「 は、あァ!?」
9Sが剣を持っている。嫌な予感は的中してしまった、熱い。見事に私の腹部を貫通した剣から溢れとどまることを知らない血が綺麗に飛び出す。これは、やばいと思った時には足の力が抜けて地面に倒れ込んでいた。そのせいでまた深く傷に刺さり潰れたかのような声が、次第に叫び声になり私の頭を揺らした。
「あ、ギぁアアア"!!!」
「戦いにおいて勝ったと思った時が1番油断する。昔誰かが言っていた名言だ。」
「I・o、しっかりしろ!」
「どうしよ、俺たち、兄ちゃん…!!」
悲鳴の中で動揺と、冷ややかな声。大丈夫、まだやれる。私は不死身だと言い聞かせて立ち上がる。腹に刺さった剣を引き抜いてそれを遠くに投げる。大丈夫。
「ヨルハ計画は、アンドロイドの作った計画だ、人間には関係ないと主張する。」
「命乞いか?お前達がそうなるように作ったも同然だろう。」
「いや、違う。私の現実逃避だ。何を恨まれるのだろうか君達に。」
まだ戦いは終わらない、勝利条件が一つ増えた。
私が、完全に死んだと奴らに"思い込ませる"事。最後の力を振り絞って死んだと思わせること、それが重要だ。それを出来れば私は彼らの"最後"も見れるし私も生きれる。一石二鳥だ。
「最終、ラウンドォ…」
「もう止めろ、早く逃げるんだ。I・o。」
「まだ、まだだ…よ」
ブロックの形状が変化する。アーマーのように私を覆い、それは赤色に染まっていく。紅い服を着たヨルハのような、アンドロイドのような見た目に私はなっていく。アドレナリンが分泌されているのか今の私には痛みはあれどそう、痛いだとか苦しいだとか思わなかった。
「…」
「私を倒してみて…、作り物達。」
騙す、彼らを完璧に。
この演技を奴らは見透かす事は出来ない。なんせ、私は全力を出すのだから。全力に全てを賭ける。
「行くぞ!」
早く彼らを殺す振りをする。まずは9S、どうせ私はこの戦いには負けるのだから彼を削る方がいい。戦闘に負け勝負に勝つ。それが私を唯一生き残らせる方法。
拳を9Sの顔面に向ける、彼は今までに違う何かを感じたのか焦りを浮かべながら仰け反った。それを見てエレベーターへと向かう。二つある内の一つでも出来ればいい。そう思いスピードは緩めなかった。本当にあともう少し、その少しが長く感じられた。
A2が立ち塞がる、9Sから拝借したポッド153をA2に投げる。どちらも驚いてぶつかる寸前で回避したがそれも想定内。避けた方向を見極めて横に振られた剣を低い姿勢で転がる。
エレベーターの空間に手が入る。よし、もう少し。
「…!?ック、ソが!」
「絶対に行かせない!!」
私の首を掴まれた。その手に力が入り私を壁へと投げつけたA2。私は空中で止まるがそれを見越してかA2と9Sが違う方向から跳んでくる。遠い、それにこれは避けきれるか分からない。9Sの持っている剣が首を斬ろうとする、A2がポッドに命令してハッキングを仕掛けてくる。どちらを避ける?私は、
「甘いぞA2!!」
「I・o、剣が!」
「分かっている、ッ!?」
ハッキングを避けた。アーマーは首にはないから剣はそのままズブズブと首に食いこんでいく。致命傷の1つや2つ持ったところで不死身なのだから死なないと予測して出来た行動。首を斬りつける剣を大きく振られて私は地面に落ちていった。
地面に落ちた衝動で本もぐしゃぐしゃになる、ごめんと小さく謝ると二つの手が私の身体を支えて起こした。限界、だけどこれでいい。
「もう、いいや二人とも…」
「駄目だ、まだチャンスはある。私たちに任せてくれ。」
「そうだよ!諦めないで!!」
「いや、いいんだ…、これが、運命……だから…」
「I・o、何をするI・o!」
固定を外して本を閉じる。彼らの声は聞こえなくなり情報集合体として"塔"に戻った事が分かった。これでようやく1人。そろそろ呼吸もままならない状態になってきた。
私は死ぬのだろうか。
いや、不死身と神は言っていた。現に首や腹に酷い怪我を負っていても死んでいない。苦しみや痛みは相当あるが意識が遠のくとかはない。きっとこの後身体は徐々に回復していくのだろう。
もし神がうそをついていたりしたのなら私は多分、死ぬと思うが。
「ハァ…ハー……」
「I・o。私達は別にアンタが嫌いじゃなかった。」
「……そうか、ヨ。」
「僕も。でも…もう、好きにもなれない。」
「……」
知っているという声は出なかった。身体の力が抜けて目を閉じる。死んだように、私は一瞬の眠りにつく。
私の身体を持ち上げてA2は壁に置いた。彼らが戦い始めるのを私は待って待ち続けた。そうやって物語が終わりを迎えるのをひたすらに待った。彼らがもう一度私を見る事はなかった。物語は変わらなかった。
(私の、勝ちだ。)
*
相変わらず機械音が鳴り響く。この"塔"に入ってからずっと機械音しか聞いていない気がしてきた。そんな事を考えられるような余裕もある私は少しずつ回復していた。やはり、神の言う事は正しいのかと残念に思ったが。
9Sは笑っていた。もうどうでもいいと叫んでA2を殺しにいく。
A2は笑っていなかった。悲しみを纏わせながら9Sを殺しにいく。
ポッド達は無言だった。何も言わずに弾幕を繰り出し技を繰り返す。
(まるで、
人間味のあるアンドロイドの最後の戦い。最終地点で私は見たかったものをやっと見れたような達成感を得た。首も腹も治らない。時間がかかるのかと思っていたがそれは違った。まだ、血が流れ続けている。不死身、なんだよな?
さて、戦いは終盤に入る。ここでプレイヤーがA2、9Sどちらを選んだかでCかDかのエンドに別れる。その後にEエンドへと入る演出がある、が問題点がある。この世界において"同じ時間を繰り返す"事は可能なのだろうか。CエンドとDエンドどちらも終了している事がEエンドの条件である。だが私が見たこの光景は一度しかない。
つまり、CエンドとDエンドの一つのエンド回収が出来ないのではないか。
「ポッド!ハッキング!!」
「了解。」
どうやらA2の方が有利らしい。腕を吹き飛ばして頭に手を押し当てハッキングしにいった彼女の時間は止まる。その間に私は立ち上がってエレベーターへと向かう。覚束無い足取りでまた、痛み始めた腹を抑えながらエレベーターに乗った。
A2がこの建物を崩すのも時間の問題だ。エレベーターを降りて図書館を抜けて、階段を下ってエレベーターに乗る。なるべく遠くに、と思って近くの崩れたビルに登る。
「ハーッ……ハー……」
私の呼吸音だけが聞こえる。その後に凄まじい崩壊の音が聞こえる。A2はまだあそこにいて、9Sはポッドに運ばれている。どこに運ばれたかは分からないがきっと無事なところだろう。
「やっと… 終わり……」
目を閉じる。色々あって疲れたな、と眠気が襲ってくる。もう私はこの世界においてやりたい事をやり遂げた。あとはポッド達に任せて眠ろう。
息が続かなくなる、意識も痛みも消えていく。この世界で生きれてよかったと心の底から思って口角を上げた。この奇妙な、転生も中々悪くないと思っていた。
「……」
おやすみ、と誰かの声が聞こえた気がした。
*
時は戻る、彼女の眠りを無視して。転生者の干渉はもはや意味を成していなかった。プレイヤーのいないNieR:Automataでもう1つのエンドを回収するために彼らは時が戻された事も知らずに戦っていた。
9Sを斬ろうとしたA2に迷いが生じる。2Bからの一つの願いがその剣を止めた。
A2の腹部を剣が貫く。倒れ込んだ時に9SにもA2の剣が刺さり貫通する。叫びのたうち回りながら、彼は痛みの中で走馬灯を見て"方舟"を見る。
発射される"方舟"。9Sはやめておくよ、と言う。2Bを見つけて満足そうに笑って命を散らした。
転生者は目覚めない。
スタッフクレジットが流れる。
ポッドが話をしている。
プログラムを攻撃している。
何も変わらない世界で、転生者は何を望むのか。
「まだ何も終わっていない。」