千雨Cubed   作:雑草弁士

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030話・カミサマっぽいのは御免だ

 ジェネシス魚雷の第3次実験が成功裏に終わり、それ以後長谷川3人娘たちはしばらくの間、まあ特に何ともいう事も無しに日々を過ごしていた。だからと言って、ヒマをしていたと言うわけでも無い。彼女らは大掛かりな実験こそ無いものの、地上でもできる小規模な予備実験は相変わらず続けていた。

 

 

「ふう、チェックリストの1番から64番まで埋まったぞ」

 

「とりあえず今のところ、出て来タ問題は全部叩き潰セテいるネ」

 

「ま、とりあえず超も葉加瀬もご苦労さん。この調子ならば、夏休みには本番が出来そうだよな」

 

 

 今回の実験は希雨を除く4人、つまり千雨、氷雨、超、葉加瀬の4人で行っていた。何故希雨が居ないかと言うと、大きな意味ではこの計画の一部ではあるが、細かく言うならば別件である事に忙しかったためである。

 と、その当の希雨が長谷川邸の3階にある指令室から、首をコキコキ鳴らしつつ少々お疲れの様子で降りて来た。千雨がその希雨に声を掛ける。

 

 

「よう、お疲れ。そっちの進捗はどうだ?」

 

「ああ、小惑星帯のあちこちに造った基地で、タイムスケジュール通りに物資の生産は進んでる」

 

 

 物資とは、『魔法世界(ムンドゥス・マギクス)』を現実の火星に定着させた後に、そこの住人達へと送られる支援物資の事である。『魔法世界(ムンドゥス・マギクス)』は長谷川3人娘たちの計画が成功裏に終われば、その中に居る知的生命体を除いてはほぼ全て、魔力に還元され霧散してしまうのだ。あらゆる工業力、あらゆる生産力、そう言った全てが崩壊するのである。

 それ故に彼女らは、地球化(テラフォーミング)が為された火星に定着した『魔法世界(ムンドゥス・マギクス)』の人間たちに対し、支援物資を送る予定なのだ。とりあえずは、元『魔法世界(ムンドゥス・マギクス)』人たちが、ある程度自立できる様になるまでは。そう、希雨は長谷川邸の指令室から無人宇宙船やら宇宙基地やらに指示を出し、その支援物資の生産を指揮していたのだ。

 

 

「ただ生産は予定通りに進んでるんだがな。それを現地に配布する手段として、ロボットたち使う予定でいたよな」

 

「ああ。何か問題か?」

 

「小惑星帯で、有望だったはずの宇宙鉱山がな……。埋蔵量が予想をはるかに下回った」

 

「「「「げ」」」」

 

 

 疲れた表情で肩を竦める希雨は、溜息を吐く。

 

 

「慌てて月面での鉱山の採掘量を増やして、そこからマスドライバーで小惑星帯のロボット生産基地に資源打ち出してるんだけどな。おかげで一時、ロボットの生産がストップした。どこかで穴埋めしないとマズい」

 

「……なら、わたしがどうにかするよ」

 

 

 千雨もまた、溜息を吐いて言う。周囲の面々の視線が、千雨に集まった。

 

 

「わたしの『配下』を出そう。バイオ系の人造細胞を使ったアンドロイドとか、それこそメカメカしい外見の人型ロボットとか、色々取り揃えて1万体は居るからよ。それだけ居りゃあ不足分は補えるんじゃね?」

 

「それだけの数があるんなら、充分だ」

 

 

 希雨が頷く。だが超が怪訝そうな声で疑問を呈した。

 

 

「ところで、なんで千雨サンは今までソレらを使わなかったのカ? ソレらを使えバ、もっと宇宙関係の仕事が容易に、とは言わナくてモ、楽にナタのでハ?」

 

「それな……」

 

 

 それに対し、千雨は眉を(しか)めて答える。

 

 

「そいつら、わたしの『中』でも、かなり『深い』ところに仕舞ってあるんだよ。『浅い』場所か、あるいは空間歪曲庫とかに仕舞ってあるんなら、簡単に出せるんだがな……。『深い』場所に仕舞ってあるモノにアクセスすると、下手すると『わたし』って言う『人間』の『器』が壊れる危険があるんだ。まあ、あんまり可能性は高く無いが」

 

「「!?」」

 

 

 超と葉加瀬は目を見開く。希雨と氷雨はだが、『ああ、うん、なるほどな』的な視線を千雨に送った。

 

 

「それに、これまでわたしは自身の能力を使う必要がある時でも、あくまで『人間』が行使できる限界を超えない様に注意してきた。それは自身の『人間』としての『器』をうっかり壊さないためなんだ。100光年テレポートとかやったけど、あれって以前わたしが訪れた世界で、強力な超能力者とかはなんとかかんとか行使してたレベルの能力だしな。

 人間としての限界を大きく超える力を使った場合、たぶん確実に『わたし』の『人間』としての『器』はブチ壊れて、人格とか精神性とかも人間とはかけ離れた、まあ体よく言ってもバケモノにワープ進化しちまう。可能であれば、ソレはもう勘弁なんだ」

 

「え? もう勘弁……って、なんだかそうなった事があるみたいな言い方、です、ね?」

 

「あるぞ?」

 

 

 さっくり葉加瀬に答えた千雨は、絶句した葉加瀬に目を遣って肩を竦める。そんな千雨に、希雨と氷雨はまるで100%同意だとか言う様にウンウン頷いていた。

 

 

「なあ葉加瀬。なあ超。人間ってのは、いいぞ? なんて言うのかな? 生き甲斐とかさ、幸せとか楽しさとかさ、勿論不幸とか苦しみとかもあるけどよ。何て言うのか、色んな『存在』のレベルの中でさ。そう言う感じのやつのバランスが取れてて、『人間』で居るうちが一番『心地よい』んだよな。

 だからさ、あえて力を抑制、封印してまで『わたし』は『人間』の『器』に自身を頑張って収めた。力は最高のレベルのときよりも格段に下がったけどよ。カミサマっぽいナニカで居るよりも、『人間』の『器』に収まってるのが一番『いい感じ』がするって、わたしはそう思う」

 

「ああ、そうだよな。それにカミサマっぽいナニカになったところで、出来ない事ってのは結局出来ないからなあ」

 

「出来る事が増えたところで、その何倍もの速さで出来ない事も増えてくもんなあ……」

 

 

 氷雨、希雨も千雨に同調して溜息を吐く。つまりは希雨も氷雨も、なんらかの形で『人間』と言う器を壊してしまい、カミサマっぽいが決して神様ではないナニカになってしまった事があるのだろう。

 

 

「ほんと、『人間』の『器』に自身を再生するのに、かなり時間かかったからなあ……。可能であれば、『器』をブチ壊す真似はしたくねえんだ。前回は何年かかったかなあ。数えてねえけど、千年ぐらいはかかったんじゃねえかな」

 

「わたしはもう少し短いかな。標準時で874年2ヶ月12日と5時間32分6秒88くらいか」

 

(こま)かいよ希雨。わたしは力の質や大きさってよりも、個人としての技量の問題なんだろうな。『人間』に戻るのに千五百年近くかかっちまってるよ」

 

 

 超と葉加瀬は、あらためてこの眼前に居る3人娘が、自分たちとは遥かに隔絶した超越存在であると言う事実を突き付けられる。だが同時に彼女らは、この長谷川3人娘たちが強大な力を封じてまでも『人間』でありたいと願っている事に、理屈ではなく何かしら感じ入る物があった。

 そして超は微笑んで言った。

 

 

「ま、ナニにせよダヨ! 千雨サンが保有するロボなりアンドロイドなりを充当すれバ、ロボットの不足分の穴埋めはできるンだネ! ナラバ今の段階での問題はひとまず潰れタと言っていいダロ!」

 

「はー、しかし素晴らしいですねー。実用レベルの人型ロボットに、人造細胞のアンドロイドですかー。いえ、わたしの専門はメカ系のロボットですが。できるならばそれらの技術を教えて欲しいですよー。いえ、駄目ですね。はい。わかってます」

 

 

 葉加瀬もおどけた様子で語る。その様子に、千雨、希雨、氷雨は笑顔になった。

 

 

「まあ、そうだな。全部が全部ダメってわけじゃねえな。そうだなあ、人間サイズの人型ロボに使える、高効率高出力の動力なんてのはどうだ? それなら現行技術の延長線上だからな。

 今現在の絡繰に使ってるのは、魔力炉だろう? だけどソレは市販品の量産品に使うには、魔法使いの掟とかに抵触するし量産も難しいだろ。魔力を介在しない動力源、程度なら見せてやってもかまわないぞ?」

 

「ほ、本当ですか希雨さん!」

 

 

 歓喜の声を上げる葉加瀬に、一同は笑声を零した。

 

 

 

*

 

 

 

 長谷川3人娘たちは中等部の2年生に進級した。とは言っても、この学校は3年間教室は変わらない。そんなわけで彼女らは『1-A』から『2-A』へと教室名の(フダ)が掛け変わっただけの同じ教室に居るわけである。

 そんなわけで、放課後の教室である。普段ならさっさと寮へ帰宅するなり、部活動へ行くなりしている2-A生徒たちが、何故か居残って騒いでいた。千雨はヤレヤレと、(かぶり)を左右に振る。彼女は念話でボヤいた。

 

 

(なあ相坂。うっかりあのパパラッチのカメラに、お前が写っちまったって?)

 

『そうなんですよー。まさか写るとは……。でも写真うつり悪いんで……』

 

(いや、あの写真見るに、モロに心霊写真じゃねえか。写真うつり悪いとかのレベルじゃねえだろ)

 

 

 希雨も念話で突っ込む。ちなみに希雨はもうけっこう以前にメガネに霊視の機能と、そして霊話能力の強化機能を付与していたので、さよの姿も()えるし声も聞こえるのだ。

 と、ここで龍宮真名が氷雨に近づいて来る。彼女は他の面々に聞こえない様な小声で、氷雨に問いかけた。けれど千雨と希雨は地獄耳なので、ばっちりその声が聞こえていたりするが。

 

 

(なあ氷雨。お前は死霊術(ネクロマンシー)が得意だったよな?)

 

(別に得意って言うか、不得手じゃねえけどな。なんだ?)

 

(じゃあ、わたしの魔眼でも居る事はわかるが、あまりはっきりと捉えられないあの幽霊。気付いてたか?)

 

 

 真名の視線は険しい。自身の魔眼ではっきり捉えられないというのが、危機感を煽っているのだろう。氷雨は肩を竦めて答える。

 

 

(気付いてた、っつーか。わたしら3人は、あいつと友人のつもりなんだがな。なんつーか、ちょっと話し声が聞こえて来たんだが。なんかあいつを悪霊扱いしてるみたいだな。

 やめてやれ。あいつは地縛霊の(たぐい)ではあるけどよ。信じられねえぐらい善良で、人畜無害な奴だ。寂しがり屋で、けど寂しいからってそんじょそこらの霊みたいに誰かを仲間として自分と同様の運命に引きずり込もうとかは、全然まったくカケラも考えてねえ)

 

(……そう、なのか?)

 

 

 真名の目が丸くなる。氷雨は苦笑した。

 

 

(今、念話を中継してやるよ。少し話してみやがれ。相坂、今コイツに短い間だけだが話が通じる様にしてやるからよ)

 

『あ、はい! ええと、龍宮真名さんでしたよね!』

 

(あ、うん。ええと、相坂? って言うのか? って、え? 確かクラスの出席番号1番が……)

 

『はい! 相坂さよです!』

 

 

 真名は目を白黒させる。その様子を、長谷川3人娘はニヤリ笑いを浮かべながら眺めていた。しばしの間さよと話をしていた真名は、大きく溜息を吐く。

 

 

(……相坂が悪霊じゃないのは、重々わかった。理解したよ。しかし、どうしたものか。クラスの連中、わたしと刹那を引っ張り出して、悪霊退治だーって盛り上がってるぞ。刹那は刹那で、お嬢様に万が一の事があってはいけないと、なんか積極的だ)

 

『ええっ!? そんな~』

 

(写真うつりが悪かったのがマズいな。あれじゃ悪霊じゃないって言っても、なかなかに信用されないだろう)

 

 

 氷雨も難しい顔をして、眉を(しか)める。困ったものだ。そして真名が、仕方なしに顔を上げる。

 

 

(やむを得んな。わたしが説得して来るよ。長谷川たちは今のところ、料理やメカや武術が得意なだけの表向きは一般人だ。その正体は、逸般人なんだが)

 

(((ちょ)))

 

(まあ刹那に関してはこっちに来させるから、わたし同様に相坂との念話を繋いでやってくれないか? 直接話せば、あいつも理解するだろうさ。他の面々は、一応わたしの実家は龍宮神社だからな。その背景をもって話せば、少しは権威付けになるだろう)

 

『た、龍宮さん! ありがとうございます!』

 

 

 真名はひらひらと手を振って、クラスメートが集まって騒いでいる方へと去って行った。その後は真名がなんとかクラスメートの説得に成功したり、刹那がさよとの念話を繋いでもらって会話して驚いたり、色々あったがどうにか混乱は収束していったのである。

 そして千雨はさよに向かい、語る。

 

 

(けどよ、相坂。お前がクラス名簿に載ってるって事は、学校側というか学園長先生や担任の高畑先生あたり、お前の事を知ってるんじゃね?)

 

『えっ……。あっ、そうですね!?』

 

(いや、あの人たち魔法使いだからな。知ってても、おかしか無いだろけどさ。後で聞いてみるかな?)

 

 

 何にせよ、幽霊の相坂さよは一応というレベルでクラスに認知される。見た目というか写真うつりは悪いというより怖いものの、善良な霊だと言うことで話は纏まったのだった。

 ただこの後、クラスの一部悪乗りが激しい生徒たちにより、コックリさん形式での交霊儀式が流行りそうになったため、それを止めさせるのに長谷川3人娘たちと真名、刹那、そして当の幽霊クラスメート相坂さよまでもが苦労する事になる。コックリさん形式は、余計な雑霊がやって来る可能性も高く、その霊が悪性である可能性もあるため、まったくもってお勧めできないのであった。

 

 

 

*

 

 

 

 そんなこんなで日々は流れる。もうしばらくすれば、麻帆良学園都市全体の学園祭、麻帆良祭の季節であった。2-Aの教室ではLHR(ロングホームルーム)の時間を使い、学園祭での2-Aの出し物を決めるべく会議が行われている。

 そしてクラスのいいんちょ雪広あやかが、教壇上で全員に向けて言った。

 

 

「せっかくのお料理上手な人たちが多数わたしたちのクラスに在籍しておりますから、昨年に引き続き今年も飲食店を開こうと言う事になったのはかまいません、いえ賛成ですわ。

 ですが、昨年大成功を収めたカレースタンドにするべきと言う人が16名。同じ物よりは新たな分野にチャレンジすべきとして軽食を含めたカフェが良いとの人が16名」

 

 

 ちなみに相坂さよはカレースタンドに投票していたのだが、残念ながら集計していたいいんちょの目には見えなかったため、無効票であった。さよはトホホとしょぼくれていたそうである。

 

 

「というわけで、再度決戦投票いたしますわ。ただし今度こそきっちり結果を出すべく、集計役であるわたくしが棄権いたします。そのようなわけで、皆様投票をお願いいたしますわ!」

 

「「「「「「おおー!!」」」」」」

 

 

 クラス全体が、無駄に沸き立つ。とりあえず他のクラスもLHR(ロングホームルーム)であり、同様に麻帆良祭の出し物を決めているのだろうから、文句を言いには来ないが。でもたぶん、新田先生あたりは蟀谷(こめかみ)に血管を浮かべているに相違ない。

 そして今年の出し物は、軽食カフェに決定した。千雨、希雨、氷雨の長谷川3人娘はちょっとだけ考え込む。カレースタンドよりも調理のバリエーションが広い分だけ、昨年よりも調理班の難易度は高くなるのは目に見えていた。

 

 

「わたしらは調理班に入る事が全員一致で決定してしまったが……。さて、今年は店舗の設営班もマトモに仕事してくれるだろうな?」

 

「いや、誰が店舗設営班に入るかが怖え」

 

「マクダウェルは服飾班決定だろ?」

 

 

 そんなこんな言いながら、長谷川3人娘たちはそれでもそこはかとなく楽しそうだった。これも人間であるが故の楽しさである。彼女らは、『人生』を生きるために『人間』の『器』をとてつもない苦労の末に取り戻し、そして故郷であるこの世界へと帰還して来たのである。

 しかしながら千雨は、わずかに不安じみたものを感じていた。それは彼女の『超感覚(ESP)』によるものだったのかも知れない。その不安感の源は、麻帆良学園都市のはるか地下から感じ取れる。

 

 

(……希雨や氷雨ですら、感じ取れてねえ、か。超能力方面は、『薄い』からなあ、2人は。これは、いったい……何だ? どう対処したもんかな?)

 

 

 千雨は小さく、溜息を吐いた。




ちょこっと長谷川さんたちの内幕をご開帳。彼女らは麻帆良がある世界に戻って来るよりもかなり前の話なのですが、自身の『人間』としての『器』をブチ壊して、決して神様でこそ無いものの、カミサマっぽいレベルにまで至っていました。
ですが結局のところ、彼女らにとってソレはあまり価値のある物では無かった模様です。彼女たちにとっては、人間として生きる方が楽しく嬉しい模様ですね。ですので彼女らは、ナントカして人間レベルの精神性と人格、そしてソレを壊さない程度に抑えた能力で生きようとしている様です。
まあそんな中でも、『咸卦法』を新たに習得したりとか、新たな引出しを増やす事は頑張っているのですが。力の上限みたいな物はあっても、引き出しは多い方が色々な物事には安定して対処できますからね。

まあ、どっちにせよバグキャラなんですけどね!
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