新世紀エヴァンゲリオン for Mothers ~母親達の戦い~ 作:朝陽晴空
※誤解があったようなので注釈を加えました。
<ネルフ本部 初号機ケージ>
最強の使徒との戦いから輸送機で引き揚げられた初号機は、金色の輝きからいつもの紫色の装甲板へと戻っていた。
エヴァの装甲板はシン化に耐えられるように設計されていたようだ。
でなければ今頃は真っ裸の初号機になっていると思われる。
「シンジはどうなったの!?」
弐号機のエントリープラグから降りてアスカが初号機ケージに駆け付けると、リツコは百聞は一見に如かずとアスカに初号機の様子を見せた。
初号機のエントリープラグは上向きに初号機と融合しており、初号機は明らかに男性化していた。
「これがシンクロ率400パーセントの結果。シンジ君はエヴァを飲み込んでしまったのよ」
「伝説のドクターⅩはどうしたのよ! エントリープラグを外科手術で切り離せるんじゃないの?」
リツコにつかみかかるアスカに、リツコは冷静に答えた。
「エントリープラグを取り出しただけで解決する問題ではないわ。シンジ君はユイさんを吸収してしまっているの。もう初号機の全身がシンジ君と言って差し支えないわ」
「ユイは消えてしまったのだな」
「はい、恐らくはシンジ君の一部となってしまったのかと」
初号機ケージに顔を出したゲンドウがそう尋ねると、リツコはそう答えた。
「それで、初号機は戦う事が出来るのかね?」
「はい、シンジ君が意識を取り戻せば、シンジ君自身が初号機として戦う事は出来ます」
ゲンドウでは聞きにくい事を、コウゾウが尋ねた。
「それじゃあ、シンジはこれからずっとエヴァのままだって言うの!?」
「……そうなるわね」
リツコがそう答えると、アスカは初号機ケージを飛び出して行った。
キレてリツコを殴り飛ばすのと同等の行為だ。
<第三新東京市 コンフォート17 シンジの家>
家に帰ったアスカは、シンジが立っていたキッチンを見て、悲し気に呟く。
「もっとシンジの作る料理、食べたかったな……」
着替えもせずにアスカがたたずんでいると、食材を買い込んで来たゲンドウがレイと一緒に帰って来た。
「今日はハヤシライスを作る。レイ、手伝え」
「分かったわ」
ハヤシライスはアスカが日本に来て初めて食べたシンジの料理の一つだった。
ドイツにもハヤシライスに似た料理はあったが、ハヤシライスに使うドミグラスソースからして隣の国のフランスのものだ。
洋食店で作っているハヤシライスもトマトソースやブラウンソースを使うものもあり、個性豊かな料理だった。
「食欲はあまりないと思うが、少しで良いから食べなさい」
ゲンドウに促されて、アスカはゲンドウの作ったハヤシライスを食べた。
「あっ……シンジの味がする」
「当たり前だ、シンジに料理を教えたのは私だからな」
アスカはハヤシライスを一口食べて驚きの声を上げた。
しかしアスカは同時にシンジの作るハヤシライスとの微妙な味の違いにも気が付いた。
「だが私はシンジと全く同じ料理を作ることは出来ない。シンジの思いやりのアレンジレシピまでは分からないからな」
シンジは自分の作った料理の感想をアスカに聞いていた。
アスカは面倒だとは思いながらも、もう少し甘くない方が良いとか話していた気がする。
シンジはゲンドウから教わったレシピを完全コピーするのではなく、独自の工夫をしていたのだ。
「アタシ、そんな事にも気が付かないでシンジの料理に文句を言ってたんだ」
アスカはますますシンジの料理が恋しくなった。
「私はシンジの料理を完全に再現する事は出来ないが……」
「励ましてくれてありがとうございます、碇司令。レイも」
まだ流石にアスカはゲンドウをお父さんと呼ぶには早いと思った。
そしてゲンドウの方も、アスカを娘として同居するには気が早いと思った。
夕食を終えると、ゲンドウはリツコとシンジを救出する方法について話し合ってみると言って出て行った。
ゲンドウは今、リツコと同居しているのだ。
アスカは何度もゲンドウにありがとうと頭を下げてゲンドウを送り出した。
レイと2人きりになると、アスカはまた寂しさがこみ上げて来た。
溜息ばかりの退屈だった毎日が、シンジの声を聞くだけで輝いて感じていた。
シンジの側に居て触れ合いたい、そんな気持ちがアスカの心に芽生えた。
「アスカ、あなたもエヴァになりたいと思っているの?」
レイに心の底を見透かされたアスカは、ギクリと肩を震わせた。
「確かに人間がエヴァになる事は出来る。でも考えてみて、碇君がそれを望んでいると思う?」
レイはアスカに早まった事はするなと警告を発したのだ。
「碇君を人間のような姿に戻す方法はあるわ。『移魂の法』、それを使えばヒトのクローン体に魂を宿す事が出来る」
「魂? クローン体? レイ、何を言っているの?」
「アスカ、私はヒトじゃない。第二使徒リリスの魂が、碇ユイのクローン体に宿った存在なのよ」
突然のレイの告白に、アスカの表情は凍り付いた。
アスカはレイの事をシンジの従兄妹だと聞いていた。
その割には顔がユイにそっくりだ位にしか思っていなかった。
「とにかく、私のような成功例があるのだから、自分がエヴァになろうとなんて言う考えは捨てて。あなたのお母さんも悲しむわ」
「でも、どうしてアタシにそんな大事な秘密を?」
ゲンドウもアスカに漏らす事の無かったレイの重大な秘密。
レイが軽々しい気持ちで話したのではないとは分かっていた。
「ネルフのセントラルドグマにロンギヌスの槍で封印されていた第二使徒リリス。ロンギヌスの槍が引き抜かれた事で、止まっていた肉体の生成が再び始まってしまった。第二使徒リリスの肉体が完全体になった時、私の魂はリリスの肉体に引き寄せられる。私が綾波レイで居られる時間は限られているのよ。だからその前にアスカに伝えておこうと思って」
レイの長い独白を聞いたアスカは、たまらずレイを抱き締めた。
「アンタ、何を1人でそんな悩みを抱えていたのよ。もっと早くに話してくれれば良かったのに」
「アスカ、人は出会ってから必ず別れるもの。一期一会。だから悲しむ事は無いわ」
そう話すレイの目からも涙が流れていた。
その日の夜、アスカはレイと同じベッドで眠った。
以前ならばアスカはレイとの一次的接触を避けて居ただろう。
レイがアスカのベッドに潜り込んだりしたら、撥ね飛ばしていたかもしれない。
<ネルフ本部 エヴァ予備ケージ>
前触れも無くドイツのネルフ支部から、エヴァ仮設伍号機がネルフ本部へと輸送機で送り込まれてきた。
仮設エヴァが意味するのは、完成していないエヴァと言う意味で、肉体改造を受けている途中の女性だった。
アスカは中途半端に巨大化を受けた女性の痛々しい姿を見て、ネルフドイツ支部に激しい怒りを感じた。
しかも強引な改造が引き起こしたのか、女性の自我意識は消えていた。
「キール議長、これは一体どういう事ですか?」
「廃棄予定だったエヴァ伍号機を餞別としてネルフ本部へと送る。ありがたく受け取ってくれたまえ」
『廃棄』と言うキールの言葉に、ケージに居た全員の眉間にしわが寄る。
自分達の都合で生み出したエヴァを、自分勝手に殺すと言うのか。
「しかしドイツ支部でも使徒を倒すためにエヴァは必要なはず。ネルフ本部に回して頂く必要はありません」
「ロシアを僅か1週間で壊滅させた使徒を初号機は倒せたそうだが、今後人間族のシバが現れた時、勝てる保証はあるのかね?」
キールに尋ねられたゲンドウは直ぐには言い返せなかった。
初号機のシンクロ率は101パーセントにまで下がっている。
シンジが100パーセントとして、残る1パーセントはユイの残りかすだ。
「EUROの各国のエヴァやNATOがロシアの救援に向かっても、あの使徒からロシアを救う事は出来なかった。アメリカはホワイトハウスを守る事しか考えていない。米軍基地が空になった君達日本人なら良く分かるだろう。よって人類救済委員会は解散する事にした」
キールの宣言に、ゲンドウとコウゾウは真っ青な顔になった。
ネルフの上位組織である人類救済委員会があったので今までネルフ本部はは世界から援助を受けてやって来れたのだ。
「我々は粛々と滅びの時を待つ事にする。地球の怒りをなるべく買わないようにな。さらばだ、同志だったもの達よ」
キールからの通信が一方的に打ち切られると、ケージ内は重苦しい沈黙に包まれた。
「赤木君、エヴァ伍号機の完成を頼む。このままにしておくわけにはいかん」
「ですがパイロットが……」
「それでもだ」
ゲンドウの強い口調に、リツコは従って伍号機の建造準備に取り掛かった。
自ら志願したのか強制されたのか、伍号機となる決意をした女性をそのままにしておくわけにはいかない。
しかしどうしてキール議長はパイロットも伍号機に随行させなかったのか?
レイの例外を除けばエヴァとパイロットはセットのはずである。
エントリープラグにパイロットが乗ってこそ、エヴァは真の力を発揮するからだ。
<第三新東京市 第壱中学校>
伍号機のパイロットとなる少年は、ひょっこりとネルフに姿を現した。
マルドゥック機関により選定されたと報告を受けたゲンドウ達は不思議に思った。
人類救済委員会と共に、マルドゥック機関も解散しているはずだからである。
ゲンドウが真偽を問い詰めようともマルドゥック機関からの返答は無い。
しかし自我の無い伍号機が起動可能なシンクロ率を出したこの少年を、ネルフは警戒しながらもパイロットして受け入れる事にした。
「転校生の渚カヲルです。親の仕事の都合で引っ越して来ました。短い付き合いになるかもしれませんが、よろしくお願いします」
男でも惚れてしまうような美形で、人気アニメ声優のような声、そしてピアノが演奏できるカヲルはクラスの人気者となった。
「アスカはカヲル君には興味が無いの?」
「ヒカリ、アンタもでしょう」
お互いに好きな相手がいるアスカとヒカリにとっては、カヲルは気になる存在ではなかった。
アスカが意外に思ったのは、レイがカヲルに視線を頻繁に向けていた事だった。
憎しみ? 悲しみ? 驚き? 様々な感情が入り混じって居るかのようだった。
「僕の方は君に興味があるんだけどな、惣流・アスカ・ラングレーさん?」
アスカは下校時にカヲルに誘われて驚いた表情になった。
シンジ以外の男と一緒に下校するなんて嫌だとアスカは思ったが、カヲルには色々聞きたいことがあるのも確かだった。
カヲルを取り巻いていたクラスメイト達から、アスカとカヲルはお似合いのカップルだと歓声が上がって気分が悪くなった。
「レイも同じ家に帰るから、一緒で良い?」
「構わないよ」
レイはカヲルを警戒して近づきたくない様子だったが、アスカの頼みとあれば断れず、3人で下校する事になった。
「おいで、シャミセン」
校門から出た帰り道、カヲルがそう呼ぶと、三毛猫が物陰から飛び出して来て、カヲルの肩に乗っかった。
「アンタ、猫を飼っているの?」
「冷たい雨が降っていた夜、凍えていた捨て猫を拾ったのさ」
カヲルは冷たい人間に見えたけど、意外と優しい所があるのね、とアスカは素直に感心した。
「首輪にはホームズって名前が書いてあったけど、僕はシャミセンと名前を付けた。楽器が好きだし、自分がワトソン君にはなりたくないからね」
シャミセンには猫の腹の皮が使われていたと聞いた事がある。
悪趣味な名前を付けてるなとアスカは思った。
「吾輩は猫であるからにして、人間が着けた名前は記号としか思っていないのだよ」
「猫が喋った!?」
「腹話術だよ、惣流さん」
アスカはカヲルが意外な特技を持っている事にさらに驚いた。
カヲルの腹話術の技術が高くて、アスカには見抜けなかったのだ。
「ところで惣流さん、碇シンジ君の姿が別の人間になっても、君はシンジ君の事を好きでいられるのかい?」
カヲルに問い掛けられて、アスカの顔から血の気がサッと引いた。
「綾波レイがしようとしているのは、そう言う事さ。しかも魂が欠損しないとも限らない。シンジ君が惣流さんの事を忘れてしまっている事だってあり得る」
「何でアンタがそんな事を知っているのよ!」
アスカは警戒して飛び退くようにカヲルからから距離を取った。
「エヴァになってしまった人間のシンジ君には二度と会うことは出来ない。君のシンジ君は、今はもう居ない。なのになぜ、君は浅はかな希望を持ち続けているんだい?当てもないのに」
「うるさいうるさい!」
アスカは首を横に振ってカヲルの言葉を遮った。
「君達はどうして、使徒に逆らおうとするんだろうね。人類の命なんて、使徒の胸先三寸だと言うのに」
カヲルはそう言うと、猫のシャミセンの首を両手で絞め始めた。
アスカはそんなカヲルの身体を両手で突き飛ばした。
「アンタ、何てことするのよ! アンタが助けたペットなんでしょう?」
「そう、この猫の命の権利は僕が握っている。僕が見捨てて居れば、弱って死んでいたんだ」
アスカに答えたカヲルの言葉に、今度はレイが怒ってカヲルの頬を叩いた。
「あなた、ゼーレの回し者?」
ゼーレとは、キール元議長が立ち上げた新たな宗教団体だった。
人類は地球から資源を奪う生産活動を止めて、現存する物資だけで滅びの時を待つべきであると説いていた。
ロシアからのパイプラインが途絶えたEUではこの考えが特に広まり、不景気に苦しむ企業も相次いで操業を停止した。
日本人にもゼーレの信者が増え始め、仕事のストライキなどが各地で起きていた。
『地球を汚すな!』『工場を動かすのを止めろ!』などの街頭デモ行進もテレビで取材されていた。
「僕はあんな退廃的団体は嫌いだね。むしろ、人間の希望の輝きを見たいのさ」
「アスカ、こんな人、置いていきましょう。碇君にも近づけさせちゃダメよ」
レイはアスカの腕を強く引いた。
アスカは猫のシャミセンを抱き上げると、レイと手を繋いで家へと戻った。
コンフォート17はペットが禁止されているがそうも言ってられない。
幸いにもリツコの祖母の実家で猫を引き取ってもらう事になった。
アントワーヌと言う新しい名前を貰って。
<ネルフ本部 初号機ケージ>
アスカとレイとゲンドウとリツコがシンジの家で夕食を食べている間、カヲルはネルフ本部に行き初号機と顔を合わせていた。
ネルフ本部に監視カメラや警備員巡回などの防犯システムはあったが、カヲルは難無くセキュリティを通り抜けた。
「目は覚めたかな、碇シンジ君?」
見ず知らずのカヲルに話し掛けられた初号機となってしまったシンジは驚いた。
声を出すが唸り声のようなものになってしまっている。
「静かに、僕は内緒で君に会いに来たんだ。大きな声を出すと気付かれてしまうよ」
カヲルは自分が、伍号機のパイロットである事を明かした。
そしてカヲルは初号機となってしまったシンジと話がしたいと言った。
「学校でシンジ君の恋人である惣流さんとも会ったよ」
(そんな、アスカと恋人だなんて……)
シンジは照れたが、初号機なので顔が赤くなったりはしなかった。
「惣流さんがシンジ君を好きだって事はとても分かったし、僕はシンジ君が惣流さんの事を好きだって事を信じている。だから見てみたいんだ。『アダマイト』の宝石を宿した2人の魂の輝きを。滅ぼされるはずの人間族にどうしてアダマイトがあるんだろうね」
カヲルの言葉の意味がシンジには理解できなかったが、自分とアスカが特別な人間であると言っているのは何となく分った。
その時、ネルフ本部に警報が鳴り響いた。
日本近海に新たな使徒が出現したのだ。
<日本近海海底 朽ちた戦艦ヤマト>
半世紀前、戦争で敵の攻撃を受けて沈んでしまった戦艦ヤマト。
朽ちるのを待つだけの戦艦を隠れ蓑にするように、タコのような姿をした使徒オルトロスが出現した。
海底で待ち伏せて居るという事は明らかにエヴァに対する挑発だ。
水中戦闘が得意な弐号機の出撃が検討されたが、シンクロ率の高いシンジが自分で行くと主張した。
「そんな事言って、アンタ泳ぎが得意じゃないでしょうが!」
『大丈夫、タコの足なんて全ぶひき千切ってやる』
シンジはそう意気込んで、使徒オルトロスへと向かった。
すると使徒から眩い光が初号機に向かって降り注いだ。
(可愛い女の子だと思ったらヤローか、気に食わないな)
シンジの頭に直接、使徒オルトロスの思念が伝わって来た。
(僕は女じゃない!)
(そんなん、股を見ればわかるわい)
使徒オルトロスは上向きに刺さっているエントリープラグを見てそう呟いた。
(お前なんかに興味は無い。どっか行っとけ)
その使徒オルトロスの言葉の後、シンジの脳裏に最悪のイメージが浮かび上がった。
壱参号機を切り刻んで死なせてしまう初号機。
シン化できずに、弐号機と零号機の頭が使徒ゼルエルによって飛ばされてしまう光景。
そしてエヴァとなった自分の前で、アスカが他の男性と合体するシルエット。
『シンジ君、あなたはただ座っているだけだったの。全てはお母さんの力なのよ』
リツコの声が頭に響くと、シンジは絶叫した。
これはシンジが抱いている恐怖のイメージだった。
「初号機のA.T.フィールド、弱体化しています!」
「シンクロ率は?」
「101パーセントのままです」
「まさか、精神汚染?」
マヤとリツコのやり取りを聞いたゲンドウは、初号機を下げるように命じた。
代わりに出撃したのは弐号機だった。
「レイ、伍号機がアタシの背中をバッサリやらないように、しっかりと見張っていて!」
「やれやれ、僕ってそんなに信用が無いのかな」
エヴァは全機とも出撃できる体制に入っている。
シンクロ率の一番低い伍号機は、バックアップとなっている。
(こりゃあまた、可愛い娘達が来たなぁ)
(何よこの使徒、アタシはともかくママはもう30代後半……)
使徒オルトロスの思念が伝わって来て、アスカは嫌悪感を覚えた。
(アスカちゃん、後で覚えておきなさい……)
弐号機であるキョウコはそう思いながら、タコのような使徒をトライデントで突くが、戦艦ヤマトの残骸が邪魔をして上手く突き刺さらない。
(可愛い子だと思って、手加減していればオンドリャー、痛いやないけ!)
使徒オルトロスがタコの様に緑色の墨を吐き出すと、弐号機の視界は緑色の煙幕のようなもので塞がれた。
その隙を突かれて、弐号機は使徒オルトロスのたくさんの足で拘束されてしまった。
(さて、その変な筒を引き抜いて、かわいがってやろうか……そして最後は身体をバラバラにしてあげまひょ)
(そんな、ママが酷い目に遭っちゃうよ!)
使徒オルトロスの思念を読み取ったアスカは、助けを求めた。
弐号機は抵抗するが、巻き付いたタコのような足を振り払う事が出来ない。
零号機が弐号機を助けようとする前に、伍号機が動いた。
距離を詰めた伍号機が使徒オルトロスに向かって両手をかざすと、使徒オルトロスの胴体は戦艦ヤマトの残骸と一緒に消滅した。
「どうして!? 使徒のA.T.フィールドは中和されていないはずです!」
シンクロ率も起動指数ギリギリ、マヤが驚きの声を上げた。
「焼却エネルギーと冷却エネルギーをズレなく合成させると、消滅エネルギーが発生するんだよ」
カヲルは涼しい顔でそう解説した。
自我の無い伍号機がそんな器用な真似が出来るはずがない、ならばこのカヲルと言う少年の能力なのか。
ゲンドウもリツコも、このカヲルと言う少年に恐ろしさを覚えた。
使徒オルトロスの胴体が消滅した事により、弐号機に絡まっていた足も爆発して消滅した。
「まさかアンタに助けてもらう事になるなんてね、お礼は言うわ。ありがとう」
「惣流さんは義理堅いね。使徒が邪魔して来て中断されたけど、碇シンジ君を元の人間に戻すサルベージを始めようか」
「えっ、アンタ無理だって言ってなかった?」
カヲルの言葉にアスカは驚きの声を上げた。
<ネルフ本部 初号機ケージ>
場所を移して、カヲルの提案によるサルベージが行われる事になった。
レイの提案した魂の移し替えでは、シンジを完璧に救った事にはならないと思ったからだ。
ゲンドウとリツコが協議して導き出した結論も、カヲルの作戦が一番確実だと一致していた。
(でもカヲルくん、これははずかしすぎるよ!)
精神汚染から立ち直ったシンジだったが、今度は羞恥心で死んでしまいそうだった。
「惣流さんの方もシンジ君に負けないくらい恥ずかしい思いをするのだから、彼女のためにも頑張るんだよ。僕達は見ないでいてあげるから」
カヲルは爽やかな笑みを浮かべてそう言った。
「あ、あの、モザイクはしっかりかけて、私もグラフしか見ないようにするから」
マヤが顔を真っ赤にしてシンジにそう話した。
「でも、母さんには見られちゃうんだよね、どうしても」
「ユイを覚醒させて呼び戻すのだから仕方が無い……」
ゲンドウもどもりながらシンジに答えた。
サルベージ計画は、現在シンジがユイのL.C.L.を飲み込んでしまっているので、初号機全体に広がったシンジの成分をエントリープラグの中に高濃度で集中させて、シンジの身体を再構成させると言うものだった。
元々女性の身体だった初号機は、今はシンジの支配を受けて男性の身体に変化してしまっている。
エントリープラグが完全に同化してからでは手遅れになる。
また、シンジのL.C.L.が初号機から漏れ出してしまってはマズイ。
サルベージのタイミングも非常にデリケートだった。
「アスカ、大丈夫……?」
「ママとアタシの命を救ってくれたシンジの為だもの、アタシだって身体を張るわよ!」
レイに声を掛けられたアスカは、そう答えた。
「私、アスカが羨ましい。私じゃ、碇君に恩返し出来ないから。それどころか、碇君を壊そうとしてたわ」
「アンタが悪いわけじゃないんだから」
アスカは落ち込むレイにそう声を掛けて慰めた。
「コスチュームも色々揃えて置いたわ。メイド服からナース服まで何でもござれ。あたしが行った方がシンジ君も興奮するんじゃない?」
ミサトがアスカに笑顔で声を掛ける。
「ミサト、茶化さないでよ」
「アスカ、そんなに緊張しないで。お互いリラックスする事も大切よ。リラックス、リラックス!」
困ったらセリフはディスプレイに表示させるからとミサトは言って、アスカをシンジとの密室へと送り出した。
マコトとシゲルは下世話な会話をしてマヤに幻滅されている。
コウゾウは一言、「私ならメイドだ」と呟いた。
そして数時間後、シンジはサルベージされ、ユイも初号機として復活したとリツコの報告レポートには書かれていた。
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