、学外参加者の場合は主に高額の景品を賞品として貰える事になっている。
そんな中、千雨、希雨、氷雨の3人は、1-A教室で最後までカレースタンドの担当をやっていた。本来この時間の料理長担当は氷雨であったのだが、他の2人はクライマックスイベントに出たいと言うクラスメートの代理として、調理や接客にあたっていたのである。
「ふう、流石にお客も少なくなってきたな」
「でも、居ないわけじゃねえ。クライマックスイベントに参加しないお客も、けっこう多いんだ。気を抜くな」
「ああ、わかってる」
千雨と希雨は、ウェイトレス姿で客の注文を取り、カレーを始めとした料理を客の元に運ぶ作業を繰り返す。と、本来この時間の調理担当の一員である近衛木乃香が、料理の受け渡し口から千雨に話し掛けて来た。
「ごくろうさんやな、千雨ちゃん。でもほんまに良かったの? クライマックスイベント、参加せえへんで」
「ああ、うん。商品や賞金に、あんま興味持てなかったんでなあ。参加したい連中が居るなら、代わってやる事もやぶさかじゃねえ。あと、せっかく食べに来てくれるお客さんの事考えるとな」
そして千雨は、料理の受け渡し口から調理場の奥を、こっそりと見遣る。そこでは桜咲刹那が、真剣な顔つきでひたすら野菜の皮むきと下茹でを繰り返していた。
「3番席、激辛10番のビーフ野菜カレー、上がったぞ」
「おう。了解」
千雨は氷雨からカレーを受け取る。その際に彼女らは、アイコンタクトと念話を交わした。
(こちら氷雨ですが、調理場の雰囲気が最悪です)
(近衛と桜咲が、一緒の組み合わせだもんなあ。昨日の午前中も大変だったんじゃね?)
(ああ。近衛がなんとかコミュニケーション取ろうとして、桜咲がそっぽ向く。ちょっとなあ)
(だからと言って、桜咲と近衛を別班に離すわけにもなあ。近衛と距離を取ろうとしてるくせに、近衛の護衛として、物理的距離を取る事は意固地になって拒否する。……んじゃ、カレー持ってくぞ)
(ああ)
そして千雨は意識的に笑顔を浮かべて、カレーをお客のもとに運んだ。近いうちに、刹那の事をどうにかせねばなるまい、と考えながら。
ちなみに3番の客席で、10番の激辛カレーを頼んだ客は、口から火を吹いていたりする。それでも食べるのをやめられない旨さは、地獄か極楽か。素直に4~5番カレー程度を頼めば良かったのだが。
*
学園祭は後夜祭の様子を眺めながら、千雨、希雨、氷雨は軽食とジュースをつまみながら、のんびりとしていた。そこへエヴァンジェリンが茶々丸を連れてやって来る。
「なんだ、貴様ら。あっちへ行って、クラスの連中どもに交じらんでいいのか?」
「んー、いくらガキの頃の人格に近づけてもなあ……。やっぱり、まあ、な? ちょっとあの元気に付いて行くには、歳を食い過ぎた感がある」
「そうなんだよなあ。性格の調整、甘かったかな?」
「そうだな。元々の『わたし』の性格に近づけたのも失敗だったかも知れんな。もう少し、お祭り好きに調整すべきだったかも」
「やめろ。お祭り好きな超越者など、トンデモ無い」
酢を飲んだような顔つきで宣うエヴァンジェリンに、3人娘は笑う。そこへ長瀬楓がやって来た。彼女は問いかけを発する。
「4人とも、どうしたでござるか? せっかくの後夜祭だと言うのに」
「あー、なんか本番のカレースタンドで頑張り過ぎたのがあってな。ちょこっと疲れちまったんだ」
「なるほど。なれど、学園祭の催し物で流石にトップとはいかなかったでござるが、麻帆中で3位という好成績で入賞した立役者のお主らがおらんでは、盛り上がりに欠けるでござるよ」
「……ふ、その通りだな。貴様ら、あと少しだけ頑張ってあのバカ騒ぎに付き合って来い」
ニヤニヤ笑いを浮かべ、エヴァンジェリンが言う。だが氷雨もまた、ニヤリと笑うと反撃をする。
「何言ってやがる。大人気だったウェイトレスの制服作ったのは、マクダウェルの力があってこそだったじゃねえかよ。さ、お前も行くぞ?」
「な! ちょ、まて放さんか!」
そして長谷川3人娘とエヴァンジェリンは、楓と共にクラスメートのところへ歩み出した。クラスメートたちは歓声で迎える。3人娘は、思念で語り合った。
(……悪かねえな)
(ああ、ほんと悪かねえよ。たとえ一時の事だとしてもよ)
(ふ、それを承知で帰って来たんだろうが。お前らも、わたしもな)
彼女らは楽し気に笑う。本当に楽しそうに。そして
(((ああ、この美しい記憶があれば、また幾星霜の年月を頑張れる……)))
そして彼女たちは、クラスメートたちが
*
学園祭の翌日である。今日と明日は学園祭の振り替え休日と言う事で、麻帆良学園本校女子中等部は休日であった。いや、他の学校も全部が全部、休日なのであるが。
この日、学園長室には近右衛門、高畑、エヴァンジェリン、茶々丸、超、葉加瀬、そして千雨、希雨、氷雨が集まっていた。一同を前に、3人娘を代表して千雨が口を開く。
「……今まで検討を重ねて来ましたが、わたしたち3人は、やはり実際に計画を遂行する前に、ジェネシス魚雷関係の実験が必要だとの見解に達しました」
「やはりぶっつけ本番は、まずいじゃろうのう」
「ええ、学園長先生……。まずは夏休みを使って、通常型のジェネシス魚雷を使った第一次実験と、第二次と第三次の実験準備を。第一次実験のデータを元に、冬休みを使って第二次実験を、春休みに第三次実験を行う予定です。
第一次は、通常型ジェネシス魚雷による実験ですが、第二次と第三次は火星の様に『異界を持つ惑星に対して使用する目的の』特殊タイプのジェネシス魚雷改を用いる実験になりますね」
超が難しい顔で、千雨に問う。
「タイムスケジュールは分かたヨ。ケド、実際の話だが実験は何処でやるネ?」
「それなんだが……」
千雨は希雨、氷雨と頷き合うと、
「太陽系の外、別の恒星を公転してる、系外惑星を実験台に使おうと思っている」
「「「「「な、なんと!!」」」」」
うーん、難しい。超越者の悲哀って、どう書いて良いやら。