超一流ヴィランの俺様だが貴様らがどうしてもというならヒーローになってやらんこともない!   作:阿弥陀乃トンマージ

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第12話(2)オチ

「……!」

 

 何もない空間に黒い穴が開き、そこから豚のような頭をした、大柄な生物の集団が出現した。いわゆる『オーク』と呼ばれる種族である。オークの集団は皆、重々しい鎧を身に着けている。その中でも一番見栄えの良い鎧を着たオークが呟く。

 

「あれが五稜郭か……」

 

 オークたちは五稜郭の北西の堡塁近くに現れた。

 

「隊長、斥候からの報告ですが……」

 

 隊長と呼ばれた一番立派な鎧のオークが頷く。

 

「副官、報告しろ」

 

「この五稜郭各方面で、激しい戦闘が行われている模様です」

 

「ふむ……事前の調査通り、別の勢力も動いているようだな……」

 

「如何いたしましょうか?」

 

「現時点でいたずらに敵を増やす愚は避けたい。ここは目的を最優先だ」

 

「それでは斥候兵ですが……」

 

「別の勢力というものも気にはなるが……直ちに呼び戻せ」

 

「了解しました」

 

「斥候が合流次第、城郭に入るぞ」

 

「はっ! おい! 斥候に出た奴らを呼び戻せ!」

 

「……堀があるようだな、泳ぐとなると進軍にバラつきが出てしまうな」

 

「向こうに橋が見えます」

 

「やや遠回りになるが、橋を渡るとするか。確実性を取る」

 

 隊長が冷静に告げる。しばらく間があって新たな報告が入る。

 

「……斥候兵、合流しました」

 

「うむ、それでは進軍する!」

 

「お待ちなさい……」

 

 オークの集団が走り出そうとすると、その前にグレーのタートルネットにデニムのGジャンを羽織り、黒いロングスカートを着た、艶のある黒髪ストレートロングの美人女性が立ちはだかる。オークの隊長が怪訝な顔で見つめる。

 

「む……誰だ、お前は……?」

 

「衣服から判断するにこの世界の人間ではないでしょうか?」

 

 副官が呟く。

 

「この城郭周辺の住民は退避したのではないのか?」

 

「報告によるとそのはずなのですが……」

 

「ふっ……これを見ても分かりませんか?」

 

 女性が日本刀を鞘から抜いて構える。オークたちの目の色が変わる。

 

「そ、その特徴的な刀剣は⁉」

 

「魔界『ツマクバ』のオークどもめ……ご先祖様ゆかりのこの城郭で好きにはさせん……『爆ぜろ剣』‼」

 

 女性の衣服が浅葱色のだんだら模様のドレス姿に変わる。それを見たオークが驚く。

 

「き、貴様は⁉」

 

「魔法少女新誠組副長、菱形十六夜、参る! はっ!」

 

「グギャ!」

 

 十六夜と名乗った女性が、集団の先頭にいたオークを斬り捨てる。

 

「ビルキラか⁉」

 

「そ、そのようです!」

 

「誰だ!」

 

「貴方たちにはキラソーンと言った方が分かりやすいかしら?」

 

「お、鬼の副長! キラソーン!」

 

「魔物に鬼呼ばわりされるとはね……」

 

 十六夜が苦笑する。

 

「あ、数多の同胞をその凶刃にかけた、許しがたき敵! こんな所で遭遇するとは⁉」

 

「許しがたいならどうするの?」

 

「知れたこと! さっさと始末する!」

 

「はっ!」

 

「ウギャ!」

 

 襲いかかってきたオークを十六夜が簡単に切り捨てて笑みを浮かべる。

 

「『邪悪・即座・滅殺』を掲げた私たち新誠組の信条と合致するわね……」

 

「ぬっ……」

 

「馬鹿正直に一体ずつで挑むな! 数では優っているんだ、包囲しろ!」

 

「ははっ!」

 

 隊長の冷静な指示に従い、オークの集団は二重三重に十六夜を取り囲む。

 

「ふはははっ! 聞けば、必ず相手より多い人数で臨み、集団で取り囲んで襲撃するのが貴様らの常套手段であったようだな! 汚い手を使うものだ!」

 

「……そういうのを戦法というのよ。貴方たちの無駄に大きいだけで空っぽな頭では理解が難しいでしょうけど」

 

「ふん! その戦法とやらで倒されるというのも全く皮肉なものだな!」

 

 十六夜の言葉を隊長が笑う。副官が指示を飛ばす。

 

「焦るなよ! じっくりと距離を詰めろ!」

 

 各々武器を持ったオークたちが十六夜にじりじりと迫る。

 

「……はっ!」

 

「! ふん、どうした?」

 

 十六夜が左手をかざして、炎の魔法を副長に向けて放つ。しかし、副長は少し驚いただけで、その体勢を崩さなかった。十六夜はポーカーフェイスを保つが、内心舌打ちする。

 

(……ツマクバのモンスターどもが魔法に耐性があるとはいえ、それなりの出力で放った魔法でかすり傷一つつけられないとは⁉)

 

「包囲網を突破するつもりだったようだが、見込みが外れたな」

 

 隊長が嘲笑交じりで呟く。

 

(悔しいが当たっている……今まで戦ってきた連中よりも一段と統制のとれた動き……この状況は不味い、一匹でも斬り掛かってくれば、そこから突破口を見出すことが出来るのに……頭も決して悪くはない……厄介ね)

 

「ふふ……」

 

「せいっ!」

 

「フン!」

 

「ちいっ⁉」

 

 十六夜から斬り掛かったが、副官が冷静に受け止めて弾き返す。

 

「ふふっ、そんなものか⁉」

 

(ぐっ……数で負けているときは、その集団で一番強そうな奴を倒せば、その集団は瓦解するのがケンカのセオリーだけど、このオークはどうしてなかなか手ごわい……シンクオーレ連合め、この世界を征服する為に手練れの部隊を送り込んできたか……)

 

「どうする? 降伏するなら今の内だ」

 

「冗談も休み休み言いなさい……」

 

 十六夜が隊長を睨み付ける。

 

「はっ、この状況では何を言っても強がりにしか聞こえんぞ?」

 

「そう受け取ることしか出来ないなら、やはり知能が低いのね」

 

「⁉ そこをどけろ! こいつはやはり俺が直々にやる!」

 

 隊長が輪の中に近づいてきたのを見計らって、十六夜が刀を天にかざして叫ぶ。

 

「『空模様の子』!」

 

「ぐわっ⁉」

 

 オークの集団に紫色の液体が降りかかる。その液体を浴びたオークたちは力を失ったように次々と倒れ込む。十六夜が刀をゆっくりと下ろして呟く。

 

「晴れ時々毒……濡れないように注意しましょう……もう手遅れのようだけど……」

 

「いやはや、見事なものですね」

 

「⁉」

 

 十六夜が振り返ると、そこには小柄な者がいた。頭に二本の角が生えている。

 

「面白いものを見せてもらえました」

 

「オーガのキョウヤ……!」

 

「ほう、覚えていて下さいましたか」

 

 キョウヤと呼ばれた者は笑みを浮かべる。人とは違うオーガという種族である。

 

「貴方まで来るとは……シンクオーレも本気ってことね」

 

「ええ、この世界への侵攻は我々の宿願と言ってもいいですからね。その為にはまずNSP……その未知なるエネルギーの確保が最優先事項です」

 

「そうはさせないわ!」

 

「別に貴女に許可を求めてはいませんよ!」

 

「がっ!」

 

 あっという間に距離を詰めたキョウヤの爪が十六夜の腹部に刺さる。

 

「……先程のは実に見事でした、魔法と卓越した剣技を組み合わせた術とは、オークたちにとっては防ぐのは容易なことではないでしょう……」

 

「がはっ……」

 

「しかし、まさか貴女が毒系魔法を使えるとは……」

 

「や、薬学の心得が多少あるからね……習得は比較的簡単だったわ」

 

「そうですか……初見ならわたくしとて危うかった」

 

「ぐっ!」

 

 十六夜がキョウヤを突き飛ばし、距離を取る。腹部を抑えながら刀を構える。

 

「しかし、それなりの魔力を消費するはず……連続では使えない。違いますか?」

 

「……」

 

「この場合の沈黙は肯定ということですね。もはや勝負は見えましたね」

 

「まだよ……!」

 

「頼れるお仲間ももういないのですよ?」

 

「なっ!」

 

「一人では限界では? 新誠組は滅んだのです」

 

「……少なくとも私が残っている、新誠組は負けていない!」

 

「往生際が悪い方ですね……ここで退場して貰いますよ!」

 

「!」

 

「何⁉」

 

「美女と鬼ならば……美女を助けるのがお約束だろう」

 

 キョウヤの爪が十六夜を襲うが、割って入った疾風迅雷が受け止める。

 

「貴方は先日の……殴られた恨みがありましたね」

 

「そうだったか? 生憎男の顔なぞすぐ忘れるのでな」

 

「面白いことを言う!」

 

 キョウヤが距離を取って構える。十六夜が叫ぶ。

 

「ま、魔法を使うつもりだわ!」

 

「『マンガフォーム』! 『デイリー』モード!」

 

 疾風迅雷がオレンジ色のスーツになる。キョウヤが戸惑う。

 

「見たことのない形態に⁉」

 

「宣言しよう……貴様は四秒後に落ちる」

 

「⁉ 何を! 予言者にでもなったつもりか!」

 

「起、貴様は指を弾いて爆発魔法を放つ」

 

「なっ⁉」

 

「承、俺様がその魔法を受け止めて吸収する」

 

 疾風迅雷が自身の言葉通り、キョウヤの放った魔法を受け止め、吸収したようになる。

 

「な、なんだと……⁉」

 

「転、驚いて後ずさりした貴様は何故かそこに落ちていたバナナの皮を踏んでしまう」

 

「うおっ⁉」

 

「結、滑って転んだ貴様は頭を強く打って気を失う」

 

 バナナの皮を踏んだキョウヤは思いっきり滑って転び、後頭部をしたたかに打って、動かなくなってしまう。十六夜が戸惑い気味に呟く。

 

「こ、これは……?」

 

「もう少し気の利いた時事ネタを織り込みたかったが、素人の即興ならこの程度か……」

 

 ジンライが自嘲気味に呟く。キョウヤの身体が地面に開いた黒い穴に吸い込まれる。

 

「はっ! くっ……自らに何かあった時の為に発動するようにしていたんだわ……」

 

「なるほど……用意の良いことだ」

 

 ジンライはノーマルフォームに戻る。十六夜が魔法を唱える。

 

「『ヒーリング』……」

 

 十六夜が自らの腹部の傷を治癒する。

 

「回復魔法か……相変わらず大したものだ」

 

「別に……」

 

「皆にもかけてやってくれないか」

 

「皆?」

 

 ジンライの言葉に俯いていた十六夜が顔を上げる。

 

「ああ、志をともにする者たちだ。同志と言った方が良いか?」

 

「同志……」

 

「貴様は一人ではないぞ」

 

「!」

 

「この地点に向かってくれ」

 

 ジンライは情報端末に表示された地図を十六夜に見せる。

 

「……分かりました」

 

「任せた、俺様は他に向かう!」

 

 そう言ってジンライは走り去る。

 

「急がなくては!」

 

 十六夜は瞳に凛とした力強さを取り戻し、走り出す。

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