新世紀エヴァンゲリオン for Mothers ~母親達の戦い~ 作:朝陽晴空
<ネルフ本部 第一発令所>
突然衛星軌道上に現れた使徒に、ネルフ本部だけでなく世界中が今までにない混乱を起こしていた。
宇宙に浮かぶ使徒は身体の一部を引き千切り、隕石のように地球の都市へと攻撃を仕掛けていたのだ。
まず最初に標的となったのは中近東の原油産出国。
核ミサイルを持たず、アメリカやヨーロッパ諸国と関係が悪かったため、N2ミサイルも配備されていなかった。
通常兵器で隕石のような使徒の一部を倒そうとしても失敗。
中近東の砂漠地帯は緑地帯となってしまった。
そこに住む多くの人々をアダム樹に変えて。
さらにこんな時代でも、こんな時代だからこそなのか、一獲千金を狙って違法伐採が続いたアマゾンも標的となった。
昔からつつましく暮らしていた部族の人達は気の毒でならない。
アフリカの砂漠にも使徒の隕石は降り注いで多くのオアシスが出来た。
世界の人口が減って食い扶持が減ったと喜ぶ人間も残念ながら居た。
「世界の人口は半減、使徒は本格的に攻撃を仕掛けて来たという訳か」
コウゾウはやれやれと言った様子でため息をついた。
「使徒は意図的に軍備が薄い場所を狙っているのだと考えられます」
マコトがそうゲンドウ達に報告をする。
「ですが使徒が自分の身体を千切っているのは枝のように伸びている先端部分。真の狙いは恐らく……このネルフ本部でしょう」
ミサトが自分の意見を述べると、発令所は静まり返った。
使徒は自身の巨体に重力による落下の衝撃をプラスしてネルフ本部を圧し潰そうとしている。
爆発の規模によっては日本沈没も有り得るかもしれない。
「MAGIの意見は?」
「3者一致でネルフ本部からの撤退を提案しています」
ゲンドウに尋ねられたリツコはそう答えた。
ネルフ本部が消失し、第2使徒リリスを敵に奪われるのは人類滅亡と同じ事である。
しかも国外に逃げなければ安全が保障されないとあっては、助かるのはチャーター機に乗れる極一部の人間だけだ。
逃げた先に使徒の隕石が落下する可能性もある。
既に被害を受けた都市がある以上、国民達に使徒の存在を隠すのは無理だった。
「空中から飛来する使徒をエバーで受け止める作戦はどうでしょう」
ミサトは自分が絞り出した作戦を皆に提案した。
しかし反対したのはリツコだった。
「使徒の落下予測範囲がエヴァ3機ではカバーできないほど広すぎるわ。それに上手く受け止められたとしても落下衝撃で日本が平らになってしまうほどよ」
「それはA.T.フィールドで何とかならない?」
「奇跡が起こっても無理ね」
ミサトとリツコのやり取りを聞いて、発令所はさらに重い空気に包まれた。
やはり使徒を宇宙空間で撃破するしか手はないのか。
既にロシアやアメリカなど世界各国は人工衛星をぶつけて使徒を倒そうとしていたが、余計な宇宙ゴミが増えるだけだった。
残念ながらコロニーレーザーや、波動砲を放つ宇宙戦艦が存在する世界ではない。
「零号機が前にやった、皆のA.T.フィールドを集めて使徒にぶつけると言うのはどう? 地球に住んでいる皆に呼び掛けてさ!」
「世界が大混乱になっている現状では、日本のエヴァにA.T.フィールドを収束させるのは無理な話ね」
ミサトが名案だと張り切って言うと、リツコは素気無い表情でそう答えた。
「葛城さん、それをやったら本当に最終回になってしまいますよ!」
マコトの余計な一言で、ミサトは今までにないほどの怒りの形相でマコトを睨みつけた。
「収束させたA.T.フィールドを放っても、宇宙の使徒まで届くとは限らん」
ゲンドウがそう断言すると、発令所は本当に重い空気に包まれた。
「とりあえず、使徒はネルフ本部のエヴァが倒すと世界に向けて放送しろ。人々が死に至る病に陥る事が真の恐怖だ」
「しかし、まだ使徒を倒す作戦が……」
使徒を倒すと宣言してしまっては、ネルフ本部から逃げ出す事は出来なくなる。
せめてエヴァだけでも逃がしてあげたいと思っていたミサトにとっては受け入れにくい事だった。
「良いから、ネルフの広報部長としての役割を果たせ!」
有無を言わせないゲンドウの態度にミサトは従い、会見を開くために発令所を出た。
「レイ、零号機にセントラルドグマへ行くように伝えろ」
ゲンドウがレイに連絡を取るのを聞いたコウゾウは目の色を変えた。
「碇、人類救済委員会が黙って居ないぞ」
「使徒殲滅が最優先です」
耳打ちして来たコウゾウに、ゲンドウはそう答えた。
<第三新東京市 第20号シェルター>
使徒が宇宙空間に現れてからまだ数時間だと言うのに、数度の隕石攻撃で被害がマスメディアを通じて世界を駆け巡ると、全人類が大混乱に陥った。
仕事を放棄して狂ったように駆け回る大人達、交通機関では事故が多発した。
その恐怖は子供達にも伝播して泣き叫ぶ子供達も居た。
緊急事態宣言が出されて人々はシェルターに押し込まれるように避難したが、トウジやケンスケ、ヒカリの周りにも絶望の言葉を呟く大人達が多かった。
「ああ、俺達いくら頑張って働いても、どうせ使徒に殺されるんだ!」
「あんた、今のうちにワシを楽にしてくれ……どうせワシは病気で長く生きられないんじゃ……」
「どうせ死んでしまうのなら、今のうちに……」
「嫌ぁっ、止めて下さい!」
トウジとヒカリとケンスケは身体を寄せ合って、恐怖に怯えていた。
使徒に消されるより、目の前に居る恐怖に支配されて理性を失った人間の方が恐ろしかった。
そんな狂乱状態の中、今まで世界各地の被害状況を表示していたディスプレイにミサトの姿が映し出された。
「皆さん、使徒を恐れる必要はありません! 次の使徒の攻撃が始まる前に、エバーが使徒を倒します」
ミサトが毅然とした態度でそう言うと、初号機、弐号機、零号機の3機が宇宙空間でライトサーベルを持って使徒と戦う姿が映し出された。
これはリツコが作った本物そっくりのコンピュータグラフィックである。
実際にはエヴァを宇宙空間に飛ばす準備の時間は無かった。
もしかしたら別の物語ではこの光景が現実になったのかもしれないが。
ネルフは世界中の放送局をジャックしているのでウソだとバレる心配は少ない。
リツコはネットやSNSもMAGIに監視させて情報を統制していた。
「ミサトさんだ!」
「アスカ達が使徒を倒してくれるの?」
「それならワシら、助かるんや!」
ケンスケ達はディスプレイに映し出される凛々しいミサトの姿を見た。
「皆さんはきっとこの先も生き延びる事が出来ます、ですから自暴自棄にならずに希望を捨てないでください!」
自信たっぷりに断言するミサトに、人々の心は落ち着いた。
しかし使徒の隕石攻撃が行われれば再び恐怖と混乱が起こるだろう。
ネルフは直ぐにでも使徒を倒さなければならなかった。
<ネルフ本部 セントラルドグマ>
零号機、初号機、弐号機の3機のエヴァはネルフの最深部、セントラルドグマまで潜っていた。
エントリープラグにはレイ、シンジ、アスカの3人も乗って居た。
「私はこっちへ行くから。碇君、アスカ、これでお別れね」
零号機が向かう先はヘブンズ・ゲート、初号機と弐号機が向かう先はジオフロントの地底湖だった。
「ちょっとレイ、どういう事? アタシ達で使徒を倒すんじゃないの!?」
「もし使徒が落下して来ても、初号機と弐号機は助かるかもしれない。じゃあ、さよなら」
「ねえ、どうなっているの、ママっ!」
「母さんっ!」
アスカとシンジが呼び掛けても、弐号機と初号機は零号機と別の道を行く。
ゲンドウは最悪の事態に備えて、万に一つでも生き残る可能性のある初号機と弐号機をジオフロントの地底湖の底に避難させる事にした。
零号機はセントラルドグマに行くと、巨大な十字架に磔になっている上半身だけの第二使徒リリスに突き刺さっているロンギヌスの槍を抜いた。
槍を引き抜かれた第二使徒リリスはゆっくりと下半身の生成を始める。
封印され止まっていたリリスの肉体の時間が動き始めたのだ。
「これで……私のタイマーは動き出したのね。残された時間はどのくらいかしら」
(ごめんねレイちゃん、ずっと人間の女の子として生かしてあげたかった)
零号機であるナオコは心の中でレイに謝った。
リリスの肉体が完全に再生されれば、レイの身体に宿っているリリスの魂は肉体へと引き寄せられる事になる。
「零号機が使徒を倒せなかったら、僕達死ぬのかもしれないね」
「何を言っているのよバカシンジ、アタシ達が死ぬわけ無いじゃない」
初号機と弐号機はジオフロントの地底湖の底でじっと息をひそめていた。
ネルフの重要区画であるため、発令所の通信も入って来ない。
ユイとキョウコはどんな気持ちで子供達の会話を聞いているのだろう。
「でも、もし地球の人間が居なくなってアタシとシンジだけになっても……アタシとシンジが増やしていけば、人類は滅亡しないわよね」
「アスカ、何を言い出すだよ」
アスカの言葉を聞いたシンジは顔が真っ赤になった。
多分口がすべったアスカの方も顔が真っ赤になっているだろう。
ユイとキョウコは2人の子供達ならきっと可愛い子ねと思っていた。
その後、シンジとアスカの間には気まずい雰囲気が流れていたが、解放されるまでそれほど時間は掛からなかった。
零号機がロンギヌスの槍を投げて使徒を殲滅させたと迎えにやって来たからだった。
<第三新東京市郊外 富士狩猟探険公園>
零号機で使徒を倒したご褒美として、レイは友達であるシンジ達とサファリパークに遊びに行く事を希望した。
ミサトの運転する3列シートの7人乗りのミニバンには、助手席にレイ、2列目シートにはアスカとヒカリ、後部のベンチシートにはアスカが名付けた3馬鹿トリオのシンジとトウジとケンスケが乗って居た。
今まではどちらかと言えば1人で静かに本を読んでいる方が好きだと思っていたレイに、どんな心境の変化があったのだろうと、アスカとシンジは不思議に思った。
このサファリパークには2000年になる前から絶滅が危惧される動物たちが集まめられて保護されていた。
サファリゾーンでは車から降りて動物と触れ合う事は出来ないが、今まで図鑑の絵や映像を通してしか動物を見る事が出来なかったレイは興奮してミサトやアスカ、ヒカリに話し掛けていた。
「今日の綾波、いつもより口数が多いな」
「何か舞い上がってる感じやないか」
「綾波が喜んでくれるなら、それで良いんじゃないかな」
今日の主役は零号機パイロットであるレイだ。
ミサトはレイの望む事なら何でも叶えさせてあげた。
レイがアスカやヒカリの腕を引っ張るほど積極的になるのは珍しい事だ。
でもレイは無理して明るく振舞っているようでミサトは不安を感じた。
動物との触れ合い広場では、レイは聖母のような優しい表情で動物達と接していた。
顔を舐めまわされても、アスカとヒカリが引いてしまうほどレイは笑顔を絶やさない。
動物達の方も特段にレイになついているようで、動物に囲まれてしまっている。
シンジが気合を入れて作ったお弁当に舌鼓を打ち、午後には乗馬体験や餌あげ体験を楽しんで、シンジ達は日が暮れるまでサファリパークを堪能した。
「コンフォート17がペット禁止じゃなかったら、あたしも動物とか飼ってみたいわね」
「ミサトが飼うなら、人間並みに家事をしたり、お風呂に入ったりする自己管理の出来るペットじゃないと無理よ」
「何よ、失礼しちゃうわね」
アスカとミサトのやり取りで、レイはまた嬉しそうに声を上げて笑った。
最大の危機を回避した人類達。
しかし別の形の恐怖がまた襲い掛かるのだった。
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