アナタは誰よりも美しい   作:ちっちっち〜

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6話

 あれから帰国した僕は記者会見を開き、スターク・インダストリーズが軍需産業から手を引くことを宣言した。

 報道陣が沸きに沸き、各メディアは我が社の株価が下落するなどと嘯く始末。

 オビー*1には悪いことをした。僕の両親が亡くなってから、CEOとなった今の今までずっと支えてくれたのに、経営が傾くかもしれない記者会見をしてしまったのだから。

 だが僕の決意は固い。使命感は一種の自己暗示のようでもある。

 僕の会社が作った兵器が、国を守るどころか世界に混乱を齎していた現実を、どうにかして打開したかった。

 一刻も早く。一秒でも早く。急いてしまったのは否めない。しかしその一分一秒でより多くの命を救えるのなら、株価が下落しようがさしたる問題ではないように思えた。

 まあこれが近いうちに確執を生むんだが……今はよそう。そもそも引き金を引いたのは僕じゃない、()()()からだ。

 

「J.A.R.V.I.S.どうだ? プリンスちゃんの様子は」

 

『チーズバーガーの配達は完了しました。ポテトとナゲットは調理中です。揚がり次第配送の手配をさせていただきます』

 

「────ちょっと待て。僕が注文したのはチーズバーガーだけのはずだが?」

 

『モッツァレラとチェダーのダブルチーズバーガーです、トニー様』

 

「ああ、もうそんな時期だったか……じゃなくてだな」

 

『申し訳ございません、差し出がましい真似をしました。この度の差し入れは、トニー様からマルグリット様への心遣いと邪推し、彼女からのリクエストを承った次第です。貴方はとても義理堅くセクシーな御方ですから』

 

「よく分かってるじゃないかJ.A.R.V.I.S.。全く持ってその通りだ。オマケにシェイクもつけてやれ」

 

『かしこまりました』

 

 どうやらスマホは没収されていないらしい。

 J.A.R.V.I.S.と直接やりとりしているということは、ローディは丁重に扱ってくれていたのだろう。

 

(魔術(ミスティック・アーツ)か……クソッ!)

 

 思い出すだけで頭が痛くなる。

 ただでさえ代理戦争やら宗教紛争やらで世界に安寧は訪れていないというのに、その影で魔術などという非科学的な事象が確かに存在していた。

 マリィが見せてくれたゲートだけだと楽観的な考えでいられるはずがない。三流脚本家が考えたようなトンデモ魔術が存在していたら、既存の兵器や核なんて、目の前に差し出された棍棒となんら変わらないだろうに。

 力だ、力が必要だ。軍需産業から撤退すると宣言したのに、事を成すには今まで以上の途方もない力が必要になる。

 現実なんてクソくらえ、どうしようもないクソゲーだ。

 

「J.A.R.V.I.S.」

 

『いかがなさいましたか』

 

「今日()長丁場になる。しっかりカフェインを摂取しておけよ」

 

 それでも僕の決意は揺るがなかった。

 思い描くのは、現行の兵器をはるかに凌駕するパワードスーツ。

 贖罪に妥協は許されない。無力に打ちひしがれている暇もない。

 脳裏にこびり付いたインセン教授の言葉が、僕にとっての呪いではないと証明する為にも、僕は前に進み続けなければならなかった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 軟禁されて何日経ったんだろう。実は一週間も経ってないけどね、感傷に浸るくらいは許してほしい。

 拷問を受けたとか、そんなこともなく。

 私はホテルの一室に押し込められ、敷地から出ないようにとローディおよび社長に釘を刺されていた。

 社長の証言でテロリストとの関係は一時的に晴れたけど……()()()()()()()かぁ、ちょっと胡散臭いような。

 拉致被害者本人から証言されても、身元不明に加えて肩出しドレスで紛争地帯の砂漠に繰り出し、持ち物はスマホだけという不自然さを見過ごしてもらえるわけもなかった。

 逃げ出そうと思えば逃げ出せる。レリックは私の宇宙にあるし、身体スペックのゴリ押しで物理的に監視網を突破することだって難しくなさそう。

 でもそれは、社長やローディの面目を潰すことに等しい。なにより、衣食住が保証されてる今の生活に満足してるくらいだった。

 無職っていいよね。取調室に向かう途中、忙しそうに行き交う軍人さんたちの姿を見ながら、まだ温かいチーズバーガーを頬張るのは優越感がある。

 

「そろそろ話してくれてもいいんじゃないのか?」

 

「ローディ! ポテナゲ届いてたんだ」

 

 しかもシェイクまで。

 J.A.R.V.I.S.は本当に賢い子だ。*2

 

「まさかこれ全部食べる気か? 軽く三人前あるぞ」

 

「いいのいいの。どうせ社長のポケットマネーだもん」

 

 まさかローディ自身が持ってきてくれるなんて、軍は接待も完璧みたい。

 ローディは顔を引きつらせながら袋をテーブルの上に置いた。

 うーん香ばしい。ジャンクフードって魔性の魅力を秘めてるよね。いっそのこと私の宇宙にも支店を開いてくれないかな。

 

「金額の問題じゃなくてだな……食べ残し厳禁だぞ?」

 

ふぁいふぉうふ(だいじょうぶ)ふぁいふぉうふ(だいじょうぶ)

 

「……で、君はいったい何者なんだ? 話してくれなきゃずっとこのままだ。親御さんだって心配してるんじゃないのか」

 

「このままでいいよ。家出中だから丁度いいもん」

 

「それはそれで管轄がウチじゃなくなるけどな。もちろんこのホテルからもサヨナラバイバイだ」

 

「え~それはちょっと困るかも……」

 

 肩を竦めるローディ。実際、軟禁場所としてホテルを丸々使えるのは社長の伝手というのが大きいから、面倒を見てくれるローディとの縁が切れたら居続けるのは難しいかもしれない。

 

「何も取って食おうってわけじゃないんだ。こんな風に」

 

「あー!? 最後のナゲットなのに!」

 

「君が何も言ってくれないから上に急かされてるんだ。これくらい大目に見て欲しいね。でなきゃスマホは没収だ」

 

「むぅ……」

 

 そう言われると悪い気がしてくる。ズルイ。

 迷惑をかけている自覚はあった。

 けど私の戸籍なんて存在しないだろうし、社長も魔術について口外しなかったから、そのさりげない義理堅さを何とかうまく活用できないかともどかしくなる。

 社長くらい口達者ならと思わずにはいられない。マリィちゃんは清廉なのだ。

 うんうん唸りながら葛藤が頭の中を駆け巡る。

 果たして最適解はなんだろう。こういう時の対処法くらい教えてほしかったな、お師匠様。

 そんな文句が独り言で飛び出ようとした時のこと。

 唐突にドアが開くと見知らぬ男が入室してきた。

 

「失礼、ローズ中佐」

 

「誰だアンタは。見ての通り取り込み中なんだが」

 

「移送命令だ。そちらの少女の身柄を預からせていただきたい」

 

 穏やかで抑揚の少ない声音が特徴的な男だった。

 だけど静謐な瞳には有無を言わさぬ強い意思を感じる。

 

「命令だと? 一体誰がそんなことを」

 

「君の『上』とは話がついた。今すぐにでも確認するといい」

 

 おっと、この状況には既視感がある。

 私の進退に関して、私の意思に関わらず事態が進行していく。まさしくアフガンでトニーとローディにハブられた時と全く同じ展開だ。

 頑張ってローディ! 私の理想郷は貴方にかかってる! おっ、さっそく上司に取り次いで確認を────って諦めるの早すぎ!?

 

「……確認した。だが一つ聞きたい、この子をどうするつもりだ?」

 

()()。私は移送を任されただけだ。それ以上のことは知らない。知る必要もない」

 

「それも機密か? 戦略国土調停補強配備局とやらは少女一人に随分と臆病らしいな」

 

「お見事。我々の仲間ですらその名を一回で覚えた者は殆どいないのだがね」

 

「ふざけてるのか?」

 

 おおっと、一気に険悪ムードだ。

 義憤に駆られるローディはちょっとカッコいい。

 対して、戦略国土……なんたらかんたらの人は、涼しげにローディの威圧を受け流していた。

 軍人であるローディとこうして対面できるのは、この人も紛れもなく一流である証左だ。

 どうして私の周りはこう、一癖も二癖もありそうな人たちが集まるんだろう。私なんて生きるだけで精一杯なのに……お師匠様なら因果だとか何とか小難しいことを言うのかな。

 

(さて、どうしよっかな)

 

 移送命令とやらに悪意は感じなかった。ローディは相変わらず剣呑な眼差しで睨んでるけどね。

 けれど衣食住が保証されるからって、素直に受け入れられるかと言われたらそうでもない。

 私自身、形容しがたい感情に困惑している。第三者の介入で社長との縁が切れることに、言いようのない不安を覚えていた。

 でも今回ばかりはローディの分が悪そう。立場のある人間に、無職の勘当娘がいつまでも甘えるわけにはいかないのなら、きっと今日が旅立ちの時かもしれない。

 

「いや素直な称賛だよ。私も長ったらしい名前だとは思っていたんだ」

 

「何が称賛だ。第一、そんな胡散臭い組織にどんな大義名分が────」

 

「ローディ」

 

 言葉を遮る。既にレリックは現界し終えた。

 二人の言い争いが止み、両者とも瞬きをして唖然とする姿には、内心でニヤニヤしてしまう。

 いつものドレス姿に早着替えという名の()()()をしたから、彼らには魔法のようにしか見えなかったはず。私は魔術なんてこれっぽっちも使えないんだけどね……ゲート以外は。

 

「ポテナゲ持ってきてくれてありがとう。社長にもデリバリーに転身したって伝えておくね」

 

 別れるのが辛いなら、いっそのこと自分から出ていけばいい。一種の自己防衛でもあった。

 私のことで忙しそうに奔走していたローディには頭が上がらない。また出会ったらミルクを奢ってあげようかな。もちろん社長マネーで。

 

「……おいおい、移送命令ってこれか?」

 

「っ!? 待つんだ、君のその力は────!」

 

 背後に展開したゲートへと、私は背中から倒れるように飛び込んだ。名前を知らない男の人が焦って駆け寄るけど、当然間に合うはずもない。

 スリング・リングもタラリアも準備万端。驚いた表情のまま見送ってくれるローディの顔が、ゲートが閉ざされることで完全に隠れるのと同時に、今世紀最大のレリックであるスマホへと着信が届いた。ジョ〇ズは偉大。

 

「はいはーい()()()()……非通知? ってことは」

 

『お忙しい中申し訳ありません、マルグリット様』

 

「むしろナイスタイミングだよJ.A.R.V.I.S.。ちょうど今、スカイダイビングを楽しんでるの」

 

 家出の二次会ってことでニューヨークの上空に来たのも束の間、さっそく私へと運命の女神さまは微笑んでくれたみたい。

 軟禁されてからお世話になりっぱなしなのがこのJ.A.R.V.I.S.だった。

 そんな彼が私に一体どんな用だろう。いつもは私が発信する側だから不思議に思う。

 

『それは良かった。でしたら今夜、ぜひトニー様とスカイダイビングは如何でしょう?』

 

「社長と?」

 

『はい。どうかトニー様をお願いします』

 

 それっきり、J.A.R.V.I.S.は通話を打ち切ってしまう。

 礼儀正しい彼にしては、ちょっと焦っているようだった。いやAIなのは分かってるけども。

 そして何の変哲もない通知音とともに、一通のメールが送られてくる。

 親愛なるマルグリット殿。つまり私宛だ。文面にはちょっと見覚えのない住所と、これからマリブ*3で起こりうるであろう大惨事が、J.A.R.V.I.S.らしく丁寧な文体で赤裸々に綴られていた。

*1
叔父にして副社長

*2
トニーの指示である

*3
あの男の邸宅がある場所

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