超一流ヴィランの俺様だが貴様らがどうしてもというならヒーローになってやらんこともない!   作:阿弥陀乃トンマージ

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第5話(2)暑苦しい、鬱陶しい、騒々しい友達

「誰だと聞かれたら答えないわけにはいかないわね! アタシの名は茶畑唱(ちゃばたけうたい)、この襟裳が生んだスーパースターよ!」

 

「……」

 

「あ、コーヒー来た、ありがとうございます……」

 

「二杯目か、角砂糖を一つだったな……」

 

「あ、ありがとう」

 

「む、無視すんじゃないわよ!」

 

 唱と名乗った女性はジンライたちに突っ込みを入れる。

 

「無視以外の選択肢が無いだろう……」

 

「知らない人とはお話ししてはいけないよと祖父から言われていますから……」

 

「不審者扱い⁉」

 

「他になにがあるんだ……」

 

 ジンライはウンザリした目で唱を見つめる。整った目鼻立ちをしているが、なんとも気の強そうな性格がにじみ出ているなという感想を抱いた。

 

「スーパースターを目の前にして、その態度は無いでしょう!」

 

「スーパースター?」

 

 ジンライは舞に視線をやる。舞は申し訳なさそうに首を振る。

 

「えっと……ごめんなさい、私そういうのには疎くて……いわゆる迷惑系の動画は見ないようにしているというのもありますけど……」

 

「誰が炎上系動画配信者よ!」

 

「ドッポ、分かるか?」

 

 ジンライはテーブルにペタンと座るドッポに尋ねる。

 

「『チャバタケウタイ ジンメイ エリモ』デケンサク……ヤク186ケンヒット……」

 

「それはそれは……大したスーパースターだな」

 

「こ、これからなるのよ! なによその丸いのは⁉ 反則じゃない!」

 

「なにが反則だ、なにが……それで貴様、話でもあるのか? 暇潰しに聞いてやる」

 

「き、貴様! ひ、暇つぶし⁉」

 

 唱はジンライの尊大な物言いに目を丸くする。

 

「い、いただきます……」

 

 舞は関わり合いを避けるのが無難だと判断し、コーヒーカップに口を付ける。

 

「……アンタ、さっきなんて言った?」

 

「この襟裳という街には何もないと言ったな」

 

「て、丁寧に言い直さなくてもいいから!」

 

「いや、重要なことなのかと思ってな……」

 

「襟裳には立派な風景の岬があるわ!」

 

「さっき見てきた。ただ、地形のことを自らの手柄のように誇られてもな……」

 

「ぐっ……!」

 

「そもそも地形というものは、長い時間をかけて起こった地殻変動や水の流れなどの自然現象により、地表面が変形を受けることによって形成されるものであって……」

 

「こ、小難しい言葉並べて良い気にならないで!」

 

「いちいち叫ぶな、やかましい奴だな……」

 

 ジンライはうんざりした顔を浮かべる。

 

「と、とにかく、これからアタシが、いや、アタシたちがこの襟裳のレジェンドになるんだから! 何もないとは言わせないわ!」

 

「アタシたち? 貴様一人のようだが……」

 

「……これからイベントなんだけど……皆遅れているみたいね。おかしいわね、この店で待ち合わせって言ってたのに……」

 

「~~! とっくに着いていますわよ! 貴女が大遅刻をかましているんですの!」

 

 ジンライたちの隣のテーブルに座っていた、やや薄紫色で、ふわっとしたウェーブがかった長い髪をなびかせた女性がガバッと立ち上がり、唱を睨み付ける。

 

「あ、たのちん、おっつ~♪」

 

「おっつ~♪ではなくて、まず言うことがあるのではなくて⁉」

 

「そうだ! 今日のイベントは絶対成功させようね! このステージがアタシたちの伝説の幕開けになるんだから!」

 

 唱は女性の手を握り、顔をグイッと近づける。

 

「ち、近い! 暑苦しい! そういう意気込みの話ではなくて!」

 

「あ、この子は涼紫楽(すずむらさきたのし)ちゃん!」

 

「ちょ、ちょっと! あ、ど、どうも、初めまして……」

 

 楽と紹介された女性は姿勢を正し、ジンライたちに対して丁寧に頭を下げる。その仕草から育ちの良さが窺える。服装も白いシャツに寒色系のワンピースと清楚な恰好であり、ライダースを羽織った唱とは対照的である。タイプこそ異なるが、美人という点は共通している。舞がボソッと呟く。

 

「この人はどこかで見たことあるような……」

 

「わたくしたちはリハーサルを終えましたが、唱さん、貴女大丈夫なのですか?」

 

「まあ、未来のスーパースターは本番一発でこなしてみせるから!」

 

 唱は右手の親指をグイッと立てて頷く。楽はため息をこぼす。

 

「不安しかありませんわ……そもそも、唱さん? わたくしとしてもあまり偉ぶったことは言いたくはありませんが、真のプロフェッショナルというのは準備の段階から……」

 

「たのちん、悪いけど、今のアタシ、テンションガンガン上がってきているから、お説教されても、『蕎麦のつゆにティラミス』よ!」

 

「は、はあ⁉ な、何をおっしゃっておりますの⁉」

 

「それを言うなら、『馬の耳に念仏』……」

 

 カウンター席に座る、薄緑色のロングヘアーで眼鏡を掛けた長身女性が訂正を入れる。

 

「おっ、かなたん、そんな所にいたのね~♪ 今日のイベント、後世にまで長く語り継がれるものにしようね!」

 

「単なる地元の町おこしイベントに大袈裟な……鬱陶しい……っと!」

 

 唱は女性の座っている椅子をグルッと回転させ、ジンライたちの方に向ける。

 

「この子は新緑奏(しんりょくかなで)ちゃん!」

 

「ど、どうも……」

 

 奏と呼ばれた女性は端正な顔をしかめつつ、一応ジンライたちに頭を下げる。服装はカーディガンにチェックのロングスカートと落ち着いた格好であり、ライダースを羽織った唱とはこれまた対照的である。舞が首を傾げて呟く。

 

「この人も見たことあるような……」

 

「かなたん、緊張してない?」

 

「全然してない……集中したいから静かにして」

 

「流石♪ 頼もしいわね!」

 

「おっ! やっと来たか~唱」

 

 お手洗いから出てきた女性が唱に声をかける。やや小柄な体格で髪の毛がオレンジ色で、ストレートヘアーである。ルックスは整っているが、ファッションはダボッとしたシャツに膝丈ほどのガウチョパンツを着ている。やはり唱とは対照的である。

 

「おおっ! ひびぽん! 今日のイベントはガンガンド派手に! ババーンと大爆発しちゃうくらいの勢いで行こう!」

 

「はははっ! 騒々しいな~」

 

「この子は橙谷響(とうやひびき)ちゃん!」

 

「おおっ? なんだか分からんけど、よろしく~」

 

 響と呼ばれた女性は気さくにジンライたちに挨拶する。

 

「この人も知っている気がする……」

 

 舞が顎に手を当てて小声で呟く。

 

「この四人で今日、伝説を作るから! もう襟裳に何も無いとは言わせないわよ!」

 

「伝説とは大きく出たな、大丈夫か?」

 

「大丈夫よ、厚い信頼関係で結ばれているから!」

 

「暑苦しい、鬱陶しい、騒々しいと言われていたような気がするのだが……」

 

「とにかくしっかり見てなさい! えっと……そう言えば名前は?」

 

「俺様は疾風迅雷、こっちが疾風舞だ……」

 

「ん? 同じ名字?」

 

「夫婦だからな」

 

「ぶほっ⁉」

 

 舞は口に含んでいたコーヒーを噴き出す。

 

「ふ、夫婦⁉ ま、まだ若いのに……」

 

「ジ、ジンライ、アンタ、何を言ってんのよ⁉」

 

 汚れたテーブルを拭きながら、舞が声を上げる。

 

「もしかしてハネムーンってこと⁉ じゃあ、尚更イベントを見ていってちょうだい! きっと思い出に残るはずだから!」

 

「唱さん、そろそろ時間ですわ……」

 

「ホントだ! それじゃあ、お二人さん、近くに会場があるから、絶対見てね!」

 

 唱たち四人は店を出ていく。

 

「何だったのだ……」

 

「アンタねえ!」

 

「どうした?」

 

「ま、また、ふ、夫婦とか言って! 何を考えてんの⁉ 兄妹とかでいいでしょ⁉」

 

「余計な勘繰りをかわせるだろう」

 

「そ、そうかもしれないけど……」

 

「なにか不都合でもあるのか?」

 

「い、いや、そう言われると……別に無い……のかな?」

 

 舞は首を傾げる。

 

「ならばそれで良いだろう……やつの言っていたイベントとやらの見物に行くとしよう」

 

「……なんか、我ながら流されてしまっているような……」

 

 舞はブツブツと呟きながら席を立ち、ジンライとともに会計を済ませ、店を出る。

 

「あそこがイベント会場か」

 

「結構、人が集まっているわね」

 

 ジンライたちが会場に到着し、しばらくしてイベントが始まる。ステージ上ではトークショーやコメディーショーなどが次々と行われていく。司会の男性がマイクを手に取って、高らかに告げる。

 

「それでは皆様、お待ちかね! ここ襟裳の地に奇跡的に集まった、四人のスター……『カラーズ・カルテット』によるライブショーの始まりです!」

 

「‼」

 

 お揃いのステージ衣装に身を包んだ唱たち四人がステージ上に出てくると、詰めかけた観客からこの日一番の声援が巻き起こる。四人が所定の位置に着く。ジンライが呟く。

 

「これは……バンドというやつか?」

 

「そうみたいね」

 

 ドラムを担当する響がスティックを鳴らしてカウントをとる。

 

「ワン……トゥー……ワン、トゥー、スリー、フォー!」

 

「!」

 

 演奏が始まった。観客は早くも興奮のるつぼである。

 

「……あのボーカル、唱とかいう奴だったか? ……下手だな」

 

 ジンライは率直な感想を述べる。

 

「そ、そうね……」

 

「だが、不思議とどこか惹きつけられるものがある……他の三人の演奏はなかなかのものだ。しかし、ボーカルも負けていない。むしろ引っ張っていっている感じだ」

 

「あ! やっと思い出した!」

 

「何をだ?」

 

「ギターの彼女、東京の伝統芸能の家の出身でモデルや女優などで活躍していた人よ!」

 

「ほう……楽とかいっていたか……確かにステージングにどこか気品を感じるな」

 

「ベースの彼女は、仙台生まれで『杜の都の天才文学少女』として騒がれた人だわ!」

 

「奏とか言っていたか……天才文学少女?」

 

「そう、『小説家と化そう』という小説投稿サイトで注目を集めて、『転職したらレスラーだった件』、通称『転スラ』で一躍ヒット作家になったわ!」

 

「俺様の知っているものとは少し違う気がするが……成程、緻密な指さばきだな」

 

「ドラムの彼女は、静岡の沼津出身で、『さすらいの画家』として有名だわ!」

 

「画家だと?」

 

「そう、『東京メトロ百八十駅』とかスケールの大きな作品知らない?」

 

「スケールが大きいようで小さいような……とにかく、芸術性を感じるドラミングだな」

 

「三人ともどこかで見たことがあるかと思ったら……何故ここに……?」

 

「有名な連中が無名な女とバンドを組んでいるというのは興味深いな……」

 

「きゃああああ⁉」

 

 ライブも佳境に迫ったころ、女性客の悲鳴が響く。演奏が止まる。客席に白いタイツに全身を包んだ、怪しげな集団が乱入してくる。リーダー格らしき男が叫ぶ。

 

「罪深き人類どもめ、我々ソウダイが鉄槌を下してくれる!」

 

「な、なんだ⁉ あいつらは⁉」

 

「皆、逃げて! 三人とも行くわよ!」

 

 唱がステージ上から客に退避を呼びかけ、四人が横一列に並ぶ。ジンライが驚く。

 

「あいつ……!」

 

「カラーズ・カルテット、出動よ! レッツ!」

 

「「「「カラーリング!」」」」

 

「何⁉」

 

 ステージ上の四人が眩い光に包まれていくのをジンライは驚きの表情で見つめる。

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