超一流ヴィランの俺様だが貴様らがどうしてもというならヒーローになってやらんこともない! 作:阿弥陀乃トンマージ
「……」
紅が構えを取る。
「こ、これは……」
光八が困惑する。
「ガンガン行きなさい!」
セコンドについた杏美が声をかける。
「そ、そう言われても……」
「カーン!」
「あっ……」
ゴングが鳴らされる。
「………」
「…………」
「……………」
「………………」
紅と光八が距離を取ったまま見つめ合う。
「おい! なにやってんだ!」
「やる気あんのか!」
「金返せ!」
観客からヤジが飛ぶ。
「ちょっと! なにをやってんのよ!」
杏美が光八に苛立つ。
「し、しかし……」
「しかしもかかしも無い! いつも言っているでしょう⁉ リングというのは三本ロープのジャングルなのよ!」
「初耳ですが⁉」
「……来ないのならば、こちらから参ります……!」
「!」
紅があっという間に光八との距離を詰める。
「はっ!」
「うおっ⁉」
「ふっ!」
「ぐおっ⁉」
「ほっ⁉」
「ぷおっ⁉」
「おおおっ!」
紅がパンチ、チョップ、キックと先制攻撃を立て続けに仕掛け、観客が沸く。
「くっ……」
「反撃しなさい!」
「で、ですが……」
「光八さん、戸惑っているわね……」
「それも当然だろう、両者の体格差が圧倒的だ。ここで下手な反撃をしたら、BENIとやらに大怪我を負わせかねない……」
観客席に座る舞の呟きに隣のジンライが応える。
「お、おっと……」
光八がよろめいた振りをして杏美の側に近寄る。
「なにをやっているの⁉」
怒る杏美に光八が囁く。
「い、今さらながら、こればミスマッチというやつでは?」
「そんなことは百も承知よ!」
「ええっ⁉」
光八が驚く。
「技をかける方もプロ! かけられる方もプロ! 相手を信頼なさい!」
「……! わ、分かりました! え、えーい!」
「‼」
「あっ、しまった……!」
光八が思い切り腕を振り回すと、それが紅に当たり、紅が勢いよく吹っ飛ぶ。
「ああ! 吹っ飛ばされた!」
ジンライの隣でドトウが声を上げる。
「いいや、よく見てみろ!」
ジンライも声を上げる。
「えっ⁉ ああっ⁉」
ドトウが視線を戻すと、紅がロープの反動を利用して、高く舞い上がる。光八が唖然とそれを見つめる。
「なっ……」
「ふん!」
「ごはっ⁉」
舞い上がった紅は空中できりもみ回転をして勢いを加え、光八の太い首に強烈な蹴りをかます。不意の一撃を喰らった光八はよろめく。
「もらいました!」
華麗に着地をした紅が光八に追い打ちをかけようとする。
「……ウオオッ!」
「むっ⁉」
光八の唸り声が会場全体を揺らす。
「! な、なんて迫力……まるで獣ね」
「まるでというかそのものなのだが」
舞の呟きにジンライが突っ込みを入れる。
「BENIの動きが止まったわね……」
「ああ、ベアーマスクの反撃だ……」
ドトウの呟きにジンライが頷く。
「ウオオッ!」
「きゃ⁉」
光八が腕を振るう。当たりはしなかったが、風圧で紅は倒される。
「ウウ……」
光八が倒れた紅にゆっくりと迫る。
「な、なんか、ヤバくない?」
舞がジンライに問う。
「BENIが予想以上に強かった為、ベアーマスクがマジになってしまったようだな」
「ヤ、ヤバいじゃない!」
「まあ、どうなるか見てみよう……」
「な、なんで、そんな冷静なのよ! ああっ⁉」
舞がリングに視線を戻すと、深蒼のコスチュームに身を包んだ、やや長めの黒髪をオールバック気味にした中肉中背の体型の女性がリングに飛び込み、光八の左半身に対して豪快なドロップキックをかます。
「ウオッ⁉」
「よっしゃあ!」
「ら、乱入者⁉」
舞が驚く。
「あれはきりたんぽプロレスの常務、
「知っているの、お兄ちゃん⁉」
ドトウが尋ねる。
「ああ」
「なんで?」
「パンフレットに書いてある」
ジンライが冊子をピラピラとさせる。
「な、なんだ……あっ!」
「1、2,……3! BENI&AOIの勝利!」
蒼の乱入で2対1となったきりたんぽプロレス組が数的優位を活かして、ベアーマスクを抑え込んであっという間に勝利を収めた。