「輪転機止めろ、一面の記事差し替えだ! そうだ、皇帝が負けた! 皇帝が負けたんだよ!」
「ギャロップダイナって、誰だよそのウマ娘!? すぐに情報かき集めろ!」
「チーム・アンタレスのトレーナーにインタビューを……はぁ、何で担当の天皇賞見にきてないんだよ! 京都支社の連中に連絡して探せ!!!」
ギャロップダイナがゴールした直後、呆然としていた記者たちは弾けるように立ち上がり本社に連絡を始めた。一面の記事は全て差し替え(みんな皇帝が勝つと思って予備の記事すらほとんど用意していなかった)となり、シャダイソフィアが運ばれた京都の病院に記者が押し掛ける騒ぎにまでなった。
「それで、ウイニングライブがこれ?」
「NEXT FRONTIERなんて、天皇賞か有マ記念勝たないと歌わないだろ。アイツ、全然練習してなかったらしいぜ」
ベッドに横たわるソフィアの言葉に、シリウスシンボリはおかしそうに笑いながら言った。ソフィアの持つ新聞の一面には、へっぴり腰で歌詞のカンペを見ながら歌うギャロップダイナの写真が堂々と飾られていた。ウマ娘としては、一生の恥ではないだろうか?
その横では、笑顔でギャロップダイナのサポートをしながら歌って踊る皇帝の姿が載っている。「負けてなお堂々たる姿」と、各メディアは絶賛していた。ただ、とある雑誌はこうも掲載していた。
『レースが終わりウイニングライブが始まるまでの間、皇帝シンボリルドルフは控室に篭って人々の前に姿を現さなかった。ライブ直前、ルドルフの顔を一瞬だけ見たが、その瞳は赤く腫れていた』
「アイツも可哀そうにな、見ろよ、まるで芸能人だぜ」
シリウスの言う通り、ギャロップダイナとトレーナーは翌日からニュースやワイドショーに連日出演していた。なにせ、皇帝を倒すという大金星を挙げたのだ。それも無名のモブウマ娘が。これほど話題になる事も無い。
『あの皇帝を倒して、今のお気持ちはいかがでしょうか?』
『分かるでしょう、最高、本当に最高です! 夏の遠征を終えてから、コイツにも落ち着きが出て来たと思います。デビューした時はクラシックにとも考えていたんですから、この成長は期待通りの……』
「よく言うわよ、見に行ってもなかったくせに」
TVの中で気持ちよさそうにインタビューに答えるトレーナーに、ソフィアが毒づく。シリウスシンボリはまたおかしそうに笑った。
「それで、ギャロップダイナの次走はどうするのかしら?」
「このまま王道路線って事でジャパンカップに出るらしいぜ。私は勝ち逃げしとけ、って言ったんだけどな」
「あら、ギャロップダイナの勝利はフロックだとでも?」
「そうじゃねぇよ。でもな、あの皇帝サマは、同じ奴に二度負けてやるほどの可愛げは無いって事だ」
シリウスシンボリの言葉通り、ジャパンカップはルドルフの圧勝に終わった。ギャロップダイナは掲示板を外す7着。ゴールしたギャロップダイナは思わず呟いた。
「強すぎるだろ皇帝、あんなの誰が勝てんだよ」
「ギャロップダイナさん勝ったんでしょ、あれに」
思わずツッコミを入れたのは、ロッキータイガーというウマ娘だった。中央トレセン学園ではなく船橋に所属する彼女は、地方の代表でありながら2着と大健闘していた。
「捲土重来、といった所だな」
「ふぇ!?」
そんなギャロップダイナに、シンボリルドルフが話かける。いきなり声をかけられて素っ頓狂な声を上げるギャロップダイナに、皇帝を間近に見て固まるロッキータイガー。
「良いレースだった、有マ記念でもよろしく頼むよ、ギャロップダイナ」
「皇帝サマに名前覚えてもらうとか、アタシも偉くなったもんスよ」
「覚えるさ。君はロッキータイガーだね、中央以外にも君のように強いウマ娘がいる事を嬉しく思うよ」
「ふ、ふぇ、私の名前まで……!?」
中央所属ではない地方所属の自分の名前まで皇帝が知っていた事に、ロッキータイガーはひたすら感動し、ギャロップダイナはうすら寒さを感じた。
秋の天皇賞の敗戦後、シンボリルドルフは己を恥じた。
負けた事にではない、最後の最後に差されるまで、ギャロップダイナの名前を知らなかった事を恥じた。ともにレースに挑み、競い合い高めあう筈の相手を、何処かで「モブウマ娘」と切り捨てていた傲慢。それこそが己の敗因であるとして、出走するレースで走るウマ娘の名前と経歴を全て覚える事にした。
後にシンボリルドルフは「一度見た顔は決して忘れない」と語られる事になる。
ギャロップダイナは後に有マ記念でもルドルフに敗北、「天皇賞はフロックだった」との評価が下される。だが、人々が皇帝を倒したウマ娘の事を忘れかけた翌年の春、GⅠ安田記念を勝利。「やはり皇帝シンボリルドルフを破ったウマ娘の実力は本物だった」とその評価を大いに取り戻した。
CMの撮影が終わったシンボリルドルフは、久しぶりに街を散歩していた。
「勝利より、たった三度の敗北を語りたくなるウマ娘」
その敗北は、己の糧になった。全てのウマ娘達が幸福に過ごせる世界を創るという理想――それを成し遂げるのに、必要な事だったと。
それでも望むなら――あの時のギャロップダイナともう一度勝負が出来ればと、思わない日は無かったが。
「ソフィア、そんな走るなよ、医者から止められてるんだろ!」
ふと懐かしい声が聞こえルドルフは振り返った。
そこに居たのはギャロップダイナと、もう一人、小柄なウマ娘だった。
2人とも、とても幸せそうに笑っていた。
それを見たルドルフは、上機嫌に踵を返した。
誰かが言った。
レースに絶対は無いが、そのウマ娘には絶対があると。
これは、その絶対すら打ち破った、1人のウマ娘のお話。
短いお話でしたが、お付き合いありがとうございました。
ギャロップダイナという存在は既に物語として完成しており、極力余計な味付けをしない事を心掛けました。物足りないという方は申し訳ありません。
初投稿でお見苦しい点も多々あるとはございますが、平にご容赦を。
いずれ機会があれば、またお目にかかれれば幸いです。
ところで、ギャロップダイナの実装はまだですか?