新世紀エヴァンゲリオン for Mothers ~母親達の戦い~ 作:朝陽晴空
<日本近海 戦略自衛隊第13艦隊>
ネルフ以外にも巨大ロボットで使徒と戦おうとする命知らずはジェット・アローンの他にも居た。
戦略自衛隊の第13艦隊に所属する『トライデント級・陸上軽巡洋艦』と呼ばれる3機のロボット兵器だった。
水辺に立つ蛙のような姿をした『どこが機体で、どこが手足?』と身内である戦略自衛隊員にも言われる有様だった。
「良かった、私達『トライデント』って名前だけの登場かと思ったけど、出番があったよ!」
「はしゃぐなよ、どうせ使徒にワンパンで倒されるやられ役だろう?」
「おいら、パピプペポ~~っ! って叫んじゃおうかな」
使徒に消されるかもしれないと言うのに、マナ、ムサシ、ケイタの3人の少年兵に悲愴感は無かった。
西暦2000年には100億人に届こうとしていた地球の人口は20億人ほど減ってしまった。
エヴァによって使徒から守られているはずの日本でも1千万人の命が消えていた。
使徒に直接滅ぼされたわけではない。
将来に悲観して自ら命を絶った人間や、自暴自棄になって暴徒化して互いに争う人々もいる。
大きな暴動が起きている外国に比べて、これでも日本は落ち着いている方だ。
人間が死んで、文明が破壊される……使徒を操る黒幕通りになっている。
「どうせ早く死んじゃうか、遅く死んじゃうか、その差だけだよね」
シンジと同じ年齢のマナがこんな事を呟いているのを聞いたら、ゲンドウ達は悲しむだろう。
3機のロボット兵器は、同じくらいの大きさのヒトデのような姿をした使徒と向き合った。
通常兵器は使徒に通用しない事が世界の常識になりかけていた時に、ロシアの57mm自走砲『2S38』がウラル山脈で蜘蛛のような姿をした使徒を倒したと言うニュースが世界を震撼させた。
どうして変温動物である蜘蛛が寒くて動けなくなるロシアに現れたのかはさて置き、100mm機関砲を装備しているトライデントならば使徒を倒せるかもしれないと3人の少年兵を使徒に向かわせたのがアサヒ海将補だった。
戦略自衛隊員の誰もがマナ達3人の少年兵の命運は尽きたと思い、死を悼む事になるだろうと考えていた。
しかしトライデントの100mm機関砲が使徒に向かって火を噴いた時、予想外の展開に目を疑った。
トライデントの100mm機関砲は使徒のA.T.フィールドを貫き、ダメージを与えていた。
「えっ、このままじゃ私達、勝てちゃいそうだよ!?」
トライデントに乗るマナは嬉しそうに声を上げたはしゃいでいたが、それも長く続かなかった。
3体の使徒はヒトデのように足一本になっても再生を始める。
「このままじゃ、復活して切りが無い!」
ムサシも全力で100mm機関砲を撃っていたが、このままでは弾切れも時間の問題だった。
「こうなれば、まとめて焼き払ってやる!」
痺れを切らしたアサヒは、マナ達に使徒から離れるように命じた。
そして国連軍の戦闘機にN2爆弾を使徒に向かって投下するように要請した。
N2爆弾が着弾する直前、3体の使徒は合体してA.T.フィールドを強めてN2爆弾の攻撃に耐えようとした。
<ネルフ 第一発令所>
「N2爆弾により使徒の構成物質の77%の焼却に成功。現在使徒は自己修復中と考えられます」
「やれやれ、鶴真岬はN2爆弾で完全に水没か。海岸線の地図を書き換えなければならんな」
マヤから報告を受けたコウゾウはそう呟いた。
「国連軍が所有するN2爆弾を数発立て続けに投下すれば、使徒は倒せるのではないでしょうか?」
作戦会議に参加しているマコトがそう意見を述べた。
実際に核爆弾を何千発も保有しているアメリカとロシア、数百発保有しているイギリスやフランス、インド・パキスタン・中国は使徒を倒すために核爆弾を使用している。
核爆弾を持っていない国はN2爆弾で対抗しようとしているが、その弾頭数はまだ多くは無い。
「日向君、N2爆弾が核爆弾と違うのは有害な放射能を撒き散らさないだけであって、大量の煤煙や塵埃を巻き上げる事には変わりがない。現に15年振りの2度目の使徒の襲来があってから数ヵ月、高性能爆弾の使用によって成層圏までに巻き上げられた塵は太陽光の地球への入射量を減らしている。今年の農作物の収穫量は減るだろう。だから我々はエヴァで使徒を倒さねばならない」
「はい、私の考えが浅はかでした」
ゲンドウに説教を受けたマコトはそう言って頭を下げた。
使徒の襲来が核保有国に集中し始めているのは事実である。
フランスは真っ先に使徒侵略の憂き目に遭い、首都は花畑と化している。
「現在の使徒の損傷率は70%を超えています。使徒が回復を終える前に倒してしまえば良いのではないでしょうか?」
ミサトが至極真っ当な意見を述べると、ゲンドウは動揺を見せた。
「そ、それは困る」
「困るとはどういう事ですか?」
「いや、慎重に行くべきだと言う事だ。赤木君、今回の使徒は3体が分離・合体するのだったな?」
ミサトの視線にうろたえながらも、ゲンドウはリツコに説明を求めた。
「あっ、もしかして合体の仕方によって空・陸・水タイプに変化したりするのですね!」
「日向君は黙っていて。今回の使徒は、3体のコアを同時に倒さない限り無限に再生を繰り返すヒトデのような特性を持つものだと考えられます」
発令所の大型ディスプレイには3機の戦自ロボ『トライデント』と3体の使徒が戦う様子が映し出されていた。
マナとムサシの操る2機は使徒の腕一本しか残らないほどの激しい猛攻を100mm機関砲で加えているが、残るケイタは上手く攻撃を使徒に出来ていない。
その間に残る2体の使徒は再生を繰り返し、撤退を余儀なくされた。
「戦自のパイロット3人が使徒を倒していたかもしれないという事ですね……」
「彼らは少年兵、責任を負わせるのは酷な話だ。そして二度と少年兵たちの命を危険にさらさないように、私からアサヒ海将補には話を付けてある」
シゲルの呟きに、ゲンドウはそう説明をした。
ゲンドウがドスの効いた声でアサヒに電話を掛けると、彼はその場で小水を漏らして次の日から白髪+円形脱毛症のコンボになるほど怯えていると言う。
『ミジンコの心臓』とあだ名つけられているくらいだ、アサヒは何も出来ないだろう。
「これで私の作戦は完璧だ」
一部を除いて、との条件付きだったがゲンドウはそう宣言した。
「碇司令、使徒殲滅作戦を考えるのは私の役目です!」
「まあまあ葛城、司令の話を聞いてみようじゃないか」
何食わぬ顔で作戦会議に交じっていたリョウジがそう言ってミサトの肩を掴んだ。
「この作戦では、零号機、初号機、弐号機が動きをシンクロさせる必要がある。そしてそれはパイロットも同じだ。そこで3人のパイロットも寝食を共にさせる事にする!」
「えーっ、それってシンジ君とレイとアスカを同居させるって事ですか?」
厳格なゲンドウがそう言い出すと、ミサトは驚きの声を上げた。
コウゾウも渋い顔をする。
「男女7歳にして同衾せずと言うではないか」
「冬月、ユイ以上に可愛い孫娘を見たくはないのか? おじいちゃんと呼ばせてやるぞ?」
ゲンドウがコウゾウの耳元で囁くと、コウゾウはあっさりと陥落した。
しかしアスカがゲンドウとの同居を承諾するとはとても思えない。
本当は毎朝パパと呼ばれたいのだが、ゲンドウはアスカに嫌われない為に涙の決断をした。
自分の家を出て、外で暮らすと。
<第三新東京市 コンフォート17 碇シンジの家>
帰宅して夕食を終えた後、ゲンドウはシンジに大事な話があると切り出した。
「えっ、父さんがこの家を出て行く!? それに、母さんの部屋も片付けるって!?」
「うむ、作戦上その必要が出て来た」
ゲンドウはアスカとレイが同居する事は明かさず、自分はこれから仕事が多忙になるためネルフ本部で寝泊りする事、そのままにしてあったユイの部屋もユイが巨人のエヴァになってしまった今、過去を捨てて前に進まないといけないとシンジを説得して部屋の片付けに入った。
(ああ……私のコレクションを捨てる日が来たか)
「父さん、釣り大会のトロフィーや魚拓は司令室に飾っておけば良いんじゃない?」
「それは出来ん、フレンドリーな特務機関の総司令などいるものか」
ゲンドウはネルフに居る時はわざわざ色付きサングラスと付け髭をして威圧感を出すのが大事だと考えている。
ネルフ本部にあるゲンドウのプライベートルームにはユイの洋服など所縁の品物を運び込むつもりだ。
「でもこんな広い家で僕が一人で暮らすなんて寂しいな」
同じコンフォート17に住むトウジ達の協力も得てすっかり片付けが終わった後、シンジはそう呟いた。
「シンジ、寂しいなら俺の家に来ないか? 空き部屋もあるし重量級ボードゲームをするにも、その方がいいだろう?」
「父さん、良いかな?」
ケンスケに誘われたシンジは目を輝かせてゲンドウに尋ねた。
これは作戦上マズい展開になった。
ゲンドウが背中で滝のような冷や汗を流していると、碇家のインターホンが鳴った。
天の助けだとゲンドウが玄関のドアを開けると、レイとアスカが入って来た。
「綾波、アスカ、どうしたの?」
「私達、碇君とこの家で暮らす事になったの」
「そう、作戦上仕方なくね」
レイとアスカがサラッとそう言うと、ヒカリ達は悲鳴を上げた。
シンジも悲鳴を上げたかったが、声が出なかった。
後からパンダの着ぐるみを着た引っ越し業者が入って来て、ゲンドウとユイの部屋だった場所にレイとアスカの家具や荷物が運び込まれた。
「シンジ、両手に花のバラ色の生活で羨ましいやないか……痛てっ!」
トウジはヒカリに耳を引っ張られた。
「アスカ、留守の間の家事は私達に任せて。使徒との戦い、頑張ってね!」
「うん、ありがとう、ヒカリ!」
ヒカリ達はゲンドウと一緒に碇家を出て行った。
そして家にはシンジとアスカ、レイの3人が残された。
「レイ、引っ越しで汗もかいたし一緒にお風呂に入ろうか」
「ええ、良いわね」
「シンジ、覗くんじゃないわよ!」
綾波とアスカは初対面だったはずなのに、もう仲良くなったのかとシンジは感心していた。
アスカはネルフ本部で本を読んでいたレイに、自分はエースパイロットだと宣言して『仲良くしてあげるわ!』慇懃無礼な態度で手を差し伸べたのだが、レイはニッコリと『うん、人間の皆と仲良くしたい』と笑顔で答えて、アスカは毒気を抜かれてしまった。
さらにネルフ本部でレイのシンクロ訓練を見たアスカは、実の親子でもないのにシンクロ率を高めようと自然体で努力するレイをパイロットして認めたのだった。
「さてと、僕はアスカを喜ばせる料理を作らないと」
今までゲンドウの料理を手伝う程度に台所に立った事のあるシンジだが、シンジが1人で手の込んだ料理を作るのは初めてだった。
アスカとレイ達が自分の部屋の引っ越しに追われている間、ゲンドウはシンジをキッチンに呼び出した。
「シンジ、まずは手料理で惣流君の胃袋を掴むのだ。そうすれば、彼女の堪忍袋の緒が長くなるかもしれない。そして、最後には彼女の心を鷲掴みにするのだ」
「でも、アスカを満足させる料理なんて作れるかな」
シンジが不安そうに呟くと、ゲンドウはシンジに書類を渡した。
「惣流君の母親である、キョウコさんから教えてもらった料理のレシピだ。この通りに作れば彼女が満足する母親の味が再現出来る。だが、いきなり満点の料理を作ってはいかん」
「カンニングしたとバレてしまうからですね」
ケンスケが口を挟むと、ゲンドウはその通りだと頷いた。
「そしてそのレシピの味が再現できたからと言って、それがゴールではない。シンジ、お前なりの心を込めた工夫が食べた人の心を打つのだ」
「うん、分かったよ父さん」
ゲンドウの言葉にシンジはしっかりと頷いた。
「料理に工夫は必要だと話したが、無謀な挑戦はしない方が良い。レシピは大切にな……」
「そうだシンジ、攻略本を見ないでオリジナル調合に挑戦するようなもんだぜ。ブレンド調合にした方が高評価が貰えるよ」
ゲンドウとケンスケの2人はミサトの事を言っているんだなとシンジには分かった。
「シンジには期待してなかったけど、65点ってところね」
風呂から上がったアスカは、シンジの作った料理を食べてそう呟いた。
「評価は?」
「凡人。悪い点を直せば才能アリになれるわよ」
そう答えながらも、アスカはシンジの作った料理を残さず食べた。
「碇君の作った料理、とても美味しかった」
「ありがとう」
レイに笑顔でそう言われたシンジは照れくさそうに顔を赤らめて答えた。
その様子を見たアスカは、レイは油断ならない存在だと思った。
愛には数種類ある、例えば他人に与える無償の愛と、自分でも抑えきれない自分の為の愛だ。
レイは慈愛の精神で他人に接している。
シンジがそれを自分だけに向けられた愛だと勘違いしてフォーリンラブしてしまう可能性がある。
だからと言ってレイとシンジの仲を邪魔をする行為をすればレイを悲しませてしまうし、シンジに嫌われてしまう。
これはシンジを助けるためのボランティア行為で、きっと神様も許してくれると心の中で言い訳をしたアスカは、同居初日からシンジのベッドと滑り込んだ。
「ちょ、ちょっとアスカさん? ここは僕の部屋ですよ!?」
背中に感触を感じて振り返ったシンジはアスカが同じベッドに居る事に驚いた。
アスカは寝たふりを続けて色っぽく唇を動かし、胸を寄せて谷間を見せつけた。
シンジは震えながらアスカにキスをしようとしたが、途中で止めてしまった。
(ちぇっ、意気地無し……)
そのうちアスカも今日の引っ越し作業の疲れなども出て、本当に眠ってしまった。
次の日にシンジの部屋に起こしに来たのはレイだった。
「アスカ、どうして碇君のベッドで寝ているの?」
「あはは、初めて住む家だから、トイレに行った後、部屋を間違えたみたいね!」
アスカがそう言って誤魔化すと、シンジはやっぱりそうなのかと納得した様子だった。
レイは胸に痛みを感じた気がして、胸を手で押さえた。
「僕は着替えるから、2人は部屋を出て行ってよ」
アスカとレイの2人が部屋を出て行ってから、シンジは困った事になったと頭を抱えた。
不自然な物質がこびりついたシーツやパンツやパジャマを同級生のヒカリに洗濯させるわけにはいかない。
とりあえずヒカリが開けないだろう机の引き出しに隠して、ラブリーズを噴射して匂いを消した。
<ネルフ本部 実験場>
初号機、零号機、弐号機がネルフ本部に揃った今、戦闘訓練も行われる広い実験場はユイとナオコとキョウコの井戸端会議の場所となっていた。
使徒の攻撃によってレーザー光線を受けて負傷した初号機の左目は失明するかと思われたが外科手術は伝説のドクターⅩ(10)により成功。
『私、巨人でも失敗しないので』のセリフとメロン1個と5千万の請求書を残して川越帝大病院へと帰って行った。
埼玉県も大きな被害を受けているが、川越市だけはいつも通りらしい。
「ユイさんの目が治って本当に良かったわね」
「ありがとう、キョウコ。これで私も使徒と戦えるわ」
「ユイさん、キョウコさん、改めてよろしくお願いします」
筆談をしながら3人はグータッチをして士気を高めた。
巨人となったエヴァ同士なら直接会話ができるのではないかと思われたが、それは誤解だった。
リツコは何とかしようと、脳波で意思疎通が出来る機器『インターフェイス・ヘッドセット』を開発したが、昔に流行った玩具『ニャウリンガル』と同じ精度で、さらに「お腹減った」とか「おならが出そう」などの雑念が入って上手く行かない。
巨人の大声を拾える様なマイクは、漫画『成瀬川土左衛門』に出て来るジャイヤンのマイクしかない。
現実的には無理だと言う事だ。
タブレットの音声入力も無理だし、文字を目で追って読むのにもタイムラグが起きる。
それ以外の方法で3人のタイミングを合わせないといけないと言う事だ。
リョウジがミサトに提案したのが、音楽に合わせて踊って動きをシンクロさせるものだった。
「ダンスですか……私とユイさんは踊れそうですけど、ナオコさんは……」
「確かに私は後数年で還暦だけど、年寄り扱いしないでくれる?」
ナオコが意地を張ったので、とりあえず『魂のルフラン』を踊ってみる事にした。
踊り終わった後、零号機は地面に膝を付いて四つん這いになっていた。
5分近くシンクロして踊り続けるのは無理な話だ。
戦闘時間は1分ぐらいに収める必要があった。
「シンジ君達も同居してシンクロの為に頑張っているみたいですよ」
「アスカとシンジ君、上手く行っているのかしら?」
リョウジから同居の件を聞かされたキョウコはそう呟いた。
「大丈夫ですよ、シンジはそこまでだらしがないわけでは無いし、友達も協力してくれていますから」
「私が心配しているのは、ラ・ブの方」
キョウコはおっとりしていて呑気だなとユイはため息をついた。
「リッちゃんはもう30歳になると言うのに、浮いた話1つ無くて。このまま行かず後家にならないか、心配だわ」
「でもリョウジさんならお似合いじゃないですか」
ナオコのぼやきに、キョウコはそう答えた。
「ダメよ、こんな口が上手いだけの家庭を顧みない男。ミサトちゃんを捨てたって話は聞いてますからね」
「はは、これは手厳しい」
ナオコは離婚経験者である。
リョウジもそれなりに理由があってミサトと離れたのだが言い返す事は出来なかった。
「でもうちの人とは良い雰囲気じゃない。最近同居を始めたみたいですし」
碇家を出て行ったゲンドウは、文字通り外でテント暮しをしていた。
総司令が夜もネルフ本部に居たら部下に気を使わせると考えたからだった。
見かねて同情したリツコがゲンドウを自分の家へと引き取ったのだ。
「もし私が元の人間のサイズに戻れないような事があったら……あの人とリツコちゃんを……」
「ユイさん、その話は止めましょう。まだ戻れないと決まったわけではないから」
ナオコは沈んだ声でそうなだめるのだった。
<日本近海 戦略自衛隊第13艦隊>
特訓を終えたエヴァ3機は満を持して使徒が自己修復をしている地点へと出撃しようとしていた。
ダンスのユニゾンのタイミングが遅いと、シンジは何度もアスカに叱られた。
クタクタになった身体でも、シンジは頑張って夜遅くまでアスカのための料理の研究をした。
使徒を倒し終われば同居する必要性が無くなる。
そうすればアスカが機嫌を損ねれば家を出て行くかもしれない。
シンジはアスカの胃袋を掴む戦いもしていた。
そして迎えた運命の決戦の日。
使徒との戦いでアスカに努力の成果を認めてもらう。
しかしそのエヴァを阻んだのが戦略自衛隊の『トライデント級・陸上軽巡洋艦』。
シンジ達が特訓をしている間に、『トライデント級・陸上軽巡洋艦』のパイロット達も特訓をしていたのだ。
3体の使徒を相手に3機の『トライデント級・陸上軽巡洋艦』の100mm機関砲はその使徒の肉体を容赦無く削り取り、腕一本残さず粉砕してしまった。
「何よ、アタシ達の出番が無くなっちゃったじゃない!」
アスカが悔しそうにエントリープラグの中で叫んだ。
3機のエヴァはそれぞれ三又の槍『トライデント』を持ったまま、どうしたものかと立ち尽くしていた。
使徒が居なくなっては帰るしかない。
しかしその時空から巨大なヒトデ型の使徒が降って来た!
戦略自衛隊の部隊はその迫力に圧されて慌てて逃げ出した。
(……なるほど、この使徒があの3体の子供使徒の母親という訳ね。自分の子供を殺されて怒り狂うのは、使徒もヒトも同じか)
ユイはそう心の中で呟きながら、零号機と弐号機に槍を掲げて合図をすると、初号機と零号機、弐号機は三角形の陣形で使徒を取り囲んだ。
(((トライアングル・アターーック!)))
3機のエヴァは息を合わせて槍を使徒の中心へと突き出した。
するとヒトデ型の使徒は、再生する事無く爆発して消滅した。
予定とは違うが、エヴァは使徒を倒す戦果を挙げたのだった。
<第三新東京市 コンフォート17 碇シンジの家>
「えーっ、空き部屋が全部埋まってる!?」
使徒との戦いが終わって、これから同居をどうするかと言う話になった時、ゲンドウはコンフォート17の全世帯の部屋が埋まってしまったと話した。
その話を聞いたアスカは大声を上げた。
それでは、シンジとレイの同居が続いてしまう事を意味した。
アスカは何とか屁理屈を付けてシンジの家へと留まる事が出来るだろうと考えていた。
レイはアスカから見ても天使のような優しい娘だ、友達や仲間としては申し分ない。
しかしシンジとレイの距離が近すぎるのは危険だとアスカのアンテナが告げていた。
「父さん、コンフォート17はネルフの社員寮みたいなものだから、部屋の空きに余裕があったはずだよ?」
「それがネルフに大量の就職希望者が出てな、新規採用職員が増えたために満室になってしまったのだ」
シンジに尋ねられたゲンドウは困った顔をしながら内心では作戦は成功したとほくそ笑んでいた。
『グーテンバイト』などの就職案内所に、『3食昼寝付き・未経験者歓迎・寮完備・高収入』で求人を出したのだった。
そして大人数の『関取』をネルフに採用した。
コウゾウは日本相撲協会が黙って居ないぞと言ったが、ゲンドウは『日本SUMO協会』だと言い張った。
これで相撲を観るのにJHKの受信料を払わずに済むのだから喜べとコウゾウに誇らしげに言っていた。
「何だか急に大柄なネルフの大人の人達が増えたなぁ……」
シンジはコンフォート17で起きている変化に首を傾げながらも、行き場の無くなったアスカとレイが同じ家に住み続ける事を受け入れるしかなかった。
だんだんと家族として馴染んで来たシンジにとっては少し嬉しい事ではあった。
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