①
9月14日
「よし」
今日もいつもの調子で美琴は目が覚める。
いつもの制服に身を包み、靴下を履く。
そういつも通り。
いつも通りの格好で美琴は自分らのアジトに向かうのであった。
「はぁ……しかし本当何も変わらないわね」
「まあ何もない日なんてそんなもんだ」
アジトの1つに二人の少女、美琴と黒夜である。
何をしているかと言われれば何もしていない。
ただ二人はぐうたらと、美琴は椅子に黒夜は備え付けのベッドにくつろいでいるだけである。
あくまで今のところではあるが今日は上からの命令がないらしく、黒夜もオフモードである。
自分らが持ち込んできた菓子を食べていた。
「他の人は?」
「さあな。いつも通りなら布束は研究室、ヤスはどっか遊びに行ってるだろ」
他のメンバーも各々でオフという日を有意義に使っているのだろう。
「……黒夜はやることないの?」
「なんだ? その言葉そのまま返して欲しいのか?」
「ぐっ……」
「冗談だよ。私は仕事が生き甲斐だからとくにやることないな。こういう日は菓子食ってるだけだ」
たわいもない言葉の掛け合い。
黒夜も美琴もそれぞれ用事があるのかと言えばとくにないようである。
黒夜はただ単純に仕事が生き甲斐で、美琴も現状やることがないだけだろう。
「漫画の立ち読みしようにも今日発売日じゃないしなぁ……。そもそも知り合いに会いたくないし……」
「本当にやることないんだな。私が言うのもなんだが」
「まあね」
呟きに黒夜はツッコミをいれられているが、美琴は気にしない。
ルームシェアしていた後輩にはこれ以上に小言を言われていたのだがらこらくらい何とも思わない。
「then、私の手伝いをしてくれないか?」
「わぁっ、びっくりした!? 今日は篭ってな……いんですね」
唐突に美琴の後ろから声をかけられた。
布束砥信である。
彼女は普段何もない日は貸してもらっている自室という名の研究室に籠っているのだが、今日どうやら出てきたようだ。
逆に言うと何か用事があるのだろう。
「ええ、ちょっと気になることを耳に挟んでね」
「気になること?」
「ええ……」
ちらりと砥信は黒夜に目配せをする。
ポテトのスナック菓子を食べていた黒夜もそれに即座に気づく。
彼女は咀嚼しつつ手を振り立ち上がりながら言った。
「へいへい、邪魔者はさっさと消えますよ。別に仕事でもないだろうしな」
意外と言うべきか、黒夜は素直に部屋を後にした。
彼女の性格であれば少しは興味あるかと思ったが、そうでもないのであろうか。
それとも隠し事などこの世界だとよくあることなのだろうか。
美琴にはわからないことで、深く考えても仕方ないと今は前に移動した布束と向き合う。
「で、結局なんのですか。わざわざ黒夜まで退出させて」
「……」
美琴はようやく準備が整ったとばかりに本題を聞いてきた。
黒夜に聞かれたくないことから二人の共通のこと、それに準ずる秘密事であることはわかる。
だが肝心の布束と言えば言葉数が先ほどから少ない。
どちらかというと多くのことをあまり話さないタイプである彼女だが、今は前にことさらに少ない。
とりあえず美琴は自ら再度切り出す。
「さっきからあまり話さないですけど、よほどのことなんですか?」
少し考える素振りを見せるが、ようやく口を開いた。
「『
レムナント、意味はわかる。
英語で遺物、残骸など。
だがそれがいったいなんだというのだろうか。
何の残骸かもわからないし、布束の意図も読めない。
「残骸? いったい何の残骸だっていうのよ」
遠回りな言い方に少し口調が強くなる。
時間はあるがこんなことに時を消費したくはない。
「――『樹形図の設計者』」
「えっ?」
たまたま聞こえなかったとかではない。
美琴は布束が言った言葉をしかと聞いていた。
だがそれは聞き直さずにはいられなかった。
学園都市の人間なら聞いたことは有名なコンピューターの名だからだ。
「そうよ。あなたの思っている通りあの衛星に浮かぶ学園都市が誇る世界最高のコンピューターよ」
「なんで……? あれは原因不明によって壊されたんじゃ……」
彼女たちにとってもただの最高峰のコンピューターで終わるなら動揺することはない。
他の一般人のように知識としてのみ記憶に残るだけだ。
とくに考えもせずに一時の情報として流していたであろう。
しかしながら彼女たちにとってはそれだけのことではない。
忌み嫌う、ある種のトラウマのような、今となっては過去の産物となっていた実験が関わっていたものである。
「of course、その通りよ。でも言ったわよね。『残骸』って」
「まさか残骸だけで復元するっていうの!?」
「可能性があるわ。可能性がね」
それは樹形図の設計者の復元というものはその実験の復元の示唆をしていた。
あくまで可能性であるのだが美琴にとって内心穏やかではいられない。
可能性とはつまり少なくとも現実となる見込みがあるということだ。
何しろ学園都市の世界最高のコンピューターだ。
莫大な費用や時間がかかろうとも復元する価値は多いにある。
「そんなのっ! させない」
「ええ、そうね。その通りだわ。だから私もあなたにこれを話したのよ」
美琴も布束もすでに決意は固まった。
二人のミッションは復元の阻止だ。
これは最低でも暗部組織から奪い壊すなりして復元を阻止しなければならない。
暗部の身でありながら、暗部の妨害をする。
暗部のグループ間の対立はそれなりにあるという話だが、この行為は確実に暗部全体から狙われかねない。
今もどこからか私たちの話を聞いていることだろう一応上司にあたる人物が警告してくるかもしれない。
だが二人は止まるわけにはいかないのである。
「それは今どこにあるの?」
「さっき調べたところでは高速道路でも移動しているみたい」
「そう。じゃあすぐに割り出して……」
動くなら早くがいい。
比較的中心部から離れている第23学区からの移動中ではあるが、時間が経つにつれ強襲する機会はそれだけ減るのだ。
ましてや市街地に入ると人の目や被害も出てくるかもしれない。
そう考えると最新の情報が欲しいが、PCからハッキングすればすぐにでも割り出せるだろう。
『私が新しい情報をお教えしましょうか?』
「……っ!」
それは彼女らを阻害するのに充分な声であった。
どこから聞こえてるかはわかる。
電話を取った覚えないというのにスカートのポケットの携帯から比較的透き通った声で聞こえてきたのである。
やはりいつもの奴だ。
綺麗で丁寧な口調で話す彼であるが、やはり維持が悪い。
全部が全部話を聞き、さらに決意を固めたところで揺さぶりをかけようというのだ。
ただどういうことか、彼は情報提供をしようとする。
「邪魔するのではないのか?」と疑問に思いつつも、ポケットから携帯を取り出しとりあえず机に置く。
こちらの決意が揺るぐことはないがここで変に無視しして妨害工作でもされるなら、情報をもらってから行動した方が結果的に早くなるだろう。
「情報提供しようっていうの? 押さえに来たんじゃないの?」
『まあ最初はそう思っていたんですがね。状況が変わりましたので』
二人は罠かと思ってたが、声色からどうやら違うようだと少しだけ緊張を解す。
もちろんまだ解決していないがあまり気張りすぎると重要な話を聞き逃すことがるのである程度のリラックスだ。
「状況? 誰かに盗られでもしたの?」
『よくわかりましたね。恥ずかしながら外部の科学組織奪われてしまいましてね』
「それで私たちにそれを再び奪取して欲しいってことね」
「なるほど」
『奪われるくらいなら壊してもらっても構いません。外部に機密をもらすわけにもいきませんのでね』
理由はわかった。
向こうも血気になる理由は学園都市に暮らしていれば自然とわかることだ。
外部組織も危険を冒してまで学園都市に来たのだからそれほど魅力的なのだ、学園都市の技術というものは。
奪うていで壊すというのなら問題ないとのことなのでこちらとしては断然動きやすくなるので提案としてはわるくない。
(まあここで下手に断って他の暗部連中にやられるよりはいいわね……)
布束も同じことを思ったのだろう。
美琴の方を見て無言でうなずいて同意とした。
「わかったわ。その依頼受けるわ」
『ありがとうございます。では早速現在犯人がいるという場所を携帯に送ります。では』
そういうと彼の声は切れ、代わりに布束・美琴二人の携帯に着信音が鳴る。
地図でも送信された音だろう。
仕事が早くて助かる。
「じゃあ私行くわ。なんか情報あったら連絡して」
「わかったわ」
ようやく動ける。
布束から事情を聞いてから少々時間はかかったが、暗部の認可を受けたため憂いはなくなった。
これで多少は動きやすくはなった。
美琴は出ていく前に布束にバックアップをお願いする。
「……ところで途中から敬語忘れてない?」
「あっ」
美琴は思い出した。
そういえばとすっかり失念していた。
途中から事件の内容に集中していたため、そんなことなど覚えてなどいなかった。
「ごめ――」
「もう今度から敬語使わなくていいわ」
「えっ?」
布束は確かに言った。
敬語は使わなくていいと。
謝ろうとしていた美琴はきょとんとした顔で静止している。
てっきり怒られるものかと思っており、殴られる覚悟で構えていたのだが彼女は逆のことを言ってきた。
「不思議そうな顔をしてるから言うけど、単純なことよ。歳は違うけど立場は同じだし、いちいち訂正するのもめんどくさい」
ああ、と美琴は納得する。
仲間となった今そういう言葉遣いも可笑しな話ではあったし、それを訂正する時間もおしいのだ。
彼女の言い分はもっともである。
それに「ただし」と布束は付け加えて言った。
「敬語は使わない代わりにしっかりと依頼をこなしてきなさい。 私のバックアップもあるんだから失敗は許さないわ」
「ええ、もちろんよ」
わかっている。
今回の事件失敗することは自分も布束も、そしてあの子達も許さない。
アジトの扉を開け堂々とした面持ちで出るのであった。
どうもルシフェルです
ということで7話目
ようやく本編…いやまだ実際は本編じゃないですけど今回から8巻の内容に入っていきたいと思います
美琴以外の残骸を狙ってる人たちとうまく絡ませられたらいいなぁw
ある程度はまとまってるけど、もうちょっと練りたいところ
次の更新ですが就活あるんで本格的に開始される3月までにはあげたいなぁ
では感想・評価・誤字・疑問等お願いします