千雨Cubed   作:雑草弁士

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015話・護衛って

 1学期末試験を目前にしたこの日、氷雨は悩んでいた。何と言うか、近衛木乃香が桜咲刹那に『試験勉強を一緒にせえへんか?』と誘い、『申し訳ありませんが……』とにべも無く断られたところを目撃したのである。木乃香は素っ気なく立ち去る刹那の後姿を視線で追い、そしてそれが曲がり角の影に消えるのを見届けてがっくりと落ち込んでしまう。

 氷雨はちょっと行って慰めようかと思ったが、それより先に神楽坂明日菜がやって来て木乃香に声をかけた。すると木乃香は明るい顔で明日菜に応える。しかし氷雨の伊達眼鏡は超級の魔道具(マジックアイテム)だ。ぶっちゃけた話、アーティファクト級である。それによって『()』る事ができた木乃香のオーラには、悲しみと苦しみの色が強く出ていた。

 

(……ってわけなんだが。あの桜咲の奴、どうしたもんか。素っ気なく近衛の誘いを拒絶したくせして、曲がり角の向こうでこっそり近衛の様子を(うかが)ってやがるんだ。奴のオーラも、何と言うか苦し気な色が出ててな)

 

(オーラから感情が読み取れるっつーのも、良し悪しだな。まあ、桜咲が苦し気なのは自業自得として、近衛はなんとかしてやりてえな)

 

(うーん、ちょっと学園長先生に聞いて情報収集するかね。前にちょこっと聞いたら、関西呪術協会の長が一人娘である近衛に付けた護衛だって話だったが。細かい話をきちんと聞いて、対策取った方がいいかも知れん)

 

 氷雨が念話で相談すると、希雨と千雨もこの問題には思うところがある模様だった。まあ彼女らからすれば、親切心だけでは無いのだが。この3人とも基本的に、わざわざ異世界から帰って来たのに、その故郷(ふるさと)の居心地が悪いのは勘弁して欲しい、と思っている。可能であれば、せめて自分たちの周囲は心安らぐ場所であって欲しいのだ。

 

 まあ、そうは言っても結局は親切心が無いわけでもないし、彼女らがお人よしの部類に入る事は間違いないのだが。

 

 

 

 

 

 

 そんなわけで長谷川3人娘は今現在、学園長室へと来ていた。近右衛門は快く彼女たちを迎え入れる。

 

「ほっほっほ。今日はよく来たのう。で、今日はいったい何かね? もしやジェネシス魚雷とやらの製造に問題でも出たのかね?」

 

「ああ、いえ。そっちはガワ(ハードウェア)だけは完璧です。後のプログラミングは、期末試験終わってからと言う事で、一時ストップしてますので」

 

「今日お伺いしたのは、別件なんです。この件は、高畑先生よりも学園長先生の方が良さそうだと思ったので」

 

「む? 何かクラスで問題でもあったのかの?」

 

「実は……」

 

 千雨、希雨、氷雨は、刹那と木乃香の関係がぎくしゃくしている事を伝える。そしてそれをどうにかするために、彼女たちの裏事情を知りたいと思っている事も。

 近右衛門は一瞬目を見開き、そして瞑目する。

 

「むう……。あの2人、あまり上手くいっておらんとは聞いておったが、そこまでとは……」

 

「主要な原因は、桜咲の態度にありますがね。なんであそこまで(かたく)ななのか」

 

「うむ……。まずは木乃香の事から話そうかのう。木乃香は関西呪術協会の長、近衛詠春の一人娘にして、ワシの孫娘じゃ。それは先日諸君らに話した通りなのじゃが……。

 詠春……婿殿は可能であれば、木乃香を魔法とは関わりなく育てたいと願うておる。難しいのは重々承知の上なのじゃがの。木乃香の母は、ワシの娘じゃから、血統的には西を裏切って東の関東魔法協会に(くみ)した裏切り者の血筋と言う事になるしのう。それ故に、魔法とかかわりなく育てば、権力闘争とかとは無縁になるかと……。

 いや、ワシは西を裏切ったつもりは無いんじゃがな。若いと言うか幼い頃に、西と東の懸け橋になる事を期待されて、西から送り出されて来たんじゃし。それに今現在も、メガロメセンブリアの支配下から脱却しようと、必死に頑張っておるのにのう……」

 

「いや、学園長先生のご苦労は重々。けれど、今はそれが問題じゃないです」

 

「お、おお! すまんかった氷雨君!」

 

 近右衛門は慌てて謝罪すると、木乃香についての話を続ける。

 

「さっきも言った通り、木乃香はワシの孫娘じゃ。それ故、ワシの娘かその配偶者以外に長になれる人物の選択肢が無かった昔とは異なり、今の時代ならば他の長候補が存在するため、魔法から離れて育てば権力闘争には巻き込まれん、と言うはずじゃった。

 なれど……。木乃香には、あまりに魔法使いとしての素質があり過ぎたのじゃよ。木乃香の秘める魔力は、極東において最強どころか、全世界レベルでも指折りなのじゃて。それ故に、関西呪術協会の中でも過激派連中は、木乃香を次代の長として擁立し、その実何も実権は与えずに単なる神輿にしてしまおうと考えておるのじゃて。

 更にはそれ以外の連中も、長にはせんでもその才能を腐らしてしまうのは、あまりに惜しいと考えておったり……」

 

「近衛に強大な魔力が秘められているのは『()』えてましたが。なんでアレで魔法使いじゃない一般人枠なのかと思ってました。そう言う訳でしたか」

 

「あれ? でもそれならいっその事、開き直って西洋魔術を学ばせてしまえばどうなんです? 西洋魔術師になってしまえば、必然的に関西呪術協会とは縁が切れて、その長には政治的に『絶対』なれなくなってしま……。

 あ、そうか……」

 

「そうだな、氷雨。わざと意図してそう言う事をやっちまえば、西の組織と東の組織の間に、致命的な亀裂が入りかねない。これが西の連中のちょっかいの結果そうなったとか、そう言う言い訳ができる状況じゃないとなあ」

 

 その場の一同は、小さく溜息を吐く。そして近右衛門は話を続けた。

 

「さて、次は刹那君の事じゃの。しかし……。これは本人の許可なくして話していい物かどうか」

 

「ああ、奴が半妖(ハーフ)だってのは以前の顔合わせの時、うっかり『()』ちまいました。先日いただいた日本の妖怪の資料集からすれば、おそらく烏族(うぞく)との混血ですか?」

 

「ひょ!?」

 

「まあ、無断で『()』ちまったのは悪いとは思いましたが。でも、奴も『()』られる事への対策、何も取ってないんですが。『()』た側が言うのは何ですが、ちょっと不用心では」

 

「そ、そうか……。知っておるのならば仕方あるまいて」

 

 そして近右衛門は、刹那に関する情報を話し始めたのである。

 

 

 

 

 

 

 学期末試験の全日程が終了し、あとは採点を待つだけとなった。麻帆良学園本校女子中等部の学生たちは、各々解放感に浸ってキャイキャイと騒いでいる。中でも1-Aの連中は、ひときわ騒ぎの度合が大きい。そんな中、刹那は声を掛けようとする木乃香を黙殺し、一人教室の外へと出る。

 そして彼女はいつもの通り、人目に付かない様に離れた位置から木乃香の様子を窺った。木乃香ががっかりしている様子に、彼女は心を痛める。だが木乃香が神楽坂明日菜などに声をかけられて元気な様子を見せるのに、刹那はほっと安堵の息を吐いた。

 

 そこへ声が掛かる。刹那は一瞬ぎょっとした。周囲の気配はきっちり探っていたはずであったからだ。

 

「よお、桜咲」

 

「いつも大変だな」

 

「!?」

 

 振り向いた刹那は、そこに千雨と氷雨が居るのを見て、ある意味で納得する。他の魔法生徒たちから仕入れた情報では千雨、希雨、氷雨の3人は、魔法生徒どころか魔法先生をも超えかねない実力を持っているらしかった。

 

「……長谷川さんたちでしたか。何か御用ですか?」

 

「うん。長谷川さんたちは何か御用なんだ」

 

「……ふざけているだけならば、行かせてもらいます」

 

「悪いが、そうはいかねえんだよな。ちょっとばかり、『裏』の話がしたくてよ。しかも近衛関係だ」

 

「!! で、ですが……」

 

「大丈夫だ。お前が居ねえ間は、希雨が近衛にぴったりくっついてる」

 

 その言葉を聞いた刹那は、物陰から出ない様にして木乃香の様子を窺う。確かに木乃香の隣には、長い髪の毛をポニーテールにした希雨が寄り添う様にして、ぴったりとくっついていた。刹那の内心に、ふっと一瞬の嫉妬が湧き出る。だが彼女はそれを、(かぶり)を振って振り払った。

 

「……わかりました。何処でお話を?」

 

「ん。ウチでやろう」

 

「長谷川さんたちのお家は、少々遠いのでは?」

 

「けどよ。あそこは盗聴対策とかの防諜がしっかりしてて、秘密の保持にゃ最適なんだ。学園長室よりも完璧だと、胸張って言えるぞ?」

 

「んじゃ、行くか。『幻姿(MALOR)』」

 

 氷雨が小声で呪文を唱える。無論、周囲に人目が無い事は確認済み。千雨、氷雨、刹那の3人は一瞬で空間転移して、長谷川3人娘の邸宅前まで跳んでいた。

 

「「さ、入れよ」」

 

「は、はい……」

 

 呆気に取られた刹那を促し、千雨と氷雨は邸宅へと入って行く。刹那は呆然と、その後を付いて行った。

 

 

 

 

 

 

 居間に通された刹那は、そこでケーキと紅茶を供される。だがどうにも手を出す気になれない。

 

「あ、あの。お嬢様関連で『裏』のお話をするのでは……?」

 

「ん。そのつもりだがな。まずは茶が冷める前に、飲んでくれ。お前に取ってちょこっとばかりショッキングな話になるからな。せめて少しでも気を落ち着けてもらいたいと思ってな」

 

「……いただきます」

 

 刹那はお茶を口に運ぶ。そして目を丸くした。

 

「あ、おいしい……」

 

「ケーキも絶品だぜ? 千雨謹製の、レアチーズケーキだ。食べないで残すなんて、豊受大神のバチがあたるぞ」

 

「は、はい……。あ、これもおいしいです……」

 

 千雨と氷雨は笑顔を浮かべ、自分たちもお茶とケーキをいただく。お茶とお茶菓子が無くなったあたりで、千雨が話を切り出した。

 

「さて、桜咲。お前が西の長からの個人的な依頼で、表向き西を裏切るような形で麻帆良に来て、近衛の事を護衛してるのは学園長先生から聞いてる。わたしらは、個人的に学園長先生とそのぐらいの事を話し合えるぐらいには親しい、って理解しといてくれ」

 

「は、はい」

 

「で、だ、桜咲。お前……。近衛の事、護衛できてるか? 護れてるか? いや、わたしらの見立てじゃ、まっとうに護衛できてねえ」

 

「!!」

 

 一瞬で顔面蒼白になり、席を立とうとする刹那。だが千雨はそれを睨みつける。千雨の眼力は、魔法的にも物理学的にもなんの力も無い。だがそれに込められた強圧的な意志力が、刹那を座しているソファに縛り付けた。

 刹那は必死で『気』を集中させる。できない。筋肉に全力を込める。力が入らない。抗議の言葉を吐こうとする。舌が動かない。

 

「逃げようとするって事ぁ、自分でも分かってんだろ。近衛の護衛するんならよ、友人としてくっつくぐらいに近くに居て、いざって時には身を挺して盾になるぐらいの覚悟が必要だ。……今日の、希雨がやってるみたいに、な」

 

「学園長先生から聞いた、西の長の思惑なんだがよ。あっちもソレを期待してたみてえなんだけどな? だがよ……。てめえ、近衛の事を徹底的に避けてやがんだろ。正直わたしらも、当初は放って置くつもりだったんだ。だが、いい加減このままの状況が続くとな?」

 

「あっ……。あ、なた方に、は……、関係な、い、事ですっ!」

 

「「だからそうも行かねえって言ってんだろ」」

 

 氷雨が、溜息まじりに言葉を吐き出す。

 

「……わたしらにゃ、一応ながらも魔法生徒としての役割がある。てめえが関係ないって言ったところでな? 学園の『一般生徒』の平穏を護るのは、わたしらの義務の一環でもあるんだよ」

 

「このまんま、てめえが護衛の義務を果たせねえ、あるいは果たしてると勘違いしてんのかも知れねえが、そんな状況が続くんなら。わたしらは、わたしらの義務と権限の下に、学園長先生やそれを通じて西の長、近衛詠春氏に苦言を呈さなきゃならねえ」

 

「!!」

 

 ここで千雨が、視線に込めた眼力を(やわ)らげる。刹那はソファからずり落ちて、床の絨毯の上にへたり込んだ。その息が荒い。

 

「はぁっ、はぁっ……」

 

「……それだけじゃねえよ。近衛の奴は、てめえに拒絶される都度に、どれだけ深く傷ついてると思う? 神楽坂とかの前ではへらへら笑ってやがるけどよ。わたしの眼鏡は魔道具(マジックアイテム)でな、人のオーラとか見る機能があってな? それで見ると、神楽坂と楽し気に話してても、そのオーラはくすんでドンヨリしてやがんだ。心が引き裂かれるほど、苦しんでやがんだよ」

 

「ッ!! で、ですがッ!!」

 

 氷雨の言葉に何かしら言い返そうとした刹那だが、その言葉を千雨が遮る。その声音は、鋼鉄の様な硬さと重さを持っていた。

 

「桜咲、てめえよ? てめえが色々重荷を背負ってるのは知ってる。わたしらの『眼』は秘密にしてたが特別製なんでな? てめえが純粋な人間じゃねえ事も、『()』えてんだ。でもよ?

 それ、近衛になんか責任あんのか? てめえが苦しいのを、近衛に押し付けてねえか? 友達同士で苦労を分かち合うってのとは、なんか全然違わねえか?」

 

「ッ! だったら! だったら!! だったらどうすれば良いのです……。こんな、半妖の、忌み子の、この様な醜い下賤の身のわたしが、お嬢様の傍になど……。陰から護れるだけでよかった! それだけだった!」

 

「……護れてねえって、言ってんだろがッ!!」

 

「ひぅっ!」

 

 一声叫んで、刹那は硬直する。その瞳から、ぼろぼろと涙が零れ落ちた。千雨は刹那の頭を、その胸にかき抱く。

 

「う、うああ……。うぐ、うえええぇぇぇ……」

 

「……」

 

「おう、了解」

 

 千雨は視線だけ(アイコンタクト)で氷雨に合図する。氷雨は頷いて、台所へと消えて行った。

 

 やがて刹那が泣き止む頃、氷雨はマグカップいっぱいのホットミルクを持って来る。ちなみにひと匙のハチミツ入りだ。

 

「飲めよ」

 

「あ……。え……。はい」

 

「……でよ? さっきは詠春氏にツッコミ入れるとか言ったが、あれ無しな?」

 

「え……」

 

 目を丸くする刹那に、氷雨の言葉を千雨が補足してやる。

 

「万が一にでも、お前が京都に呼び返されたり、近衛の傍から離されたりすると、天が裂けて地が割れるほど困る。近衛の気持ちになって、考えてみろ? 大事な大事な幼馴染がよ? 何の偶然か同じ中学の同じクラスになったんだぜ?

 ところがその幼馴染は、自分にツンケンする。しかも唐突にそのまんま居なくなったりしたら……。近衛はもしかしたら、自分のせいだと思うかもしれねえな。そしたら自分を責めるだろうな」

 

「だから、てめえが護衛として不出来だからと言って、上にチクって交代させたりすんのは絶対に不許可。普通の護衛はよ、命の安全だけ護ればOKだけどよ? 学園長先生や詠春氏はたぶん、近衛の心もお前が護ってくれる事を期待してるはずだぜ?

 それなのに、今以上に近衛の心を傷つける様な選択肢は、取っちゃいけねえよな。だから、詠春氏にツッコミ入れるのは、無し」

 

「……!」

 

 刹那は頭を下げた。ゴン! と言う音がして、テーブルに頭がぶつかる。しかし彼女は、痛いとも言わなかったが。

 そして氷雨が口を開いた。

 

「だがよ。話は最初に戻るんだが。桜咲、お前は近衛と仲直りしろよ。下賤だの忌み子だのってのは、重いのは何となくってレベルでしか無いが、理解する。

 けどよ? それって桜咲側の理由でしかねえだろ? 近衛側に押し付けちゃいけねえだろ。って言うかよ。護衛って立派な理由を詠春氏から貰ってんだ。それを言い訳にして、仲良くなってもいいんだよ」

 

「で、ですが、まだ他にも……。お嬢様は『裏』の事情を……。魔法の事を知らされずに育てられております。その事を万が一にも知られるわけには」

 

「てめえが黙ってりゃいいだけの事だろが。と言うか、てめえが一緒に居りゃ、なんか魔法的現象に遭遇しても誤魔化す事もできるって、何で考えねえ? って言うかよ。麻帆良に居て魔法的現象に出会わないって、何で考えるかな?」

 

 千雨の呆れたような口調に、唖然とする刹那。氷雨もまた、肩を竦める。

 

「あ、は、はぁ。ですがお嬢様に隠し事をしていると言うのも、心苦しく……」

 

「あんな? 近衛に最初っから『護衛の都合上、言えない事が多々あります。どうかごめんなさい』って言っておきゃ良いだけの事だろうがよ。嘘じゃねえんだし。

 近衛の事だから、深くは聞くなって頼めば絶対に聞いてこねえだろよ。朝倉や早乙女や双子や椎名やその他諸々じゃねえんだし」

 

 氷雨の言葉に驚く刹那。そしてその驚きを、直で声に出してしまった。

 

「え、ご、護衛の事を言ってしまっても良いのでしょうか!?」

 

「だーーーっ!! 近衛の奴は、近衛家で! 爺さんが学園長で! 金持ちで! 『表』の世界の立場だけで、十二分に狙われやすい立場なんだよっ!! 護衛付けてても問題ないんだ! って言うか、護られる側が護られてるって認識無いのに護衛するってのは、護衛者側に対して何のイジメだってんだよ!!」

 

「たっ、確かに!」

 

「お、落ち着け千雨! 切れたいのはわたしも同じだ!」

 

 突然切れた千雨を、必死で(なだ)める氷雨だった。

 

 

 

 

 

 

 何と言うか、トボトボと長谷川邸から寮へ向かう刹那を見遣りつつ、千雨は携帯電話で希雨に連絡する。

 

「とりあえず、こっちゃ終わったぞ」

 

『どうだ? 何とかなったのか?』

 

「わからん。ただ、少なくとも桜咲は反省した。おそらく近衛との仲直りまでは、秒読み段階だろ」

 

『ならいいんだが。近衛の奴に、ちょっと桜咲の事について話を聞いてみたんだよ。最初は笑顔で思い出話とかしてたんだがよ。

 ……最後には泣き出されてなあ。相当にストレス溜まってたみたいだ』

 

 千雨は、大きく溜息を吐く。横で聞いていた氷雨も同じく。

 

「とりあえず、夏休み前に『種』は()けたからな。近衛の奴に、悲しい夏休みを過ごさせるのは何だし」

 

『じゃ、桜咲が近場まで来たら、それに護衛引き継いでから帰る』

 

「んじゃ、それに合わせて茶を淹れておく。ケーキも、レアチーズケーキが最後の1切れ残ってるからよ」

 

『了解。楽しみにしてる。じゃ、(ウチ)で』

 

 電話は切れた。そして千雨と氷雨も、邸宅内へと歩き出す。

 

「ほんとに、コレでなんとかなればいいんだが」

 

「ならなかったら、もう知らん。……ってわけにもいかんかあ」

 

 肉体的にはともかく、精神的にはけっこう疲れた彼女らであった。




 うーん。刹那と木乃香の問題は、刹那側の心の持ちようでしか無い様に思うんですよね。まあ、重っ苦しい過去があるのは、なんとなくレベルではありますが理解します。でも、それを木乃香に押し付けるのは2人のためになりませんよね。と言うか、初期刹那って、無意識に木乃香を(しいた)げてますよね。護ってるつもりで。おまけに返す刀で自分も斬りつけてる。
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