新世紀エヴァンゲリオン for Mothers ~母親達の戦い~ 作:朝陽晴空
<ネルフ本部 司令室>
巨大ロボット、『ジェット・アローン』の開発者である時田シロウ博士は、ネルフの司令室を訪れた。
ゲンドウからの手紙には『来い』としか書かれていなかったので、シロウは強張った表情でゲンドウとコウゾウの2人と対面した。
「それで、私に御用件と言うのは……」
「以前に使徒を倒すために協力すると言っていたな?」
「え? そのお話ですか?」
使徒が現れてもネルフから全く声が掛からなかったので、シロウはゲンドウの言葉に面食らってしまった。
「協力するのかしないのか、ハッキリしろ。協力しないのなら、帰れ!」
「ええ、もちろん協力致しますとも! 使徒を倒すためなら例え火の中、水の中!」
ゲンドウに大声で問い詰められたシロウは震え上がって大げさに答えてしまった。
「言質を取ったな、冬月」
「ああ、確かにな」
ゲンドウの確認の言葉に、コウゾウは頷いてそう答えた。
「実は先日、浅間山のマグマ溜まりに蛹の状態の使徒が発見された。そこで我々は、使徒が羽化する前に先制攻撃を仕掛ける事にした」
「それは結構な話ですが……まさか?」
コウゾウの話をシロウはしばらくの間納得したように聞いていたが、ハッと気が付いた表情になった。
「ジェット・アローンに攻撃用の爆弾を持たせて、浅間山火口から使徒に接近して欲しい」
「冗談じゃありませんよ! それではジェット・アローンは玉砕しに行くようなものではないですか!」
コウゾウの要請を聞いたシロウは声を上げて拒否した。
「先ほど、火の中に行くと言質を取ったではないか!」
「あれは言葉の綾です、書面で交わした契約では無く、口約束など無効です!」
ゲンドウに凄まれたシロウは、そう言って再度拒絶の言葉を放った。
「欧米か!!」
ゲンドウが大きな声でそう言い放つと、シロウは観念して下を向いてしまった。
ここは日本だ、口約束が成立する事もあると念を押されたのだ。
「騙し討ちのような事をして済まないと思っている。だが、エヴァに乗るパイロットである息子を危険な目に遭わせたくない親心、分かってくれ……」
シロウが震えるゲンドウの声で顔を上げると、ゲンドウは涙を流していた。
まさに鬼の目にも涙、シロウも貰い泣きをしてしまった。
「我々もジェット・アローンの生還には努力する。原子炉からの内部圧力に耐えるたために純度の高いタングステン鋼で出来たジェット・アローンは、高熱高圧のマグマに耐えるには最高の機体なのだ、期待しているぞ」
「はい、分かりました!」
コウゾウに言われたシロウは勢い良く司令室を出て行った。
そのコウゾウの後ろ手にはロト製薬の目薬が握られていた。
「冬月先生、目薬の量が多すぎましたよ」
シロウが去った後、ゲンドウは冬月にそう抗議をした。
「馬鹿を言え、私は少ししか指していない。それならお前が鼻声なのはどういう事だ?」
「これは花粉症のせいです」
「アダム樹のせいにするか。あの樹はどこまで増えるのであろうな……」
コウゾウは遠くを見つめてそう呟いた。
人間の次に繫栄するのは植物族か?と考えていたのだ。
先程の使徒戦で水没した鶴真周辺は、マングローブの林になっている。
<浅間山周辺 仮設基地>
シロウからジェット・アローンの協力を取り付ける前から、浅間山の周辺では仮設基地の建設が始まっていた。
まず、ジェット・アローンの命綱となる耐熱ワイヤー巻き付け装置。
有事に備えてエヴァが待機する場所も造られた。
浅間山の周辺地域には緊急事態宣言を発令。
人々は浅間山が噴火するのかと噂したが、ネルフは止めない。
それ以上の事が起こるかもしれないと想定していたからだ。
浅間山から人が離れるほど都合が良い。
ジェット・アローンは自力走行可能だが、暴走の可能性も秘めていた。
エヴァ3機と同じく空輸で浅間山へと到着した。
空輸機でワイヤーに吊り下げられたユイ達も、股が痛いと騒いで居るだろう。
エントリープラグの挿入をネルフ外部の人間に見られるのは恥ずかしい事を配慮して、シンジたちもネルフ本部からエヴァに乗っていた。
「これが使徒を倒すための爆弾ですか……意外と小さいのですね」
シロウはジェット・アローンに持たせる『荷物』が小さい箱だと驚いた。
普通の気圧だとタングステン鋼は余裕でマグマに溶けないが、深く潜って気圧が高まれば圧し潰されてしまう危険性もある。
タングステン鋼や原子炉にはかなりの予算が掛かっている、無事に戻って来て欲しい。
しかし活躍の場が無ければ意味が無い。
今まで災害救助の場でそこそこ貢献してきたが、目立つほどでは無かった。
これは自分の『息子』の晴れ舞台だとシロウは火口に飛び込むジェット・アローンを見守った。
「深度3,000m……まだ使徒は見つかりませんね」
「もっと深度を下げて」
「葛城さん、これ以上は危険です!」
マヤに向かって冷静に指示を出すミサトに向かってシロウは抗議した。
「使徒発見しました!」
ジェット・アローンが持っている自撮り棒のようなカメラに、巨大な蛹のような使徒が映し出された。
標的の確認のため、ミサトは分析を命じる。
「パターン緑、使徒です! 間違いありません!」
「例の『荷物』のケースを開けて使徒に向かって投げて!」
ミサトの指示通り、シロウはジェット・アローンを操作した。
開け放たれたケースからは、クリオネのような姿をした見た目はかわいい生物がチョロチョロと泳ぎ出す。
「葛城さん、荷物の中身は爆弾では無く、クリオネですか?」
シロウはミサトに向かって不思議そうな顔で尋ねた。
爆弾はジェット・アローン自身なのよ、とは答える事が出来なかった。
クリオネは泳いでいる姿は天使だが、捕食の時は悪魔になる。
使徒に近づいたクリオネのような生物はバッカルコーン(6本の触手)を出して襲い掛かった!
「嫌ぁーーっ!」
その姿をモニターで観たマヤが悲鳴を上げて椅子ごとぶっ倒れる。
水族館でクリオネを見るような、デートの経験も無かったマヤにとっては衝撃が強すぎた。
再起不能になってしまったマヤに代わりシゲルがフォローに入る。
「使徒の方にも動きがあります!」
「命の危機を感じて、羽化を早めたんだわ!」
シゲルの報告にリツコはそう叫んだ。
使徒はカブトガニのような形態に身体を変化させた。
カブトガニは水棲族が栄えた8000年前頃にも海に居た生物だった。
海の水棲族を喰らいつくして滅亡させたクリオネのような姿をした怪物は天敵のような存在だった。
しかし高圧高温マグマの中でも耐えられる硬い装甲とA.T.フィールドを持った使徒はクリオネにA.T.フィールドを突き刺して食べられないぞと必死に抵抗する。
バッカルコーンの触手も締め付ける力が強まり、使徒のA.T.フィールドを突き破って捕食しようとする。
「葛城さん、ジェット・アローンが巻き込まれないうちに引き揚げましょう!」
使徒もクリオネ怪獣も、無機物のジェット・アローンには興味を示していないようだ。
巻き添えで命綱のワイヤーロープが切られる前に地上に戻そうとシロウは提案した。
しかしミサトの下した命令は非情なものだった。
「ジェット・アローンの原子炉をフル稼働! 炉心融解のタイミングで使徒にぶつけて!」
シロウの腹心の部下達もためらわずにミサトの指示に従う。
全ては仕組まれていた事だったのだ。
「ジェット・アローーーーーン!」
大爆発を起こして塵と化すジェット・アローンを見て、シロウは男泣きの涙を流して叫んだ。
ミサトはシロウが14歳の少年だったら抱き締めて慰めてあげられたが、肩に手を置いてハンカチを差し出す事しか出来なかった。
ジェット・アローンに搭載された数基の原子炉により爆発は使徒もクリオネ怪獣も浅間山の周辺もまとめて吹き飛ばした。
エヴァ3機もとっさにA.T.フィールドを展開して降り注ぐ岩つぶてに耐える。
ほとんどの岩石が高熱により溶けて、それほど岩石の量は多くなかった。
「使徒と怪獣はどうなったの!?」
「陸上に打ち上げられた使徒と怪獣は双方ともかなりの深手を負っていますが、生きています」
ミサトの言葉に、シゲルはそう報告した。
漁夫の利を狙ったとは言え、両方ともまだ生きているのか。
ミサトは使徒と怪獣の生命力に舌を巻いた。
「やっとアタシ達の出番が来たみたいね!」
「弱った相手に止めを刺すなんて、納得が行かないけど……」
「勝てば官軍よ!」
敵に同情するようなシンジの言葉に、アスカはそう言い放った。
エヴァがクリオネ怪獣に止めを刺すと、怪獣の死体からは大量の綺麗な水が溢れ出て、流れ出るマグマを固めて湖を作ってしまった。
さらにエヴァが使徒に止めを刺すと、緑化現象が起こり火山灰は消え去り空気は浄化され、溶岩や土石流は緑地へと変わってしまった。
火山噴火による火山灰の被害、流れ出る土石流への被害が奇跡的に出なかった事に、周辺住民の避難活動を手伝っていた戦略自衛隊員達は旗を振ってネルフの功績を称えた。
しかしネルフの広報部長でもあるミサトはジェット・アローンの遺影をマスコミに公開して、この度の勝利はジェット・アローンの尊い犠牲のお陰だと世間に宣伝した。
これで、ジェット・アローン2号を建造する計画も持ち上がり、シロウの努力は報われた形になった。
「ところで……浅間山に出来た湖って、なんか温泉みたいよね?」
アスカの一言で、エヴァ3機の目が光を放った。
<浅間山周辺 温泉旅館『ねるふ』>
戦いが終わった直後、エヴァ3機は協力して地面に温泉マークを描いた。
ユイ達は温泉となった湖に入浴したいのだと察したゲンドウは、『ここに温泉旅館を建てろ』と命令を出した。
浅間山に向かったのは、主に先日大量雇用した力士達。
大工を雇う時間も無かったので、力も体力もある彼らに白羽の矢が立った。
材料も海外から輸入など待てなかったので島中ホームズやビーバーホームなどのホームセンターで買い占めた。
そして4時間で平屋建てではあるが、温泉旅館を完成させてしまった。
中国人もビックリである。
「何か傾いている気がするけど……」
シンジが不安を口にすると、ゲンドウの命令で力士達が壁を押して傾きを直した。
まるで舞台のセット並みである。
「温泉に入った後、宴会を行う。今日は無礼講だ!」
ゲンドウがそう言うと、力士衆達から大きな歓声が上がった。
とりあえずシンジ達が中に入ると、見た目は普通の温泉旅館のようにしっかりしていた。
家具は大工では無く力士が組み立てたので、変な方向に釘が刺さっていたりはしたが。
「じゃあシンジ、また後でね」
浴場はユイ達エヴァ3機が入っている大きな湖と、人間用にちょうどいいサイズの男湯と女湯に別れていた。
露天風呂の湯舟用の石を運んだり囲いを作ったのも力強い力士達だ。
シンジは力士の皆に感謝していた。
「でも父さん、あの怪獣を倒したらたくさん水が出て来たのはどうしてなの?」
「うむ、あの怪獣は大洪水を起こして、古代海底文明を洗い流して滅ぼしたとされる。まだ目覚めたばかりの幼生だったから、湖が出来る程度で済んだのだろう」
古代文明アトランティスの話はシンジもおとぎ話として聞いた事がある。
これ以上聞くと難しい話になりそうなので、それ以上追及するのは止めた。
「よおシンジ、なかなか立派な温泉やないか」
「碇のお父さん、俺達を招いてくれてありがとうございます」
トウジとケンスケも露天風呂へとやって来た。
コンフォート17の入居者達も続々とやって来ているようだ。
「ところで、この温泉では男の浪漫が体験できると聞きました」
「さすが相田君は耳が早いな」
ケンスケの言葉に、ゲンドウは感心した様子でそう答えた。
「男の浪漫って何?」
「覗きに決まっているやないか」
「えっ!?」
トウジの答えに、シンジは顔を真っ赤にしてしまった。
そう言えば前に、アスカはお母さんはおっぱいが大きいと話していた。
「シンジ、惣流の事を想像しているんだろうが、今日はコンフォート17の住民達が来ているんだぜ? 俺の調べでは3ケタも居るらしい」
3ケタ? 何のサイズが? ケンスケの言葉にシンジは目を回したが、覗きは良くない事だとシンジは思い止まった。
しばらくして女湯の方から悲鳴が上がった、身を乗り出した男達の重みに耐えられず、突貫工事の囲いが倒れてしまったのだ。
参加していた男達は全員正座させられ、ミサトの説教とリツコの電気ショック(『お仕置きだべぇ~』の音声付き)を喰らう事になった。
「シンジ君は偉いわね、覗きに参加しないなんて」
入浴後の宴会の席で、シンジは浴衣姿のミサトに頭を撫でられた。
ミサトはワイヤー入りのブラジャーをしているので、帯の上に乗っかって居る胸が大きく強調されてつい目が行ってしまう。
「あーっ、ミサトってばシンジを誘惑してる」
シンジがミサトと話していると、赤い顔をしたアスカが近づいて来た。
どうやらアルコール飲料を飲んでいるようだった。
「アスカ、子供がお酒を飲んじゃいけないんだよ」
「バカシンジ、ドイツでは大人が居れば14歳でもビールを飲んで良いのよ、ねえミサト?」
「まあ、そうだけど……」
ミサトはごまかし笑いを浮かべてそう答えた。
ここは日本だ、父さんにしっかりと注意してもらおうとシンジは思った。
「その……何だ……今日は無礼講であるからにして、アスカ君には治外法権が適用される」
ゲンドウも未来の花嫁(?)に嫌われたくないのか、アスカの味方をしてしまっている。
「ほら、レイも飲んでいるわよ」
アスカが指差す先では、レイが淡々とビールを飲んでいるが、顔色は変わっていない。
レイは他の人間と同じように、顔を赤く染めてみたいようだった。
「ほらほら、シンジも飲みなさいよ」
アスカは酔うと絡み酒になるのか。
シンジはミサトに助けを求めようとしたが、ミサトは既にシンジの側から姿を消していた。
アスカに追い詰められたシンジは、宴会場の外の廊下まで後退していた。
「そう言えばシンジ、何でアンタはアタシを覗きに来なかったのよ? アタシってばそんなに魅力が無い?」
「アスカはとっても可愛いと思うよ、写真を見た時、天使の様だと思った」
シンジは本心を言ったのだが、酔ったアスカは素直には照れなかった。
「噓つき、アタシはママのように胸もおっきくなるんだからぁ……」
アスカはそう言ってシンジを壁に追い詰めた。
いわゆる壁ドン状態である。
「あれ? メキメキ音がするけど……」
この建物は新築ではあるが、4時間と言う中国の高層ビル並みの短期間の工期で急いで作られた建物だったので、作りが少々甘かった。
だからアスカの壁ドンに耐え切れず、シンジの背中部分の壁が倒れてしまった。
壁ごとアスカに押し倒された体勢になったシンジ。
大きな物音を聞きつけたミサトに救出されるまで、シンジは幸せを享受していた。
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