千雨Cubed   作:雑草弁士

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004話・科学の要塞とエヴァの呪いと

 麻帆良学園本校女子中等部の入学式を明後日に控えたこの日、近右衛門、高畑、エヴァンジェリンは、麻帆良学園本校女子中等部の女子寮から徒歩で1時間ほど離れた場所にある、ちょっとした森の中にやって来ていた。当然の事ながら、エヴァンジェリンの従者である茶々丸もまた付いて来ている。

 エヴァンジェリンは毒づく。

 

「まったく、なんでわたしがわざわざ足を運ぶ必要がある。ジジイとタカミチだけで構わんだろうが」

 

「そう言わないでくれよエヴァ」

 

「おぬしからすればちょっと離れてはいるが、お隣さんになるんじゃろう?」

 

「だったら向こうの方から挨拶に来るべきだろうが! 引越し蕎麦を持って!」

 

 そう、ここの森にはエヴァンジェリンの居住しているログハウスがある。そしてこれからは、先ごろひょんな事件で3人に増殖してしまった長谷川千雨らも、この森に住む事になるのであった。

 実際のところ、先日の『長谷川千雨消失・増殖事件』が起きた時点では、『千雨』は既に麻帆良学園の女子寮に入居していた。しかし突然3人になってしまった事や、なし崩しに魔法を始めとした異能力者になってしまった事もあり、急遽一般人の多い女子寮から隔離して別宅を与える事になったのである。

 そして千雨らはエヴァンジェリンと同様に、近右衛門の個人所有する不動産であるこの森の土地を一部売却され、そこに家を構える予定なのだ。というか、土地は近右衛門から既に正式に買い取ったが、家を建てるのは本日この日に行うと言う事で、近右衛門たちはそれを見に来たのだ。

 

「いらっしゃい、学園長先生に高畑先生、それにマクダウェルと絡繰」

 

「オマケ扱いするんじゃない!」

 

「こんにちは、長谷川さん」

 

「ほっほっほ、こんにちは長谷川君……ええと、どの長谷川君かの?」

 

「こんにちは、ええと髪の毛を1本の三つ編みにしてるから、『千雨』君かな?」

 

「ええ、『千雨(1st)』で間違ってません。『希雨(2nd)』と『氷雨(3rd)』は向こうにいますよ」

 

 そう、千雨『たち』は、各自の名前を決めていた。『1st』であった千雨が『千雨』を名乗ることは以前から決まっていたが、『2nd』は『希雨(きさめ)』、『3rd』は『氷雨(ひさめ)』と名乗る事にしたのである。呼び名の『音』が比較的近いのは、万が一『ちさめ』と呼ばれて反応してしまった時に言い訳が効く様に、用心のためだった。

 なお見分けのために、彼女らは基本的に髪型を別個のものにしている。千雨は1本の三つ編み、希雨はポニーテール、氷雨はストレートだ。なおフレームレスの伊達眼鏡は、断固として外そうとはしない。かつては対人恐怖症と赤面症をどうにかするための防壁であり、伊達眼鏡が無くては他人と話すのもつらかったのであるが、今の彼女らは遠の昔にそれらを克服している。

 では何故に伊達眼鏡を着用しているのか。実は千雨も希雨も氷雨も、この伊達眼鏡をマジックアイテムなり超科学技術のアイテムなりソレを遥かに超える神器なりに強化してあったのだ。しかも一見してそれら伊達眼鏡が超絶的な『能力(チカラ)』を秘めているなど、達人魔法使いであっても感じ取れないほど高位の隠蔽技術が施されてもいる。

 そんなわけで、彼女らは単に便利だからと言う理由で、今なお伊達眼鏡を愛用しているのだ。いや、彼女ら本来の『能力(チカラ)』を開放したなら、伊達眼鏡に秘められている『能力(チカラ)』すらも必要無いのであるが。

 

 そして近右衛門たちを引き連れて、千雨は森の道を進む。なお森の道と言っても、十二分に整備が行き届いており、自動車も走るのに不自由は無い。

 

「おお……」

 

「これは……」

 

「貴様、これを他人に見られたらどう言い訳するつもりだ?」

 

「いや、マクダウェル。別に魔法使ってないから、いいんじゃね? 単に重力/慣性制御のちょっとした応用なんだが」

 

 その場では、今まさに長谷川邸の建築作業中であった。というか、多数の建造物のモジュールがフワフワ宙に浮いており、それがひょいひょいと次々に積み重なって邸宅を構成して行く。魔力の類が感じられないから、確かに魔法では無いのだろうが。

 

「おおい千雨。案内代わるから、自分の個人スペースとか組んじまってくれねえか?」

 

「ああ氷雨、わかった。それでは先生たち、マクダウェル、絡繰、わたしはこれで」

 

「さて、いらっしゃい先生方、マクダウェル、絡繰」

 

 唖然と邸宅が組みあがって行くのを見ていた近右衛門と高畑が、なんとか我を取り戻して氷雨に挨拶を返す。

 

「ああ、うむ。が、頑張っておるようじゃの」

 

「き、今日だけで家を建てるって聞いたから、人払いでもして魔法を使って建てるのかと思ってたよ」

 

「ああ、人払いだけはしてありますけどね。今から人に見られたくない作業があるんで」

 

「いや、この建材とか部屋のブロックとかが宙に浮いてるのも、見られたら言い訳に大変だろうが」

 

 エヴァンジェリンの目線は、ジト目になっている。氷雨は失笑して肩を竦めた。

 

「まあ、科学技術だって言い張ればいいんじゃね? と言うか、実際のところ希雨由来の科学技術だしな。ああいや、突き詰めれば魔法だって科学技術の1種なんだけどよ。『科学』って言葉の本来の意味からすれば、ありとあらゆる学問は科学だしなあ。国語とか社会科ですら、人文科学とか社会科学に含まれるんだし。

 魔法ってのは一般に、自然界に存在する魔力や精霊と言う物の性質や挙動を研究して、それを活用する技術だからな。それってはっきり言って、自然科学およびその応用である科学技術そのものだ。

 わたしは、科学と魔法を無理に分離して語る風潮には、ちょっとばかりモノ申したいな。魔法は科学だぜ? 科学の一分野だぜ?」

 

「……言いたいことは理解できるが、現実問題としてこの資材や建材が宙を飛んでる光景には、それこそモノ申したいな。魔法関係者がコレを見たら、普通は狭義の意味での科学技術ではなく、秘匿されるべき魔法を大っぴらに行使しているのではないか、と思い込むぞ」

 

「ま、その辺は上手くやるさ。希雨のやつが、それこそ科学技術の粋を尽くした小型のロボット……ドロイド使って、周辺見張ってるからな。人払いが効果の無いタイプの人間や、メカ類が入って来ない様に」

 

 ちなみに3人娘の中では、千雨はオールラウンダー(なんでもできる)、この氷雨は魔法や魔法に類する技術の類に秀でており、今邸宅の建築指揮を執っている希雨が科学技術の大家である。まあ希雨が修めている科学技術は氷雨が言った通り広義の科学技術なので、希雨は人文科学も社会科学も得意であるし、魔法についても『科学技術の一環として』『彼女の基準で』並レベルに普通に習得している。まあソレ(まほう)が専門の氷雨や、万能選手(オールラウンダー)の千雨には魔法については敵わないのであるが。

 そして氷雨が楽しそうに言う。

 

「あ、来ましたね。アレが余人には見られたくないモノです」

 

「「「はぁ!?」」」

 

「……」

 

 ちなみに茶々丸は、黙りこくっている。どう反応して良いのかわからないのだろう。何がやって来たかと言うと、突然空中に光が走ったかと思うと、中空に全長200mはあろうかと言う、いかにもSFの宇宙船にしか見えない代物が出現したのである。

 

「な、氷雨君、アレは……」

 

「見ての通り、宇宙船ですね、高畑先生。希雨のやつがこの世界に持ち込んだ物品の1つです。わたしと千雨も希雨から話を聞いたときには『え゛』とか思いましたが。でも希雨の構想で、緊急時に備えて家の中枢部に脱出用の宇宙船を仕込んで置くのは悪くないかと思い直しまして」

 

 そしてその宇宙船は、ギゴガゴゴゴゴと擬音を立てて基地モードに変形しつつ、建設中の邸宅の中央部に着陸した。宇宙船が基地モードに変形してはまり込んだ事により、長谷川3人娘の邸宅は、ほぼ完成となる。

 と言うか、3人が住むだけでは持て余しそうなほど立派な邸宅である。しかも中枢部が宇宙船の変形した基地であるため、どう見ても科学の要塞だ。どこからか巨大ロボットでも発進してきそうである。ちなみにエヴァンジェリンはその事を、素直に口に出した。

 

「……巨大ロボでも出てきそうな建物だな」

 

「知ってるだろ? わたしの魔導機兵の整備場とか、地下に(しつら)えてあるぜ?」

 

「……貴様は巨大ロボを持っていたのだったな」

 

「あと希雨曰く、あの宇宙船も基地モードの他に、ロボットモードにも変形するそうだ」

 

「もういい、もう腹いっぱいだ……」

 

「そう言わずに。今日は千雨が先生方も含めて、料理振舞ってくれるそうなんだが。流石に人間の一生を超えるどころじゃない、長きに渡る研鑽の結果だ。

 わたしと希雨も料理の腕前はそこそこに自信持ってたんだが、あっさりとソレを打ち砕かれたぞ。腹いっぱいとか言わずに、食ってけ」

 

「そういう意味で腹いっぱいと言ったのではない!」

 

 がーっと咆哮するキティを、ハイハイと笑いながら宥める氷雨を見て、高畑と近右衛門、茶々丸は各々で思う。長谷川3人娘は間違いなく、エヴァンジェリンの600余歳を遥かに超える年月を生きてきているに違いない、と。3人娘は具体的に何年生きていたか言いはしなかったが、あの貫禄と言うか余裕たっぷりな様子からして、たぶん間違いは無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 そして昼食の席である。食堂で待つ一同の前に、コーンポタージュのスープとサラダ、そしてメインとしてビーフシチューをソースにしたオムライスが運ばれてきた。まるでファミレスのセット料理のような品に、一瞬眉を(しか)めたエヴァンジェリンだったが、その鼻腔を(かぐわ)しい匂いがくすぐる。彼女はフンと鼻を鳴らすと、手近な席にどっかと腰かけた。

 その様子に苦笑を漏らした近右衛門や高畑であったが、彼らも椅子に腰を下ろす。千雨、希雨、氷雨もまた空いている席に座った。茶々丸は残念ながら飲食機能はフェイクでしか無いので、この場はエヴァンジェリンの後ろに立っている。千雨は(おもむろ)に言葉を紡ぐ。

 

「今日はわざわざ来ていただいて、済みませんでした」

 

「いやいやいや、ワシらとしても一応は君らのやる事は、重要な案件ならば見ておく必要があるでのう」

 

「まあ、そんなもんですか。わかります。とりあえず今日は、ちょっとばかり手抜きの簡単な料理ですけれど用意しましたんで、食べて行ってください。冷める前に、どうぞ」

 

「うむ、いただくとしようかの」

 

「ありがたくいただくよ、長谷川君」

 

「……フン」

 

 そして各々は、料理に手を付ける。そして一瞬、空気が凍った様な雰囲気になった。更に次の瞬間、各自はスプーンとフォークを忙しく動かし始める。黙々と、彼らは食べ続けた。万が一に冷めてしまったら、もったいないとばかりに。不遜な態度を取っていた、エヴァンジェリンですらも、だ。

 千雨、希雨、氷雨はその様子を微笑と共に見遣る。千雨はこの料理を用意した側であるし、希雨、氷雨は既に数回ばかり千雨の料理を食べているので、心に余裕があった。

 

 やがて食事が終わり、〆のコーヒーが各自に配られる。それを飲み終わると、一同は(おもむろ)に感嘆の息を吐き、言葉を紡ぐ。

 

「「……ごちそうさまでした」」

 

「うむ、ごちそうさまじゃった。まっこと美味かった」

 

「ごちそうさまでした。素晴らしい仕事だね……」

 

「ごちそうさま。……これはわたしの完敗だ。見事と言わせてもらおうか」

 

 エヴァンジェリンすらも、手放しの賛辞を送る。千雨はニヤリと笑顔を浮かべた。

 

「そいつは、どーも。ま、美味しく食べてもらって、作った方としても嬉しいよ」

 

「これで手抜きの簡単な品だと言ったな? 貴様が本気で調理をしたら、どれぐらいの物になるのだ?」

 

「そのうち機会があれば、食わせてやるよ」

 

「ふむ、楽しみにしておこう。……十数年にも渡る女子中生活だが、少しは無聊の慰めになるか」

 

 寂しげな表情になるエヴァンジェリンに、何がしかの物を感じたのか、希雨が近右衛門に問いかける。

 

「学園長先生、マクダウェルなんですが……。先日麻帆良に関する説明を受けた時に聞いた話では、12年前までは600万$の賞金首の吸血鬼で、ソレがとある魔法使いに敗北して麻帆良に封印されて、何度も何度も中学生を繰り返してるって事でしたが。

 ……流石に中学を繰り返すってのは、どうなのかと思うんですが。単に麻帆良の地に縛り付ける程度でも、不死者には充分な罰では? それにマクダウェル、悪い奴なんでしょうが非道な奴には思えません。ここ数日の付き合いでしか無いですけど、そんな気がします。せめて進学ぐらいは許されても……」

 

「貴様! 同情など! ……いや、同情などいらぬよ。みじめになるだけだしな」

 

「エヴァ……。いや、エヴァにかけられた呪いは、本来3年で解除されるはずじゃった。なれど封印の呪いをかけた魔法使いが3年後に来なくてのう。しかもその後、そやつの訃報が裏社会に流れてしもうて……。

 そしてエヴァの呪いを解ける者は、ついぞ居らぬでな。呪いの魔法自体が、何やらバグっておるのではないかとの疑いもある。さなくば高校、大学への進学ぐらいは許されてしかるべきじゃからのう」

 

「あと、僕らの様にエヴァを個人的によく知る者以外の魔法使いたちが、エヴァの呪いを解呪する事に否定的な事も理由の1つだね。何年か前には学園長が、エヴァの呪いは3年で解かれるはずだったから、と言って解呪への協力を募ったんだが……。協力してくれる者はほとんど居なくてね……」

 

 千雨、希雨、氷雨の3人は顔を見合わせる。そして魔法関係の専門家である氷雨が声を上げた。

 

「なあマクダウェル。ちょっとばかり詳しく『()』てもかまわないか? いや、以前も『()』はしたけどよ。あのときは、あくまでざっくりと『()』ただけだったからな。わたしらの魔法技術は異世界由来の物だから、もしかしたら何かしらの解決策になるかも知れん。まあ、術の形式が違いすぎて、何の助けにもなれない可能性も大きいんだが」

 

「『()』たければ、勝手に『()』ればよかろう。期待はせんでおこう」

 

 エヴァンジェリンは半ばふてくされて答えた。その声音には、期待しても、きっと『また』裏切られるのだろうとの諦観が感じられる。そして千雨、希雨、氷雨は精神を集中し、エヴァンジェリンに視線を向けた。

 

「「「……げっ」」」

 

「!? な、何が『げっ』なのだ!?」

 

「マクダウェル、ちょっと確証を掴むために、もうちょっと詳しい検査をしたい。3階に付き合ってくれ。大がかりな調査機材が置いてあるからよ」

 

 希雨の言葉に、エヴァンジェリンは目を見張る。

 

「あ、お、う、うむ……。まさか……。まさか何がしか、掴めたのか!?」

 

「まだぬか喜びになる可能性も高い。あんま期待すんな」

 

「あ、う、ああ。わかった」

 

 そして一同は、長谷川邸の3階へと上がる。この部分は新たに建てた部分ではなく、例の宇宙船が基地モードになった部分であった。当然と言っては何だが、様々な超科学(オーバーテクノロジー)の機材が無造作に転がっている。

 そして希雨の指示に従い、エヴァンジェリンは病院のMRIに似た機械に押し込まれた。3人娘は、機械の傍らの大型ディスプレイの前に集まって、ああでもない、こうでもないと議論している。

 

「高畑先生。マスターは……」

 

「うん、こうなったら長谷川君たちに任せるしか無いと思う。まあ悪くても今まで通りで、これ以上悪化はしないだろう。もし好転すれば、エヴァの呪いの解呪に、なんらかの進展が見込める」

 

 茶々丸の問いかけに、高畑が答える。茶々丸の声が不安げだったのは、人工知能(AI)の成長なのか、単なる気のせいなのか。そして3人を代表して、千雨がエヴァンジェリンに声をかけた。

 

「もう機械から出てもいいぞ、マクダウェル」

 

「……結果はどうだったのだ?」

 

「うん、たしか『登校地獄(インフェルヌス・スコラスティクス)』とか言っていたか、この呪い。うん、バグってる。調べたところ、呪いの発動から3年経過したら、つまり中学を卒業したら、自動的に呪いが解除される様な仕組みにはなっていたな。術者の魔法使いが3年で来なかったというのはたぶん、自動的に解呪されたと思い込んでたんじゃないかな」

 

「な!?」

 

 驚くエヴァンジェリン。そして説明を、魔法の専門家である氷雨が引き継ぐ。

 

「だけど、ここで3年後の自動的な解呪の術式を組み込んだのが原因じゃないかと思うんだが。組み込みにトチってるな。呪文詠唱の際に、何か余計な台詞でも挟んだんじゃねえか?」

 

「そ、そういえば! ナギの奴、アンチョコを見ながら呪文を唱える時、『長いな、この呪文』とか呟きおった!」

 

「アンチョコかよ。呪いの終了処理に行く直前に、術式プログラムの冒頭に強制ジャンプしてやがるな。あともしかしてマクダウェル、修学旅行とかにも行けてないんじゃね?」

 

「う、うむ! これまでの12年間、4回とも修学旅行には行けておらん!」

 

「まあ、それは……。マクダウェルが強かったのも理由の1つかもな。必要以上に莫大な魔力をブッ込んだのが遠因だ。直接の原因は、やはり呪文に余計な物を混ぜ込んだせいだが」

 

「「おお……」」

 

「……」

 

 傍で聞いていた近右衛門と高畑が感嘆の声を上げる。茶々丸は無言だが、その目が泳いでいた。そして氷雨はエヴァンジェリンに問いかける。

 

「んで、どうする?」

 

「? ど、どうする、とは?」

 

「多大な悪影響を甘受して、今すぐ呪いを解呪するか。バグった呪いを正常化して、3年後に卒業するときに自動解呪されるか。悪影響なしに呪いを即時解除ってのは、わたしでも無理だな」

 

「悪影響とは?」

 

「うん、即時の呪い解呪は、より強大な魔力をもってして強引に呪いの術式を破却する手法なんだが。それやると、マクダウェルの心身にも多大な悪影響を与えるんだよな。普通の武器じゃ吸血鬼の真祖は死なないって言うけどよ。普通の武器じゃなく、神聖な武器か何かで致命傷をくらったぐらいのダメージが、お前さんに降りかかる。……たぶん今よりも弱体化した状態で、20~30年ぐらいは復活に必要になるぞ?

 だからわたしとしては、呪いのプログラムを修正・正常化して、3年後の卒業を目指すのがお勧めだ。3年生の時には、修学旅行にも行けるぞ。ああ、ただし授業とかにはきっちり出席してそこそこ良い成績を取れよ? ……さて、どうする?」

 

 エヴァンジェリンは少々悩んだ様子だったが、やがて頷く。

 

「うむ……。考える余地は無いな。もう3年間、頑張るしかあるまい。しかし、貴様たちは良いのか? わたしは吸血鬼、悪の大魔法使いだぞ? その様な者を開放して……」

 

「「「てめえこそ、わたしらを甘く見んなよ?」」」

 

 千雨、希雨、氷雨が異口同音に言った。そして彼女らは、言葉を続ける。

 

「無論の事、呪いの正常化の代価は、きっちりいただく。報酬をいただいて仕事をする以上、誰はばかる事もねえよ」

 

「そうだな。マクダウェルの持ってる『呪文書』を全部写させろ。この世界の魔法書は、先日に学園長先生からもらった、初等教本しか無いんでな」

 

他所(よそ)から文句が来たら、いざとなれば実力で黙らせてやるから、安心しとけ」

 

「……そうか。……よろしく、頼む」

 

 エヴァンジェリンは居住まいを正すと、3人娘に頭を下げる。その礼には、万感の想いが込められていた。ちなみにそれを見た近右衛門と高畑、茶々丸は驚きの声を上げる。

 

「エヴァが頭を下げたじゃと!?」

 

「そんな事が!? あ、いや」

 

「マスター、お熱を測りましょう」

 

「貴様らーーー!? わたしとて、高度な技術とその持ち主に対し、敬意ぐらい払うわーーー!!」

 

 その後、本来であれば長谷川3人娘は新築部分の仕上げをする予定だったのだが、急遽予定を変更する。彼女らはまず、魔法の専門家である氷雨の個人用スペースに造られる予定であった、魔法の儀式場を大至急仕上げる事にした。そして引き続きその儀式場で、エヴァンジェリンの『登校地獄(インフェルヌス・スコラスティクス)』の呪いを修正する。

 これほどまでに急いだのは、明後日に麻帆良学園本校女子中等部の入学式が迫っていたためである。『登校地獄(インフェルヌス・スコラスティクス)』が不登校児を強制的に学校に通学させるための呪いであったため、呪いをまっとうに修正するためには卒業式と入学式の境目の短時日しかチャンスが無かったのだ。これを逃しては、次のチャンスはまた次回3年後のエヴァンジェリンの卒業式を待たねばならない。

 

 何にせよ、呪いの修正はなんとか入学式までに間に合った。というか、その日の朝日が昇る頃に、ようやく終わったのである。そしてこの日、千雨、希雨、氷雨の3人は平然と、エヴァンジェリンは必死で眠い目をこすりつつ、茶々丸は一見無表情に、それぞれが入学式を迎えたのである。




 いきなりエヴァの呪いが正常化しました。3年後の卒業式にはきっちり本当の意味で卒業できますし、3年生の修学旅行にも参加できます。……まあ実は、『入学より前にエヴァの呪いをどうにかしよう!』とは当初より思ってたんですが(笑)。
 千雨たち3人娘が、数日の付き合いしかないエヴァンジェリンに対してちょっと親切すぎるかとも思いましたが、これは長い長い年月を生きた千雨たちの感覚が、一般的なソレとズレを生じたためですね。千雨たちからすればちょっとした手間でしかない程度の話ですので。後からそのズレには当人たちも気付いてますが、今更話を引っ込めるのも何ですし、強行してます。
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