我が瞳、映すは勝利のみ【完結】   作:ぼっちクリフ

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第二章 皇帝のトレーナー

パドックが終わり控室へ戻って来たルドルフは、自分の姿が載った雑誌を軽く眺めていた。

 

『皇帝、天皇賞(秋)にて復活!』

『前人未到の六冠は目前、勢いのまま秋古バ三冠完全制覇か!?』

『我々はこの秋、歴史の目撃者となる!』

 

どの雑誌もルドルフの勝利を疑わず、センセーショナルな煽りで六冠確実と報じている。さらには秋古バ三冠、そして海外遠征の話にまで言及する雑誌まであった。

共通するのは、「もはやルドルフに勝てるウマ娘は居ない」という論調であった。春の天皇賞でミスターシービーに三度目の勝利を果たし、ジャパンカップで敗北したカツラギエースには有マ記念できっちり借りを返した。そしてその二人はともに引退。もはや、ルドルフに勝てるウマ娘は現役世代には居ないというのが共通認識となっていたのだ。

 

「失礼するわね、ルドルフ」

「やぁ、トレーナー君」

 

入って来たルドルフのトレーナーは、落ち着いたルドルフの姿に安堵する。半年ぶりの出走で、しかも天皇賞ぶっつけ本番。大外枠という事もあり、流石の皇帝も焦っているのではないかと心配になっていたのだ。

 

「落ち着いているようで何よりだわ。6つ目の勲章も確実ね」

「……むしろ、君の方が興奮しているのでは?」

 

苦笑しながらルドルフは雑誌の1ページを指さした。そこには、ルドルフのトレーナーのインタビューが載っていた。半年ぶりのレースで大外ですが、流石の皇帝でも厳しいのではないですかという質問に対し、トレーナーはこう返していた。

 

「半年ぶりな事も枠順も、ルドルフには関係ありません。レースに絶対がある事を証明しましょう」

 

自信満々で言い切る姿に、雑誌は天皇賞春秋連覇は確実、真の目標は凱旋門賞かと煽るように書きたてた。

 

トレーナーは少し赤くなって、でも本当の事でしょう、と呟く。ルドルフはその言葉には頷かず、考え込むように俯いてしまった。

 

「……何か心配事でも?」

「私もレースに出る以上は全力を尽くすさ、何も心配はない。ただ……最近の風潮については、少し心配な事があるんだ」

 

それは、あまりにもルドルフが強すぎる事に端を発していた。

 

『最近のレースには面白さが無い。強いウマ娘が普通のレースをして普通に勝つ。見ていて興奮も感動も無い』

 

一部ではそんな評価が出るくらい、人々はルドルフのレースに『飽きていた』。

ルドルフのレースは安定感があり、見ていても「あぁ、これは勝つな」と思わせるような堅実なものだ。それが前年の三冠ウマ娘ミスターシービーとの違いであり、追い込みタイプのシービーが「これは追いつくのか!?」という不安と、そこから先行勢を一気に抜き去る興奮を観客に与えていたのとは真逆のレースだ。

 

「でも、それはあなたの脚質だから仕方ないわ。言いたい連中には言わせておけば……」

「そうはいかない。人々のレースへの失望は、ウマ娘全体の未来へ悪影響を及ぼす。それは避けなければ」

 

ルドルフは静かに言う。

 

「むしろこのレースの悪条件はチャンスなんだ。私はこのレースで強い勝ち方をして――人々に、レースの興奮を、感動を、思い出してもらう」

 

トレーナーはルドルフの言葉に感動した。そして同時に、ほんの少しだけ不安を覚えた。皇帝の言葉はウマ娘全体の未来を考えた素晴らしいものだ。しかし……

 

(それは、走ってもいないレースを自分の思い通りに出来るという傲慢じゃ……)

 

けれども口には出さなかった。そんな傲慢が許されるウマ娘が、シンボリルドルフなのだから。

 

 

控室から出た皇帝は、地下バ道を通りコースへと向かう。その途中、何かを感じたルドルフはふと振り返った。見るとそこには、黄色と黒の共用勝負服(URAから貸し出される共用の勝負服。口さがない人々は「モブ服」と呼ぶ)を着た1人のウマ娘が俯いていた。ルドルフはそのウマ娘の名前を知らず、話した事も無かった。気のせいだと思い、コースへ出る。そこでルドルフは、大観衆からの歓呼の声を浴びた。皇帝への声援は、今日も勝ってくれという期待の表れだった。にこやかに手を振り返す皇帝に、観衆はさらなる歓呼を浴びせる。

 

――後にシンボリルドルフは、この時の事をこう回顧する。

 

「あの時私は何かを感じ振り返ったが、気のせいだと思いコースへ出て大観衆に手を振っていた。無知蒙昧、私は大観衆へのパフォーマンスなどよりも、己の『敵』をこそ見ておくべきだったのだ!」

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