千雨Cubed   作:雑草弁士

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009話・どうしたんだい、カセイジン

 今、千雨、希雨、氷雨は麻帆良学園女子中等部の家庭科室で、部活のお料理研究会としての活動を行っていた。と言うか、部長以下の先輩方まで含めて、レシピや調理のコツを教え込んでいたのである。ちなみに希雨と氷雨は千雨よりも数段技量は劣るが、それでも部長より腕前が上だったので、教える側だ。

 

「……と言う感じです。カレーとか炒飯には、長粒種のお米の方が美味しいですけど、長粒種のお米は炊くときにいったんお湯を捨てるんです。日本のお米、短粒種を炊くときの常識にとらわれないで、思い切って捨ててください」

 

「この種類のパン生地を練るときは、右手でのして、左手でのして、その繰り返しでリズミカルに捏ねてください。ツヤがでるぐらいに捏ねあがったら、パケットで切り分けて型にいれて布巾かけて、温蔵庫で発酵待ちです」

 

「鯉は、頭を包丁の背でガンッ! というぐらいにブッ叩いて気絶させて、さくっと捌いてください。ああ、間違っても内臓のうちでも『苦玉』を潰さないでくださいね? やっちゃったら、それもう食べるどころの味じゃないですから。調味での修正しようがありません。あと毒ありますから、食中毒の原因にもなります」

 

 長谷川3人娘は各々の技量に合わせて、難易度の違う料理について教えて行く。やがて一通り教え終わり、調理完了したところで四葉五月がやって来る。五月もどちらかと言うとその技量により、お料理研究会では教える側だ。だが千雨が部活動に参加している本日は、教わる側である。

 

『千雨さん、ご苦労様です』

 

「四葉か。今日やったところとかは、四葉なら既に知ってたんじゃねえか? お前さん相手だと、『教える』ったって大変でなあ。なんか次回リクエストあるか?」

 

『そうですね、わたしは中華料理が得意なのですが、洋食はそこまでは。ですので、次回は洋食系をお願いしたいです』

 

「わかった。何か考えて来る」

 

 そこまで話したところで、五月の後ろに立っていた女生徒が口を開く。麻帆良学園本校女子中等部1-Aでは目立つ方の生徒であったが、何故か今まで長谷川3人娘とはあまり接触が無かった少女だ。その名を、超鈴音と言う。

 

你好(ニーツァオ)、長谷川サンたち」

 

「それ、日本語に直すと『おはよう』じゃなかったか? 今、放課後だぞ?」

 

「アイヤー、失敗したネ」

 

「んで、掴みはオッケー、ってか? どうした超?」

 

「ちょと、話とお願いがあるヨ。少しこの後、時間いいカな?」

 

 千雨は希雨、氷雨と顔を見合わせた。そして3人揃って頷く。

 

「「「いいぜ」」」

 

「よかたヨ。じゃあ……」

 

「いや、まずはせっかく作った料理だから、食べてからにしようぜ」

 

「そうそう。冷めると不味くなる。さっさと食おう」

 

「……そうネ。わかたヨ」

 

 そして彼女らは和気藹々と、お料理研究会の他の面々と共に料理を口に運んだ。皆の表情が緩む。美味しい料理は、人々を幸せにしてくれるのであった。

 

 

 

 

 

 

 部活終了後の時間、1-A教室にて、長谷川3人娘と超が向き合っていた。更に言えばもう1人、葉加瀬聡美が超の側に加わっていたりもする。オマケと言ってはなんだが、超や葉加瀬には察知されていないが、幽霊クラスメイトの相坂さよが心配げに長谷川3人娘の後方から見守っていた。

 千雨、希雨、氷雨が、さよに念話で話しかける。

 

(あー、相坂。すまないが廊下に出て、誰も来ないか見張っててくれないか?)

 

(ちょっと超たちと込み入った話をしないといけないんでな)

 

(内容知りたかったら、あとから教えてやるからよ)

 

『あ、いえ! 大丈夫です。他の人にあんまり聞かれたくない話なんですね?』

 

 相坂さよは、けっこう察しが良かった。苦笑気味に、氷雨が答える。

 

(ま、そうなるかどうかは超と葉加瀬しだいなんだがな)

 

『わかりました! じゃ、廊下で見張ってますね』

 

 さよが廊下へ出て行くのを超感覚で感じ取りながら、千雨は言葉を紡ぐ。

 

「……さて、いったいわたしらに何の用かな? あんたらとは、あんまり接点無かった気がするんだが」

 

「まあ、コレまではネ。ケど、話の内容ニよてハ、これから付き合いハ増えると思うネ」

 

「ん。じゃあ、話してみろよ」

 

 超はニヤリと笑う。そして(おもむろ)に口を開いた。

 

「ワタシが五月と組んで、肉まんのブランド『超包子』を立ち上げたのハ、知っているダロウ? 長谷川サンたちハ料理自慢デ……。特に千雨サンは、料理の腕前で五月ヲ超える程だと五月カラ聞いたネ。

 それでワタシたちハ、学園祭『麻帆良祭』にてモ、準備期間中に中華屋台『超包子』を出して更なる儲ケと宣伝に努めんとしているネ。報酬ハ……と言うヨリ、儲けハきちんと分配するヨ。長谷川サンたちの力を貸してくれないカ?」

 

「……それだけじゃねえだろ。まだお前ら、何か思惑を隠してやがるだろう」

 

「ふ、鋭いネ。『その後』についてモ、長谷川サンたちに協力ヲ仰げれば、と思ているヨ。ソレに、特にソチラの希雨サン……。科学技術についテ、非常に優秀だと茶々丸カラ聞いてるネ。葉加瀬やわたしニ、直接的に協力して欲しい人材ヨ」

 

 超の言葉に、だが希雨は眉を(しか)める。その様子を見て、超と葉加瀬は怪訝な顔つきになった。

 

「ど、どうしましたか希雨さん?」

 

「アナタが協力してクレるのなら、ワタシたちの……ワタシの持つ科学技術ヲ条件しだいで提供しても良いネ。アナタの様なヒトには、魅力的な提案ではないカ?」

 

 そう言いつつも超の表情には、もしかしてこの交渉は失敗したのではないかと思っている様子が、ありありと浮かび上がっている。希雨は溜息を吐き、肩を竦めて問うた。

 

「そう言ってもよ、超、葉加瀬。おまえらと言うか、お前いったい何者だ? なあ超。わたしの興味を惹くほどの超科学技術を持ってるって言うのか?」

 

「ワタシが何者か、カ……。ふ、正体ハー、と聞かれタラ! 答えてアゲルが世の情ケ! 世界の破壊を防ぐタメ! 世界ノ平和を守るタメ! 愛と正義ノ悪を貫く! ラブリーチャーミーな仇役!」

 

「超さん、それ何か違いませんか?」

 

「実のトコロ、あんまり違わないネ! その正体は、なんと火星から来た、火星人ネ!」

 

「「「ふーん」」」

 

「「あ、あれ?」」

 

 しれっとした様子の長谷川さんたちに、ちょっと気勢をそがれる超と葉加瀬だった。そして氷雨が溜息混じりに言葉を発する。

 

「うん、火星人なら火星人でもいいんだ。だけど、火星人ならお得意の『予感』は働かなかったのか? なんでわたしらが、げんなりした表情をしてると思ってる?」

 

「いや、『プリ○プリン物語』なんテ、ネタが古過ぎないカ!? その『カセイジン』ハ、何か違うヨ! ワタシの耳は回らないネ!」

 

「うん、そりゃ分かってる。……なあ超、なあ葉加瀬。これがよ、何もなしで普通に頼まれてたらよ。わたしら深く考えもせずに『超包子』に協力してたかもしれん。何事も無かったら、未知『かもしれない』技術に釣られて積極的に協力してた可能性もある」

 

 希雨は(かぶり)を振りつつ、しごく残念そうに語る。そして指をパチンと鳴らした。すると今の今まで隠蔽装置(クローキング・デバイス)の効果で姿を消していた、直径50cmほどの円盤状の偵察機(ドローン)が、3機ばかり姿を現す。

 そしてその3機の偵察機(ドローン)は、その円盤状ボディの下面からマニピュレーターを伸ばす。それは長谷川3人娘それぞれに1機ずつくっついていた、超や葉加瀬の放った偵察機を捕らえ、あっさりと破壊した。

 

「「!!」」

 

「……お前ら何でか知らないがよ。わたしら3人を妙に気にしてたろ。そしてこんなもんで、わたしらのプライバシー侵害して偵察してたし」

 

「まあ、致命的な部分は希雨の科学技術で妨害して、()らせなかったが。でもな? これって、下手すると敵対宣言に等しいって、わかってたか? なあお前ら」

 

「し、信じられません。わたしの偵察機をあんなにあっさり発見して……。しかもわたしの偵察機で発見できない高性能の透明化装置? いえ、透明化だけでなく、電波的にも完全ステルスで……」

 

「ああ、安心しろ。『わたしらの方は』この偵察機(ドローン)を『いまのところ』お前らに向けちゃいないから」

 

 いや、氷雨が『遠眼操(カリシーグ)』の術法で遠隔透視とかしたのは、とりあえず置いとく。口に出してもいい事なさそうだし。まあしかし、それも超の側が不法な偵察を行っていたから、やり返した的な意味合いではあったけれど。そして千雨が3人を代表して言った。

 

「とりあえず、敵対意志が無いんだったらよ。もっと穏当な情報収集手段使え。言っておくがな、今のところはわたしらは、お前らと敵対するつもりは全然無い。けれどこういう手段取られた以上、信用もできねえ。

 四葉をおまえらが抱き込んでるから、そっち方面に限っては手伝ってやってもいいかともちょこっと思ったんだがな。だけどやっぱりお前ら、信用するのは危うい気がする。繰り返して言うが、積極的に敵対するつもりはねえ。ただ最初の印象が悪いから、お前らに協力もできかねる。いいとこ中立だ」

 

「……そうカ」

 

「この中立を、敵対に傾けるか、友好に傾けるかは、お前らの今後の行動しだいだ。だけどな? 頭いい癖に、考えなしの行動は今後(つつし)めよ?」

 

「……肝に銘じておくヨ」

 

 そして千雨、希雨、氷雨は1-A教室を出て行く。廊下では、幽霊クラスメイトのさよが誰か通りがからないか、見張っていた。

 

(よう、相坂。ご苦労さん。結局は深いとこまでは話さなかったよ。ああいや、向こうのミスで少しは情報収集できたかな?)

 

『そうですか。お疲れ様でした』

 

(おう、んじゃあわたしらは、家に帰るからよ。お前さんの地縛が解けりゃあなあ。ウチまで招待してもいいんだが)

 

(わたしの魔法でも、お前さんを消さずに地縛を解くのは難しいからなあ。消えたか、ねえんだろ? まだしばらくは成仏とかしたくもねえって言ってたし)

 

『あ、はい。こうしてわたしが見えて、お友達になってくださる方がいらっしゃいましたし。なんかソレが新しい未練になっちゃったみたいですねー。えへへー』

 

(((んじゃ、また明日な?)))

 

『はい、また明日!』

 

 そして千雨、希雨、氷雨の3人は、自宅になっている邸宅に向けてその場を歩き去ったのである。

 

 

 

 

 

 

 自宅のダイニングで長谷川3人娘は、軽めの夕食を採った。何故軽めかと言うと、部活でけっこうな量を食べて来たからである。

 

 そして千雨が、(おもむろ)に言葉を発する。

 

「……さて、超の奴だが」

 

「うん。まさか本当に『火星人』だとはな……」

 

 氷雨も疲労感を顔に出しつつ、語る。この3人は先ほどの超、葉加瀬との会談の際に、こっそり無詠唱でなおかつ魔法行使隠蔽技術を使って隠密裏に、『虚言感知(センス・ライ)』の魔法を使っていたのである。

 そしてその魔法により、とんでもない事実が発覚した。超が言った『その正体は、なんと火星から来た、火星人ネ!』と言う言葉に、何の『嘘』も感じ取れなかったのである。

 

「マクダウェルからは、奴がなんらかの時間移動技術で現代に来た、未来人だって事も聞かされてる。だからこそ高度科学技術で、絡繰とか製作できたって話だしな。葉加瀬の才能やマクダウェルの魔法知識による協力もあったらしいが。

 ……どうした希雨?」

 

「あ、いや、な。葉加瀬の事だよ。いや超についてもちょこっとは似たような苛立ちを覚えてるんだがな。主に葉加瀬の事だ。

 奴は科学の進歩のためなら少々の非人道的行為もやむなし、とか公言してやがるが……。有言不実行は本来ならばあまり褒められた事じゃねえんだが、葉加瀬に限っては不実行して欲しいな、とか思ってよ」

 

「「あー……」」

 

 希雨のスタンスは、『科学は人のためにある』だ。無論の事、その『人』の序列の真っ先に自分自身は居るのだが。だがしかし、科学の進歩のために『人』が犠牲になる事は、あまり好んでいない事は確かである。

 まあ、程度問題ではあるのだが。研究員が徹夜の連続で体調を崩す、程度であれば容認はするのだ。だがそれでも、人道には可能な限り配慮するべき、とも考えている。希雨は科学に魂を売ったりはしていないのである。

 

「まあ、その件はあまり悩まねえ方がいい。葉加瀬も超も、わたしらと違って本当の意味で若い。幼い。今の段階なら、致命的な失敗にさえならなけりゃ多少は間違えたって、仕方ねえで済む。

 ……ただ、超の奴はちょこっとヤバそうだけどな。未来からの時間遡行者、か……」

 

「時間移動っつーのは、あんまりお勧めできねえ技術なんだが。けど、それに望みを託すしか無かったのかも知れねえなあ……。

 奴が冗談で言ったように見せてた台詞、『世界の破壊を防ぐタメ!』『世界ノ平和を守るタメ!』ってやつも、『世界の破壊を防ぐ』には嘘は無かったもんなあ。『世界の平和を守る』には嘘はあったが」

 

「つまり奴は、『世界の平和』は壊しても、『世界の破壊』は防ぐために未来の火星から来た、って事か」

 

 3人娘は、陰鬱な顔になる。

 

「超の奴、『世界の破壊を防ぐタメ! 世界ノ平和を守るタメ!』って陽気を装って言ったときに、一瞬だけすっげぇ辛そうな色を目に浮かべやがった。あんなガキが、目に浮かべちゃいけねえ感情をよ……」

 

「だからと言って、奴の手伝いは出来んわなあ……。奴みたいなのは、固定観念っつーか、使命感っつーか、そんなのにゴリッゴリに凝り固まっちまってるんだ。わたしらが協力してやって、脇からその行動や考えを微調整してやる事も考えなくは無かったんだが……。無理っぽいもんなあ」

 

「……とりあえず、火星について調べるか。今現在で分かってる事とか。とりあえずNASAが公開してる火星の情報とかを、ネットで調べよう」

 

 彼女らは現状の火星について、可能な限りのデータをかき集める。公転軌道や公転周期、最大直径、質量、表面重力、etc、etc……。

 

 そしてしばらくの時間が経過した時の事である。氷雨が何がしかに気づいた。

 

「あ」

 

「ん? どうした氷雨?」

 

「い、いやな? この火星の地形図なんだが、どこかで見覚え無いか?」

 

「「どれ……。」」

 

 氷雨の使っていたPCの画面を、千雨と希雨が覗き込む。そして彼女らも頷いた。

 

「……たしかに」

 

「どこで見たんだっけ?」

 

「「「うーん」」」

 

 首を捻り考え込む3人だったが、突然千雨が素っ頓狂な声を上げる。

 

「あ!?」

 

「「うわ!?」」

 

「あ、すまん! だけど思い出したぞ! 学園長から貰った、『魔法世界(ムンドゥス・マギクス)』についての解説書!」

 

「「ああ!?」」

 

 そして千雨、希雨、氷雨は学園長から貰った書物をテーブルの上に広げる。その書物の挿絵には、『魔法世界(ムンドゥス・マギクス)』の世界地図が描かれており、それはまさしくNASAが公表している火星全図に酷似していたのである。

 

「これは……」

 

「うん。希雨、頼めるか?」

 

「ああ。わたしの手持ちの無人宇宙船を火星に送り込む。そして火星の魔力分布とか、色々チェックしてみる」

 

「さて、じゃあその間わたしらは……」

 

「学園長とかマクダウェルとかに接触取るか。『魔法世界(ムンドゥス・マギクス)』について、可能な限り情報集めよう」

 

 千雨の言葉で、長谷川3人娘は順次動き出す。超鈴音についうっかり『虚言感知(センス・ライ)』を用いた事で、彼女らは世界の危機が迫っている可能性について知ってしまった。そして知ってしまった以上、放って置くわけにも行かないのだ。




 ちなみに長谷川さんたちは、『世界お金持ちクラブ』に余裕で入れるぐらいの資金を抱えています。異世界から持ち込んだ財宝を売却した上で、それを株式投機や株式投資、土地売買、穀物相場ほかの手段で利殖しましたので。
 作中の今現在に於いては、超よりも金持ちですね。ドレス、イヤリング、真珠の首飾り、マンション、別荘、建て売りマイホーム、車、飛行機、自家用潜水艦、キャビア、フォアグラ、松茸、数の子、なんでも買えます。まあ必要ない物は買いませんけど。
 まあ、つまりは魔法世界問題に気付く事ができるなら、それについて取れるオプションは超鈴音よりも現状では多いんですな。うーん、アクタ共○国でも魔法世界に建国してやろうか(笑)。
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