新世紀エヴァンゲリオン for Mothers ~母親達の戦い~ 作:朝陽晴空
<ネルフ本部 実験室>
シンジが初号機パイロットとして復帰する決意を表明した事で、レイは再び零号機とのシンクロ率を上げるための訓練を再開する事となった。
残業となる自主的な実験だと言う事で、実験室には零号機とレイの他にはゲンドウとリツコしか居なかった。
零号機も両腕の傷が完全に治っていない状態の中、エントリープラグの挿入を受け入れ、訓練に協力していた。
今、ネルフ本部で戦える状態にあるのは初号機だけだ。
ゲンドウが上位組織である『人類救済委員会』に掛け合って他の支部のエヴァを本部に回してもらうように頼んでいるが、まだ時間がかかる。
「神経パルス、逆流しています!」
リツコが悲鳴にも似た声で報告すると、見守っていたゲンドウに動揺が走る。
エントリープラグが強制射出され、実験場の中を猛スピードで飛び回る。
火花を散らして壁に激突したエントリープラグは煙を上げながら不時着した。
「レイ!」
リツコは取り乱しながらエントリープラグに駆け寄った。
素手にもかかわらず、リツコは熱くなったエントリープラグのハンドルを回す。
温泉のように温度が上がったL.C.L.がエントリープラグから排水される。
「レイ、大丈夫?」
「はい、問題ありません」
リツコに抱き締められたレイがそう答えると、リツコは安心して息を漏らした。
「リツコさん、その手……」
レイが火傷してしまったリツコの両手を見て少し驚いて声を上げた。
指摘されたリツコは忘れていた両手の痛みを感じ始めた。
リツコは直ぐに火傷の応急手当を受けた。
「赤木博士、上手くシンクロ率を上げられなくてごめんなさい……」
(レイちゃんは十分に頑張っているわよ)
落ち込むレイに、零号機である赤木ナオコ博士は腕を動かして巨大なタブレット端末を動かし、そうディスプレイに文字を表示させて慰めた。
シンクロ率はエヴァとパイロットの愛情関係で上下される事は分かっているが、単純にお互いが「好き」だと思い合うだけで100%になるわけではない。
パイロット本人の資質、身体の相性、感情や深層意識など様々な物が絡むのだ。
エヴァとパイロットの神経接続の強度操作は、外部から信号を発信する事で行うことが出来る。
レイが零号機との深層への神経接続を強く希望しため、接続深度を強めた結果、零号機に拒絶反応が起きてエントリープラグが強制射出された。
人間が異物を排除する免疫本能のようなものだった。
「神経接続の強化以外の方法でシンクロ率を高める方法を探しましょう、ね?」
リツコはレイに優しく声を掛けるが、レイは悔しさから涙を流し始めた。
「私は心も身体もヒトではないから……リツコさんの代わりにはなれないのね。それに私はみんなに迷惑を掛けてばかり……使徒は私を狙ってここへとやって来る……私が裏切り者だから」
レイが涙ながらに漏らすその言葉を、実験室に居たゲンドウとリツコは沈痛な面持ちで聞いていた。
エヴァの研究をしていた赤木ナオコ博士は危険な人体実験の先駆けとなるべく自らネルフで最初の試作エヴァンゲリオン、零号機になった。
娘であるリツコにMAGIやネルフ技術部長を託して。
だからリツコがエヴァのパイロットして最適なのだが、ネルフ技術部にはリツコに代わってMAGIを管理できるような人材は居なかった。
そこで零号機のパイロットして志願したのがレイだった。
「あなた達は私に人を模した身体と、人としての生を与えてくれた。人間が地球に害をなす生き物だからだと言って、絶滅させると言うのは間違っている」
「使徒が君のような考えを持って、話し合いに応じてくれれば良いのだが……」
ゲンドウの言葉に、レイは悲しそうな顔で首を横に振った。
「使徒は人間と違って生命の実を持った新たなる時代の使者。力で説き伏せるしかないわ」
ネルフは地下深くの黒い月に眠る第二使徒リリスを見つけた時、ロンギヌスの槍による強力な封印を試みた。
その結果、欠けたリリスの魂の一部が現れ、ゲンドウは契約により製造中だった子供サイズのユイのクローン体の一つをリリスに与えた。
そうして誕生したのが『綾波レイ』だった。
今はシンジがパイロットなっているが、ネルフはユイのクローン体を初号機となったユイに乗せる計画をしていたのだ。
本人のクローンならば、相性の点で問題は無く、シンクロ率が高まるだろうと考えられたが、心を持たない抜け殻のクローン体ではシンクロ自体が出来なかったのだった。
リリスは他の使徒とは異なる考えを持っていた。
人類が他の生き物と協調せず、地球を汚している生物だとは分かる。
しかし全ての人間は地球にとって悪魔であるのか?
人間の事をもっと知りたいと思っていたリリスは、レイと言う人生を与えられて感謝していた。
「そうだレイ、食事会をしよう」
ゲンドウからレイを励まそうと口を突いて出た言葉だった。
「同じ釜の飯を食うと言う言葉もある。一緒に暮らす事までは出来ないが、食事を共にする事で絆が深まって行く。そうすれば、人と心を通わせる感覚が身に着いてシンクロ率も上がるだろう」
戦闘訓練を重ねて自身の身体能力を高めた方がシンクロ率上昇の近道だとレイは考えていたが、これはゲンドウなりの思いやりの心なのだとレイは思った。
人の心をまた一つ知った、とレイは笑顔でゲンドウに向かって頷いた。
<ネルフ本部 作戦会議室>
ゲンドウは重要な話があるとコウゾウを筆頭としたネルフのメンバーを作戦会議室に集めた。
しかも機密情報を共有する幹部クラスの人間だけで無く、各部署の中間管理職クラスの者も集められた。
「定期的にネルフの食堂で食事会をするだと?」
ゲンドウの提案を聞いたコウゾウは腰の力が抜けたようにそう呟いた。
集まったメンバーもそんな話なのかと拍子抜けした顔だった。
「ネルフのスタッフは仕事を共にしているが、職場以外の付き合いは少ない。そこで食事を共にする事で、お互いの人間性を知り、組織力を高めるのだ」
決してゲンドウはレイのためだとは言わず、建前の一般論を持ち出して説得しようとした。
食事の時間を合わせるのは仕事のやり方を変更しなければならない。
それに誰だって夕食は自分の好きな物を食べたいし、何となく気に入らない人と顔を合わせて食事をしたくはない。
「先輩、何も言わなくていいんですか?」
仕事の時間を割かれる事に真っ先に反対しそうなリツコが何も言わないので、マヤは不思議そうに尋ねるが、リツコは沈黙を貫いた。
「もちろん飲みニケーションを諸君らに強要しない。未成年者も参加する事で、アルコールは無しだ」
先制したゲンドウの言葉に、ただ酒を期待したミサトは少しガッカリとした表情を見せた。
自由参加だと言う事で、大きな不満の声は上がらなかった。
「第一回目の食事会は、ラーメンパーティとする。私の料理が口に合うかは分からないが、興味を持った者は来て欲しい」
総司令のゲンドウが頭を下げた事と、料理が出来るイクメンパパだった事に大きな驚きの声が上がり、会議は解散となった。
「冬月先生、私はラーメンのスープの研究に入るので、後はよろしく頼みます」
「おい……」
あきれたコウゾウが引き留める間もなく、ゲンドウはレイとラーメンの内容について話している。
レイの「ニンニクチャーシュー麺が良い」との言葉はゲンドウの耳に届いているようだが、コウゾウの溜息はゲンドウに届いていないようだった。
「副司令、頑張りましょう! 私も手伝いますから!」
「やれやれ、赤木君は何故反対しなかったのか……」
陽気なミサトに肩に手を置かれて励まされたコウゾウは、そう言って愚痴るのだった。
<ネルフ本部 食堂>
ネルフ本部の食堂の厨房では、エプロンを着けたゲンドウとレイが力を合わせてラーメンのスープを作っていた。
料理を作るおもてなしの心も大切だとゲンドウはレイに教えていたのだった。
「とびきり美味いラーメンを作って、シンジたちを驚かせてやろうではないか」
「はい!」
大世帯のネルフの胃袋を預かるネルフの厨房は、規模もそれなりに大きかった。
ゲンドウは100人前のラーメンスープの入った鍋を3個準備した。
しかし300人の来客を見込んでの事ではない。
1個は100人のネルフのスタッフの分だが、他の2つは零号機と初号機の分だった。
普段L.C.L.しか食べていないナオコとユイにも自分と同じものを食べてもらう、それが2人の想いだった。
ラーメンのメニューはレイのお気に入りのニンニクラーメンとなった。
スープは2人の力だけで完成させたが、麺やチャーシューの方はどうにもならなかった。
300人分の麵の湯切りなどゲンドウが自分でしていたら腱鞘炎を通り越して手首が壊れてしまう。
そこでネルフは大手ラーメンメーカーに突然、敵対的買収TOBを仕掛け、ホワイトナイトの企業も蹴散らし工場を手に入れた。
コウゾウはこの買収にかかった資金を広告宣伝費だと上位組織『人類救済委員会』
を説得するのに苦労したらしい。
リツコはネルフの仕事の他に職人の麺の湯切りの技を再現したロボット『長門ユキリン』を開発・生産。
レイに似た美少女型のロボットになってしまったのはレイの事を考えてばかりだったからだと本人は言う。
愛くるしい姿と技術の高さから他のラーメン屋からも追加注文が殺到し、ラーメン界に革命が起こったとか。
ネルフの食事会の準備は整った。
後は空気を読まない使徒が食事会の日に襲来してくれない事を祈るだけ。
襲来フラグが立っている雰囲気がプンプンと匂ったので、ゲンドウとレイは箱根神社でお百度参りをして、超能力者ゲレル氏を招いてフラグを曲げてもらうほどの念の入れようだった。
その結果……無事にネルフの食事会は行われた。
シンジやヒカリ、トウジ、ケンスケ達同級生はもちろん、疲労困憊のコウゾウ、リツコ、ミサトやオペレータの9人までもが食事会に来てくれて、普段話す事の無かったレイもいつもより饒舌になって会話を交わした。
用意したラーメンが足りなくなり、2人で1杯を分け合う話となった時は、1本の麺を両端から食べると言う破廉恥なカップルも出て来た(同性同士含む)。
「私もいつかトウジとやってみたいな」
ヒカリはそんなカップルたちの姿を見て、顔を真っ赤にするのだった。
まだ彼女にはそこまでの勇気はない。
今度ゲンドウにまた麺類の食事会を提案しようと思うに留まった。
「零号機……ナオコさんも、私と同じものを食べている」
レイは想像するだけで、零号機とのシンクロ率が上がったような気がした。
エヴァの胃袋は強力で例えステンレス鋼でもL.C.L.化する。
喉通りが悪いから進んで食べたいとは思わないけれども。
レイとシンジたちは幸せな時間を過ごすことが出来た。
しかし次に襲来する使徒でまた想像を絶する苦しみを味わうとは知らなかったのだった。
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