新世紀エヴァンゲリオン for Mothers ~母親達の戦い~   作:朝陽晴空

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第一話 進撃の使徒と巨人エヴァンゲリオン

 西暦2000年、人類は大きな過ちを犯し、災厄を引き起こした。

 南極大陸で起きた大爆発、『セカンド・インパクト』。

 愚かな人類を粛正するために神が下した天罰だと話す者たちもいた。

 最初の使徒、『アダム』に対して人類は、古代アトランティス文明の技術を復活させ、巨大人間エヴァンゲリオンを造り出して対抗。

 熾烈な巨大生物同士の戦いは相討ちと言う結果で幕を閉じた。

 しかし使徒はアダムだけではない。

 古代アトランティスに伝わる死海文書には更なる使徒の出現が預言されていた。

 先手を打つべく人類は『黒き月』に眠る第二使徒リリスを発見。

 ロンギヌスの槍により、一時的な封印に成功する。

 リリスを封じた『黒い月』があるジオフロントには人類の希望の砦となる『特務機関ネルフ』、さらにネルフを覆い隠すための『第三新東京市』が建設された。

 人類は新たに目覚める使徒に対抗するため、新たなエヴァンゲリオンを作り出す必要があった。

 そして……エヴァンゲリオン零号機となったのは、研究の第一人者であった赤木ナオコ博士。

 次にエヴァンゲリオン初号機となったのは、碇ユイ博士だった。

 元は若い女性であった彼女達の身体は、特別な薬品を注入され巨大な怪物のような身体へと変貌してしまった。

 ネルフ総司令、碇ゲンドウの事をよく知らない人々の中には、妻を怪しげな実験台にした冷徹な男だと言う者も居る。

 だが彼にとっては断腸の思いがする苦渋の決断だった。

 エヴァンゲリオンには古代アトランティス人の特別な血筋の人間にしかなれないのだ。

 自分たちが特別な血筋を受け継いでいるとマルドゥック機関に告げられた時はさすがのゲンドウも膝から崩れ落ちるほどの衝撃を受けたのだった。

 

 

<特務機関ネルフ 第一発令所>

 

 西暦2015年、再び使徒は日本近海へと現れた。

 使徒は、警邏をしていた国連軍の戦艦など気にも掛けずに悠々と泳いでいる。

 あんな巨大生物を上陸させたら被害が出ると判断した戦艦は砲撃を仕掛けた。

 

「ありったけの砲弾を撃ち尽くせ!」

 

 使徒は赤いバリアーのようなもので身体を覆い隠し、雨のような砲弾の攻撃を防いだ。

 

「A.T.フィールド! やっぱりあいつは使徒なんだわ!」

 

 その様子を目撃したネルフの指揮官制服に身を包んだ長い紫かかった黒髪の女性士官、葛城ミサトが大声で叫んだ。

 ミサトたちの居るネルフの発令所の正面にある大きなモニターには目を光らせて戦艦を沈める使徒が映し出されていた。

 戦車隊の砲撃も使徒の進撃をわずかに鈍らせるしか効果はない。

 これでは使徒の上陸は時間の問題だ。

 

「碇、直ちにエヴァンゲリオン出撃の準備を」

「分かっている、零号機とレイに威力偵察させる」

 

 司令席に座っていたサングラスに立派な顎髭で威圧感を漂わせる大男のゲンドウと、隣に立っていた白髪の老練な渋さを感じさせる老人、コウゾウは零号機出撃の準備をするように指示を出し始めた。

 対照的に、同じ発令所にいるバーコード頭の国連軍の幹部たちはあわてているだけの無能ぶり。

 

「最新型のエイブラムスの集中砲火でも無傷だと!?」

「レオパルド2A7V部隊でも5分とも耐えられないとは!」

「T-14アルマータの援護射撃も効果が無いのか!」

「K2ブラックパンサー部隊は既に撤退を始めている!」

 

 国連軍の幹部達は顔を合わせてお互いの責任を押し付け合い始めた。

 

「エヴァンゲリオン零号機の出撃準備、完了したみたいよ」

 

 白衣を着た髪を金髪に染めた涙黒子が特徴的な、赤木リツコ博士が落ち着いた声でミサトに伝えた。

 

「碇司令、構いませんね?」

 

 真剣な表情をしたミサトは司令席に鎮座するゲンドウを仰ぎ見て、そう尋ねた。

 

「ああ、使徒を倒さねば人類に未来は無い」

 

 ゲンドウの返答を聞いたミサトは凛とした声で号令を出した。

 

「エヴァンゲリオン零号機発進!」

 

 ミサトの号令で射出用カタパルトに固定されたエヴァンゲリオン零号機が地上へと射出される。

 

「母さん……無理はしないで……レイも無事に帰って来るのよ……」

 

 発令所でリツコは目を閉じて祈った。

 エヴァンゲリオンが巨大異形化した人間である事はネルフ以外では秘密とされていた。

 敵からのダメージを抑えるための装甲板を付けて、表向きはロボットだと誤魔化しているのだった。

 エヴァンゲリオンには表向き『パイロット』が必要だった。

 人間は誰しも他人と自分を隔てる心の壁、A.T.フィールドを持っている。

 巨人化すればそのA.T.フィールドは肉眼で確認できるほど強力になる。

 さらに母親が自らの子を胎内に宿せば、A.T.フィールドの強さは増す。

 それで使徒のA.T.フィールドを打ち破り、使徒を倒すのだ。

 

「エヴァ零号機、威力偵察を行います」

 

 オペレータ席に座るショートカットの若い女性、伊吹マヤが報告をする。

 エヴァ零号機は手のひらに力を込めて、赤く光るA.T.フィールドの球体を発生させる。

 このA.T.フィールド弾を使徒にぶつけて反応を見るのだ。

 

「方角良し、行けーっ!」

 

 エヴァ零号機はピッチャーの様に振りかぶってA.T.フィールド弾を投げた!

 A.T.フィールド弾は真っ直ぐ使徒に向かって飛んで行くが、気が付いた使徒の右腕によって、パァンと弾き飛ばされてしまった。

 弾き飛ばされたA.T.フィールド弾は国連軍の空中戦艦『スーパーX』に当たり大爆発を起こした。

 

「使徒に気づかれた!」

 

 ミサトは戦況を映し出している大型モニターを見てそう呟いた。

 零号機は後退しながら腕を胸の前でクロスさせて防御態勢をとる。

 使徒が両眼を光らせて零号機に向かってビームを放つと、零号機の両腕は装甲板も焼け落ち、傷だらけとなった。

 

「母さん!」

 

 リツコが惨劇を目の当たりにして悲鳴を上げる。

 

「A.T.フィールドが弱すぎたか」

「うむ……」

 

 コウゾウの言葉に、ゲンドウは悔しさをにじませながらそう答えた。

 

「エヴァ零号機をルート16でターボ回収して!」

 

 両腕から大量出血して倒れ込むエヴァ零号機は、ミサトの命令により地面ごと急降下した。

 エントリープラグ内に居る綾波レイも両腕にダメージを受けているだろう。

 

「碇、こうなれば初号機を出撃させるしかあるまい」

「冬月先生、しばらくの間ここを頼みます」

「ああ、ユイ君とシンジ君によろしくな」

 

 ゲンドウはコウゾウに発令所での指揮を託し、初号機へのケージへと向かった。

 初号機ケージにはエヴァ初号機と、プラグスーツに着替えたシンジがゲンドウを待っていた。

 

「ユイ、シンジ。二人にはさらに辛い思いをさせなければいけない事を情けなく思っている」

 

 ゲンドウはそう言って、シンジたちに向かって身体を折り曲げて頭を下げた。

 

「父さん、顔を上げて。父さんが悪くないって事は、僕も母さんも分かっているよ」

 

 シンジの言葉と共に、エヴァ初号機も唸りを上げる。

 巨人異形化してしまったユイは人間の言葉を発する事は難しくなってしまったが、筆談(巨大タブレット)で意思の疎通をとっているのだ。

 しかし今は悠長にタブレットで筆談をしている時間はない。

 

「じゃあ父さん、行って来るよ」

「頼んだぞ」

 

 シンジはエントリープラグに乗り込み、エントリープラグはエヴァ初号機に挿入された。

 泣き明かして腫れた目をしたリツコが発令所に戻り、エントリープラグのシンジと通信を行った。

 

「シンジ君、あなたはただ座っていればいいの」

「はい」

 

 エントリープラグにはシンジをパイロットとして外部の人間の目を欺くためのダミーの操縦装置しかなかった。

 実態はただの椅子だった。

 

(シンジ、母さんに任せて)

 

 ユイは心の中でそう呟いた。

 

「エヴァンゲリオン初号機、発進!」 

 

 ミサトの号令で初号機は地上へと射出される。

 使徒はかなり第三新東京市へと近づいていた。

 もう偵察ではない、ガチの戦いだ。

 

(零号機の借りは返すわよ!)

 

 エヴァ初号機は唸り声を上げながら、使徒へと突進して行った。

 A.T.フィールドを練って弾を作って使徒にぶつけるなんてしていられない。

 ユイは怒りに燃えていた。

 エヴァ初号機の直線的な突進を、発令所に居るミサトは固唾を飲んで見守った。

 ミサトは使徒とエヴァの戦いを見るのは初めてではない。

 肉弾戦ではA.T.フィールドの力比べとなる。

 使徒は自分に向かって来るエヴァ初号機を見ると、両目を光らせてビームを発射した。

 エヴァ零号機はこの一撃でA.T.フィールドを貫かれてやられてしまった。

 しかしエヴァ初号機は、ビームを自身の纏うA.T.フィールドで弾いてそのまま使徒へと接近を続ける。

 ビームが通用しないと見ると、使徒は接近戦に備えてA.T.フィールドの光の槍を形成させる。

 鋭い槍の穂先で腹部を貫かれれば、エヴァ初号機も乗っているシンジもダメージを受ける。

 直線的に使徒に突進していたエヴァ初号機は緊急回避行動として、横方向に転がって突き出された使徒の槍攻撃を避けた。

 不意を突かれた使徒はエヴァ初号機に間合いを詰められた。

 こうなると、リーチの長い槍の優位性が無くなる。

 

(零号機の仕返しよ、覚悟しなさい!)

 

 エヴァ初号機の右の拳が光を放ち、使徒の顔面を思い切りパンチした!

 使徒の顔面が大きく凹み、動揺した使徒の右手から光の槍が消失する。

 これで使徒は大きく戦意を喪失したかのように見えた。

 

「初号機のパワーは使徒を上回っている、勝てるわ!」

 

 そう声を上げたミサトをはじめ、発令所に居る人間の表情は明るくなった。

 初号機が一撃で使徒を倒さなかったのは、零号機が受けた苦痛を使徒にも味あわせようとするユイの意趣返しだった。

 さらに初号機は使徒を第三新東京市から遠ざけるべく、よろめいている使徒にタックルを食らわせて突き飛ばした。

 タックルの衝撃を受けた使徒は数百メートルほど後退した。

 次なる攻撃を加えようと近づいた初号機に、勝てないと悟った使徒は飛び付いた。

 

「まさか、自爆する気!?」

 

 15年前の南極での決戦でも、使徒は初代エヴァンゲリオンを巻き込んで自爆した。

 ミサトの乗っていたエントリープラグは勢いよく強制排出され、爆発に巻き込まれずに済んだ。

 しかし、使徒の自爆に巻き込まれた初代エヴァとそこに居た葛城調査隊の人々は……。

 当時14歳だったミサトの記憶が蘇り、血の気が引いた。

 

(ここで使徒を自爆させれば、少なからず犠牲者が出てしまう……私の慢心が招いたミスね……)

 

 ユイは下手に使徒を追い込んでしまった自分の軽率さを後悔した。

 ガッチリと使徒に組まれた初号機は身動きが取れない。

 僅かでも市街地から離れようと初号機は全体重を込めて身体を倒し、ゴロゴロと地面を使徒と共に転がった。

 直後に使徒が自爆し、緑色の閃光が天高く上がった。

 

「パターン緑、消失。使徒は殲滅されました……。初号機は無傷です」

 

 オペレータのマヤが初号機の完全勝利を告げるが、発令所で嬉しそうな歓声を上げたのは事態の重要性を理解していない愚かな国連軍の幹部たちだけだった。

 

「それで、被害状況は?」

「詳細は不明ですが、使徒が上陸した鶴真町、爆心地に近い河原湯町は『緑化』、避難が遅れた住民たちは『アダム樹』となりました……」

 

 コウゾウが尋ねると、リツコは沈痛な面持ちでそう答えた。

 15年前の南極でも、爆発に巻き込まれた人間は樹木となってしまった。

 ミサトの父親である葛城博士も……。

 強制射出されたエントリープラグが凍った土の上を滑り、爆発の影響範囲から辛くも逃れたミサトはその光景を目撃してしまった。

 急な事情でゲンドウとユイが南極を離れて居なかったら巻き込まれていただろう。

 不思議な事に、人間以外の生物は爆発による影響を受けなかった。

 

「初号機パイロットは被害を最小限に抑えてくれた……」

 

 ゲンドウはそう呟くと、発令所から再び初号機へのケージへと向かった。

 使徒が倒された事で、国連軍の幹部たちも撤収を始めた。

 既に初号機はケージへと戻り、シンジの乗るエントリープラグも排出されていた。

 

「良く頑張ったな、シンジ」

「頑張ったのは母さんだよ」

 

 ゲンドウが頭を撫でると、シンジは照れくさそうな顔をしながらも避ける事はしなかった。

 

『今日はシンジにおいしい夕ごはんをつくってあげて』

 

 ユイからのメッセージがディスプレイに表示された。

 

「ああ、分かっているよ、ユイ。シンジ、スーパーに買い物に行くか。好きな物を何でも作ってやる」

「うわあ、嬉しいなあ」

 

 ゲンドウのサングラスに覆われた目の表情は見えないが、優しい目をしているとシンジは分かっていた。

 国連軍のお偉方など、見た目で人をなめてかかる人間が居るのである程度の威厳を保たなければいけない。

 

「冬月先生、後は任せました」

「ああ、今日くらいはシンジ君を労わってやれ」

 

 発令所に戻ったゲンドウは、コウゾウに早退する旨を伝えた。

 零号機とレイのお見舞いに行った後、ゲンドウは眼鏡と服を着替えて、シンジと第三新東京市への街へと向かった。

 

「今日は天ぷらにするか。エビや半熟卵が好きだったな、シンジは」

「父さん、さつま芋と、かしわ天もお願いして良い?」

「問題ない、お前が手伝ってくれればな」

 

 色無し眼鏡越しに見えるゲンドウの目は優しい。

 大変な一日だったが、両親を信頼しているシンジの心は晴れやかだった。




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