シャニマスアイドルの強くてニューゲーム   作:穏健派

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当作品が日刊総合ランキング3位に輝きました。
沢山のお気に入り登録や投票、感想ありがとうございます。

あと今回は区切りがよかったので短いです。


大崎姉妹の強くてニューゲーム
私たちの幸福論


 

 

 

 

 

「……おーい、千雪ー?」

「……………っ!」

 

プロデューサーさんの声で、私はふと我に帰った。

 

どうやらいつの間にかボーっとしていたらしい。彼と話している最中にも関わらずだ。

慌ててプロデューサーさんの方を見ると、彼は椅子に腰掛けて、心配そうな顔で私の顔を見上げていた。

 

「ご、ごめんなさい。ボーっとしてました」

「……疲れてるのか? なんなら今日のレッスン取り止めてもいいぞ」

「い、いえ! 疲れてません、大丈夫です!」

「そうなのか? それならいいけどさ……」

 

プロデューサーさんは訝しげな表情を浮かべていたが、すぐに表情が変わる。

彼は父親のように優しい目で私を見つめると、穏やかな微笑みを湛えた。

 

「ただでさえアイドルと雑貨屋さんを兼業でやってるんだ。何かあったらすぐ言ってくれよ」

「…………はい!」

 

プロデューサーさんの優しさが身に沁みる。

担当アイドルとして、恋人として、妻として、彼の暖かさには何度も何度も触れてきたけど、その度に私は彼のことを好きになる。

 

今日もまた、私は更に彼のことが好きになった。

 

顔が真っ赤になりそうなのを必死に隠して、冷静さを保ちながら私は尋ねた。

 

「それで、どんな話でしたっけ?」  

「オーディションに応募してきたアイドル候補生の書類を一緒に見ようっていう話だよ」

「そうそう、そうでしたね……!」

 

えっと、プロデューサーさんはどこまで話してたっけ?

確か……千雪はスカウトだったけど、大抵のアイドルはオーディションで事務所に入るよーっていう所まで……だったかしら。

 

私がここまでの会話を脳内で纏めていると、プロデューサーはデスクの引き出しからカッターを取り出した。

 

「さてと、こうやったら中の書類は傷付けないよな……ペーパーナイフとかあったら楽なんだろうなぁ……」

「ペーパーナイフなら、私が働いている雑貨屋さんに置いてありますよ?」

「本当か? なら今度買いに行こうかな……」

「はい♪ ぜひいらしてください!」

 

プロデューサーさんは綺麗な銀色の刃先をチチチと展開すると、その刃先をフタと書類の隙間に引っ掛けた。

彼はチラリと私の方を見て、楽しげに笑った。

 

「じゃあ二枚とも行くぞ……!」

「はい……!」

 

プロデューサーさんはカッターを走らせて、一気に封筒を二枚とも開封した。

 

 

封筒の中から顔を出した履歴書——そこにはかつての古い記憶の中にある、酷く懐かしい顔だった。

赤茶色の長髪と琥珀色の瞳。

二十数年振りに目にしたその顔は、記憶と変わらずとても綺麗だった。

 

 

それが二つ。

そっくりな顔を持つけれども、性格はまったく違う二人。

 

 

間違いない。

 

 

この二人は——。

 

 

「『大崎甜花』と『大崎甘奈』……この二人、もしかして双子か!」

 

 

やっぱりこの人生でも、二人には巡り会う運命なんだ……!

 

 

興奮と衝撃で胸が高鳴る。

 

前世でユニット『アルストロメリア』を結成し、アイドルを引退した後も頻繁に連絡を取り合っていた可愛い妹分——それが大崎姉妹だ。

ゲームが大好きで、マイペースだけど頑張り屋さんな甜花ちゃん。

甜花ちゃんのお世話が大好きで、しっかり者だけどどこか放っておけない甘奈ちゃん。

 

二人とも大好きな後輩で、ライバルで、家族みたいに大切な人。

楽しいことも、嬉しいことも、辛いことも、沢山一緒に経験した仲間。

 

そんな二人とまた出会えることが堪らなく嬉しかった。

 

「へぇ、双子でアイドルっていうのも面白いな! 久川姉妹とか双海姉妹みたいな感じで売り出すのもいいかもしれない……!」

 

チラリとプロデューサーさんを見ると、彼は眼をキラキラ輝かせて二人の書類に目を通していた。

彼には前世の記憶は無いけれども、感性やその慧眼は変わっていないみたいだった。

書類選考の反応は上々らしい。

 

「へぇ……妹の甘奈さんの特技は早起きと倹約……それと子守? それに比べて姉の甜花さんは特技無しって書いてある」

「……甜花ちゃんは自分に自信が無くて、その分妹の甘奈ちゃんがしっかりしてて、お姉ちゃんの面倒を見ているっていうことだと思います」

「ああ、なるほど! そういうことか!」

 

プロデューサーさんは二人分の自己アピール表を読み終えると、嬉しそうな表情で私の方へ視線を向けてきた。

 

「なあ、千雪はこの子達を見てどう思う? 書類選考で通ったら実際に事務所で面接するんだけど」

「それじゃあ合格にしましょう。今すぐ」

「へ?」

「書類選考も面接も抜きにして、今すぐ合格させましょう。私、この二人と一緒にお仕事したいです」

 

一瞬固まった後、彼はたじろぎながら視線を右往左往して私を諭した。

 

「で、でもな……流石に直接顔を合わせて面接しないと……」

「じゃあ、私もご一緒させていただきます」

「わか…………いやいや、いやいやいやいやいやそれはダメだろ!?」

「でも、その大崎姉妹と一緒にアイドルの活動をするのは私ですよ?」

「それは勿論分かってるけど……流石にそれはダメだって……!」

 

いつもアイドルとの適切な距離感を意識してる彼だけど、実際は彼の意思はそこまで強くない。

必死に頼み込めばお休みの日に二人っきりでデートしてくれたり、お家で宅飲みに付き合ってくれたり、実家に挨拶に来てくれる。

私が告白した時も、必死に頭を下げて涙を流したらOKしてくれたりと、彼は強引な押しにとても弱いのだった。

 

でも私は今回、引き際を見誤ってしまったらしい。

数ヶ月間共に過ごしているとはいえ、三十年近いブランクで鈍った感覚は簡単には取り戻せないようだ。

 

「そう、ですか……」

「悪いけどこればっかりは俺がやらないとダメなんだ。ごめん」

「いえ、私の方こそごめんなさい。ワガママばっかり言っちゃって……」

 

気まずい雰囲気が流れる。

全部私が悪いのに、彼はまるで自分が悪いみたいに視線を下に落としている。 

 

ああ、やっぱり私ダメだなぁ。

 

子供っぽい所が可愛くて好き——彼は昔こう言ってくれたけど、それは同時に短所でもある。

余計な所で頑固になって、ムキになってしまう。

かつて娘がアイドルになると言い出した時も、私はその癖を出してしまった。

その結果、娘との間で酷い親子喧嘩を起こしてしまったのを今でも覚えている。

あの時の娘の泣き顔も、彼の悲しそうな顔も、二度と見たくないから。

 

こういう所はこの人生の中で、ちゃんと直さないと。

 

「……と、とにかく、千雪はこの二人は通していいと思うか?」

「はい。とても可愛らしいですし、凄く人気が出そうだなって」

「だよな……俺もそう思う。なんかこの二人をさ、初めて見た瞬間こう……なんかキタんだよ。あ、この二人活躍しそうって思ってさ」

「じゃあ、書類選考は合格……ですか?」

「だな」

 

彼は柔和に微笑んで、二人分の履歴書と自己アピール表を『オーディション用』というラベルが貼られたバインダーに納めた。

 

「それと、面接は俺がちゃんと対応するから安心していいぞ。まぁ、余程のことが無い限り落とさないとは思うけどな。この事務所、ただでさえアイドル不足だし」

「そう、ですね。プロデューサーさんならできるって信じてますから」

「あぁ!」

 

プロデューサーさんは自信ありげに胸を張った。

 

私は出来れば一刻も早く甘奈ちゃんたちに会いたいけど、向こうからしたら私はまだ一度も話したことのない赤の他人。

突然親しげに話しかけたらビックリするだろう。

 

少し悲しいけど、最初はゆっくり、ゆっくりと距離を詰めていかないと。

 

そんなことを思いながら、私はプロデューサーさんのデスクに乗った大崎姉妹の履歴書に視線を落とした。

住所、氏名、年齢、電話番号。そんな基本的な個人情報の下に記された、趣味と特技の欄。

 

大崎甘奈。

趣味、ショッピング・ネイル・自撮り

特技、早起き・倹約・子守

 

…………あれ?

 

私は少しだけ違和感を感じた。

 

前世での甘奈ちゃんの特技は確か、早起きと倹約——子守、なんて記述は無かったはずだ。

今の人生と、前世の情報が違う。

 

今の私の人生は、かつての『桑山千雪』の人生を追体験するようになぞっている。

記憶に残っていない部分はそうではないかもしれないけど、基本的に人生の中で出会う人の性格や趣味、そして進学や就職などの人生を左右する事件や出来事の結果は、どんなことをやっても必ず前世と同じになる。

 

だから甘奈ちゃんの特技が変わることなんて有り得ないのだ。

 

記憶違い、ではない。

前世の記憶は不明瞭な物も多いが、あの姉妹に関する記憶を私が簡単に忘れる訳がない。

 

それに、仮に甘奈ちゃんの特技が前世から変わっていたとしても、なんで子守という特技が追加されたのだろう。

確か大崎家の子供は甘奈ちゃんと甜花ちゃんだけで、親戚に赤ちゃんがいたなんて話は確か聞いたことないし……。

 

(……まあ、今度会った時にでも聞いてみればいいかな)

 

考えたらキリが無いので、私はこれ以上深く考えるのを止めた。

それに、きっと甘奈ちゃんたちは面接にも合格して、この事務所に入ってくる。

 

特技なんて、はじめましての挨拶の時にでも聞けばよいことだ。

 

 

それよりも、まずは甘奈ちゃんたちと再び会えること——その喜びを噛み締めないと。

 

 

私は胸を高鳴らせながら、写真の中で真面目な表情を浮かべる甘奈ちゃんと甜花ちゃんを見つめていた。

 

 

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