「あ、あー…Nice to meet you?」
冗談言っている場合ではない。初めましてを英語に変えたところで状況は変わらない。パスカルが何事かと飛んできたが私達を見て固まった。アンドロイド2人も沈黙、から凄い勢いで話を始めた。
「え、じ、人類!?!?ちょ、2B、ひ、ひとが!!」
「落ち着いて9S!」
「推奨:感情の抑制」
「わ、パニックですね。」
1周回ってこちらが冷静になるほど彼らは驚いていた。ポッドも落ち着いていた。パスカルはそんな彼らを見て頭を抱えるようにした。
「…取り乱してすみません。僕はヨルハ9号S型、通称9Sです。」
「ヨルハ2号B型、2B。あなたは。」
「…人間。名前を、」
依央、と教えようとしたがこの世界に存在しないと調べられるとなんだか面倒なことになりそうだ。咄嗟に出た偽名は、
「I・o、アイ・オーと呼ぶ。」
なかなかにダサい名前であった。
*
ほんの少し時は流れ、私は彼らと共に行動をしていた。月に逃げそびれた人間という嘘をつき、そんな大事な先祖様を放って置くことも出来ないため私がパスカルの村を出る時は必ず主人公2人が着いてきた。彼らは私に対して何も調べずすんなりと受け入れてくれた。後になって本名を言っても良かったかもしれないと思った。
衣食住はなんとかなっていたが私がバレた。相当不利、ストーリーにも影響は当然出てくるだろう。どうなるか分からない未来に私はかなり不安を感じている。
そんな最中、私は2Bに稽古をつけてもらっている。
彼らがいない時、唯一残った人が何も出来ずに死ぬ訳にはいかないという説得によりヨルハの方々は渋々了承した。私の身体は力が強く靱やかなため覚えも早く今では9Sと同等だ。そこは神に感謝している。
さて、地面が揺れた。
どうやら超大型機械生命体が襲撃してくる時が近づいているらしい。それが討伐されると同時にエイリアンの出現、そしてエイリアンシップへと向かう。
2Bと9Sはパスカルを警戒しているが私を預けることには異論なさそうだ。そのまま村で待っていて欲しいと言い残し超大型機械生命体の方へと行ってしまった。
まぁ私が何もしない訳もなく。
パスカルに野暮用があると言い外に出る。彼は止めなかった、何故なら私のことをここ数日で分かっていたから。行く理由があると気づいていたから。パスカルには迷惑かけてばかりだな。後で人類の本について話でもしてあげよう。
この後行くべき場所はエイリアンシップ。まずは大穴開けてもらわないとと思いつつ2B、9Sに見つからないところに隠れた。
エイリアンシップであの人型機械生命体__アダムとイヴに会う。彼らよりも先に。そして、エイリアンシップでの戦いをなかったことにする。理由としてはあの場面、私にとってあまり重要ではないからだ。結局逃げられるし、それなら私が彼らから聞き出したという感じに振る舞えば意味の無い戦闘は消える。
それは原作を少し変えるということ。大まかな流れは決して変えない。それが例え2Bや9S、A2の死に繋がろうと残酷な結末になろうと。
私はそのストーリーを愛しているのだから。
*
というわけでやってきました、エイリアンシップ。
門を開け入ったそこには襲撃してきたはずのエイリアンの死体。実物を生で見るとなかなか恐ろしい。
だがそう長々と見られる時間はない、きっと奴らは来る。
「珍しい客人だ。」
私以外の声。ゆっくりと振り向くと上裸の男性が2人。両目が赤く、アンドロイドとは違う何かだと感じさせるそれは原作通り、話を始めた。私を殺すか、いやサンプルにすると。
「はぁ…」
何されるか分からない事が恐ろしい。痛い事はなるべくしたくないしされたくない。だが、相手は既に戦闘態勢だ。2対1は不利。それも人間の女が奴らに勝てる訳が無い。
「交渉、しましょうよ。」
実力行使は今の私にはまだ早い。アンドロイドが来る前にこいつらにはとっと去ってもらわないと。
「私は情報提供します。人類、アンドロイドの。その代わりあなた達はこの場で戦闘を行わない事を守って欲しいのです。」
「…何が目的だ。」
「君たちには分からないでしょう。」
ただ無意味な戦いは見たくないという理由。それだけで彼らが納得する事はないから私はあえて言わないでおく。イヴの方はともかくアダムの方は思慮深い。いや、性格が悪く頭が回る。私の発言の裏を取ろうとするだろう。
「そうか、分かった。」
「…兄ちゃん。」
よし、これで。そう思い息をついたのも束の間、
「!?!?」
「お、やるじゃん。」
いつの間にか後ろにいたイヴが高めの蹴りを放っていた。ギリギリ寸前で躱す。
「な、何故攻撃を?今分かったと言ったはずですが!」
「何故だと思う?」
「質問しているのは私です!答えなさい!!、ッ!」
至近距離で繰り出される拳と蹴り、それをほぼ反射で躱す。攻撃は出来ていない、相手に隙はない、喋るだけでも精一杯である。
一旦下がる、というように私はイヴの前に突き出した腕を低い態勢で躱し、そのままダッシュ。転ぶ勢いで距離を取った。アダムもイヴもよくない笑みを浮かべている。
「我々にアンドロイドやニンゲンの情報は大していらない。故に交渉は決裂だ。」
「お前はもう、どうしようもねぇんだよ。」
「…はは、予想外だ。」
君たちなら交渉に応じこの場を丸く収めようとしてくれると思っていたのに。少なくともアダムは興味があると思っていた。私の乾いた笑みが不意に喉から出た。非常にまずいという奴だ。主人公達が来る前に何とかしなければ。
そう思った矢先、アダムは付け加えた。
「君自身を、提供すると交渉に付け加える。それならば我々も応じようと思うのだが。」
「兄ちゃん、でも…」
「大丈夫だイヴ。こいつは我々には勝てん。」
「私?私を…それは、実験に使うという事か。」
「さぁ?想像に任せよう。」
ニタリと、兄の方はもっと悪い笑みをした。弟は警戒し、兄の言葉に動揺したが兄ちゃんがいいならと呟いてそれ以降何も言わなかった。
そして、私は
「……分かった。」
手を上げ、息をつく。
「
そのまま出口へと、逃げ帰った。
*
ハシゴを登る、唯一逃げられる場所。奴らはまだ追いついていない。瞬間移動が出来る彼らに私を捕まえる事なんぞ容易いはず。ならば、考えられるのはこの状況を楽しんでいるということだ。
「…、はぁ。」
逃げろ逃げろ、2Bも9Sもまだ地下空洞には降りていない、レジスタンスキャンプの人もあのアクセスポイントの復旧もしていない。
かといって鉢合わせになったら駄目だ。ならば彼らがまだ行った事のない場所へと行こう。候補は水没都市。森は未だに封鎖されてるから私の力では無理、ならば1番近くのパイプからいける水没都市が妥当。
「これを人類はどうやら"鬼ごっこ"と呼んだらしい。違うか?」
「!!…あってますよ。ただしルールがあります。」
パイプ前、先回りしていた彼らはそう問いかけた。私の必死の逃亡劇はゲームだと勘違いされているらしい。そう考えてくれるのならと思考を逆手に取る。
「10秒、鬼は待ってから追いかけるんです。」
「ほう…イヴ、遊んでやれ。」
「うん。」
せいぜい楽しませろよニンゲン。
その声と同時に私は彼らの横を通り過ぎた。パイプに入り出口まで必死に走る。もっとハンデを付けた方が良かったなと後悔し10秒きっかり数える。
9秒経ったその時、私はパイプを出る。
10秒の時、私は水の中へと飛び込んだ。飛沫が上がり服に水が染み込む。取り敢えず息を止めて落ち着くのを待った。アンドロイドや機械生命体相手に陸は不利、ならば彼らが入れない水中ならと思ったのだ。我ながらいい案。
「もう、いいかい?」
それは隠れんぼだろうと思うフレーズを聞く。どうやらのこのことやってきたイヴ。その姿を視認した後私は水中に潜る。せいぜい30秒いかないくらい。それでも出来るだけ隠れる。
「あ?いねぇな…どこだ。」
ワクワクしてきたのか、声が弾んでいる気がする。まず10秒。ごぽ、と息が漏れたが相手に聞こえない程度であることを祈る。
そのまま移動して端に行く。水中だから奴がどこにいるかなんて分からない。しかしなるべく離れることを目的に。
20秒、限界が近い。声は聞こえない、違うところに向かったか。
「う、げほ……ふ、はぁ…」
顔を上げる。息を整える、ここは…月の涙付近の足場か。それよりも奴はどこだ、声が聞こえないということは付近には居ないはず。
「見ィつけた。」
それが、フラグ。
私が水中にいたのがバレていたとか、それともただの偶然なのか。水中の移動で体力を消耗していた私には推測なんてする余裕も逃げる余裕もなく。
頭に衝撃、そこから私の意識は消える。