2人の英雄   作:ゴズ

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第一頁

「人間なんかに捕まって、良い様に力使われて――伝説が聞いて呆れるわね」

 キュレム。

 虚無の竜は、あたしの言葉を受けてピクリと体を震わせる。

 後ろにいるゲーチスは、お前なんかいつでも殺せるぞ、とでも思ってるのね。馬鹿丸出しの笑みを浮かべてる。

「本気だせば、ソイツなんか一瞬じゃない。なに? 寂しかったの? 自分を怖がらずに近付いて来てくれた奴がいて嬉しかったの? だとしたらアンタ、ソイツ以上に馬鹿よ」

 また小さく反応するキュレムの目には、明らかな敵意が込められている。

「なによ? 言いたいことがあるなら言いなさい。言葉は話せるんでしょ?」

「ふん! ポケモンなどに、人間の言葉が分かる筈もないだろう、小娘」

「まさか話せないなんて言わないわよね? 最底辺の生き物であるあたし達人間が、こうして言葉を話してるんだもの」

 ノイズは全て無視。キュレムが話すのを待っていると、やがて脳内に声が響いた。

『分かった様な口をきくな。矮小な人間風情が』

「アンタこそ、分かりきったことを言ってるんじゃないわよ。矮小? ええ、人間は矮小よ。一人じゃ何も出来ない癖に、何でも出来ると思い込んでる奴だっている。ほら、丁度ここにもいるじゃない」

『フン。開き直りおったか』

「開き直るも何も、事実だもの。この子達がいてくれないあたしなんか、何の力もないただの小娘でしかない。でもこの子達はどうかしらね? あたしなんかいなくても、みんな自分を持ってる。助け合いながら生きていく。まあ、今のアンタは、人間でも、ましてポケモンとも言えないけどね」

 良い様に力を使われて、逃げ出すことなんて簡単に出来るのにそうしない。

 単に甘えてるだけで、自分では何もしようとしない。

 正しく空っぽの竜。

「道具以下よ。今のアンタは」

『――――』

 周囲の気温が一気に下がり、足が凍りつく。少し動かそうとしてみても、1m足りと動くことも無い。

 次第に凍っていく範囲が広がり、腰の辺りまで来た所で一度進行が止まった。

「どうしたキュレム! そのまま凍りつかせてやれ!」

『小娘。取り消すなら今が最期のチャンスだ』

「うっさいわね。道具の癖に何上から物言ってんのよ」

 進行が始まり、心臓部まで近づいて来る。

 どうにも怒ったらしい。

「1つ教えてあげる。ホントのことを言われて怒るのは、アンタ自身がソレを自覚してるからよ」

『哀れだな。小娘』

「今のアンタにだけは、言われたくないわね」

 視界に氷が映った直後、あたしの世界は凍りついた。

 

 

「――煉獄」

 

 

 氷が溶けていく。

 半分暗くなった視界に映るのは、信じられない物を見た様な顔をしているゲーチスと、目を見開いているキュレム。

 そして、真紅の炎だった。

 やがて体を覆っていた氷は全て溶けてなくなり、何とか後ろを見る。

 そこには、赤い体躯の獅子がいた。

 隣には、あたしより2~3歳年上位の女の子。

 ボリュームのある茶髪をポニーテールにして、帽子を深く被っているから顔は分からないけど、どうしてか、あたしと似ている気がした。

「ありがと、エンテイ」

「ああ」

「助けてくれてありがとね。で、誰なの、あんた?」

「しがない旅のトレーナー」

「そ。じゃ、しがない旅のトレーナーさん、今だけで良いからさ、ちょっと協力してくれない? 凍りついた時に、右目と左腕がやられてね……1人で相手するにはキツイのよ」

 実を言うと両足も動かないんだけどね……こうして立っていられる内は辛うじて大丈夫なんだろうし、この勝負の間だけでも保ってくれるなら結構。

「了解。で、どっちの相手をすれば良いのかしら?」

「お好きな方でどうぞ。あたしは余った方と戦うから」

「そ。どうでも良いことだけど、貴女とは気が合いそうだわ」

「あら奇遇。あたしもそう思ってた」

 軽口を叩きながら、腰のボールに手を触れる。

「ロゥ。悪いけどこれが最後のバトルよ。遠慮なんかいらないから、本気でぶっ放しちゃって」

 正面に突き出し開閉スイッチを2回押せば、中から最初のパートナー、ダイケンキのロゥが姿を現した。

 ミジュマルの頃から暴君だったこの子は、今では冷静沈着な暴君となっている。

 パーティの特攻隊長だ。

「ほう……御三家は何度も見てきたが、ここまで鍛えられた奴を見たのは久しぶりだ。心が躍る」

「エンテイ、今の相手はあの子じゃないよ。ほら、さっさと終わらせよう」

「ふむ。そうだな。ダイケンキ、名をロゥと言ったか? トレーナーさえ良ければ、後で我と勝負して貰いたい」

「出来たらね。約束は出来ないけど」

 ロゥは何も言わない。

 けど、エンテイはそれで良かったらしい。

「結構」

 そう言って、ゲーチスに飛び掛った。

「さ、行こうか、ロゥ」

『ダイケンキ如きの攻撃で、このキュレムを倒せると思っているのか?』

「――――水鉄砲」

 指示を終える前に放たれた水流は、キュレムの巨体を軽々と吹き飛ばし、ジャイアントホールの壁に突き刺した。呻き声を上げ、抵抗している竜は、けれど一向に抜け出すことが出来ないでいる。

 凍らせることで技を中断させようとしたのか、体から冷気を放ち水鉄砲を凍らせていくキュレム。

「冷凍ビーム」

『なんだと!?』

「へぇ」

「ほう、やはり凄まじいな」

 褒めてくれてありがと。伝説のライオンさん。

 キュレムの冷気を上回る冷気が、氷を更に凍らせながら直進していき、竜に直撃する。

 ガシャンと音を立てて地面に落ちたキュレムの体は、更に凍っていた。

「シェルブレード」

 瞬時にキュレムまで接近したロゥは、倒れているキュレムの腹へ下からアッパー気味のシェルブレードを打ち込んだ。

 天井付近まで跳ね上がるその体を、ロゥは壁を駆け上がって追い掛ける。

「アクアジェット」

 壁を蹴った勢いを上乗せした突進は、キュレムを真っ逆さまに地面へと突き落とした。

 遅れてロゥも着地する。

 結構な体重があることを伺わせない、静かな着地だった。

 同時にあたしは、その場に倒れこむ。

 足は限界か……もう、立つことはできないわね。

「ロゥ、みんな、ごめんね。旅のトレーナーさん、エンテイ。ソイツが持ってる杖、焼き消してくれる? アイツが起き上がる前にさ」

 ゆっくり近づいて来るロゥに謝り、トレーナーとエンテイに頼むと、見てなかったけど、頷いてくれた気がした。

「……エンテイ」

「ああ……灰とて残さん」

 

 ――ありがとう。

 

 そう言う前に、あたしの意識は途絶えた。

 

 

 

「トレーナーとして生きることは、もう出来ないってさ」

「分かってるわよ、自分のことくらい……て言うか、何でさも当然の様に家に、しかもあたしの部屋にいる訳? 自分の家があるんだから、そっちに帰りなさいよ」

「貴女が眠っている間に、一度帰ったわ。当分はここにいるから、何かして欲しいことがあったら言いなさい?」

「…………お風呂入りたい」

 何日眠っていたのか知らないけど、やっぱり汗はちゃんと湯船で流した方がすっきりする。

 何故か目元が赤いトレーナーもそれが分かっている様で、あたしの背中と膝の裏に手を回し、いとも簡単に抱き上げた。

 この細い体の何処にこんな力があるのよ。

 そのまま1階に連れて行かれ、お母さんと2、3言葉を交わした後、お風呂に着いた。

 椅子に座らせられ、パジャマを脱がされる。

「貴女、ずっと思っていたけど、良いからだしてるわ」

「セクハラで訴えるわよ? ホワイト」

「それは止めて欲しいわね」

 トレーナー、ホワイトは大人びた笑みを漏らし、あたしを丸裸にした。その後、自分も服を全て脱ぎ、浴室へのスライドドアを開け、またあたしを抱えて中へ。

 右腕だけで洗える所は洗い、後はホワイトにしてもらった。

 慣れているのか、自分で洗うより数倍は気持ち良かった。

 浴槽に入れてもらい、ぼ~っと体を洗うホワイトを見る。

 あたしに良いからだしてる、なんて言っていたけど、ホワイトの方が全然良い。

 無駄な脂肪なんて無いし、特にウエストは引き締まり、見事なくびれを生み出してる。

 足も細くて綺麗だし……女のあたしでもそう思うんだから、きっと彼氏の1人や2人はいるでしょうね。

 どうでも良いけど……。

「…………?」

 なんだろう、今胸を襲ったちくりとした感覚は?

「どうかした?」

「なんでもないわ」

 そ、と答えて、ホワイトはまた体を洗う。

 湯船に沈んでいる左腕と両足に力を入れてみても、やっぱり微かに動くことも無い。

 おまけに視界は今までの半分。

 ま、エンテイの煉獄でも、凍りついた神経まで溶かすことは出来ないわよね。下手したら、神経ごと焼かれて終わりだし。

 天井を眺めて数分後、ホワイトが向かいに浸かった。

 湯船が気持ちいいのか、ゆっくりと息を吐く彼女は、やっぱり女としての色香を十二分に持っていた。

「――貴女、これからどうするの?」

 プラズマ団は完全に消滅。

 キュレムも自由の身。

 今現在、このイッシュを脅かす様なことは何も起こっていない。

 トレーナーとして生きることは不可能で、旅をしようにも必ず誰かを道連れにしないといけない。

 仮に旅を始めたとしても、この状態でのバトルに慣れるまでどれだけ掛かるか分からない。

 結論。

「考え中」

 やっぱり彼女は、そ、と短く答えるだけだった。

 

 

 目を覚まして一週間後、あたしの家にはまだホワイトが滞在していて、今日は2人の客が来ていた。

 ライモンジムリーダー・カミツレとフキヨセジムリーダー・フウロの友達未満恋人以上とか言う、可笑しな関係の2人だ。

 2人共に、2年振りに帰ってきたホワイトに会いに来たらしい。

 実はホワイト、2年前にイッシュを救った英雄らしいのよね。キュレムと並ぶ伝説の竜・ゼクロムに選ばれた英雄みたいだ。

「あの子、今は空を飛び回ってるわ。雲の上を高速飛行してる。レックウザがオゾン層から降りてきたりしない限りは、バトル勃発なんてないから、心配しなくて良いわよ」

「そ」

 レックウザが何か知らないけど、とりあえず適当に答えておいた。

「ミヅキ、体は大丈夫なの?」

 フウロが聞いてくる。

「大丈夫なんじゃない? こうして生きてるんだし、右腕と左目は何とも無いから」

 小説の頁を捲りながら答え、少しはマシになってきたかなと思いながら読み進めていく。

 すると今度はカミツレが聞いてきた。

「日常生活は、問題ない?」

「あるに決まってるでしょ? ま、大抵のことはホワイトがしてくれてるからね。現時点では、問題ないけど」

 ホワイトが帰った後のことは、そう言えば考えて無かったわね。

 お母さんに負担を掛ける訳にはいかないし、今更あの子達に頼るのも身勝手が過ぎる。

 どうしようかしらね……?

「大丈夫よ。ミヅキが拒絶しない限り、あたしはここにいるから」

「それはどうも。あぁ、あたしのことは良いから、3人で買い物でもしてきたら? 2年振りに会ったのに、ただおしゃべりするだけなのも勿体無いでしょ?」

 ホワイトはやれやれと言った様に笑い、熟年夫婦は顔を見合わせた。

 その反応が何を意味しているのかなんて知らない。

 けど。

「行くなら、その前にトイレ連れてって」

「はいはい」

 

 その後3人は、ライモンシティに出掛けていった。

 

 静かになった室内には、時折紙の擦れる音が響くだけで、後は一切の音がない。

 小休止として窓から空を見上げると、もうすぐ秋に移り変わる空は、どこまでも澄み渡っていた。

「…………はぁ」

 溜息を1つ。

 この1週間で、来客は随分と沢山やってきた。

 ホワイトの幼馴染であるチェレンやベル、ブラックを始めとして、各ジムリーダーに四天王、新旧チャンピオン、サブウェイマスター、シンオウチャンピオン。

 一体どれだけの人脈があるんだか。

 慣れない人付き合いが連日続けば、溜息だって吐きたくなる。

 軽く伸びをして、また読書に戻る。

 お昼近くなった所で、お母さんがサンドウィッチを持ってきてくれた。

「ありがと」

 家に帰ってきてから、お母さんはこうして片手で食べられる物を作ってくれている。毎回見た目はあまり変わらないのに、味は細かな工夫がされていて全然飽きない。

 今日もそう。

 挟まれているのは玉子とシーチキン、ベーコンと言うオーソドックスな物なのに、具材に工夫がされていて一昨日食べたのとは違う味がする。

 食べ終わるまで待ってくれていたお母さんは、何かあったら呼んでね、と言って降りて行った。

 暫く本を読んでいると、満腹感から眠くなってきた。

 右腕でなんとか体を横にして目を閉じると、意識はゆっくり落ちていった。

 

 

 寝覚めは最悪だった。

 内容は覚えてないけど、今回ばかりはソレで良かった。

「……気持ち悪」

 寝汗でべったり張り付いたパジャマが、本当に気持ち悪い。

 外を見れば、陽はとっくに傾いている。

 そこで扉が開き、見るとホワイトだった。

 2人とはライモンで別れた様。

「ただいま」

「……おかえり」

 微笑と共に近付いてきたホワイトは、何も言ってないのにあたしを抱え上げた。

「ちょっと」

「お風呂でしょ? 寝汗、凄いことになってるじゃない。怖い夢でも見たの?」

「…………覚えてないわ」

 相変わらずの答えが返って来た後、ホワイトはあたしを連れて1階に降りた。

 お風呂に入れて貰って、ご飯を食べた後のこと。

 ライブキャスターが鳴った。

「博士? どうしたの?」

『ヤッホー、ミヅキちゃん。いきなりで悪いんだけど、明日研究所に来られないかしら? みんあ、ミヅキちゃんに会えなくて、元気がないのよ』

 まだ、あたしをトレーナーとして慕ってくれているのだろうか? あの子達は。もしトあたしがレーナーでいられなくなった時は、好きに生きて良いって言ってたのに。

 でも。

「……分かった」

 気付けば、口は勝手に動いていた。

 どうやらあたしも、あの子達に会いたいみたいだ。

『良かった。時間はいつでも良いから。それじゃ!』

 相変わらず無駄に元気な人だ。

 明けて翌日。

 玄関先でホワイトに背負われ、ゼクロム、クロームを待っていると、彼方から高速で何かが飛んできた。

 いや、間違いなくアレがクロームなんだろうけど……あんなスピードのまま突っ込んで来ないわよね?

「大丈夫よ。ボールに一度戻すから」

 納得。

 姿がハッきり確認できた所で、ホワイトは空へ向けてボールを構えた。スイッチから放たれた赤い光がクロームを包み、ボールの中に帰る。

 スイッチを押して、今度は白い光に包まれてクロームが姿を現した。

「お帰り、クローム。空の散歩はどうだった?」

「最高であった」

「そ。じゃ、早速だけど、博士の研究所まで運んでくれる?」

「承知。そなたがミヅキだな?」

 蒼い瞳に見つめられる。

「ええ。ごめんなさいね? あなた達のパートナーを縛り付けちゃって」

「構わん。他ならぬホワイトが望んでいることだ」

 それってどういうこと?

 聞こうとする前にホワイトは歩き出し、クロームの上に乗った。

「それじゃ、よろしく」

「ああ」

 飛び立ったクロームは、一度停止すると力を溜め始めた。

 尻尾を青い稲妻が包み、エンジンが駆動する様な音を響かせる。

 そして高速なんて表現では生温い速度で飛行を始めた。

 にも関わらず、乗っているあたし達はそよ風程度の風を感じるだけで、振り落とされそうになることも無かった。

 クロームが、周囲の気流を操っていたかららしい。器用な子だ。

 研究所に着くと、リィ、ジル、ヲゥ、ユウラ、ゾロアークが駆け寄ってきて、最後尾からロゥが歩いてきた。

「久し振り、みんな」

 ドレディアのリィ。ジバコイルのジル。ウォーグルのヲゥ。ランクルスのユウラ。ゾロアーク。ダイケンキのロゥ。

 やっぱり、みんな可愛い。

 抱き締められないのが惜しいわね……。

「ミヅキ」

「……なに? ロゥ」

 静かに名を呼ぶロゥに、あたしも静かに問いかける。

 リィ達は道を開け、目の前にロゥが来ると、ホワイトはあたしを彼の背中に座らせた。

「時間は適当に潰してるから」

 そう言って、ホワイトはクロームとまた空へ飛んだ。

 ゆっくりと方向転換し、研究所にある草原へ向かうロゥと、後ろから着いてくるみんな。

 草原に着くと、ロゥはゆっくり腰を下ろし、ゾロアークがあたしを降ろしてくれた。

 ロゥのおなかに背中を預けさせてくれる。

「ありがと、ゾロアーク」

 笑顔と共に気にするなと言った彼は、同じく腰を下ろした。

 みんなも続く。

 頬を撫でる風が気持ち良い。

「オレ達は、何が起こってもお前の手持ちだ。好きに生きろと言われたなら、言われた通りお前の側にいることを選ぶ」

 普段は全く喋らない彼がこんなに喋ったのは、今日が初めてだ。

「トレーナーとしてのお前が、オレ達は好きだった。だが、少女であるお前も、勿論好きだ。離れたい等とは思わない。だが、お前が拒絶するなら、その時は野生として生きていく」

「拒絶なんてする訳ないじゃない。でも良いの? 旅の時みたいなバトルなんて、数年は出来ないわよ? きっとボロ負けばかりする。あなた達を傷付けるだけで終わる」

「ならばその時が来るまで、オレ達は自己の判断で動く」

「そ。じゃ、頑張らないといけないわね……ふふ、きっと、勘は相当鈍ってるわね」

「だろうな」

 みんなで笑った。

 楽しいわね、やっぱり。この子達といるのは。

 

 ロゥと一緒に、遊び回るみんなを見守る。

 時々リィやゾロアークが転んだりすると、みんなで助け起こして、それから笑った。

 暫くそうてい過ごしていると、不意にロゥが聞いてきた。

「お前は、あの少女が好きなのか?」

「………………は?」

 たっぷり間を置いて出てきたのは、自分でも驚く程に頓狂な声だった。

「え、あの少女、って、え? ホワイト? え? なに、どういうこと?」

「そこまで動揺すると、もう認めているも同然だな。なに、追々自覚していけば良い。時間は、飽きるほどあるからな」

「え? え? あたしが、ホワイトを? ……え? いや、いやいやいや、ないわよ。ないないない、絶対ない。え? だって、女同士よ? そんな、感情が、湧く訳……あれ? え、うそ? え? やだやだやだ! 何で、動悸が激しく……あれ? あたし……? え? 違うわよね? そんなこと、ある訳、ないわよね……!?」

 暑くもないのに、体が熱くなってきた。

 お風呂でみたホワイトの裸体や、夜寝てる時の顔なんかが鮮明に思い出されて、頭から離れなくなる。それに伴って、動悸も更に激しさを増していく。

 ちょっと待ってよ。これじゃ、あたしがホントに、ホワイトのこと、好きみたいじゃない……! 

「――ミヅキー」

「っ!!?」

 名前を呼ばれて反射的に顔を上げると、クロームの背から手を振っているホワイトがいた。

 その姿を見て、これ以上激しくならないと思っていた動悸が、また強く激しくなる。

「よっと……ありがと、クローム。夕方頃になったら、またお願いね?」

「ああ」

 三度空の散歩へと向かうクロームを見送り、ホワイトはこっちに近付いてくる。

 唯でさえ自由に動けないのに、背中をロゥに預けている今の状態じゃ、とても離れることなんて出来ず、ホワイトはあっさりとあたしの目の前まで来てしまった。

 そして今度は、笑いながら小さくひらひらと手を振ってくる。

「ぁ……ゃ」

「ん? 顔赤いね? 熱でもある?」

「ひうっ!?」

 頬を掴まれ、額と額が重なる。

 変な声が出てしまったことを恥ずかしく思いながら目を開けると、ほんの数cm先にいるホワイトとバッチリ目が合った。

「っ……だ、だいじょ、ぶ、だから。だから、離れて……何とも、ない、から」

 お願いだから、そんな綺麗な瞳を、あたしに向けないで。吸い込まれるから。

「…………離れて欲しい?」

 何度も頷く。

 それでも、ホワイトが離れる気配は無い。

「ほんとうに?」

「ぇ……? きゃっ!」

 胸に手が添えられる。

 止めて、息が出来ない。苦しいの。早く、早く離れて……――――いや、ダメ。離れないで。近くにいて。え? 何で、こんなこと……あたし。あれ? 分からない。

「ねぇ、ほんとうに、離れて欲しい?」

「そんなの……あたり、きゃっ!?」

 いきなり背中の支えが無くなって、ホワイトに押し倒される形で草原に倒れた。

 ロゥが何か言っていた気がしたけど、全然頭に入ってこなかった。

「分かるでしょ? 貴女の心臓、凄くどきどきしてる」

「ぁ……だめ、そんなに、押し付けないで……」

 胸に触れられている手に力が込められ、胸部を圧迫する。

「はぁ、はぁ……」

「苦しい? 止めて欲しい? 離れて欲しい?」

 苦しい。止めて欲しい。離れて欲しい。

 確かにそう思っているのに、

「いや。止めないで。離れないで」

 口から出たのは、真逆の言葉だった。

「そ。じゃあ、止めてあげない。離れてあげない」

 次の瞬間起こったことは、理解するまで永遠とも思える時間を要した。

「ん……ふぅ」

「ふ、んぅ」

 目を見開くあたしの視界に映っているのは、零距離にあるホワイトの顔と、澄み渡った空。

 体の力が、まるで何かに吸収されている様に抜けていく。

 何も考えられなくなる。

 分かるのは、ホワイトとキスをしていることだけ。

 長い永い口付けはやがて終わり、ホワイトの顔が離れていく。

 呼吸が落ち着かない。

 視界がぱちぱちする。

「くす」

 これまでとは違う種類の笑顔を浮かべるホワイトを見て、また何かされるのかと言う考えが過ぎる。

「っ」

 キュ、と股が締め付けられる様な感覚を覚えた。

 耳元で、ホワイトが囁く。

「期待してるの?」

 先とは比べ物にならない感覚に、その途端襲われた。

「いや……こわい、こわいよ、ホワイト」

 震えているのが、はっきり分かる。

 未知の感覚に、言いようの無い恐怖が湧いてくる。自分の体が自分の物じゃない様な、よく分からないけど、ただ怖い。

「貴女には、まだ早いか。だいじょうぶ。近い内に、分かる時が来るから。ね? だから、泣かなくて良いのよ」

「うん、ありが、と」

 あたしを抱き起こしたホワイトは、そのまま優しく抱き締めてくれた。

 段々、心が落ち着いてくる。

「ごめん。疲れたでしょ? 今は、ゆっくり休みなさい」

「……うん」

 

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