千雨Cubed   作:雑草弁士

16 / 30
016話・宇宙、それは最後のフロンティア

 唐突だが、希雨が異世界からこの世界へ持ち込んだ宇宙船は1隻ではない。これまでに確認されただけで、基地モードに変形して長谷川邸の中枢部になっている1隻と、戦闘ロボット1個小隊の母艦となっている宇宙揚陸艇1隻の2隻が確実に存在している。

 そしてこの夜、長谷川3人娘と近右衛門、高畑、エヴァンジェリン、茶々丸、超、葉加瀬の眼前には、3隻目の宇宙船が着陸していた。全長が40mほどの宇宙連絡艇(シャトル)だ。なお、この場には近右衛門の魔法で人払いがかけられている。

 

 近右衛門が(おもむろ)に口を開く。

 

「では長谷川君たち、超君に葉加瀬君、くれぐれも気を付けて行って来るんじゃぞ? タカミチ君も、引率よろしく頼むぞい。出張扱いにしておくからのう」

 

「ははは、引率とは言っても僕は何もやる事は無いんですけれどね。ジェネシス魚雷第1次実験のために、夏休み利用して1週間の宇宙旅行か……」

 

「あと夏休み終わりあたりに、もう1週間使って第2次、第3次実験のための前準備をしますからね。では行ってきます。学園長先生やマクダウェル、絡繰も気を付けてな」

 

「ああ、任せろ。貴様らが居ない間の貴様らの家は、きちんと護っていてやる。茶々丸とジジイがな」

 

「ひょ!? 丸投げじゃと!?」

 

 そして長谷川3人娘、超、葉加瀬、高畑は宇宙連絡艇(シャトル)へと乗り込む。やがて宇宙連絡艇(シャトル)はふわりと宙に浮き、宇宙へと発進していった。

 

 

 

 

 

 

 今、長谷川3人娘たちが搭乗した宇宙連絡艇(シャトル)は、地球の高軌道へと上がっていた。葉加瀬聡美は宇宙連絡艇(シャトル)の船窓に張り付いて地球を眺め、感動している。

 

「これが地球……。素晴らしいです……。今、わたしは宇宙へとやって来ている! 真空や低温、宇宙線などの脅威から、科学の力によって護られて! 素晴らしいです!」

 

「ハハハ。葉加瀬は宇宙は初めてだからネ」

 

「いや、僕も初めてなんだがね。何と言うか、感無量だよ」

 

 高畑も、船窓から見える地球には感動している模様だ。まあ、誰しも彼らの気持ちは分かるだろう。ちなみに超鈴音は宇宙から見る地球の姿に、何かしら複雑な感情が表情に見え隠れしていた。

 

 そこへ希雨の声が響く。彼女はこの宇宙連絡艇(シャトル)を、直結(ハードワイヤード)電脳制御(サイバーリンク)で動かしている。彼女の身体はメイン艦橋(ブリッジ)にあるが、今はこの宇宙連絡艇(シャトル)そのものが彼女の肉体なのだ。

 

『そろそろ母艦とランデブー、ドッキングするぞ』

 

「おお! それは是非にも見逃すわけには!」

 

「葉加瀬、少し落ち着くネ」

 

 そして宇宙連絡艇(シャトル)の行く手に、希雨がこの世界に持ち込んだ4隻目の、全長600mほどの航宙艦が姿を現す。これが希雨の言っていた『母艦』である事は間違い無い。その形状は、円盤型の第1船体の後方下面に、オタマジャクシの様な長球型の第2船体を持ち、第2船体から右上、左上、真下の3方向に長いエンジン筐体(ナセル)が取り付けられていると言う物だ。

 彼らの乗る宇宙連絡艇(シャトル)は、その長球型の第2船体後方から接近して行く。そしてその部位に、半ば格納される形でドッキングを完了した。

 

 宇宙連絡艇(シャトル)から降りた一同は、円盤型の第1船体中央にある艦橋(ブリッジ)へとターボリフトに乗って移動した。艦橋(ブリッジ)では、人間型ロボットが多数働いている。まあ人間型とは言っても、茶々丸の様な人間に近い形状をしたタイプでは無い。ゴツゴツした形状の、あからさまにロボットだと分かるタイプだ。

 希雨はそのロボット達の合間を縫って、艦橋(ブリッジ)中央の艦長席に着く。彼女はそのまま、自身の首筋の電脳制御(サイバーリンク)端子を制御盤(コンソール)直結(ハードワイヤード)し、この航宙艦を制御下に置いた。その事について、葉加瀬が問いかける。

 

「あのー、希雨さん。ふと思ったんですが、なんで有線で直接に接続してるんです? これだけの技術力があれば、無線での接続も可能かと思うのですが」

 

『ああ、そりゃ簡単にできるぞ? けどな、無線接続だとどうしてもハッキング、クラッキングや電子妨害に弱いんだ。だから大事なシステムは無線接続じゃなく、直結(ハードワイヤード)にしてる。

 いや、非常時用に無線接続システムも用意してるけどよ。重要部分にゃ、こう言う『枯れた』技術の方が安心なんだ。それにノイズにも強くて、回線速度も速いしな』

 

「なるほど。盗聴対策には黒電話、みたいな物ですね」

 

『そう言う事だ。んじゃ、とりあえずゲスト席に座っててくれ。ああ、超と葉加瀬はなんだったら、科学士官席のすぐ後ろのゲスト席を使うか?』

 

 その言葉に、超と葉加瀬は大喜びで食いついた。

 

「是非にお願いするヨ!」

 

「お願いします!」

 

『わかった、わかった』

 

 希雨は超と葉加瀬のために、科学士官席の制御盤(コンソール)の表示などが良く見える、すぐ後ろの席を用意してやった。やがて千雨以外の全員が席に着く。と、千雨が希雨に問いかけた。

 

「あー、わたしは可能なら、この艦の中心に居たいんだが。重心位置じゃなく、位置的な中心。光年単位の超距離を『跳ぶ』んでな。艦全体に『能力(チカラ)』が届きやすい様にしたいんで」

 

『わかった。ターボリフトに乗って『第4デッキ』って制御盤に向かって音声入力してくれ。第4デッキで降りたら、そこに案内のロボットが待ってるから、そいつの案内に従って『保安部員待機室』に行ってくれ。そこがだいたい艦の中心だ』

 

「了解」

 

 千雨はターボリフトで、第2船体まで下りて行った。超が希雨に疑念を呈する。

 

「……光年単位を『跳ぶ』と言たネ? 千雨サンの『能力(チカラ)』デ? この(フネ)の能力でハ無いのカ?」

 

『ああ、本当なら超空間を使った『超遠距離転移(ワープとかフォールド)』とかできる航宙艦を用意したかったんだがな。今のところ、できあいの艦艇で最も速いこの(フネ)でも、亜空間使った『ワープドライブ』までなんだ。

 でもって『ワープドライブ』だと、宇宙空間の基幹構造に害を与えない最高速度のワープ5でも、光速の214倍。いや、その気になればこの(フネ)は緊急時にゃワープ9.999999まで出せるがよ。宇宙壊れると困るから、ワープ5まで。

 それだと、100光年行くのに170日かかる。夏休みどころじゃねえんでな。光速の数千倍以上出せる『トランス・ワープ艦』は、今現在建造中でまだ使えねえ。それで今回は、千雨に頼る事にした』

 

「ナルホド」

 

「と言うか、建造してるのかい?」

 

『ええ、してます高畑先生。……んじゃ、千雨が『跳び』易い様に少し地球から離れるか』

 

 希雨が言った瞬間、主映像盤(メインスクリーン)に映っていた星々が、一気に光の線になって艦の後方に流れた。希雨がワープドライブを起動して、光速を超える速度で航宙艦を動かしたのである。一同の口から、『おおお……』と感嘆の声が漏れた。

 

 

 

 

 

 

 地球を遥か離れた宇宙空間で、希雨の航宙艦は太陽に対して静止状態を保っていた。艦長席の希雨は、艦中央部の保安部員待機室にいる千雨に通信回線を繋ぐ。艦橋(ブリッジ)主映像盤(メインスクリーン)に、千雨の様子が映る。

 

『千雨、こっちの準備はいいぞ』

 

『おう、んじゃ早速『跳ぶ』ぞ。全員、気を楽にしてくれ』

 

 艦橋(ブリッジ)に居る一同は、映像の中の千雨が膝立ちの姿勢になり、身体の前で両腕をクロスさせて気合を込めるのを見る。そして千雨の姿が、一瞬ブレた様に見えた。

 

 次の瞬間、一同はめまいに似た感覚を受ける。まるで魔法による転移現象を受けた時に近い感覚だった。だが魔力が動いた感じはしない。

 一同の中で希雨を除けば、最初に気づいたのは超であった。彼女は眼前の科学士官席に据え付けてある制御盤(コンソール)の、補助映像盤(サブスクリーン)に映し出された星野の映像を見るやいなや、小さく叫ぶ。

 

「……跳んダ!! 今のは何ネ!? 魔法でハないヨ!! ……この制御盤(コンソール)の表示ヲ信じるならバ、今現在の本艦の位置ハ……。太陽系から『かじき座』の方角に約100光年! 『TOI-700』と呼ばれる恒星の近傍ネ!」

 

『間違ってねえぜ。あの近くに見える恒星は、間違いなく『TOI-700』だ。そしてあれを公転してる惑星『TOI-700 d』が今回のジェネシス魚雷の実験場だ』

 

「「「おおお……」」」

 

 超と葉加瀬、そして高畑は目を見開き、感嘆の声を上げる。と、主映像盤(メインスクリーン)に映った千雨がグラリとよろめいた。高畑は叫ぶ。

 

「千雨君!?」

 

『あ、いえ。大丈夫です。流石にこの(フネ)1隻を超能力でテレポートさせるのは、疲れましたね。しかも100光年ですから』

 

『超人■ックほどじゃねえが、■ード・レオン級の能力は余裕であるって言ってたっけな。ああ氷雨、悪いけど千雨を船室まで連れてって休ませてやってくれねえか』

 

「了解」

 

 ターボリフトで、氷雨が艦橋(ブリッジ)から出て行く。それを見送りつつ、高畑、超、葉加瀬が口々に言った。

 

「千雨君は、超能力も使えたのか……。と言うか、600mの航宙艦を乗員ごと100光年のテレポート……」

 

「恐るべき力だヨ……。まあ、流石にコレだけやれば、疲れ果てたみたいだがネ」

 

「うーん、科学の発展のために色々と調べさせてもらえませんかねえ?」

 

『命が惜しくねえなら、頼んでみたらどうだ? 千雨はわたしら3人の中でも、そう言う方面では厳しい奴だからな?

 奴にとっては『能力(チカラ)』を誰かのために使うのは、心理的ハードル低いけどよ。でもその秘密を明かす事に関しては、たぶんわたしや氷雨よりも神経質だぜ? 本気で殺されても、わたしらは面倒見ないからな?』

 

 希雨の脅し文句に、葉加瀬は黙ってしまう。まあ希雨からすれば、事実を告げただけなのだが。

 

 そして航宙艦は、惑星『TOI-700 d』を周回する軌道へと入る。希雨は(おもむろ)に言った。

 

『あれが『TOI-700 d』だ。早速、ジェネシス魚雷の第1次実験を開始するぞ。ちなみにこの様子は、船室で休んでる千雨とそれに付き添ってる氷雨にも、映像で送られてる。

 超に葉加瀬。科学士官席とその助手席を空けさせるから、そこに座ってくれ。そこで実験の監督を頼む』

 

「了解ネ」

 

「わかりました!」

 

 希雨は自身に直結(ハードワイヤード)している回線より命令を下し、あらかじめ用意してきたジェネシス魚雷の初号機と、万一の予備である弐号機、参号機、肆号機を発射管へと装填させる。そして彼女は、惑星『TOI-700 d』地表の1点に狙いを定めた。

 

『これより第1次の実用型ジェネシス魚雷起動実験を開始する。全人工知能(AI)を含む総員は、魚雷本体、魚雷発射管、関連システム及び惑星『TOI-700 d』の状況を総点検せよ』

 

『魚雷本体、異常ナシ』

 

『魚雷発射管、異常ナシ』

 

『航宙艦『HSS-1581-A』、照準装置ヲ含ム火器管制システム、異常ナシ』

 

『惑星『TOI-700 d』着弾予定地点、状況グリーン』

 

「こちら葉加瀬です。艦側には問題ありません。魚雷射出OKです」

 

「こちら超ネ。全て事前の予定通りダヨ。チェックシートは全テ埋またヨ。まったく問題なしネ」

 

 準備は全て完了。希雨は最終秒読みに入る。

 

『1番発射管、ジェネシス魚雷初号機、発射準備。10分前……。5分前……。4分前……。3分前……。2分前……。60、59、58、57……』

 

「……いよいよですね」

 

「マダ事前準備の予備実験なんダヨ、葉加瀬。あまり気負い過ぎない事ネ」

 

『……15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、発射(シュート)! ……-1、-2、-3……』

 

 光の尾を引いて、ジェネシス魚雷は惑星『TOI-700 d』の表面へと向かって行く。そして惑星表面に、輝きが走った。

 

『-5、-6、着弾(ヒット)! ……-8、-9……』

 

 惑星表面に発生したオレンジ色の輝きは、どんどんとその直径を増して行く。そしてまるで池の表面に波紋が広がるかの様なイメージで、オレンジ色の光の輪が惑星表面を撫でて行った。

 

 そして一瞬後、そのオレンジ色の輝きの波紋が惑星地表を嘗め尽くす。そこには、青い海と緑の大地に覆われた、美しい惑星(ホシ)が存在していた。ジェネシス魚雷により発生したジェネシス(ウェーブ)により、不毛の惑星『TOI-700 d』はその存在を書き換えられ、生命溢れる惑星へと変わっていたのである。




 ちなみに超能力のテレポートと言うのは、普通に歩くよりも疲れる物らしいです。ライオット・アレクセイも、そう言ってます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。