新世紀エヴァンゲリオン for Mothers ~母親達の戦い~   作:朝陽晴空

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第二話 碇家とエヴァの日常

<第三新東京市 幹線道路>

 

スーパーで買い物を終えたゲンドウとシンジは、ゲンドウの運転するダークメタルグレーの〇-POWERの車で帰路に着いた。

 電話の通話をハンズフリーに切り替えたゲンドウは自宅に電話を掛ける。

 

「洞木君、今夜の夕食は天ぷらにしようと思うのだが、冷蔵庫にある有り合わせの材料で何かおかずは作れるかね?」

「それならかぼちゃの煮物と茶碗蒸しはどうでしょう?」

 

 電話から聞こえて来たのはシンジと変わらない年頃の少女の声だった。

 彼女はシンジの学校の同級生の洞木ヒカリ。

 多忙で洗濯や掃除が出来ない碇家に顔を出し、助けているのだった。

 しかしヒカリとシンジは幼馴染ではあるが、恋人関係ではない。

 ヒカリには恋焦がれている幼馴染がシンジの他に居るのだった。

 

「今日は私が腕を料理の腕を振るうから、鈴原君も呼んだらどうだ?」

「それが病院から連絡があって、妹のサクラちゃんが怪我をしてしまったらしいんです」

 

 ゲンドウの提案に、ヒカリはそう答えた。

 スーパーで食材を買う前に確認しておくべきだったか。

 

「そうだ、ケンスケを呼んでいいかな、父さん?」」

「問題は無い」

 

 シンジがヒカリとトウジと同じ幼馴染でクラスメイトの相田ケンスケに連絡を取ると、喜んでシンジの家に行くと答えた。

 

「父さん、今日あった事はケンスケたちにどこまで話していいの?」 

「シンジ、お前が初号機のパイロットで使徒を倒した事にしておけ」

「うん、分かったよ父さん」

 

 エヴァが巨人化した女性である事はネルフの重大な機密である。

 特別な血筋を引く人間はマルドゥック機関によって管理されているが、エヴァを兵器として悪用されるような情報が洩れる事があってはならないのだ。

 

 

<第三新東京市 コンフォート17>

 

 第三新東京市の中にネルフの関係者が暮らすマンションがある。

 12階建てで、全158室。

 いわゆるネルフの社員寮とも言える建物だ。

 見た目は普通のマンションだが警備室もありガードやセキュリティもしっかりしている。

 上層階の幹部クラスのフロアーはゆったりとした間取りになっているが、核家族世帯用の間取りが平均的となっている。

 

「お帰りなさい、碇君」

「ただいま、委員長」

「やあシンジ、お邪魔してるよ」

 

 第壱中学校の制服を着た髪を後ろでまとめた穏やかそうな表情の少女、洞木ヒカリと、同じ制服の眼鏡を掛けた少し色白の少年、相田ケンスケが碇家の玄関でシンジとゲンドウを迎え出た。

 ヒカリもケンスケもコンフォート17に住む158世帯の一員だ。

 学校に登校する時も一緒。

 だからゲンドウは家事の心得があるヒカリに碇家の留守を頼んでいるのだった。

 ヒカリとケンスケはゲンドウにも挨拶をして、シンジに料理の手解きをすると台所に立つゲンドウとシンジの姿を興味津々に見守った。

 ヒカリは洞木家の家事は姉であるコダマに任せていたが、ゲンドウの天ぷら揚げの技術を盗み取って姉に報告しようと、目を光らせていた。

 夕食である4種類の具材の天ぷら(前話参照)とかぼちゃの煮物と茶碗蒸しを完成させると、4人はダイニングテーブルに着いて今日起こった事を話し始めた。

 第三新東京市に初めて発せられた緊急事態宣言、第壱中学校に居たケンスケとヒカリとトウジはシェルターに避難できたが、トウジの妹のサクラは小学校低学年だったため、学校が4時間授業で終わり、友達の家に遊びに行っていた時に事故に遭ったらしいとヒカリは話した。

 

「シンジが初号機のパイロットであの怪獣を倒してくれたんだってな」

「ありがとう、私たちを守ってくれて」

 

 ケンスケとヒカリにお礼を言われて照れくさそうにするシンジを、ゲンドウは温かい目で見守っていた。

 

「おーい、シンジはおるか?」

 

 夕食時の碇家を来訪したのは、ジャージ姿の日焼けした少年、鈴原トウジだった。

 シンジが席を立って玄関でトウジを迎える。

 

「トウジ!? サクラちゃんが怪我をしたらしいけど……」

 

 シンジの言葉が終わらないうちに、トウジはシンジをビンタした。

 驚いたシンジは尻餅を突いて手で叩かれた頬を押さえながらトウジを見上げた。

 

「どうして!?」

「自分のせいで、サクラは大怪我をしたんや!」

 

 シンジの問いにそう答えたトウジは、初号機が使徒との戦いで弾き飛ばした瓦礫にさらに撥ね飛ばされて、遠くに飛ばされたサクラは怪我を負ったのだと話した。

 親のゲンドウにも殴られた事の無いシンジは困惑してトウジを見つめた。

 

「トウジ、何を言っているんだよ、シンジのお陰でサクラちゃんは爆発に巻き込まれずに済んだんじゃないか!」

 

 怒ったケンスケはそう言ってシンジを庇うようにトウジの前に割り込んだ。

 もしかしたらサクラも使徒の起こした『緑化』に巻き込まれて、『アダム樹』になっていたかもしれない。

 

「分かっとる! だからシンジはサクラの敵でもあり恩人でもあるんや……すまんかったな、シンジ」

 

 トウジは謝るとシンジに手を伸ばした。

 ゲンドウはケンスケのお陰で自分の出る幕が無くなったと安心した。

 子供の喧嘩に親が出るような事は避けたかったのだ。

 

 

 

<ネルフ本部 初号機ケージ>

 

 使徒との戦いの後、初号機(ユイ)はシンジたちとほぼ同じ時刻に夕食を摂っていた。

 

(はぁ……L.C.L.って無味でドロッとして血の匂いがして、美味しくないのよね。せめてイチゴ味とかないかしら……)

 

 巨人化してしまったユイは食べる量も排泄物の量も、普通の人間だった頃とは比較にならないほど甚大だった。

 初号機と呼ばれるロボットとなっている建前上、普通の人間の料理を大量に食べるわけにもいかず、こっそりとデザート代わりに少量の料理を食べるだけである。

 排泄物も不純物が混じったL.C.L.なので、エヴァは誰の排泄物だったのか分からない物を食べている感じである。

 

「ユイさん、零号機の受けたダメージは深く、全治一ヵ月はかかるようです」

『使徒は15年待ってくれたみたいだけど、今度はもっと早く新しい使徒が出てきそうね』

 

 リツコの質問に、ユイはそう答えた。

 

「はい、残念ながらアメリカのデトロイトでは使徒が出現し、住民200万人が『アダム樹』になったそうです」

『それじゃあ、アメリカの大統領選挙の結果も変わりそうね』

 

 ユイの皮肉に、リツコは引きつった笑いを浮かべるしかなかった。

 

『ヨーロッパの方はどうなの? ネルフドイツ支部は無事?』

「キョウコさんと他のエヴァが連携して使徒を撃退したようです。あちらにはエヴァが何体も居ますから」

 

 リツコは眉をひそめてユイの言葉に答えた。

 世界に出現し出した使徒の襲撃の被害を抑えるなら、ある程度分散させてエヴァを配置する必要がある。

 しかし、先進国と途上国との間にはエヴァの配置に格差が生じていた。

 

「花の都と呼ばれていたパリも、使徒の襲撃を受けて文字通り、花畑となってしまいました」

『ドイツとフランスは政治的に対立していたものね。人間同士でいがみ合っていては、使徒に滅ぼされなくても人類は滅亡するわ』

 

 リツコとユイが話を続けていると、エヴァ用水槽の準備が整ったと連絡が入った。

 人間生活で言う所のバスタイムである。

 ファンタジーRPGゲームで、鎧を着たままお風呂に入ると言うシュールな場面になる事があるが、装甲板を簡単には剥がせない初号機も同じ状態だった。

 それでも、初号機ケージの中でじっとさせられているよりは気持ちがいい。

 ゴロンと横になって煎餅を食べながらTVを見る主婦のような生活は遥か過去の見果てぬ夢だ。

 ユイはいつか旧友のキョウコと再会できる日を心待ちにしながら水槽室(バスルーム)へと向かうのだった。




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