pixiv版や掲示板投下版より若干加筆修正してます。
その噂が世の中に出回り出したのは天と地の戦いから10年を少し過ぎたくらいだった。
曰く、長い黒髪をしている。
曰く、白い長衣を着ていた。
男か女かすら定かではないそれは、迷っている幼子を親元まで導き庇護し、島に悪しき想いを抱いている輩は呪い祟るのだという。
目撃者は年端のいかない子供達か、或いは頭のおかしくなった大人達だけで、証言も要領を得ない。
目を輝かせる子供と、対照的に怯え発狂する大人から聞き取った調書に書かれた内容から、おそらくその2つの件で観測されたソレは同一のものだろうと推測出来るが、果たしてどこまで信用していいものか。
けれど、この2つの事件で目撃された黒髪の長髪をした存在とは、もしやそれはエレン・イェーガーの亡霊ではないか、とそんな根も葉もない噂に等しい都市伝説だった。
その噂はある日身近に迫ってきた。
その日、俺は5歳になる息子と喧嘩をした。
なんてことはない、よくあるやつだ。
ガキの我儘を叱って、息子がそれに反発して家を飛び出すなんて、どこの家庭でもよくあることだろう?
ただ予想と違ったのは、夕方には帰ってくると思ってたのに、日が暮れても息子が帰って来なかったことだ。
あまりの遅さに何か事故か事件にあったのではないかと、探しにいくべきなのではと嫁と話し合っているさなかに、はしゃぐように誰かと話している声と共に息子が帰ってきた。
そうして外に出てみると、誰かと話している風だったのにも関わらず、実際には息子は一人だった。
散々心配させたことを叱って、「無事で良かった」と抱きしめて、それから「誰と話していたんだ?」と尋ねると、息子は先ほどまでしゅんと沈んでいた顔を輝かせながら答えた。
「カミサマだよ!」
曰く、巨大樹の森で迷っていたところ、ここまで送ってくれたんだという。
その人にお礼をしたいから、どんな人だったのか教えてくれというと、息子は『長い黒髪で、白い服をきてた、緑の瞳の……多分、お兄ちゃん!』と答えた。
俺の脳裏に彼の都市伝説が過る。
そんな俺にまるでヒーローでも見つけたような瞳で息子は「あれはカミサマだったんだ!」と言った。
……そういう子供は多いらしい。
それを、見たという子供はそれをカミサマと呼ぶのだという。
ぼうと神々しく光っているからなんだと。
それから、息子は度々、今日もカミサマに会ったんだ、っていうようになった。
遊んでもらっているのだという。
引っかかることはあったが、それをイマジナリーフレンドか何かだろうと、俺は自分に言い聞かせ納得させた。何、小さな子供にはよくあることだ。
けれど、その日から約半年後のことだ。
仕事が半休で終わり、家に早く帰ってきたその日、俺も見たんだ。
息子とたまには一緒に遊んでやるかと、息子がいつも遊んでいるという森の中で、息子と手を繋ぎながら歩くそのボウと白く浮かび上がったソレを。
「あ、お父さん!!」
「……! エレ……」
……で、それはエレン・イェーガーだったのかって?
いや、奴じゃなかったよ。
長い黒髪に、白い長衣、確かに噂の通りだったよ。
真っ直ぐな黒髪は腰まで届くほど長くて、まるであの戦いの最後で、最終的に奴がなった超大型巨人の姿を彷彿させた。
白い長衣は我らが女王様が女王に即位する前、レイス家の地下洞窟で着ていた衣装とそっくりで、なるほど、噂で男か女かよくわからないといわれたのはこれが原因かと思った。
そして、その顔立ちは確かに奴に……エレン・イェーガーにそっくりだったよ。
だが、あれが奴なわけがねえ。
だって、奴は振り向いたあの瞬間、俺を見ながら微笑ったんだ。
生前の奴は悪人面が代名詞だったっていうのによ、険など欠片もない顔をして、優しく穏やかに笑ったんだ。
そして消えた。
ふっと、まるで最初っからそんな奴いなかったみたいに、俺と目があった直後に消えたんだ。
あれが奴なわけがねえ。あいつが俺に、あんな風に笑いかけるわけがねえ。だから、あれはエレン・イェーガーなんかじゃねえんだ。
あれがなんだったのかは未だにわからない。
俺の目の前で、あれが消えて以来、息子はカミサマの名を口にしなくなった。
二年も経てば完全にそんな出来事があったことすら忘れているくらいだ。これも島の子供にはよくあることらしい。
カミサマを見るのは悪人か、或いは年端のいかない子供達だけだからな。
だからこれは、ただの都市伝説だよ。
終
あんまり書くと野暮になるのでハメ版では省略しますが、カミサマの正体や語り部が誰かなどの裏設定はpixiv版に載せてますので、もし気になる方がいましたらそちらでどうぞ。