「唐突だが、明日、我が団を視察したいという騎士団の団長から希望があり、それを受け入れることとなった」
ざわざわと団員が話を始める。
「視察に来られる団長は、うちの団長より若くてカッコイイらしいわよ」
「そういえば、あちらの副団長はバナナオーシャン出身という話ですわ」
「もしかしてカップルなのかな?」
「視察先の副団長は1人なのかな?」
「うちの副団長の多さはおかしくない?」
と言うか、結構唐突の話だったはずなのだが、多くの情報が出回っているらしい。
花騎士同士の情報ネットワークに唖然としたが、気を取り直して話を進める。
こんなところで止まっていては、ここの騎士団の団長などやれないのだ。
「どうやら皆の耳に入っていたらしいが、あまり問題は起こさないで欲しい」
「「「「「私たちが問題を起こすわけないじゃないですか!」」」」」
思わず「嘘だ!」と言いかけたがここで不毛な論争をしても意味がないので謝罪する。
「なら、大丈夫だな。詳しいことは副団長に聞いてくれ」
「「「「「今日の副団長はだれですか?」」」」」
「今日はわたしだよ♪」
シャボンソウが手を小さく上げる。
我が団の副団長は当番制だ。
多くの花騎士が副業を持っている以上、よほどのことがない限りは全団員で動くことはない。
それに今の、ある程度平和になった状況であればなおさらだ。
我が団の本当の副団長ともいえる第一副団長のカルセオラリアは劇作家として忙しく、メコノプシスはカルセオラリアを手助けしてくれている。
なので今回の案内役としては無理だ。
次の候補として、視察に来られるアレン団長とゴデチア副団長の共通の知り合いであるプルーンが案内役に挙げられるが、彼女は今回一個師団を引き連れて偵察任務に当たっていた。
ゴデチア副団長の出身地、バナナオーシャンから考えるとレモンかキャロット、ポーチュラカが候補に挙げられるが、レモンはオレンジ隊の仕事に、キャロットはバードックと共に遺跡探索。ポーチュラカは…いい娘なのだが、あまり案内役に向いていない気がする…相手を喜ばそうとするその努力は買うのだが…
それはさておき、アレン団長の出身地、ブロッサムヒルでから考えるとシャボンソウは適任ではある。
問題はゴデチア副団長だが、シャボンソウが話し相手など、上手くやってくれるだろう。
質問攻めにされているシャボンソウを見て執務室に向かう。
ここで下手に何かしようものなら爆薬に火種を投げ入れるようなものだということは経験上分かっている。
…後でシャボンソウにプレゼントしよう。
次の日の執務室で。
「この度は唐突な視察を受け入れてくださってありがとうございます」
爽やかな笑顔で挨拶をするアレン団長。
その傍らに少しはにかむゴデチア副団長がいた。
「ようこそ我が騎士団に。こちらは案内役のシャボンソウ。何かあったら彼女に尋ねてほしい」
「よろしくね♪」
にこやかな笑顔でアレン団長とゴデチア副団長に握手を求める。
「よろしく」
「よろしくお願いします」
にこやかに応対する二人。
「お二人は結婚されているのかな?」
シャボンソウがいきなり爆弾を投げ込んだ。
「どうしてそんな質問を?」
目線で扉の方を見るように促すシャボンソウ。
そちらを見ると、こそッと覗いている花騎士たちがいた。
なるほど、二人が結婚していればよほどのことがない限りちょっかいを出されることはないと考えてのことだろう。
「お二人が同じ指輪をしていたの」
なるほど。見てみると左の薬指に同じような指輪がしてあった。
そして、二人の顔は真っ赤だった。
「「いえ、その…ま、まだです…」」
2人の声が揃うのが初々しい。
(((((キャー!!可愛い♪)))))
(そうだ、いい事を考えた!テッポウユリ呼んできて!)
(うん、わかった♪)
扉の外から漏れた声が聞こえる…このままではまずい。
テッポウユリはウェディングプランナーだ。
真面目な娘だが、話し次第では二人の相談を本気で聞きかねない。
幸いにして二人には聞こえていないようなので、シャボンソウに目配せをして止めてもらうように動いてもらう。
「アレン殿。せっかく来てもらったので軽く手合わせを願えないかな?シャボンソウ。申し訳ないが準備を頼む」
「わかった♪」
アレン団長には申し訳ないが、少し強引に話を進める。
彼は少し唖然としたような表情から気を引き締めたような顔になり
「こちらこそよろしくお願いします」
かくして、急遽団長同士の練習試合が組まれることになった。
「アレンさん、怪我だけはしないでくださいね」
「大丈夫だよ、ゴデチアさん。僕の腕前は知っているだろう」
「だけど…」
心配をするゴデチア副団長を安心させようとするアレン団長。
その二人を離れたところから見ていると、シャボンソウが話しかけてきた。
「団長さん。緊張してる?」
「いや、全然。シャボンソウは?」
「しゃわしゃわ~♪ 団長さんは私に心配してほしいのかな?」
「…少しくらいは」
「了解です♪ 団長さん♪」
「では、行ってくるとしますか」
いつの間にかこちらを見ていたアレン団長に近づき、
「アレン殿。急な誘いに応じていただき感謝する」
「ところで、なぜこのような誘いを?」
「いや…なんとなくこちらの不手際が露呈しそうだったので…いや、違うか?」
「???」
「まぁ、アレン殿の剣の腕前を一度見たかったというのもあったし、ある意味ちょうどよかったのかもしれないけどね」
軽くウィンクして緊張感を取ろうとする。
「では、胸をお借りするとしようかな」
それぞれに木剣を構え、軽く剣を合わせ相対する。
構えを見ただけでもアレン団長の腕前が分かる。
おそらく、まともに打ち合えば10合くらいできればもうけものだろう。
まともに打ち合えば、だが。
先制は彼から。
正面から剣を撃ち込まれ、慌てず捌く。
捌かれた剣が舞い、振りからの突きとつなげてくるのを確認し体捌きのみでかわす。
そして彼から数歩距離を取る。
相手の剣を捌いた感触で確信したが、力も速さも彼の方が上だ。
だが、一泡吹かせるためにも大きく一呼吸をする。
攻撃が来るタイミングと軌道が分かれば過剰に恐れることはない。
対「害虫」と対「人」はタイミングの計り方、戦い方が違う。
対人のタイミングに合わせるため、彼の呼吸に合わせていき、意識を集中させ攻撃のタイミングを計る。
攻撃を仕掛ける時こそ防御が一番手薄な時。
今!と思った瞬間。
横から衝撃がきて吹き飛ばされた。
何っ!?と思ったらアレン団長は木剣を振りぬいた格好のまま、呆然としていた。
横を見ると団員たちが魔法や矢を放っていた…
って、矢じりを削っていないじゃないか!
「「「「客人に花を持たせるのは礼儀」」」」
「安心して、峰打ち」
「こういう時は真剣勝負!矢で峰打ちなんてできるか!シャボンソウ、捕まえといて!」
ドタバタドタバタ…
取り残されたアレン団長と、ホッと一息ついたゴデチア副団長であった…
食堂にて、アレン団長に先ほどの件を謝罪する。
「こほん、あー、その、アレン殿。申し訳ない。先ほどはお見苦しいところを見せましたね」
「い、いえ、お怪我はありませんか?」
「ご心配ありがとうございます。このくらいでは怪我しませんよ」
このくらいって…あの時の攻撃は完全に不意打ちだったはず。
頑丈さに少しあきれたアレンだったが、怪我がないようで何より、と思い直した。
「しかし、自分の騎士団の団長に攻撃しておいて、口頭注意だけというのは温情が過ぎませんか?」
それもそうだ。「団員」が「団長」にあんなことをすれば普通は最低でも懲罰ものだ。
それなのに口で注意だけをして、後は無罪放免だった。こんなことは普通の騎士団ではありえない。
「私は怪我をしていませんからね」
と笑いながら言うと、アレン団長は首を傾げた。
「あの子たちは私たちに優劣を付けさせないために、決着をつけさせなかったのです。それが分かっているからこそ、注意ですませているのです」
「皆さんを信頼されているのですね」
「私が甘いだけですよ。ただね…」
「ただ?」
「私は対「害虫」戦ではほとんど役に立たない。けれど、世界花の加護がある彼女たちの力を最大限に引き出してあげること。それが人を、ひいては世界を救うことになる」
急に真剣な眼でこちらを見るアレン団長。
「だからこそ、彼女たちに降りかかる厄介なことの大半は私が引き受けようと思うのです。幸い、ほんの少し、他の人より力があって「団長」となった以上は」
そこで言葉を切り、アレン団長に微笑みかけ。
「と言っても、書類作業や国からの監査とかで手いっぱいですがね」
「それは言えていますね」
とお互いに苦い顔をする。
その途端、シャボンソウがこちらに寄りかかってくる。
「団長さん、真面目なお話はまだ続くの~? わたし、お腹ぺっこぺこでもうすぐ動けなくなるよ~」
「そうだね、申し訳ないがこの話はここまでにして、うちのシェフが作ったご馳走をいただきますか。お二人の口に合えばいいのだが…」
「「「「はい、団長、今日のランチ。シャボンソウは大盛にしておいたからね」」」」
(大丈夫、おとなしくしておくから)
「うわ~い♪大盛~♪」
その後は親善のための歓談となった。
夜まで歓待されたアレン団長とゴデチア副団長は並んで月夜を眺めていた。
今日は泊っていって明日帰る予定だ。
「うちとは違ってちょっと変わった騎士団だったね」
「でも、楽しそうなところでした」
楽しそうな笑顔を見せるゴデチアにアレンは目を引かれたが、それと同時に彼女が何かを持っていることに気付く。
「そういえば、その大きな袋は何かな?」
「シャボンソウさんがわたしにどうぞって」
「なんだろうね?開けてみるかい?」
「そうですね。あ…」
袋の中にはクマのぬいぐるみが二つと手紙が入っていた。
「可愛いです…男の子と女の子ですね…」
ギューッとぬいぐるみを抱きしめる彼女。
その愛くるしさに抱きしめたくなったが、彼女が手紙を読み始めたので抑える。
「手紙には何が書かれていたのかい?」
「…いつまでもお幸せに。団員一同。だそうです」
一方、夜の執務室。
シャボンソウと二人でささやかな祝杯を上げる。
「シャボンソウ、お疲れ様。今日は色々助かったよ。ありがとう」
「しゃわしゃわ~♪わたしは副団長だからね♪団長を補佐するのは当たり前だよ♪」
「それでもありがとう」
「…言葉よりも行動で示してほしいな♪」
そう言ってシャボンソウは目を瞑る。
ゆっくりと彼女の顔に近づけると自分の顔を近づけていくと…
複数の視線を感じる。
思わず、扉の方に顔を向けると…
(シャボンソウって大胆)
(いけ!、団長!)
(((あ、バレたかも…)))
「こらー!お前たち邪魔ばかりするな!」
「「「「「はーい、ごゆっくり~!!!!」」」」」
「…ばか」
シャボンソウの声がちいさくつぶやかれた。