新世紀エヴァンゲリオン for Mothers ~母親達の戦い~   作:朝陽晴空

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辛い描写がありますが、最後はハッピーエンドになりますのでご覧ください。

※今回出題される『ブラックストーリーズ』の問題は、実際の『ブラックストーリーズ』には収録されていない問題です。
 解答が分ったら、連絡して頂くと幸いです。

英語版タイトルの挿絵を追加しました。
https://img.syosetu.org/img/user/573/92346.jpg





第十二話 私のこの手を汚せと言うのか

 

 

【挿絵表示】

 

 

<第三新東京市郊外 時金山遊園地>

 

 第三新東京市の郊外に時金山遊園地はあった。

 セカンドインパクトより前の時代からあり、何回もリニューアルが繰り返された長く市民に親しまれた遊園地だったが、アスカは少し不満げだった。

 

「こんな地味な所じゃなくて、大きな所へ行きたかったわ」

「でも人気のアトラクションのある遊園地じゃ、長い行列が出来ているって言うし、アスカは待つのが嫌いじゃないかな」

「そこはこのエヴァのパイロットの身分証明書を見せて……」

「止めなさいって」

「冗談よ」

 

 アスカは横入りなどの不正は大っ嫌いなタイプである。

 シンジはアスカが厄介事に首を突っ込まないかそちらの方が心配だった。

 行列の横入りを注意するのは遊園地のスタッフの仕事だ。

 

「今日は、ママがどうしてもって言うからデートするんだからね、分かってる!?」

「分かってるって」

 

 何回このやり取りを繰り返した事か。

 とりあえず、時間があるうちに人気のあるアトラクションに乗ってみようと言う話になり、ジェットコースターの列に並ぶ。

 遊園地の花形であるジェットコースターはそれなりに待ち時間があるようだ。

 

「待ち時間、退屈だからゲームでもしない?」

 

 そう言ってアスカは『ブラックストーリーズ』と言うカードゲームを取り出した。

 中には50枚のカードが入っていて、表に問題文、裏に解答が書いてある。

 2人で遊ぶ場合、1人が出題者となりカードの裏に書いてある事件の正解を読んでおく。

 もう1人は解答者となり、表に書いてある出題文を読む。

 解答者は出題者に対して、「はい」か「いいえ」だけで答えることのできる質問を繰り返して行く。

 そして解答者が正解できれば解答者の勝ちとなる。

 この場合、シンジがアスカに質問して正解できれば勝ちだ。

 

「ある部屋で、女性の銃殺死体が発見されました。頭と胸の2ヵ所を打ち抜かれていましたが、銃弾は女性の胸を貫通した1発が外のガラスを突き破って壁にめり込んでいるのが発見されました。警察がいくら周囲を探しても、頭を貫通したはずのもう1発の弾が見つかりません。どうしてでしょう? はい、質問開始」

 

 シンジは名探偵エヴァンゲリオンではない。

 話を聞いて正解が直ぐに思い付くはずも無かった。

 

「銃を撃った犯人は、犯行現場に入りましたか?」

「いいえ」

「女性は背中から撃たれましたか?」

「いいえ」

「銃声がしたのは1回だけですか?」

「はい」

「銃弾は何かにぶつかって曲がったりしましたか?」

「いいえ」

「銃弾は確かに頭を貫通していましたか?」

「はい」

 

 どんどんと時間が無くなり、焦るシンジ。

 アスカは勝ったら今日は負けたシンジのおごりだと言って、からかってやるつもりだった。

 

「女性は立っていましたか?」

「はい」

 

 女性が立っていたのなら、頭と胸を撃つには2発必要になるはずだ。

 犯行現場に犯人が行っていないのならば銃弾が消えるはずも無い。

 

「頭の後ろの壁に、貫通した銃弾の跡はありましたか?」

「いいえ」

 

 アスカは少し正解に近づく質問をシンジがした事で、焦りを感じた。

 しかしまだ大丈夫、シンジは思考の迷路に囚われているはずだと思った。

 頭を貫通したはずなのに、その後ろの壁に銃痕が無い。

 シンジは何か閃きそうでモヤモヤしていた。

 

「それは撃たれた人が男性でも起こる事ですか?」

「はい」

 

 シンジが的外れな質問をしてくれた事で、アスカは笑みをこぼした。

 

「女性は撃った人間を目撃しましたか?」

「いいえ」

 

 いきなり正解にグッと近づいた質問にアスカは焦ったが、どうやら時間切れのようだった。

 

「アタシの勝ち!」

「それでアスカ、クイズの答えは?」

「また今度教えてあげるわ」

「うーん、気になるな」

 

 シンジとアスカはジェットコースターへと乗り込んだ。

 いつもエヴァのエントリープラグの中で激しい動きをシンクロして経験しているが、生身の状態で体験するのは初めてだった。

 アスカが隣に座るシンジの手をギュッと握る。

 初めてアスカに手を握られたシンジは驚いた。

 次の瞬間、ジェットコースターは加速度を上げて急降下。

 大した事は無いと侮っていたシンジだったが、予想以上の衝撃に驚いた。

 今まではシンクロ率35%などの感覚しかエヴァのフィードバックを受けていなかったからだ。

 

「アンタ、この程度で疲れているんじゃないわよ」

 

 ジェットコースターから降りたアスカはピンピンしていた。

 シンクロ率50%以上でエヴァに乗り続けていた差なのだろうか。

 でもジェットコースターが急降下する前はアスカだって不安だったからシンジの手を握ったのだろう。

 しばらく乗り物に乗るのは一休みして、遊園地の『大正時代エリア』を周る事にした。

 最近、使徒の襲来で不要不急の外出制限がされるようになり、巣籠り需要と言う条件も後押しされて人気になったアニメとのコラボレーション企画で、遊園地の一部を大正時代の街並みにリニューアルした場所だった。

 レストランのメニューもそのアニメとのコラボレーションが多かったが、そのアニメを観ていなかった2人には微妙なものだった。

 大正時代は日本が世界大戦に向けて進んで行く時代。

 アニメの主人公達もハッピーエンドを迎えた後、過酷な戦禍に巻き込まれて行く。

 

「もし使徒との戦いに勝って、人間族のシバを倒したとしても……人間同士の戦争は続くのかしらね、エヴァを使って」

「母さん達は人殺しの戦争なんかには協力しないよ」

「そうだと良いけどね……」

 

 ネルフの持っているエヴァ製造の技術が漏れたりしたら、大変な事になるとアスカは考えた。

 しんみりとした雰囲気になってしまった2人は観覧車に乗る事にした。

 高いところから見る景色は気持ち良い。

 ポツポツとアダム樹が見えてしまう事や、使徒との戦いの跡地を見ると胸がざわついてしまうが、アダム樹の花は遠くから見る分には綺麗だった。

 

「ねえシンジ、キスしようか?」

「えっ!?」

「その……今日はデートなんだから、キスの1つでもしなければ、格好が付かないじゃない」

 

 キョウコから渡されたデートの計画書には、『観覧車で初めてのチュウ』と書かれていたのだ。

 シンジは昼食に焼きそばを食べてしまった事を後悔していた。

 遊園地は食べ物の持ち込みが原則として禁止されている。

 食中毒などが起きた場合の責任問題などが背景にあるそうだ。

 

「大丈夫、アンタの歯に青海苔が付いていたって気にしないから」

「そうは言っても……」

 

 シンジはハンカチを取り出して口の中を必死に拭いた。

 

「ほら、さっさとする!」

 

 アスカに言われてシンジは目を閉じてアスカの唇を受け止めた。

 

「……お客様、もう到着なさいましたよ」

 

 遊園地のスタッフに声を掛けられて、シンジとアスカはパッと目を開けて身体を離した。

 並んでいた客にもキスシーンをじっくりと見られて、シンジとアスカはゆでだこの様に顔を真っ赤にした。

 シンジがアスカの手を引いて逃げ出した。

 

「ちょっとシンジ、痛いってば!」

「あっ、ごめんアスカ」

 

 シンジはそう言ってアスカの手を離そうとしたが、アスカはそれを押し留めた。

 

「デ、デートなんだから、手を繋いで歩くぐらい普通の事だったわね」

 

 それからシンジとアスカは手を繋いで歩いたのだった。

 

 

 

<第三新東京市 コンフォート17 シンジの家>

 

 シンジとアスカは、スーパーで食材を買って家へと帰った。

 レイはネルフ本部待機なので今日はずっと2人きり。

 ヒカリとトウジもデートをしているはずだった。

 しかしシンジの家では暗い雰囲気を漂わせたトウジとヒカリが待っていた。

 そして珍しい事にトウジの妹のサクラもトウジに抱き付く形で座っていた。

 

「そうか……2人ともデートやったんか」

 

 手を繋いでいたシンジとアスカは、恥ずかしそうにパッと手を離した。

 

「ヒカリ達もそうだったんじゃないの? でもどうしたの、そんな暗い顔をして。ケンカでもした?」

 

 アスカが尋ねると、ヒカリは首を横に振った。

 

「ワシのオカンが……重要な話があるってネルフに呼び出されたんや。そして突然、二度と家には帰って来れんって連絡があってな。妹のサクラはぎょうさん泣いておった」

「それで……碇君なら何か知っているかなと思ったの」

 

 トウジとヒカリの言葉を聞いたシンジとアスカは深刻な表情で顔を見合わせた。

 デートの余韻など吹き飛んでしまった。

 

「やっぱり……悪い事なんか?」

「僕の口からトウジに説明することは出来ないけど……ネルフの人から話があると思う」

「そうか……」

 

 トウジとシンジのやり取りを聞いたサクラは、またヒカリの胸の中で涙を流し始めた。

 

「悪かったなシンジ、邪魔したわ」

 

 トウジはヒカリとサクラと一緒にシンジの家を出て行った。

 これはゲンドウに問い詰めるしかないとシンジはゲンドウに連絡を取った。

 ゲンドウは自分も説明する責任があると答えて家に向かうと話した。

 

「やっぱり、鈴原のママは……」

「うん、アスカと僕の想像通りだと思う」

 

 アスカとシンジはそれ以上は黙ったままダイニングテーブルの椅子に座ってゲンドウの到着を待った。

 ソファーでリラックスして2人でイチャラブするなんてキョウコのデート計画は消し飛んでいた。

 家に到着してもゲンドウはずっと黙ったままだった。

 司令服姿で着替えもしないゲンドウはシンジの向かい側に座った。

 

「父さん、トウジの母さんをエヴァにするつもりなんだね?」

「ああ、ネルフの上部組織に私が進言してそれが通った」

 

 シンジの質問に、ゲンドウは自分の責任だとしっかりと受け止めて答えた。

 

「どうしてエヴァを増やさないといけないのよ? アタシ達、今まで使徒を倒して来たじゃない。それに足手纏いが増えたところで邪魔なだけよ」

 

 アスカは敢えて足手纏いと言う言葉を使って、ゲンドウの意志を曲げようとした。

 しかしその言葉は逆効果となる。

 

「シンジ達と親しいトウジ君だからこそ、即戦力になるのではないか?」

 

 ゲンドウの指摘を受けて、シンジとアスカは下を向いてしまった。

 確かに、見ず知らずの他人と気心の知れた幼馴染では連携が取れるようになるまでの時間が違う。

 

「それとも、今まで知らなかった人間の方が心が軽くなるとでも思ったのか?」

 

 トウジも見知らぬ人も同じ価値を持った命だとゲンドウは諭した。

 初号機と弐号機が使徒に飲み込まれる事態を招いてしまった自分達にも責任の一端はある。

 ミサトに命令されたからだと責任を押し付けても済む問題ではない事はシンジもアスカも分かっている。

 

「それで、トウジには?」

「私から話す。トウジ君の家族の怒りや憎しみは全部私が受け止める。決してシンジ達を恨まないようにと」

「トウジはそんな奴じゃないよ……」

 

 シンジは震えながらそう呟いた。

 その日の夕食はゲンドウが作った。

 動揺しているシンジが料理で失敗してはいけないと思ったからだ。

 

「綾波は?」

「今日はネルフ本部で待機任務に就いてもらっている。2人はエヴァに乗らないシフトだったからな」

 

 シンジが尋ねると、ゲンドウはそう答えた。

 アスカとシンジのデートのお膳立ての為にレイも協力してくれていたのだ。

 明日レイにはたくさんお礼を言わないといけないなとシンジは思った。

 

 

 

<第三新東京市 第壱中学校>

 

 しばらく時は過ぎ、トウジの母親はエヴァ拾参号機としての肉体改造を終えた。

 ゲンドウからエヴァのパイロットとなる宣告を受けた日から、トウジ達を取り巻く雰囲気は変わってしまった。

 ケンスケは冗談でもエヴァに乗りたいとは言わなくなったし、ヒカリは情緒が不安定になり家事で失敗をする事が多くなった。

 ゲンドウはヒカリにゆっくりと身体を休めろと碇家の家事を断ったが、ヒカリは何もしていないと悪い事ばかり考えて不安になるからと家事を続ける事を希望した。

 トウジが家に帰らず、シンジ達だけが家に戻って来た日には、ヒカリはトウジの様子をシンジにしつこく尋ねた。

 学校でもクラスメイト達は、ヒカリとトウジの雰囲気が変わってしまっている事に気が付いていた。

 2人きりでラブラブのはずなのに、少しも表情が明るくない。

 だからと言って、ケンカをしている様子も無いが、決裂寸前のカップルのような暗い顔だった。

 心配したクラスメイト達に理由を尋ねられてもヒカリは、はぐらかすしかなかった。

 

「ねえトウジ、私達婚約しない?」

 

 ヒカリがそう言うと、バスケットコートでゴールに向かってボールを投げていたトウジはズッコケた。

 

「何や突然!?」

「そうすれば、私達……アスカみたいにキスとか出来ると思うの」

「何やお前、固い女やなぁ」

 

 ヒカリは貞操観念が強いわけではない、トウジにキスをする勇気を出す口実が欲しかったのだ。

 

「ほな次の試合で3ポイントシュートが10本入ったら、婚約の事考えたる」

 

 練習ならともかく、成功率の低い3ポイントシュートを試合で10本決めるなんてミッチーでも難しい話だ。

 ヒカリはトウジは自分とキスしたくないのかなと落ち込んだ。

 

「婚約したら……オカンにも話さなあかんな」

 

 トウジの呟きを聞いて、ヒカリは表情がパッと明るくなった。

 それからのヒカリとトウジの雰囲気は元の明るいものに戻り、シンジ達も安心した。

 そしてトウジのバスケの試合、チームメイトも対戦相手の選手達も3ポイントシュートにこだわるトウジを不思議がったが、ヒカリとの約束を果たした。

 試合を観戦したヒカリは両手を合わせて神が起こした奇跡に感謝するのだった。

 

 

 

<ネルフ本部 第一発令所>

 

 この日は拾参号機が野外で訓練活動を行っていた。

 ネルフ本部内の実験場でも訓練は出来るが、実際の地上を体験する事も大切な事だった。

 拾参号機の野外訓練は市街地を避け、芦ノ湖の対岸にある三十国山の山岳地帯で行われていた。

 遠くからでもエヴァの訓練の様子を見ようと、ケンスケや第三新東京市の市民達が望遠レンズで様子を見ていた。

 初号機達はケージで待機。

 エヴァにとっては遠足のような危険の無い訓練のようなものだった。

 シンジ達も発令所でトウジと話しながら訓練の様子を見守っていたが、突然に異変が起きた。

 

「パターン緑、使徒です!」

「何やこのベタベタしたもんは!?」

 

 マヤの報告、トウジの叫びと同時に拾参号機のエントリープラグからの通信が途切れた。

 

「使徒はどこだ!?」

「エヴァ拾参号機と座標が重なっています!」

 

 コウゾウに対してシゲルがそう報告をする。

 すると発令所のスクリーンには巨大なキノコが背中に生えた拾参号機の姿が映し出された。

 

「あのキノコが使徒!?」

「まさかエヴァが寄生されるなんて……」

 

 ミサトとリツコが声を上げる。

 

「トウジ、返事をしてよ!」

 

 シンジがいくら呼び掛けてもエントリープラグの通信は途絶えている。

 拾参号機は操り人形のような動きで芦ノ湖を横断してネルフ本部へと向かおうとしている。

 

「エントリープラグを強制射出しろ!」

「ダメです、信号を受け付けません!」

 

 せめてパイロットを助けようとゲンドウは命令を出すが、マヤは悲鳴に似た声で答えた。

 

「あのキノコをぶった斬れば使徒を倒せるんじゃない?」

 

 アスカの意見をゲンドウは聞き入れたのか、初号機だけに出撃を命じた。

 他のエヴァがさらに寄生される事態を避けるためだ。

 応急処置として巨大なガスマスクが初号機に装着された。

 これで胞子を吸い込む危険性は減る。

 後は接触に気を付けるだけだ。

 

(でもプログレッシブナイフでは使徒にかなり接近しないといけないわね……)

 

 ユイの心配を察知したのか、リツコが新開発の武器があるとビルを指し示した。

 ビルの中には、初号機カラーの紫色の鞘に納められた日本刀のような武器があった。

 

「マゴロク・エクスターミネート・ソードです。これならばプログレッシブナイフより長いと思います」

 

(さらに長い薙刀のような武器が欲しかったけど、文句は言えないわよね)

 

 初号機はMソードを握って芦ノ湖に足を踏み入れ拾参号機へと接近した。

 拾参号機は使徒に操られながらも抵抗をしているようで、動きがギクシャクしていた。

 

(いけるっ!)

 

 ユイは拾参号機の背中に回り込み、小実体(成菌)であるキノコの根元をMソードで一刀両断した。

 切り離された部分は緑色の光を上げて爆発した。

 

「やった!」

 

 エントリープラグの中のシンジも、発令所で見守っていたミサト達も歓声を上げた。

 

「ダメよ」

 

 レイが冷静にその歓声をかき消す。

 キノコの生態に詳しいゲンドウも分かっていた。

 拾参号機の身体は幼菌や菌糸に侵食されている。

 時間が経てばまた成菌が生えて拾参号機を操る。

 それには拾参号機の体内の菌糸を完全に取り去るしかない。

 初号機が拾参号機に向けて刀を振り上げると、シンジは大声を上げる。

 

「止めてよ! 拾参号機はトウジのお母さんなんだよ! トウジもエヴァに乗って居るんだよ! 止めてよ、母さぁぁぁぁん!」

 

 シンジの叫び声が響く中、初号機は刀で拾参号機の至るところを斬り付けた。

 芦ノ湖が拾参号機から流れ出たL.C.L.で染まる。

 初号機で攻撃しながら、ユイは拾参号機を斬る場所を冷静に判断していた。

 やがて拾参号機は立っている力も失い、芦ノ湖に大きな水飛沫を上げて倒れた。

 3機の輸送機がやって来て、動かなくなった拾参号機を船で牽引された大きな棺桶の中にワイヤーで吊り上げて入れる。

 

「どうしてだよ母さん……僕があんなに止めてって言ったのに……」

 

 エントリープラグの中でシンジは涙を流した。

 その涙はL.C.L.と混ざらずにシンジの膝へと落ちた。

 

 

 

<第三新東京市 コンフォート17 シンジの家>

 

 母親のユイがいくらタブレットを通じてシンジに思いを込めた言葉を伝えても、今のシンジには無力だった。

 ゲンドウもシンジに掛けるべき言葉が見つからず、アスカとレイもシンジに近づく事は出来なかった。

 誰とも話したくない、自分の部屋で引きこもっていたい。

 そう思って家へと帰った憔悴したシンジを待っていたのは、ヒカリとサクラだった。

 

「碇君! ケンスケ君から聞いたけど、碇君の乗って居るエヴァが、トウジの乗って居たエヴァを刀で斬ったなんてウソよね!?」

「本当だよ、僕がトウジを死なせたんだ」

 

 シンジがそう答えると、ヒカリは膝から崩れ落ち、サクラは泣き叫んでシンジの事をドカドカと殴り始めた。

 

「シンジ兄ちゃんの人殺し! 優しかったお兄ちゃんを返せ!」

「そうよ…私、トウジとキスもした事が無かったのに…碇君は良いわね、デートして観覧車でアスカとキス、したんでしょう?」

 

 ヒカリのシンジを見つめる瞳は、人間の感情をまるで感じさせない死人のような目だった。

 ヒカリはゆっくりと台所へと移動すると、包丁を取り出した。

 自分は初号機の凶行を止められなかった、それならヒカリに刺されても良いと思った。

 しかしヒカリはシンジの予想外の行動をとった。

 

「私は碇君が憎くても、碇君を殺してしまう事なんて出来ない。だったら、私の心が完全に憎しみに染まってしまう前に、私は天国へ行くわ…せめて天国でトウジとキス、したいから……」

 

 ヒカリはそう言って、持っていた包丁を自分の喉へと突き立てようとした。

 

「止めろーーーーっ!」

 

 シンジが叫んでヒカリに飛び付こうとすると、大きな銃声が碇家のダイニングキッチンへと響き渡った。

 

「間に合って良かったわ」

 

 ヒカリの持っていた包丁を銃弾で撥ね飛ばしたのはミサトだった。

 ためらいの心を持っていたヒカリが包丁を強くつかんでいなかったのが幸いだった。

 

「ヒカリ、鈴原は怪我を負っているけど、死んではいないわ」

 

 アスカがそう言うと、ヒカリは涙を流してアスカに飛び付いた。

 トウジは大怪我をしたが、キョウコがシンジの怪我を直したように、L.C.L.による治療促進方法を試してみる予定だと、ミサトはシンジに伝えた。

 

「でも、拾参号機の方は?」

「初号機はね、命に別条が無い範囲で拾参号機を無力化させる場所を選んで斬り付けたそうよ。使徒に再び脳神経を操られても暴れられないようにね。川越からヘリで来たドクターⅩ(10)もユイさんの腕前に感心していたそうよ」

 

 初号機の失明の危機も直した失敗しない伝説の外科医が来たのなら拾参号機もとりあえず大丈夫だ。

 すっかり安心したシンジはミサトの胸に顔を埋めて泣き出してしまった。

 

「こらぁ、バカシンジ! 甘える相手が違うでしょうが!」

 

 アスカは怒声を張り上げたが、親友のヒカリとサクラに泣きつかれているので身動きが取れない。

 とりあえず最悪の事態は避けられたが、最強の使徒との戦いが迫っていた。




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  • LASがまだ足りない
  • R-18に近い要素を減らしてシリアス路線
  • 暗めの話やパロディネタ、キャラへのヘイト
  • その他色々(連絡下さい)
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