千雨Cubed   作:雑草弁士

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025話・第2次実験成功のために

 薄暗い実験室で、真剣な顔で実験に取り組む2人の少女が居た。

 1人は超鈴音。未来からやってきた火星の人間で、未来での悲劇を覆すため、当初の計画とは大きく違ってしまったが今も努力を続けている天才少女その1だ。

 もう1人は葉加瀬聡美。超鈴音の協力者であり、同時に彼女からの技術協力を得てエヴァンジェリンの従者である少女型ロボット(ガイノイド)、絡繰茶々丸を開発したこれもまた天才少女その2である。

 

「……どうネ、葉加瀬?」

 

「待ってください……。今……。3、2、1……」

 

パジィッ!!

 

 実験室の中央に置かれた、電子レンジほどの大きさの実験装置内部に、火花が飛ぶ。

 

「……成功、ですね」

 

「『幻想の生物』が持つ魂ヲ……。その『魂の緒』をジェネシス(ウェーブ)によて生成サレた、蛋白質とミネラルと糖質と水分のカタマリ……。現実の肉体に、『魂の緒』ヲ繋ぎ変える実験は、マウス段階でハ成功ネ」

 

「まあ、これは長谷川さんたちが既にやった実験の、その追試ですから……」

 

「いや、追試だからと言テモ、大事は大事ヨ。色んな条件下で、同様の実験ヲ数限りなく繰り返さないト。冬休みの実験前に、完璧は無くともせめて万全にハして置かねばならないンだヨ!」

 

 超の言葉に、葉加瀬も重々しく頷く。冬休みには系外惑星『TRAPPIST-1f』で、春休みには系外惑星『TRAPPIST-1e』で、それぞれ大規模な実験が待っている。それらが完全な形での成功を収めたならば、おそらくはその次の長期休暇、来年の夏休みを利用して、太陽系の火星で『本番』のジェネシス魚雷(改)を用いるのだ。

 それらの大規模実験や『本番』を(つつが)なく成功裏に終えるため、彼女らは一生懸命に、幾多の実験を繰り返していた。超が語った通り、物事に完璧は無い。だが、だからと言ってせめて万全を期さない理由にはならない。0.1%であろうと、わずかでも成功率を高めなければならないし、そのために彼女らは幾多の実験を繰り返しているのだ。

 だが仮に『本番』を終えたとて、それで全てが完了するわけでは無い。それはまだ、スタートラインに立ったに過ぎないのだ。そこから先は様々な意味で、事細かで広範な調整が必要となる。しかし超は、ひるむ事なくその荒行へと、身を投じる覚悟が出来ていたのだ。ついでに言うならば、まあ葉加瀬もほどほどには。

 

 そしてかの実験装置の中では、1匹の実験用マウスがキョロキョロと周囲を見回していた。

 

 

 

 

 

 

 千雨、希雨、氷雨はこの日、冬休みに行う第2次実験で用いるための、ジェネシス魚雷(改)の最終調整を行っていた。具体的には、これまで行った幾多の小実験の結果をもとに、その結果をソフトウェアのパラメータに反映させていたのである。ちなみにハードウェア的な面は、既に突き詰めるところまで突き詰めてある。

 

「……よし、正、副、そして予備2基の計4基、ジェネシス魚雷(改)の最終調整完了だ」

 

「冬休みの大規模実験は、これで準備できたか……」

 

「やれやれ、これで一段落ついたか。まあ、まだまだ難所は続くが、とりあえずは」

 

 彼女らは手近な端末に、日程表を表示させる。

 

「冬休みは12月25日から1月7日まで。出立は12月25日の00:00時にして、今回は12月31日中には帰って来たいな。流石に大晦日(おおみそか)には、実家に顔出さないといかん」

 

「父さんや母さんには、わたしら(きさめ&ひさめ)の事は、魔法による催眠暗示で『千雨の従姉妹で、自分の子供同然』って思わせてるんだったな。学園長の手配で」

 

わたしら(きさめ&ひさめ)の本来の親は、早くに亡くなったって事で」

 

 その話題が出ると、千雨の表情が暗くなる。それはさもありなん。自分だけ、実の子として両親と対する事が可能で、希雨と氷雨はそうでは無いのだ。ちょっとばかり負い目に思っても仕方あるまい。

 

「……あー、なんか悪いな」

 

「気にすんなって。仕方ねえのは理解してるしよ。それに、それはそれで千雨(てめえ)だって父さん母さんと立ち位置が近い分、色々悩みは深いだろ」

 

「そうそう。父さん母さんよりも、自分の方が年寄りだってのは、距離が近い方が痛く感じさせられるもんだからな」

 

「ん、サンキュ」

 

 そして彼女らの視線は、日程表にある冬休みの少し前に移る。そこには、赤い字で『2学期末試験』と書いてあった。

 彼女らに取っては、中1の学期末試験程度はたいした事は無い。彼女らの知識の大半は、異世界に根差した物であるが故に、この世界における知識との食い違いが生じるという問題は、以前であれば存在した。

 しかし彼女らは既に1学期のうちに、その問題を大方解決している。今現在であれば、彼女らは『この世界』の試験問題であっても、ほぼ完璧に解く事ができるのだ。

 

「うん、試験勉強は問題無いんだ。ただ……」

 

「そう、ただし……」

 

「また、来るんだろうなあ」

 

 彼女らが懸念しているのは、試験そのものでは無い。試験勉強を口実にして、何人か飯やお菓子を食べに来そうな連中が居るのだ。具体的に言うと、長瀬楓、佐々木まき絵あたり。場合によってはエヴァンジェリンも。

 ちなみに古菲と神楽坂明日菜が数に入っていないのは、理由がある。古は普段からときどき手合わせに来て、その都度に飯やお菓子を食べて行く。なので今更数に入れるまでも無いのである。明日菜は明日菜で、実はけっこう良識があるため、真面目に勉強をしに来るのだ。であらば、食べ物を用意してやる事にも、さほど抵抗は無い。

 

「まあ、来たなら来たで徹底的に勉強させるのは違いないんだがな」

 

「ただ、これ以上数が増えてもなあ」

 

「明石や早乙女、椎名、柿崎、鳴滝姉妹あたりがヤバいか。いいんちょあたりに頼んで、釘刺してもらうか」

 

 まあ結局のところ、彼女(はせがわさん)たちは厳しいフリして、結構甘いのである。甘いだけでは無いが。

 

 

 

 

 

 

 2学期末試験の結果が出た。麻帆良学園本校女子中等部1-Aの順位は、学年3位である。それはともかくとして、トトカルチョが当たったの外れたのと騒ぐ一同の中、長谷川3人娘は超、葉加瀬と語らっていた。

 

「オオ、長谷川サンたち。『結果』はどうだったネ?」

 

「超か。まあ、『間に合った』ぜ?」

 

 ここで言っている『結果』とか『間に合った』は、2学期末試験の事では無い。まあ、どうとでも取れる表現に(くら)ましてはいるものの、冬休みに行うジェネシス魚雷(改)を用いた第2次実験の準備の事である。超は溜息を吐いた。

 

「ふう……。こんなところで(つまづ)いてはいられないからネ。悲観的に準備して、楽観的に行動ヨ」

 

「そうだな。さて、いよいよ冬休みか……」

 

「頑張らなければいけませんねー。『本番』までに、しっかり準備を整えないと」

 

「焦んな、葉加瀬。一歩一歩やってかねえと、身が保たねえぞ」

 

 彼女らは、表向き和気藹々(わきあいあい)と、しかしてその裏では確固たる決意を込めて話し合う。そんな彼女らを、少し離れた場所から見つめている数人の女生徒が居た。楓、古、明日菜、まき絵である。

 そして明日菜が口を開いた。

 

「んー、なんか表面は軽口みたいに聞こえるけど……。なんか葉加瀬ちゃんの顔色とか見ると、実は真剣な話っぽいわよね」

 

「そう?」

 

「そうでござるよ、まき絵殿」

 

 楓が明日菜の言葉を引き取って、まき絵に頷く。彼女は腕を組んで、にんにんと呟きながら考え込んだ。

 

「どうしたもので、ござるかなあ……。先の中間試験でも、此度の期末試験でも、拙者たちは長谷川殿たちに甘えっぱなしでござったからなあ……」

 

「そうよねえ。勉強教えてもらっただけじゃなしに、ご飯やおやつまでたかってるし。長谷川たちは嫌な顔こそするけど、その実しっかり受け入れてくれてるじゃない」

 

「受けた恩義を返さずに、放置しておくのは心苦しいでござるなあ」

 

「……ならば、千雨、希雨、氷雨が困ったときは、わたしたちが助ければ良いアルよ!」

 

「あー、そうだね! それはいい考え! ……長谷川さんたちが、困るって言うと、どんな事かな?」

 

 まき絵は首を傾げる。小動物の様で可愛らしいが、その言葉は一同の急所を突いた。明日菜が顔を引き攣らせつつ、言葉を紡ぐ。

 

「……た、たとえばどっかの誰かが、試験勉強を口実にご飯やおやつをたかりに来た時とか」

 

「「「……」」」

 

 雰囲気が、ずーんと重くなる。だがそこへ、楽器のような澄んだ声音が割り込んで来た。

 

「何、貴様らでも出来ることはあろうさ」

 

「「「「!?」」」」

 

 声の主は、エヴァンジェリンである。ニヤニヤと笑ってはいたが、その眼は少々不機嫌そうだ。明日菜、楓、古、まき絵がその視線を追うと、そこには不敵な笑みを浮かべた朝倉和美の姿がある。

 

「……奴は、長谷川たちと超、葉加瀬が組んで、何がしかの『計画』を推進している事に気づいたらしい。そしてそれを興味本位で暴こうとしているな。表向き、マスコミの使命だとかなんだとかの自己正当化は完了しているようだが……。朝倉和美程度では、核心を掴むどころか表面を引っ掻く事すらもできんだろうが。

 だが、はっきり言って、迷惑だ。奴らは朝倉和美の薄っぺらい大義などかすむ程の重い事情があって、やるべき事をやっているに過ぎんのだ。その労力を、僅かであっても浪費させるわけにはいかん。……今のままなら、朝倉和美が邪魔をするようであらば……。必要ならわたしが出張らねばならんか、と思っていたがな」

 

「「「「……」」」」

 

「だが、わたしが出張るのであらば正直な話、朝倉和美はただでは済まん。ただでは済ませられん。そこで貴様らだ」

 

 まき絵はごくりと唾を飲みこむ。エヴァンジェリンの発する『威』に飲まれたのだ。そして古、明日菜は眉を(しか)める。しかしそれは、否定的な意味合いでは無い。何かしら、断じてやらねばならない事情があると承知したが故に、厳しい表情を取ったのだ。そして楓は(おもむろ)に口を開く。

 

「ふむ、これは独り言でござるが。何も知らない拙者らが、単なるクラスメートの立場で、あくまで『ふざけて』和美殿の取材を邪魔するならば、それはあくまでクラスメート同士のじゃれ合い、というわけでござるな。そうすれば、『大事(おおごと)』にせずとも済む、と。

 と言うわけでござるよ、皆の衆。和美殿に『ふざけて』絡むでござれば」

 

「うむ、それでいい。励むがいい」

 

 そして和美は唐突に、新体操のリボンで簀巻きにされて、楓たち4人の手で何処かへと運び去られた。それを唖然として見遣った千雨、希雨、氷雨、超、葉加瀬に向かい、エヴァンジェリンはにっこりと笑いかけてやった物だ。

 

 

 

 

 

 

 本日は12月24日、終業式である。そして巷ではクリスマス・イブであった。長谷川3人娘はクラスで行われたクリスマス会から、今しがた自分たちの邸宅へと帰宅したところである。

 

「プレゼント交換で、わたしは宮崎の用意した恋愛もの、推理もの、ハードSFなどの小説詰め合わせを貰ったんだが」

 

「いいもん貰ったじゃねえか、千雨。わたしは龍宮が出した、エアガンのキットだ。普通の女子中学生が貰って喜ぶ物、考えろよって話だよな。氷雨は?」

 

「長瀬からの、忍び装束一式。『拙者のお下がりで申し訳ないでござるが……』って、忍者隠す気ねえだろアイツ」

 

 ちなみに長谷川3人娘も、プレゼント交換には品物を供出している。千雨は焼き菓子の詰め合わせ、希雨は手縫いの着ぐるみパジャマ、氷雨は自分でインゴットから削り出して作ったシルバーの簡素なペンダントだ。

 ちなみに焼き菓子には、それぞれ一時的に頭の回転が良くなるバフが付いている。着ぐるみパジャマは、実は超科学技術による防弾、防刃、対爆能力付きで、着ていればATライフルで撃たれても怖くない。シルバーのペンダントは、着用時に常時幸運をちょっぴり増してくれる護符(アミュレット)になっている。

 ぶっちゃけた話、出すところに出せば、それをめぐって凄絶な取り合いになりそうなアイテムばかりであった。

 

 そして深夜。長谷川邸に、来客がやって来る。

 

「やあ、長谷川君たち。メリー・クリスマス」

 

「ふぉ、ふぉ、ふぉ。メリー・クリスマスじゃて。これはワシとタカミチ君からのプレゼントじゃ」

 

「やれやれ。基督教の祭りなど……」

 

「おじゃまします、千雨さん、希雨さん、氷雨さん」

 

「千雨サン、希雨サン、氷雨サン、さっきぶりだヨ」

 

「お邪魔します、長谷川さんたち」

 

 来たのは、高畑、近右衛門、エヴァンジェリン、茶々丸、超、葉加瀬である。長谷川3人娘は笑顔で迎え入れた。

 

「いらっしゃい、皆さん」

 

「んじゃ、早速出発するかね」

 

「もう宇宙連絡艇(シャトル)は呼んでありますから、あと数分で来ます」

 

 そう、この後の12月25日00:00時に、千雨、希雨、氷雨、高畑、超、葉加瀬はいよいよ第2次のジェネシス魚雷実験を行うため、系外惑星『TRAPPIST-1f』へと向かうのである。近右衛門とエヴァンジェリン、茶々丸は、それを見送りに来たのだ。

 

 そして冬の夜の冷気を引き裂いて、清冽な光条が降り注ぐ。宇宙から降下して来た宇宙連絡艇(シャトル)の放つライトの光である。宇宙連絡艇(シャトル)は、ゆっくりと長谷川邸前に着陸した。

 

「流石に第1次実験、そして第2次と第3次の実験準備に続いて、3度目の宇宙旅行ともなると、慣れたものですね」

 

「葉加瀬、慣れた時が怖いヨ。気を抜いたら駄目ネ」

 

「わ、わかってますよ。アポロ13号も、そうでしたからね」

 

 そう言いつつも、超と葉加瀬はいそいそと宇宙連絡艇(シャトル)に乗り込む。高畑もまた、それに続いた。

 

「では学園長。行ってきます」

 

「うむ、タカミチ君。しっかりの」

 

 そして千雨、希雨、氷雨もまた、宇宙連絡艇(シャトル)に乗り込んだ。

 

「んじゃ、後の事頼むぜ、マクダウェル」

 

「今回成功すりゃ、大きく計画は進むな」

 

「そう言や朝倉の件、あれはお前の差し金だろ? 助かったよ」

 

「ふ、気にするな。しっかりやって来い」

 

「……」

 

 茶々丸が無言で頭を下げたと同時に、ハッチが閉まり乗降階段が引き込まれる。そしてゆっくりと、宇宙連絡艇(シャトル)は上昇を始めたのだった。




 というわけで、第2次実験へと一行は旅立ちました。高畑先生は、合流前に明日菜にプレゼント渡しに行ったり、大変に忙しかったです。あと近右衛門も、同じく木乃香にプレゼント渡しに行きました。

 そして朝倉さんはクリスマス会終わった後で、長谷川さんたちはガードが堅そうなので葉加瀬あたりを尾行しようとしてたら、楓やまき絵や古や明日菜に絡まれて、簀巻きに(笑)。

 そう言えば、本作ではバカレンジャーは結成されていませんね。長谷川さんたちの行動結果により、楓、古、まき絵、明日菜は1-Aクラスの平均点前後あたりをウロウロする程度ではありますが、点数上がってますので。
 ここで悩んでいるのは、夕映さんどうしよう、って事ですな。彼女を勉強させるためのネタが思いつかない……!!
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