新世紀エヴァンゲリオン for Mothers ~母親達の戦い~   作:朝陽晴空

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第十一話 使徒の心の中で

 

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<第三新東京市 スーパーイケダ> 

 

「父さん、またジャガイモの値段が上がったね。この大きさで70円だなんて信じられないよ」

「日本各地のジャガイモの収穫量も大幅に減少する予測になっている。値上げの波は止まらないだろう」

 

 ゲンドウはシンジのぼやきにそう答えた。

 世界の列強国は相変わらず使徒撃退に核爆弾やN2爆弾を使っていて、吹き上げられた粉塵による地球への太陽光の入射量は減るばかりだ。

 

「ねえ父さん、どうしてジャガイモは外国から輸入できないの?」

「栽培に害を与える病気を国内に入り込まないようにするためだ」

 

 ゲンドウはシンジの質問に的確に答えた。

 

「だけどハンバーガーショップは外国産のジャガイモを使ったポテトを売っているよ」

「あれは海外で調理したものを冷凍して輸入している」

 

 シンジはゲンドウの知識の深さに改めて感心した。

 エヴァの事だけではなく食品業界の裏話まで知って居るなんて。

 

「でもフライドポテトはしばらくの間一番小さいエステル・サイズだけの販売になるみたいだね」

 

 今までハンバーガーショップは、一番大きいゴジラから小さいエステルまでの10種類のサイズのフライドを販売していた。

 一番売れていたのは中くらいのバッドマンサイズだった。

 世界が大混乱を起こした事で、輸入品の値段はうなぎ登りとなっていた。

 さらにこの15年間、インフレで成長していた世界に比べて、デフレ脱却が出来ていなかった日本は、給料が上がらず、物価だけが上がるスタグフレーションになり生活苦に喘ぐ人達が増えていた。

 外国に比べて大きな暴動が起きなかった日本だが、経済恐慌で危機を迎えていた。

 

 

 

<コンフォート17 碇シンジの家>

 

「ただいまーっと」

「アスカ、しっかりと花粉を落としてから家に入ってよ」

「分かったわよ、シンジの童貞の危機だものね」

 

 玄関に入ったアスカを鋭い眼光で睨みつけるシンジに、アスカは茶化すように答えながらもしっかりと服に付いたアダム樹の花粉を落とした。

 シンジが掃除機でしっかりと花粉を吸い上げる。

 バイソンの吸引力の変わらない掃除機は供給が追い付かないほど売れている。

 花粉を通さない不織布マスクも。

 アダム樹が地球上に増えて花粉を撒き散らすと、人体への悪影響が現れ始めたのだ。

 少量のアダム樹の花粉なら、吸い込んでも他の花粉と大して差が無いと見過ごされていた。

 使徒を倒すのにいっぱいいっぱいだったからだ。

 しかし世界の各地で男性の生殖器に異変が起き、異常な膨張の後に『樹』へと変わってしまう現象が報告されるようになった。

 『菩薩樹』と名付けられた現象は、アダム樹の花粉によって引き起こされた事が判明され、世界中の男性は恐怖に駆られた。

 使徒たちは人間の生殖機能を喪失させて、人類の未来までも奪おうとしているようだった。

 世界保健機関は外ではマスクを着用し、屋内に入る際には花粉を落として中に入る事と警告を発する事しか出来なかった。

 無理やり女性を襲ったりして興奮が高まると、『菩薩樹』になりやすいと言う話がSNSで広まると、根拠の無い憶測だったが、性犯罪の数は激減した。

 真剣に悩んでいたのは真に愛し合って子供を作ろうとしていたカップル。

 行為の途中で『菩薩樹』現象が起きては相手も傷つけてしまう。

 アスカも無暗にシンジを挑発するような行為は控えた。

 逆にそう言う事に疎いレイに服をしっかり着るように注意するほどだ。

 しかし健全な男はだんだんと溜まってしまう生き物だ。

 リツコも世界の医師や科学者と協力してアダム樹の花粉に対するワクチンや治療薬の開発に追われた。

 

「総理大臣は1日100万回接種って言ってするけど、上手く行くのかしら」

 

 TVを見ながらアスカはそう呟いた。

 使徒の攻撃により世界の工場の生産能力は落ちている。

 日本の人口が減ったとは言え、過去に保健所の数を減らした失策も裏目に出ていた。

 シンジやトウジやケンスケ達は早い時期にワクチン接種が受けられたが、後ろめたさを覚えていた。

 懸念されていた副作用も出る事は無かった。

 こんな事件が起きたため、アダム樹を焼き払ってしまえと言う意見も出て来た。

 しかしアダム樹は人間だった存在、元に戻る方法が見つかるかもしれないと泣いて反対する人々も居る。

 ミサトも南極で自分の父親はアダム樹になって生きているんだとシンジに漏らした事があった。

 だからシンジはアダム樹を見かけても枝を折ったりして憎む気持ちにはなれなかった。

 アダム樹は桜のように綺麗な花を咲かせる事も憎しみの気持ちを和らげていた。

 樹になった人からのメッセージのように感じていた。

 

 

 

<ネルフ本部 第一発令所>

 

 ネルフ本部の直上に突然現れた浮遊する巨大な球体状の白黒縞模様の物体に、ネルフの発令所は混乱を起こしていた。

 

「どうしてこんな近くに来るまで気づかなかったの!?」

 

 これでは第三新東京市に緊急事態宣言を発令しても間に合わない。

 ミサトはリツコの白衣の襟を掴んで厳しく問い詰めた。

 

「あの球体は日本近海から浮遊して接近して来たのではなく、突然出現したのよ」

「ワープして来たと言うの!?」

 

 ミサトはリツコの答えを聞いてリツコを掴んでいた両手を離すと両手で自分の頭をかきむしった。

 こうなれば作戦を考える時間もあったものではない。

 

「パターン緑、MAGIは使徒と判断しています」

 

 マヤは努めて落ち着いた声で事実を報告した。

 しかし使徒は何の動きも示さない。

 使徒の目的が以前のビーム攻撃使徒と同じ第二使徒リリスとの合体ならば、行動を起こしているはずだ。

 

「でもこのまま何もしないわけにはいかないわ」

 

 ミサトは初号機と弐号機を出撃させ、威力偵察を試みた。

 零号機はケージで待機、接近戦は他の2機に分があると判断した。

 

「威力偵察なんて甘っちょろい! 一撃で使徒を倒してやるわ!」

 

 キョウコも娘の気持ちを尊重したいのか、弐号機は初号機に手を振ってスマッシュ・ホークを持ち高層ビルから跳び上がってスマッシュ・ホークを空に浮かぶ巨大な球体の使徒へと叩きつけようとした。

 しかし弐号機のスマッシュ・ホークが使徒に触れた瞬間、巨大な球体は姿を消した。

 使徒は何処へ行った? と誰もが思った直後、弐号機の足元に異変を感じた。

 巨大な球体の影だと思われていた部分の地面が沈み込み、弐号機をビルごと底無し沼の様に飲み込み始めたのだ。

 

「何よ、コレ!?」

 

 エントリープラグの中のアスカが驚きの声を上げた。

 弐号機はビルから跳び上がって底なし沼から抜け出そうとするが、もう手遅れだった。

 

「アスカ!」

 

 その様子を見たエントリープラグのシンジが声を上げる。

 初号機が沈み込む弐号機を救出しようと駆けつける。

 

「ユイ、弐号機を助けるのは無理だ! お前まで巻き込まれるぞ!」

 

 ゲンドウはユイを初号機と言い繕う事も出来ないほど慌てて制止した。

 

「輸送機を緊急発進!」

 

 動揺をしているゲンドウに代わりミサトが普段エヴァを空輸している輸送機の離陸を命じた。

 しかし輸送機でワイヤーを初号機に引っ掛けようとしても、すでに初号機までもが顔の部分まで底なし沼に飲み込まれていて、引き揚げての救出は不可能だった。

 虚しく初号機の頭上を掠めた輸送機のワイヤーには何も引っ掛かって居なかった。

 使徒はまた動きを止めてしまっていた。

 

「使徒の狙いはエバーだったって言うの!?」

 

 エヴァを出撃させたミサトは激しい後悔の念に駆られた。

 しかしあの場はそうするしかなかったのだ。

 

「ああ、ユイ……なんて事だ……」

「落ち着け碇、お前が取り乱すと、士気に影響するぞ」

 

 コウゾウはゲンドウを司令席に座らせた。

 

「赤木君、何としてでも無事に初号機と弐号機を救い出せ。もちろんパイロットもだ」

 

 ゲンドウは自分の胸の中に浮かんでいたシンジとアスカが可愛い赤ん坊を抱えている姿が真っ黒に塗り潰されて行く気持ちがした。

 

「使徒は内向きに展開したA.T.フィールドによりエヴァを内包するマイナス宇宙空間へ引きずり込んだようです」

「……それで、救出する方法は」

「使徒の宇宙空間を破壊すれば、エヴァはこの空間へと戻って来ます」

 

 ゲンドウに尋ねられたリツコは冷酷な声でそう告げた。

 

「宇宙空間を破壊って……!」

 

 あまりのスケールの大きい話にミサトは息をのんだ。

 

「超高強度レーザーによる真空崩壊を引き起こします」

「それで、エヴァが無事に済む保証は?」

「エヴァは肉片になり、パイロット双方も死亡する可能性が高いです」

 

 ゲンドウに尋ねられたリツコはキッパリとそう断言した。

 するとゲンドウは再び司令席から立ち上がり、リツコを拳で殴ろうとした。

 慌ててミサトやマコト達数人掛かりで大柄なゲンドウを抑えつける。

 

「司令、赤木博士に怒りをぶつけても意味がありません!」

 

 マコトが必死にゲンドウを押し留めている間、ミサトはリツコに尋ねる。

 

「それで、超高強度レーザーを発生させる方法は?」

 

 日本中の電力を集める事は無理だとミサトには分かっていた。

 

「前に第三新東京市の市民のA.T.フィールドを零号機に集めた事があったでしょう?」

「まさか!?」

 

 リツコの言葉を聞いたミサトは顔色を変える。

 

「零号機の『貫光砲』で使徒のマイナス宇宙の特異点を攻撃すれば、宇宙はビッグバンを起こすわ」

 

 『貫光砲』を特異点に当てるためには中に居るエヴァもA.T.フィールドで防御してはいけない事になる。

 そして宇宙全体の爆発に、エヴァはA.T.フィールドで耐えなければならない。

 エヴァの生還は絶望的だった。

 

「ミサト、ネルフ本部のシェルターに人を集める手配をして」

 

 事務的にミサトに告げるリツコも、胸が張り裂けそうなほど悲しいのだ。

 ミサトも涙を飲んで発令所を出るのだった。

 

 

 

<使徒レリエルの体内 マイナス宇宙空間>

 

 使徒に飲み込まれた弐号機と初号機は真っ暗な空間から眩しい光に包まれると、シンジとアスカ、ユイとキョウコは第壱中学校の教室のような場所に居た。

 生徒向けの机と椅子が4組用意されていて、シンジとアスカは第壱中学校の制服を、ユイとキョウコは明ジョウ学院高校の制服を着て着席していた。

 後ろの2つ並んだ席に座っていたシンジとアスカは、前の列の席に座っている人間の姿のユイとキョウコの背中を見て驚いた。

 

「母さん……?」

「ママ……っ!」

 

 4人は席から立ち上がって、お互いに感動して抱き合った。

 ユイとキョウコの年齢がミサトやリツコより若いのはちょっと気になったが。

 

「皆さん、まだ授業中ですよ。自分の席に着いてくださいね」

 

 いつの間にか日本人形のような髪型をした、落ち着いた感じの黒い髪の黒いスーツに白いシャツを着た新米教師のような女性に声を掛けられた。

 

「嫌っ、もうちょっとママとギューッとしていたい!」

「アスカちゃん、ワガママを言わないで席に座りましょうね」

 

 キョウコに言われて、アスカは渋々と席に着いた。

 平和に見えるが、この空間の支配者は黒髪の女性のような感じがしたのだ。

 

「私はレリエル。あなた達が使徒と呼んでいる存在。そしてここは私の体内であるマイナス宇宙です」

「マイナス宇宙?」

「このマイナス宇宙では、私の思う通りに姿や形を変えることが出来るのです」

 

 シンジの疑問の言葉に、レリエルはそう答えた。

 

「じゃあ、あなたが私達を若い頃の姿にしてくれたの? ありがと~」

 

 金髪美女と言っても差し支えないキョウコはのほほんとした表情で手を合わせてレリエルにお礼を言った。

 

「私達を高校生の姿にしてくれたのは、これから授業でもしてくれるのかしら?」

 

 ユイがそう尋ねると、大和撫子のようなレリエルはこくりと頷いた。

 レリエルはチョークを持って黒板に水棲族、爬虫類族、人間族の文字を書くと、シンジ達生徒の方を向き直った。

 

「あなた達は、私達使徒がどうして現れたか分かりますか?」

「そりゃあ、人類を滅ぼすためなんでしょ」

 

 アスカの答えにレリエルは難しい顔で首を横に振った。

 

「それはざっくりとした答えですね。私達は4千年ごとに種族を滅ぼして来た『破壊者シバ』、人間族のシバであるアダム様から生まれたものです」

 

 レリエルはそう言って黒板の板書を再開した。

 

「まず最初にこの地球で生命が生まれたのは海でした。そして進化した水棲族は文明を築きましたが、4千年の間に地球の海を他の生物が暮らせないほど汚しました。そして水棲族のシバに滅ぼされたのです」

 

 シンジ達が見た浅間山のマグマの中に居たカブトガニ使徒と戦ったクリオネ怪獣。

 あれが水棲族のシバだとシンジ達は思った。

 

「後に陸上で栄えた爬虫類族もそうです。彼らは弱肉強食の本能の赴くまま地上の命を喰らいつくしました」

「それで爬虫類族のシバに滅ぼされた?」

 

 ユイの言葉に、レリエルはコクリと頷いた。

 

「ですが人間族のシバの時に例外が起きました。あなた達は人間族のシバを倒してしまったのです」

「それじゃあ、アタシ達人間は滅亡せずに済むの!?」

「それはあなた達次第です」

 

 嬉しそうに声を上げたアスカに、レリエルはそう答えた。

 

「人間族が4千年の間に地球を汚染し尽さなかった理由、それは紀元前に栄えていた

アトランティス文明を、人間族自身の手で消したからなのです。救世主の名はキール。その時から紀元後……西暦と呼ばれる新たな時代が始まりました」

 

 ユイはキールと言う名前に聞き覚えがあった。

 人類救済委員会のトップであり、死海文書を所持するマルドゥック機関の管理者。

 

「ですが人間の進化のスピードは他の種族よりも早過ぎました。たった2千年で地球は再び危機を迎えている。人間族のシバ、アダムは倒されましたが、生まれ変わって再びあなた達の前に現れるでしょう」

「あのー、どうして使徒の敵である私達にあなたは大事な話を教えてくれたの?」

 

 キョウコの間延びした声が壮大な歴史物語の雰囲気を和らげた。

 

「シバが力を取り戻す15年の間、私達使徒はあなた達がする事を見て来ました。地球を救ってくれるかもしれないと僅かに期待もしていましたが、あなた達がエヴァを造ったように、生き残るのに必死だったようですね」

「ごめんなさい、僕達、地球の為に何も出来なかった」

 

 レリエルに向かってシンジはそう謝った。

 

「仕方のない事です。それに私も、ただで自壊してあなた達を元の世界に戻すつもりはありません。他人を拒絶する外向きのA.T.フィールドではなく、絆を示す内向きのA.T.フィールドでこのマイナス宇宙を打ち破って見て下さい。そうしないと、人間族のシバに再会する前に、最強の拒絶A.T.フィールドを持つ使徒ゼルエルにも負けてしまうでしょう……」

 

 自分が敵に塩を送るのはこれまでだとばかりにレリエルは押し黙った。

 

「もし、人類が滅亡して2人だけになったら、アスカちゃんとシンジくん、2人で仲良くするのよ」

「もう、何言ってるのママ、諦めないでよ!」

 

 弱気な発言をするキョウコに、アスカはそう言い返した。

 ここに居るレリエルは実体では無いのだろう。

 物理的な攻撃は意味が無いように思える。

 するとレリエルの言う通りにシンクロ率を高めるしかない。

 絆を強めるためだとアスカはギュッとキョウコに抱き付いた。

 

「ママって高校生の時から胸が大きかったのね」

「あらあら、アスカってばこんな時にも甘えちゃって」

 

 シンジも恥ずかしいが、再びユイにギュッと抱き締めてもらった。

 マイナス宇宙なのに母親の温もりが伝わってくる気がする。

 人はA.T.フィールドがある限り完全に他人と同化する事は出来ない。

 ならば出来る限りこの場に居る4人の心を合わせようとする努力が必要だ。

 お互いに抱き合い、愛していると言葉で言っても、この宇宙を破壊するほどの力が出ない。

 しかし世代や性別を超えて気持ちを合わせる方法などあるのだろうか。

 考えたユイの頭に名案が浮かんだ。

 

「レリエルさん、ここが学校ならば、この部屋を音楽室にする事は出来ない?」

 

 レリエルはユイの言葉に不思議そうな顔をしたが、ユイの希望をかなえた。

 使徒である彼女もユイが何をするのか興味津々のようだった。

 ユイは口を開けてポカンとするシンジにエレキベース、アスカにリードギターを渡し、キョウコにはキーボードを弾くように指示して、自分はドラムセットの位置に座った。

 

「曲はそうね……『残酷な天使のテーゼ』で良いかしら?」

 

 『残酷な天使のテーゼ』はカラオケの年代別ランキングでも10代から60代まで、ランキングTOP20に入るほど日本国民に広く知れ渡っている曲だ。

 

「でもアタシ、リードギター&ボーカルなんてやった事無いんだけど」

「僕もベースはあんまり触った事が無いし……」

「大丈夫、そんなに難しくは無いから。私とキョウコさんに任せなさい」

 

 不安そうな表情を浮かべるアスカとシンジに、ユイは自信たっぷりにそう言った。

 

「あのー、ユイさん? 私もピアノはアスカちゃんに聞かせるために少しやっていたけど、上手く弾けるか自身無いわ」

 

 高校時代、キョウコは水泳部だった。

 ピアノは音楽の授業でやった程度。

 

「次に弾く鍵盤をランプでナビゲーションしてくれるキーボードなので問題無いですよ」

「へえ、そんな便利なものがあるのね」

 

 ユイはキョウコの言葉に感心した。

 『残酷な天使のテーゼ』は有名な曲なのでレリエルがユイが指定した品番のキーボードを再現すればインストール済みのキーボードに変更できる。

 

「じゃあ、あなた達の魂の籠もった演奏を先生に聞かせてね」

 

 レリエルの方も学校ごっこにノリノリである。

 静かにアスカのボーカルから始まり、ワンフレーズが終わった後、ユイが先頭を切ってドラムを叩くと、4人全員の演奏と熱唱が始まった。

 後半になるにつれシンジ達のテンションも上がり、レリエルの拍手も聞こえるような気がして来た。

 そしてシンジ達は眩しい光に包まれた……。

 

 

 

<ネルフ本部 第一発令所>

 

 ミサトは第三新東京市の市民達を再び説得してネルフ本部のシェルターに集め、零号機も定位置に着いた。

 これからエヴァ2機とパイロット2人を死なせるかもしれない作戦の号令を出さなければならないミサトの胸は締め付けられる思いがして、さらに全身の汗が止まらなかった。

 ミサトが開始の合図を出そうとした矢先、発令所に警報が鳴り響いた。

 

「強力なA.T.フィールドの発生を確認!」

「エヴァが……歌っている?」

 

 球体の使徒の影が映し出されていたディスプレイからは眩しい光が溢れ、光が治まると、使徒の姿は消えて大声で唸り声を上げる初号機と弐号機が姿を現した。

 発令所のミサト達にはそのエヴァの唸り声が歌っているように聞こえた。

 そしてエントリープラグの通信からも聞こえて来るシンジとアスカの『残酷な天使のテーゼ』の歌声。

 

「初号機、弐号機共にシンクロ率、90%に達しています!」

「まさか!?」

 

 マヤの報告に、リツコは驚きの声を上げた。

 

「あなた達、何をやってたの?」

 

 歌い終わったシンジとアスカは、ポカンとした顔のミサトに尋ねられるとL.C.L.の中だと言うのに顔が真っ赤になった気がした。

 ネルフ本部のシェルターに集められたトウジやケンスケ、ヒカリ達にも聞かれてしまっただろう。

 

「碇君とアスカ、とても楽しそうだった」

 

 非道な作戦を行わずに安心して心に余裕の出来たレイもそう呟いた。

 今回は危機を脱することが出来たが、レリエルの言っていた使徒ゼルエルに勝つためには、もっとシンクロ率を上げる奥の手を使うしかないのかとユイは思った。

 そして一時的とは言え、初号機と弐号機を失う事になったゲンドウは、参号機の配備を人類救済委員会へと上申する事を決意した。

 それが、碇親子の絆を断ち切ってしまいそうになる事件へと繋がる事をゲンドウは想像もしていなかった。

 

 

 




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