我が瞳、映すは勝利のみ【完結】   作:ぼっちクリフ

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第七章 我が瞳、映すは勝利のみ

スタート直後から波乱の展開だったが、ギャロップダイナは無理に合わせようとはしなかった。

ギャロップダイナの脚質は追い込みで、道中は後方待機が定石。しかも、今の彼女の頭には別の問題が渦巻いていた。

 

(……アタシは、何で勝ちたいんだろう?)

 

シャダイソフィアもシリウスシンボリも、自分に勝利を目指せという。

その願いを背負って、今走っている。

 

(勘弁してくれよ、そういうのはもっと強いヤツの役目だろ)

 

そう、例えば――皇帝シンボリルドルフ。

スタート直後にギャロップダイナを抜き去り、ぐんぐんと上がって行ったルドルフは、向こう正面で既に先頭に取り付こうとしていた。

 

(もう先頭かよ。やっぱ強いわ、あれは勝つわ)

 

生まれもった才能の差か、積み重ねて来た研鑽の差か。

勝つべく生まれたような存在であるルドルフへの挑戦。そういうのは、ひたむきに勝利を目指す意思を持ったソフィアや、あるいはルドルフと対峙する理由と実力を兼ね備えたシリウスのような奴の役目だろうに。何で今、モブウマ娘でしかない自分が皇帝と走っているのか。

 

(三女神さまも残酷だよな。ほら、もうコーナーを曲がって余裕、で……)

 

その時だった。

 

第3コーナーを曲がるルドルフの顔が、少しだけ見えた。

 

歯を食いしばり、汗を流し、必死の形相で前へと進んでいる姿が。

 

余裕など何処にもない、ただ勝利のみを目指しがむしゃらに進む、おおよそ皇帝とは言い難いその顔を見て。

 

 

ギャロップダイナは、ようやく理解した。

 

 

(……はは、そうだよな)

 

 

何で勝ちたいのか、そんなの決まっていた。

ウマ娘だからだ。私達は、走る為に、勝つ為に生まれて来たんだ。

皇帝もモブウマ娘も関係ない。この足が動く限り走って、勝利する。

 

それだけの、本当にそれだけの事だったんだ。

 

いつの間にか最終コーナーを回っていた。皇帝は既に正面の坂を上り始め、他のウマ娘は皇帝を追い始めている。

 

そういえば、トレーナーがいつも言ってたっけ。

 

「お前はいつも最終コーナーあたりから焦って仕掛け始めるからな。最後の直線までぐっと我慢して、そっから飛び出してみろ」

 

おあつらえ向きに、後は直線だけ。ここまでしっかり貯めた足は残っている。

 

(二人とも、行くぜ。アタシの末脚が何処まで届くか……見ててくれよ!)

 

もう、皇帝も、他のウマ娘も関係なかった。

ただ、ゴールへ、勝利へ向かって。ギャロップダイナは全力で走り始める。

 

 

『残り200m、先頭はシンボリルドルフ! ウィンザーノットは苦しいか、外からはニホンピロウイナーも迫るが先頭は……そ、外からギャロップダイナ!』

 

もう実況の声も届かない。

ギャロップダイナはひたすら走り続ける。ゴールへと向かって。

途中で何人ものウマ娘を抜いた気がするが、それに気付く事もない。

 

 

『先頭はシンボリルドルフ! 外からはギャロップ! ギャロップダイナ! 外からギャロップダイナ、あっと驚くギャロップダイナァァァァ!!!』

 

 

ゴール板を駆け抜ける瞬間、左手に一瞬だけ、緑色でジャラジャラした勝負服が見えた気がした。

 

(はは、まさかぁ……)

 

 

前傾姿勢でゴール板を駆け抜けた瞬間、ギャロップダイナの緊張の糸が解ける。

全ての力を最後の直線で使い切り、ターフへと倒れ込み肩で息をする。もう歩く力すら残っていなかった。

 

『あっと驚くギャロップダイナ! あっと驚くギャロップダイナです!!! 打倒皇帝、ギャロップダイナ大仕事をやってのけましたぁぁぁ!!!』

 

興奮し絶叫する実況の言葉も、観衆の悲鳴と大歓声も、ギャロップダイナには聞こえていなかった。

 

ただ、掲示板を見て立ち尽くし、わずかに唇を噛む緑色の勝負服を着たウマ娘の姿が、一瞬見えた気がした。

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