千雨Cubed   作:雑草弁士

7 / 30
007話・みんなのうた

 麻帆良学園都市では年に2回、学園都市全体のメンテナンスのため、20:00から24:00までの間、一斉停電の時間が取られる事になっている。各建造物のエレベーターはおろか、街燈すらも消灯してしまい、学生は外出禁止、麻帆良全体が完全な闇に包まれるのだ。

 そしてちょうどこの晩が、春季の一斉停電の日である。学校の購買では停電セールとして懐中電灯や蝋燭(ロウソク)などを大量に取り揃えていた。1-Aのお祭り好きな面々、鳴滝姉妹などはまるでイベントの様に思っているらしく、キャイキャイと騒いでいる。

 

 それを後目に、千雨、希雨、氷雨の3人は揃って『めんどくせー』と考えていた。麻帆良は世界樹……神木蟠桃とか、図書館島に収められた古今東西の魔導書とか、色々な敵から狙われるだけの理由に事欠かない。そして今晩の停電は、麻帆良を狙う者達からすれば千載一遇の機会に思われても仕方のない事だろう。

 それ故に一斉停電の晩に於いては、魔法先生や魔法生徒、更には傭兵などまで総動員して、夜通しの警戒にあたるのが常であったりする。無論長谷川3人娘も、今年の春先より魔法生徒として登録されている以上、それに参加する義務があった。

 

 千雨は念話で愚痴る。

 

(既定の報酬が出るって言ってもよ……。異世界から持ち込んだ財宝を換金したから、金にゃ困ってねえんだよなあ……)

 

 希雨も念話で愚痴る。

 

(わたしたちゃ既に睡眠不要になってるし、その気になりゃ呼吸も飲食もやめたって平気な身体だけどよ……。だからと言って眠るのが嫌なわけじゃなし、普通に寝こけてたい……。それがダメなら、ネットしてたい……)

 

 

 氷雨も念話で愚痴った。

 

(ほんとになあ……。わたしらは、『立派な魔法使い(マギステル・マギ)』とか目指してるわけじゃないし、放っておいてくれねえかなあ……)

 

 そこへ声をかけて来る者がいる。1-A出席番号1番の相坂さよ、であった。ただしそれは、長谷川3人娘だけにしか分からない。いや、たぶんエヴァンジェリンや、なんか人間ではなさそうなザジ・レイニーデイあたりならば彼女に気づいたり話ができるんでは無いかとは思われるのだが。

 

 そう、相坂さよは幽霊である。比喩でもなんでもなしに、正真正銘の幽霊さんなのだ。

 

『あ、あのー。大変そうですね? また魔法使いとしてのお仕事ですか?』

 

(相坂か……。お前、他の奴には見えづらいって言っても、見える奴いないとも限らねえんだから、あんまり声に出して魔法使い魔法使い言わねえでくれ)

 

(お前、1-A魔法生徒の顔合わせのときに教室いたもんなあ。わたしら、てっきりお前も関係者だと思ってたから(とが)めなかったんだが……)

 

(あー、相坂。すまん。3人の中ではわたしだけお前、よく見えないしよく聞こえないんだよな。今は氷雨に中継してもらってるから、なんとかボンヤリ見えるけど。はぁ……。霊視メガネでも作るかな?)

 

 3人はさよと会話するときは基本念話を使うので、(はた)で見ている人間にもなんら不自然に思われない。千雨、氷雨、希雨はさよには済まないと思いながらも、愚痴を垂れ流す。だが小夜の側でも、『友人』の役に立てるのが嬉しいとばかりに愚痴の聞き役に回るのだった。

 

 

 

 

 

 

 戦場に、歌声が響く。その声は、少女の物だ。澄み通ったその声に乗って、少女の右手に持たれた『刀』と左手に持たれた『脇差』が躍る。黒光りする和洋折衷の甲冑に身を固めたその少女は、誰あろう千雨であった。

 大小の二刀が振るわれると、千雨の周囲を取り巻いていた巨躯の『鬼』どもが首を刎ねられ、頭をかち割られ、全身を真っ二つにされて消滅する。ならばと弓矢を(たずさ)えた別の『鬼』どもが、遠距離から矢を射た。だが千雨があらかじめ唱えておいた呪文……『矢返し(リバース・ミサイル)』の魔法により、その矢は反転。矢を射た『鬼』どもの頭を貫く。

 

『だ、だめじゃ! しかもあの小娘が歌っておる戦歌(いくさうた)を聞くと、なんとはなしにこちらの戦意が削がれてしまうわ!』

 

『あー、これはあかんなあ。わしらを召喚()び出した術者も逃げてしもうたしのう』

 

『なれど、わしらは逃げるわけにも行くまいて。やるしか無かろう』

 

 そう言うと、『鬼』どもの指揮官格であった一際(ひときわ)大柄な『鬼』どもが、千雨に向かい突進して来る。千雨は左手の『脇差』を鞘に納めると、右手の『刀』を両手持ちにする。

 ……そして『刀』が一閃する。千雨の歌っていた歌が、終わった。それと同時に『鬼』の指揮官格であった大柄な3体と、その後ろに居た残りの『鬼』ども11体が、ずたずたに裂かれて消滅……『(かえ)って』行く。千雨はぽつりと呟いた。

 

「『斬』位剣技、『鳳龍千手斬』……。」

 

『ヒョー、スッゲェジャネエカ。ナアナア、オレトモ斬リ合イシヨウゼ』

 

「チャチャゼロか……。てめえは麻帆良結界の中じゃ動けないだろうに。マクダウェル、逃げた敵の首魁は?」

 

「茶々丸が運んでくる途中だ。『眠りの霧(ネブラ・ヒュプノーテエイカ)』の魔法で、ぐーすか眠ってる」

 

「そか」

 

 千雨の後ろに現れたのは、肩に人形の従者(チャチャゼロ)を乗せてその手に魔法薬を(たずさ)えたエヴァンジェリンであった。エヴァンジェリンはニヤリとした笑みを浮かべて言う。

 

「器用貧乏だとか言っていた割には、やるではないか。少なくともあの近衛木乃香の『護衛ごっこ』をしている半人前よりは見られる剣技だったぞ?」

 

「剣技の才能自体はあっちの方が上だろうさ。ただ、年期が違うだけだ」

 

「……それだけではあるまい。貴様の剣技は、命を削って磨かれた物だ。桜咲刹那とて妖物相手に血を流して剣技を磨いたのであろうが、貴様はそれどころじゃないだろう。殺し、殺されかけ、そして殺してでも生きる覚悟を決めた者の剣だ」

 

「そりゃそうだ。まあだけど、剣技だけじゃないけどな」

 

 千雨は『刀』……『武士道ブレード』と、若干(+1)の魔力付与が為された『脇差』を何処(いずこ)かへと仕舞い込む。更には着用していた甲冑も、いつの間にか麻帆良学園本校女子中等部の制服へと変わっていた。

 

「あ、絡繰が敵ボスの術者を連れて来たな。んじゃ、戻るか」

 

「ああ。……ところで先ほど、戦いの最中に歌っていた様だが、あれは何だ?」

 

「あー、今回の仕事が気が乗らなかったんでな。でもやる以上はきっちりやらにゃならんだろ。だから気合い入れの意味も含めて、『戦歌(バトルソング)』の魔法を」

 

「……そ、そうか。きちんと意味があって歌っていたのか」

 

 そして茶々丸と合流した彼女らは、後方の拠点へと移動して行ったのである。

 

 

 

 

 

 

 同じ頃、エヴァンジェリンに半人前と称された桜咲刹那も頑張っていた。彼女とチームを組んでいたのは、希雨である。前衛の刹那に、光線銃レーザー(レーザーガン)等で支援する希雨の組み合わせは、敵である悪の魔法使い連中にそこそこ有効的であったりする。

 

「神鳴流奥義! 『斬岩剣』!!」

 

「ぐがぁっ!!」

 

 刹那の剣が、また1人の魔法使いを戦闘不能にする。生きてはいるが気絶しているし、それ以前に魔法の発動体である杖が『斬岩剣』で折られてしまっているので、どうせ戦力外ではあった。

 

「あと2人……!?」

 

「桜咲、気をつけろ!」

 

「ち……。作戦失敗か。仕方ねえ……。おい! 切り札の召喚呪符使え!」

 

「わ、わかった!」

 

 長衣(ローヴ)姿の敵魔法使い2名が、懐から何枚もの呪符を取り出して、地面に叩きつける。すると、それらの呪符から次々に、ヤギの頭をして四本の腕を持った悪魔が湧き出す。その数12体。敵の魔法使いのリーダー格が叫んだ。

 

「悪魔ども! そのメスガキどもを叩き潰せ! 俺たちの逃げる時間を稼げ!」

 

ごあああぁぁぁ……。

 

 下位悪魔(レッサーデーモン)共は動き出す。こいつらは魔物が力を封じられる麻帆良結界の内側で、どうにか普通に活動できる限界の強さの悪魔どもだ。そして下位悪魔(レッサーデーモン)共が一斉に咆えた。

 

があああおおおぉぉぉうううぅぅぅ……。

 

 すると下位悪魔(レッサーデーモン)の眼前の中空に、幾多の火球が湧いて出る。あの咆哮は、どうやら呪文であった模様。火球が射出され、大爆発を起こす。爆炎は、刹那を巻き込んだ。

 

 そして刹那は、いつの間にか下位悪魔(レッサーデーモン)共から離れた場所に居た。と言うか、希雨が刹那を横抱き(おひめさまだっこ)にして、長距離を飛び退っていたのだ。ちなみに希雨の姿は、先ほどまで単に頑丈な作業ツナギだったのが、今は何やら○宙刑事か時○戦士かとでも言いたげな、強化服(はいぱあめたりっくこんばっとすうつ)姿だった。いや、ヘルメットが無くて頭はむき出しだったが。

 

「桜咲! 逃げた敵を追え! わたしはこの悪魔ども片付けたら、後を追うから!」

 

「え、あ、で、ですが!」

 

「大丈夫、わたしにゃコレがある! ぽちっとな!」

 

「えっ……」

 

 希雨が手の中のスイッチを入れた一瞬後、希雨と刹那に向かって来ようとしていた下位悪魔(レッサーデーモン)の周囲に、突然天から何かが降って来た。刹那は目を見開く。それは全高3mほどのゴツい戦闘ロボットの群れであった。その数、27体。

 

「こんな事もあろうかと! こんな事もあろうかと、用意しておいて良かったぜ!」

 

「あっ、えっ」

 

 そして辺りは、サーチライトの様な光に照らされた。その光源は、天空に浮いている70mの宇宙船……宇宙揚陸艇である。先ほどの戦闘ロボットは、その宇宙揚陸艇から降下してきたのだった。

 

がおおおあああぉぉぉうううぉぉぉ……。

 

 再度下位悪魔(レッサーデーモン)共が咆える。無数の火球が戦闘ロボットに投げかけられ、爆発。しかし炎が消え去った後には、傷一つ無い無敵の装甲に包まれた、ロボットたちの姿があった。

 

「ああ、桜咲。このロボットや宇宙船の事、超や葉加瀬には秘密な?」

 

「は、はい……」

 

「それとコイツらは、敵を殲滅するにはいいんだが、敵を捕まえるには向かないんだよ。だからお前は、逃げた敵を追ってくれ。

 ……さあ、ショータイムだ! アクション!」

 

 希雨が叫ぶ。そして戦闘ロボットたちが歌い始める。更に言えば、ちゃんと搭載スピーカーからは、伴奏まで流れ出していた。ちなみに声は、水○一郎や影山ヒ■ノブの声をサンプリングしてある。戦闘ロボットたちは彼らの声で、某アニソンや某特撮ソング、某ゲーム主題歌を高らかに歌いながら、その曲に乗って下位悪魔(レッサーデーモン)の群れを格闘戦で叩き潰し始めた。

 そして刹那は、これでいいのだろうかと頭を抱えつつ、逃げた敵魔法使いたちを追ったのである。

 

 その後、残された希雨は一人呟く。

 

「……道化を気取ってみたが。ちょっとやり過ぎたか? 千雨(1st)あたり、まじめにやれって怒りそうな気もするなあ。ただ、わたし『本体』の隠してある実力を、桜咲に見せてやるわけにもいかんし。

 わたしの表向きのキャラ付けとして、扱いづらい奴だと思ってくれれば幸いだが。さて……」

 

 希雨は、歌う戦闘ロボットたちに殲滅されつつある下位悪魔(レッサーデーモン)を、冷たい瞳で見つめる。その視線には、かけらも油断が無い。彼女は自身と直結(ハードワイヤード)された戦闘指揮システムで、戦闘ロボットたちを操る。そして悪魔たちは、無慈悲に無造作に屠殺され、『(かえ)され』て行った。

 

 

 

 

 

 

「……ち、『これでもくらえ!(テイク・ザット・ユー・フィーンド!)』」

 

 氷雨の声が響いた。今しがた龍宮真名に迫りつつあった1体の『鬼』が、爆発的な閃光に包まれて消滅する。

 

「すまんな」

 

「そう思うなら、もうちょっとだけ、くっ!『呪殺(BADI)』!」

 

 また1匹の『鬼』が無造作に倒れ、消滅……『(かえ)って』行く。本来なら前衛役も可能であるが、基本は魔法の使い手である氷雨と、その本領が狙撃手である真名の組み合わせは、あまり相性が良いとは言えない。

 いやそれでも、氷雨が開き直って前衛の戦士的な働きをすれば、そう問題は無いはずだ。氷雨には、それだけの能力があるのだから。だが氷雨は思う。

 

(龍宮のやつ、超から『わたしたち』について探る様に大金積まれて依頼されてるらしいんだよな。まったく……)

 

 実は氷雨は千雨や希雨と語らい、『遠眼操(カリシーグ)』の術を用いて、超と真名が会見したところを遠隔透視したのである。そして読唇術の技術で唇の動きを読み、超と真名がどんな会話をしたか、おおまかなところは掴んでいたのだ。

 

(超と葉加瀬の奴は、魔法先生や魔法生徒の会合をドローンで覗き見たり、わたしらについて探ったり、動きが怪しすぎる。奴らの目的ってのはどんなのか、ちょっとまだ掴めて無いんだが……。

 わたしが基本的に、魔法に偏ってるってのは自己紹介の時に言ってあるからな。白兵戦闘能力については隠しておきてえ……)

 

 氷雨と真名が警備していた地域に現れたのは、何者かに召喚されたと思しき無数の……無数のとは言い過ぎではあるが、数十の『鬼』であった。本来であれば広範囲殲滅魔法でさっくりと倒してしまいたかったのだが、現場は森の中であってあまり大規模な破壊の跡を残すのもまずい。そのため1体1体ずつ敵を潰している間に、乱戦に持ち込まれてしまったのだ。

 

 そして氷雨は、『氷指弾(リ・バス)』の術で1体の『鬼』を氷漬けにして動きを封じると、溜息を吐いた。ちなみにその『鬼』は、真名の射撃で即座に息の根を止められる。

 

(仕方ねえ。白兵戦闘能力は隠すにしても、大規模な魔法は諦めて見せちまうか。……やっておきたい事……やらにゃならん事も、あることだしな)

 

 そして氷雨は、真名に叫んだ。

 

「龍宮! ちょっと見た目悪いけれど効果的な魔法使う!」

 

「ほお? ……っと!」

 

 真名は楽し気に片眉を上げつつ、1体の『鬼』を銃撃する。そしてそれを後目に、氷雨が足元から……影を媒介にした貯蔵庫から突拍子も無く、エレキギターを引っ張り出してかき鳴らした。

 

ギャアアアイイイィィィン!!

 

「は? ……!!」

 

 真名は一瞬あっけに取られる。だがその眼は次の瞬間、厳しく顰められた。

 

ギュインギュイイン!!

ギューン! ギュギュウウン!! ビュン!!

ドダダダンドダダン!!

フォーン!! フォフォーン!!

 

 2ndギターの音が、ベースギターの音が、ドラムの音が、キーボードの音が鳴り響く。氷雨の周囲には、各々の楽器を携えた4体の不死怪物(アンデッド)……骸骨(スケルトン)が出現していた。その不気味さに、真名は思わず歯を噛み締める。

 氷雨の歌声が、戦場に高らかに響き渡る。骸骨(スケルトン)たちの歌声も、それに唱和した。メタル風の演奏が、歌声を彩る。

 

 ……そして歌声と演奏に乗って、無数の死霊が出現した。

 

「……!! これは!!」

 

 骸骨(スケルトン)が、動死体(ゾンビー)が、幽霊(ゴースト)が、怨霊(スペクター)が、音楽に乗って地の底から次々に湧き出して来る。そしてそれらは氷雨の歌う歌を口ずさみながら、『鬼』たちに襲い掛かって行った。

 死霊1体1体の強さは、『鬼』には敵わない。しかしその数は圧倒的である。数百体は出現した不死怪物(アンデッド)は、地面に置かれた飴玉に群がる(アリ)のごとく『鬼』たちに群がり、その身体を食いちぎり、引き裂き、霊気を吸い取って行く。『鬼』たちは情けなく叫んだ。

 

『な、なんやと!?』

 

『こんなん、ワシらが望む戦いと、ちゃうわ!』

 

『この、くそったれ! オマエらごとき低級な死霊が、ぐわ!!』

 

 氷雨の歌声が死霊の群を統率、制御し、的確に確実に『鬼』どもを滅して行く。やがて『鬼』どもは全て消滅した。と、氷雨の歌が変わる。演奏されている曲も変化した。これまでは攻撃的な暑苦しい曲だったのだが、静かな響きの優しい曲調のバラード風に変わる。

 すると死霊の群の1体が光に包まれる。そしてまた1体、もう1体と光に包まれて、それらは一瞬生前の姿を取り戻して安らぎの表情を浮かべ、最後には光の中へと溶け消えて行った。

 

 やがて戦場だったそこは、ただの森へと戻る。氷雨のバンドメンバーだった骸骨(スケルトン)たちもまた、消滅していた。氷雨は手に持ったエレキギターをくるりと回すと、それを足元の影に落としこんだ。ギターは一瞬で消える。

 

「ふう……」

 

「は、長谷川……」

 

「いや、名前の方で呼んでくれよ。長谷川だけだと誰かわかんねーだろ。どっちもわたしの身内だがよ」

 

「わ、わかった氷雨。お前は……死霊術師(ネクロマンサー)だったのか」

 

死霊術(ネクロマンシー)『も』使う、というのが正確だな」

 

 真名は視線を戦場であった場所に向ける。そこは既に、静謐に包まれていた。

 

「……いや、お前だったら死霊とか使わずに、普通の魔法でも対処できたんじゃないか?」

 

「……理由があったから、な」

 

「理由?」

 

 氷雨はニヤリと笑みを浮かべると、言葉を続けた。

 

「ここいらの土地には、何十年にも渡って怨霊、怨念、死霊が染み付いてたんだよ。わたしにゃ死霊術(ネクロマンシー)の技術があるからなあ。そいつらの苦しむ呻き声が聞こえてな……」

 

 氷雨は、大きく肩を竦める。そして彼女は顔を上げた。その瞳が真名の瞳を射抜く。真名はその視線に、気圧される物を感じた。

 

死霊術(ネクロマンシー)には、色々な流派があってよ。ウチの流派は、苦しむ死者を成仏させる事が主目的なんだよ。死者ってのは、死んであまり時間経ってない頃ならば意識とかしっかりしてて、話し合いによる成仏も可能な場合もある。だが……。

 古い死者とかは、意識や記憶も混然となって希薄になって、そのままだと生きてる奴らに迷惑しかかけない状態になってる場合が多いんだ。そんなのは、それらが死霊になって現場に染み付いてる理由とかまで、忘れちゃってるのが大半でなあ。

 ウチの流派では、そう言った悲しい死人を『仕事に使う』事によって、『仕事の達成感』をもって、もう思い出せなくなって執着だけ残ってる『未練』を『代償行為』で晴らさせてやってんだ。それでもって、死霊をなるべく綺麗な形で『成仏』させてやるんだよ」

 

「……なあ氷雨。ここの土地に、死霊が染み付いていたって言うのは?」

 

「昔……何十年も前から今現在に渡って、麻帆良の世界樹狙ってやって来た妖怪の、その餌食になった人たちだな。死霊たちに断片的に残ってた、かすかな記憶をツギハギした結果だがよ。彼らはもう自分が誰だったのか、どんな死に様だったのか、どんな未練を抱えてたのか、そんな情報をすっかり忘れて、しかし執着心だけは残ってたよ。

 そう言う手合いは、話し合いとかで成仏させるのは困難だ。だからと言って、強引に滅却しちゃうのもあまりに可哀想だろ? けど放っておけば、そのうちに何か霊障を起こすのは間違いねえよ。

 このままじゃ、あまりに悲惨すぎだろ。で、『仕方なしに』死霊術(ネクロマンシー)使って成仏させたんだ。ちょうど良い『敵』も居たことだしな」

 

 そして氷雨は、踵を返す。

 

「さて、とりあえずここに来た『鬼』どもは陽動っぽい。どっか他で騒動起こす上での、囮だろ。術者も、証拠品の類も、魔法での探査の結果、ここにゃ無い。戻って上の指示を受けよう」

 

「……了解だ」

 

 真名もまた、氷雨の跡を追う。彼女からしてみれば、一応は氷雨が隠していた、と思しき魔法技術を……死霊術(ネクロマンシー)の技術の存在を知ることは叶った。だが、氷雨の底が見えた気は、まったくしなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 翌朝、長谷川3人娘は1-A教室で、ぐんにゃりと『たれて』いた。相坂さよが、心配げに話しかけるのには、律儀に念話を返していたが。

 

『昨晩のお仕事、そんなに大変だったんですか?』

 

(そこまででもねえが……。龍宮がなあ……。ちょっと鬱陶(うっとう)しい……)

 

(龍宮と言うより、裏に居る超と葉加瀬か……)

 

(何考えてやがんだろうなあ……。なんか、わたしらに情報収集の焦点あてて来たみたいでな)

 

『よくわかりませんが、大変ですねー』

 

 そして千雨、希雨、氷雨の3人は、授業が始まる直前まで思う存分ぐんにゃりしていたのであった。




 ちなみに千雨が歌っていたのは、『愛・お○えて○ますか』だったりします。曲に魔力と術式を混ぜ込んで、魔法的に意味のある曲にしてますが。
 そして希雨が戦闘ロボットに歌わせてたのは、『Eternal L●ve 2●●6』とか『今がそ○時だ』とか『オーブ○祈り』とか『VANISHING TR●●PER』とか。趣味がバレるなあ。
 でもって氷雨が死霊を操るのに使ってた歌は、聖○魔Ⅱの『地獄の皇〇子』とか、『地獄より愛をこめて・FR●M HELL WITH L●VE』とか、『地獄への階段・完○編』とかその他諸々。歳がバレるなあ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。