千雨Cubed   作:雑草弁士

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019話・実験準備の準備とか、息抜きとか

 氷雨は今、長谷川3人娘の邸宅内にある自身の魔法研究室と魔法儀式場を、忙しく往復していた。魔法儀式場には、一抱えもある様な大きな宝珠を中心に組み込んだ魔法装置が16個、どっかりと鎮座している。その氷雨に、千雨が声を掛けた。

 

「なあ、やっぱりわたしも儀式本番を手伝おうか? 氷雨(オマエ)の試算だと、氷雨(オマエ)と同クラスの使い手の補佐があれば、確実性は数段UPするんだろ?」

 

「いや、やはり本番の儀式はわたし1人でやる。千雨(オマエ)は恒星『TRAPPIST-1』のところまで40.5光年テレポートしないといけねえだろ? 前回の100光年よりかはマシだって言ってもよ。やっぱ大変なのは目に見えてるからな。

 それに、今度は魔導機兵を持っていくからな。ソレと同化して魔法行使するから、成功率は高い。その上で1回につき、この魔法装置8個ずつの補助が入るんだ。まあ、なんとかならあな」

 

「ならいいんだが……」

 

 そして氷雨はニヤリと笑う。彼女は自信たっぷりに聞こえる口調で言い放った。

 

「恒星『TRAPPIST-1』のハビタブルゾーンを回ってる地球型惑星は、全部で4つ。だけどその内で『TRAPPIST-1g』は色々とビミョーだから今回の第2次、第3次のジェネシス魚雷実験では除外。『TRAPPIST-1d』も、ちょこっと熱すぎるから同じく。

 残りの惑星『TRAPPIST-1e』『TRAPPIST-1f』での実験準備を、夏休み中に終わらせておかないとな」

 

「うん、まあ、うん」

 

「んじゃあ、さっくりと『TRAPPIST-1e』『TRAPPIST-1f』の2惑星に、『魔法世界(ムンドゥス・マギクス)モドキ』を構築しないとな!」

 

 そう、冬休みの第2次実験と春休みの第3次実験は、位相のずれた空間に『魔法世界(ムンドゥス・マギクス)モドキ』を保有する惑星を用意し、改造を加えたジェネシス魚雷がそれに対して想定通りに働くかどうかを確認するために行われるのだ。その実験をやっておかねば、本番の火星にジェネシス魚雷(改)をブチ込むなど、恐ろしくて出来た物ではない。

 それ故に彼女らは、夏休み最後の1週間を使って、短期間だけ保つ様な即席の『魔法世界(ムンドゥス・マギクス)モドキ』を用意しに、40.5光年先の星系に行って来る予定なのである。無論、その『魔法世界(ムンドゥス・マギクス)モドキ』には高い知性を持つ様な動物は置かないつもりだ。あくまで実験用の短寿命の偽世界であるのだし。

 

 氷雨の言葉に、千雨は大きく頷く。

 

「ああ。本番である火星の前に、『モドキ世界』を保有する世界で実験しとかないといけないからな。きっちり想定通り、改造型魚雷が動くことを確かめねえと。これで失敗したら、また1年ぐらい計画が伸びちまう。

 第2次実験に使う惑星『TRAPPIST-1f』では、純粋に『モドキ世界』オンリーで実験。第3次実験に使う惑星『TRAPPIST-1e』では、そこに構築した『モドキ世界』に地球から連れてった現実の動物を放して、『内部に現実の生物を置いたモドキ世界』での実験を行わんとならん」

 

「第3次実験で使う現実の生物は、野ネズミの類だったか?」

 

「あと、野生化した野豚とかも使うぞ。適当な数を、学園長先生や高畑先生、超、葉加瀬が伝手をたどって集めて回ってる」

 

「高畑先生、忙しいのに大変だな」

 

 そこへ希雨が現れた。その手には、ゴツい感じの大容量記憶装置が2つある。

 

「うぉーい……。第2次実験用と第3次実験用の『魔法世界(ムンドゥス・マギクス)モドキ』の設計データ、上がったぞー。これを氷雨の魔法装置に、魔法文字へコンバートして書き込めば、氷雨のやらにゃならん仕事は73.252%削減できる」

 

「早かったな」

 

「どっちも基本同じだし、あんまり複雑な動植物は入れてねえからな」

 

 そして長谷川3人娘は、氷雨が製作中の魔法装置8個ずつ2セットに、希雨の作った設計データを魔法文字記述に変換(コンバート)して書き込み(インストール)していった。まあ実験用とは言え、『魔法世界(ムンドゥス・マギクス)モドキ』が2つ分の膨大なデータだ。作業には1週間から10日ばかりかかる予定である。

 

 本当は彼女らは、こう言う長時間の作業は1分を1日に引き延ばせる、超加速空間で行いたかった。だが超加速空間の広さは、せいぜいが3LDK程度。中には魔法の儀式場などは無く、一応研究室となんとかかろうじて言える程度の簡単な設備しか無い。大掛かりな魔法装置の製作と仕上げなどは、不可能であった。

 それ故に彼女らは、地道に長い時間かけて、この魔法装置を仕上げていたのである。細かい部品群は、超加速空間の中で製作できる物は製作したのだが。

 

 

 

 

 

 

「……と言う訳で、『モドキ世界』の構築に使う魔法装置は、今現在順調にデータのインストール中だ」

 

「放置しておいて、良いのカ?」

 

「ああ。大事なところは全部終わったから、あとは人工知能(AI)に任せておけば大丈夫」

 

「良いなら良いンだヨ」

 

 千雨は超と会話しつつ、ワンピースの水着姿でビーチパラソルの下で寝転がっていた。ちなみに超は超で、モノキニ水着を着用して()せている。

 

 うん、まあそう言う事だ。今、彼女らは慰労の意味も込めて、2泊3日で海水浴に来ていたのである。ただしこう言う時に引率役をするはずの高畑は、残念ながら『悠久の風(いつもの)』関係の海外出張が入っていたため、参加できなかった。

 その代わりと言っては何だが、呪いが正常化されて休暇などには麻帆良を離れる事も可能になった、エヴァンジェリンが付いて来ている。無論のこと、茶々丸も。

 

 そして希雨が海から上がって来る。彼女はショートパンツ水着だ。それはともかく、千雨は希雨に文句を垂れる。

 

「ちょっと長すぎやしなかったか? いくらなんでもよ」

 

「いや、別に構わんだろう? わたしのは秘匿されるべき某特殊技術(まほう)じゃないし。体内の機械的なシステムで呼吸できるだけだし。いや、海の中は中々楽しかったな」

 

「いや、素潜りで2時間は長すぎだろ。ここは麻帆良じゃねえんだし、一般の人から見て変だと感じられる様な行いは(つつし)んどけ」

 

「いや、このぐらいは普通……じゃなかったな。いや、わたしも感覚ズレてるな。気を付ける」

 

「そうしろ。希雨(オマエ)の普通は、ここだと超科学技術(オーバーテクノロジー)だ」

 

 普通、地球には身体に機械を埋め込んでいる改造人間(サイボーグ)は存在しない。希雨はその辺の常識が、異世界基準になっていて狂っていた模様。まあ彼女も、この世界での暮らしよりも異世界での暮らしの方が、圧倒的に長いのだ。ちょっとばかり、仕方の無いところではあるだろう。

 そこへ氷雨が、レジ袋に大量の缶ジュースを詰め込んで持ってくる。彼女はハイネック水着だ。

 

「おーい、千雨、希雨、超。何がいい?」

 

「あ、わたしはコーラを」

 

「わたしはオレンジ」

 

「わたしもコーラをお願いするヨ」

 

「んじゃ投げるぞ」

 

「馬鹿者、炭酸飲料を投げるな」

 

 まあコーラを投げ渡したら、大変な事になるのは間違い無い。氷雨は素直にそれぞれの飲料を手渡して来る。

 

「そう言やあ、葉加瀬やエヴァンジェリンたちは何処行ったんだ?」

 

「磯の方で、何か遊んで来ると言ってたネ」

 

「お。帰って来た。って何か山の様に抱えてるんだが」

 

「フハハハハ! いや楽しかった」

 

「水中で爆薬を使ったら、面白い様に魚が獲れましたねー。大漁です」

 

「……」

 

 フリル付きワンピース水着のエヴァンジェリンと、スクール水着に何時もの実験用白衣を羽織っている葉加瀬は、大量の魚を抱えていた。リボン付きの水着で、腰回りをパレオで隠している茶々丸だが、何やら無言で困ったような雰囲気を漂わせていた。

 千雨は彼女らを叱る。

 

「馬鹿者ーーー!! それはボカチン漁と言って、水産資源保護法により禁止されてるんだ!! 絡繰も、止めろよ! あっちに行った3人の中で、唯一の常識人なんだから!」

 

「はあ……。しかし一方はマスターであり、一方は製作者なのです。制止しようにも……」

 

「……ああそうだったな。くそ、こいつら誰か見張り付けとかねえとヤバいぜ」

 

 その様子を見ていた氷雨は、ぽつりと呟いたものである。

 

「いや、一見して一番非常識なロボが、一番の常識人て何だよ」

 

 どっとはらい。

 

 

 

 

 

 

 星の瞬く夜空を見上げながら、一同は海岸で花火をしていた。紙製の筒から、赤、青、緑、オレンジの光の玉がパシュウっと音を立てて宙に打ち上がる。かと思えば、シュウッと言う音と共に火を吹いてロケット花火が打ち上がり、天頂でパァンと炸裂する。

 

「花火ってのも、いいもんだよな」

 

「まあ、我々がその気になれば、もっと派手な光景をタネも仕掛けも無く、杖と呪文だけでこの場に繰り広げられるのだが……。それは無粋。この花火は、この儚さと言い、一瞬の美しさと言い、素晴らしいと思うぞ」

 

 ススキ花火を手に持ち、エヴァンジェリンが語る。その表情は、いつになく柔らかい。周囲に漂う火薬の焦げる匂いも、風情の一環だ。

 

「人を傷つける爆薬としての火薬も、花火に化けりゃあ人を楽しませてくれる……。化学を含む科学ってのは、業が深いし、奥も深いよなあ……」

 

「希雨さん?」

 

「葉加瀬、てめえも考えてくれな? もちろん超もだが。科学ってのは、諸刃の剣だ。人を救うために開発された技術が、戦争でその数万倍の人を殺す。人を殺すために開発された技術が、後の世では人の暮らしに欠かせない基幹技術になる。

 ただ、そんな思う様にいかない代物だってのは分かるが。けれどだからと言って、科学者はモラルを打ち捨てちゃ、いかんと思うんだ。わたしは、わたしの科学は、あくまで『人』のためにある。そう思いたい。『科学の発展』なんて形の無い物のために、『人』を犠牲にする事は、避けたいと願ってる。

 いや、お前らからすりゃ、押し付けになるかな? あまり気にせんでくれ」

 

 そして希雨は、手筒花火に火を付けた。紙筒の先端から、シュウッと閃光が溢れ出る。その光に照らされた希雨の顔は、微笑んでいる様にも、泣いている様にも見えた。

 

 

 

 

 

 

 ここは航宙艦『HSS-1581-A』の貨物室に隣接した、貨物用大型転送ポート。ここにある貨物用転送台に今、直径10m近い巨大な光球が出現した。光球は徐々に変形し、人型に近い形を取る。そして最終的にそれは、全高10m弱の魔法仕掛けの巨大ロボット……氷雨の魔導機兵となった。

 その様子を眺めていた氷雨に、壁に埋め込まれたスピーカーから希雨が語り掛ける。なお希雨の本体は、艦橋(ブリッジ)の艦長席だ。

 

『うん、転送機は正常に稼働してるな。少なくとも、無生物を転送するのは完璧な様だ』

 

「一応おかしな箇所が無いか、魔導機兵をチェックしておくぜ」

 

『了解。終わったら、艦橋(ブリッジ)まで来てくれ』

 

 氷雨は早速、魔導機兵のチェックに入った。一方の希雨は意識を貨物用転送ポートから逸らし、宇宙連絡艇(シャトル)のドッキングポートへ向ける。船外カメラからの映像では、今現在ドッキングポートには宇宙連絡艇(シャトル)が接近中である。希雨はドッキングポートの設備を開放し、ドッキングの準備に入った。

 

『同期合わせ……。タイミング調整……。ドッキング60秒前……。30秒前……。10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、コンタクト!』

 

 宇宙連絡艇(シャトル)が航宙艦『HSS-1581-A』の第2船体後部に半ば格納されるような形でドッキングする。そして宇宙連絡艇(シャトル)から、千雨と高畑が降りて来た。高畑が、宇宙連絡艇(シャトル)の貨物室の扉を操作して開ける。するとその中には、幾多の(ケージ)に押し込まれて眠らされた、多数の生き物が詰め込まれていた。

 生き物の種類は、野ネズミ、野豚、鳥類、昆虫、その他色々である。これらは第3次実験の前準備として、惑星『TRAPPIST-1e』に創造された『魔法世界(ムンドゥス・マギクス)モドキ』に放されるのだ。

 

 (おもむろ)に、千雨が口を開く。

 

「やれやれ、あと3往復ですかね? 用意した生き物全部を運び終わるまで」

 

「そんなところだね。我ながら、けっこうな数を集めたもんだ」

 

『ご苦労様、高畑先生に千雨』

 

「ああ、希雨君か」

 

「希雨も、ご苦労さんだな」

 

 希雨の指示で、ロボットの乗組員たちが宇宙連絡艇(シャトル)から生き物の入った(ケージ)を次々に降ろして行く。

 

 ふと、高畑が何か思い出したかの様に語る。

 

「そう言えば……」

 

「ん? 何かありましたか、高畑先生」

 

『何か懸念でも?』

 

「いや……。君らの事だから、夏休みの宿題は心配ないとは思うんだが」

 

「『あ……』」

 

 高畑の台詞に、千雨と希雨の言葉が凍る。千雨に至っては、表情も引き攣っている。たぶん電脳空間に意識体を置いている希雨もまた、あちらで顔を引き攣らせているのであろうが。

 うん、彼女らはすっかり宿題の事を忘れていたのである。いや、宿題と世界の危機とでは、世界の危機に重点が置かれるのは仕方の無い事ではあるが。

 

「……いや、宿題はきちんとやってもらわないと困るんだが」

 

「だ、大丈夫です! 次に地上に降りたら、(ウチ)に設置してある超加速空間使って、パパっとやってしまいますから!」

 

『出発前までには、終わらせます!』

 

「そうかい? なら良いんだけどさ」

 

 そして高畑と千雨は、その後も宇宙連絡艇(シャトル)で地球と航宙艦とを何往復かして、実験動物や貨物を運び込んで行く。こうして航宙艦『HSS-1581-A』の出航準備は整ったのだった。

 

 ちなみに、艦名はまだ決まっていなかったりするが。

 

 

 

 

 

 

 そして千雨、希雨、氷雨ら3人は、彼女らの邸宅に(しつら)えてある超加速空間にて、夏休みの宿題を終わらせるために頑張る事になる。彼女らからすれば、宿題そのものの難易度はそう高くは無いのは、以前に試験の際にも触れた通りだ。

 ただし、漢字の書き取りとか、英文の筆写とか、色々と時間のかかる類の宿題が多々ある。この手の宿題をこなすために、やはり超加速空間の使用は避けられない。

 

「さて、どうする? 自由研究か、または工作を提出する事になってるけどよ」

 

「わたしは電気工作かな」

 

「待て、希雨。何を作る気だ」

 

「んー、簡単なタイプの陽電子頭脳使って、簡単な質疑応答ができる程度の……」

 

「却下だ。真空管ラジオとか、6石スーパーのラジオとか、その程度にしとけ」

 

「え。そんな原始的なので構わないのか」

 

「あたりまえだ。中1なら、その辺の物を科学雑誌とかに載ってる回路図使って作っただけで、花丸が貰えるわな。お前なら、できあいの回路図じゃなしに自前で回路設計して作るぐらいでもいいだろ」

 

 そんな騒ぎもあったが、なんとか彼女らは宿題を完遂させた。ちなみに超と葉加瀬なども、夏休みの宿題の事が頭から飛んでいたらしく、長谷川3人娘の超加速空間にお世話になった模様であったのだが。




 さて、どうにかこうにか計画準備、と言うか実験準備は進んでいる模様。夏休みが終わる前に実験場に選んだ惑星に、『魔法世界(ムンドゥス・マギクス)』の『モドキ』を創り上げて、冬休みに第2次実験、春休みに第3次実験を(つつが)なく終えなくてはなりません。どっかで(つまづ)くと、もう1年ぐらい時間のびちゃいますし。

 ところで長谷川3人娘の中で、希雨がたぶん一番アンバランスな感じです。彼女は自分の科学技術が『人』に害を及ぼすのは好みません。ですが、彼女の『チカラ』が魔法以外の技術に根差している事もあり、それが一般社会の科学技術の延長線上に存在するせいか、技術の流出については3人の中でも一番『ユルい』ところがあります。ついうっかりで、自分の技術を周囲に見せてしまう事も、今後も多々あるかと。
 そんな感じの、彼女のアンバランスさを上手く書ければいいのですが。
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