改変を望まぬ転生者   作:代理

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楽しかったよ

あれからというもの。

私とアダム、イヴは複製された街にて人間ごっこをしていた。いや私は人間だから普通の暮らしだが。

どこからか食材を持ってくる奴らに、それを調理し1日3 食のご飯を食べる。暇な時は賭けのないゲームをして遊ぶ。または実験。

実験は…あまり、いいものでは無いな。従わなければ殴られるわ脅されるわで気が進まない。人の精神的、肉体的限界を突き止めたいとか言いながら絶対によくない注射をされる事もある。

それでも、私が生きているのは不死身だからだろう。以前気付いたがどれだけ機械に蹴られ殴られても正気を保つ。怪我はすぐに治り痛みだけがのこる。悪趣味なステータスにしたと神を踏んづけたい気分。

もう1つ分かった事はハッキングが効かないこと。私は人間、奴らは機械。この世界観で脳があのシューティングゲームみたいになる事はないらしい。

 

そして、1週間程度が経った今日。

 

「今日は何を?」

「そうだな…少し心理的な話をしよう。座れ。」

 

イヴは今はいない。外でイノシシと戯れているのだろう。私が椅子に座り、アダムが本を閉じる。相変わらず小難しいものを読んでいると思いながら私は鎖をいじった。

 

「ニンゲンの根源について、話をしたい。」

「…そこら辺、詳しくはないが。」

「別に思った事だけを話してくれればいい。」

 

敬語は外せ、無いはずのストレスが貯まると言われてから私は敬語や敬称は付けないようにしている。

まぁそんなことより。私はそこまで賢い訳では無いのでと断りを入れる。

 

「私は憎悪(・・)こそが根源にあると考えている。」

 

…来たか。

アダムを狂わせた原因、人間の奥深くに眠る全ての行動の理由となる憎悪。それこそがと言う奴はかなり歪んだ表情を浮かべている。

 

「…根拠。」

「性悪説、知っているだろう?ヒトは元々悪人から出来ている。それも少し混ざっているが。憎悪するからこそ怒り、苦しみ、悲しみ…喜ぶ。生きる目的は、そこにあると考えた。どう思う?」

「……人間側の意見として、憎悪は確かに生きる目的となる時もある。」

 

復讐、嫉妬など。それは人を狂わせその人自身を殺す。憎悪は人の負の感情の中では恐ろしく強い感情だ。

 

「しかし、全てがその憎悪から来る訳では無い事を忘れるな。憎悪以外にも人間は動く意味を持っている。それこそ善意や喜び、嬉しさという感情に人間は生かされる事もある。」

「…つまりは?」

「つまりはと言われても。」

 

人は多くの感情を生きる目的にしている。それだけ。

それをどう思うかはアダム次第であるし私は決してそれを否めない。

人間として、事実ではあるから。

そう呟くとアダムは黙る。頭の中で考えているのだろう。ニンゲンについて、彼らの知りたい事について。

 

「…結局どうだとか言うなよ。私にだって分からん。難しい話振りやがって。」

「荒れるな。I・oは少し動揺したり腹が立つとすぐに口が悪くなる。」

「うるさいポンコツ機械。」

「何発蹴りを喰らいたい?」

「すみませんでした。」

 

じゃらじゃらと鎖を鳴らして降参のポーズ。それ以降、私とアダムはイヴが来るまでチェスをしながら暇を潰したのであった。

 

まぁそれが、奴との最後の真面目な話(・・・・・)になるんだけどな。

 

 

少し出かけてくると言って奴はふらりとどこかに行った。そして何事もなく帰ってきた。

 

9Sを抱えて。

 

最初に見た時は凄まじく驚いた。それと同時にアダムの死の近づきを感じ取る。サンプルが増えただのなんだの言って磔にする様子からは変哲もないがこの後2Bにアダムは殺されるんだ、と。

 

「そんなに時間が経ったのか…」

「物思いに耽っている暇があるならI・oも磔にするから来い。」

「えー…なぜ私も?」

「確かペアだったアンドロイド…2Bの反応を見たいからだ。早くしろ。」

 

どご、と腹から鈍い音がする。殴ったなと思い少し胃酸が込み上げるのを我慢した。鎖の繋がれている部分を切断しそれを持ち上げたアダムはどう考えても悪者である。

しかし、そんな奴との生活に慣れてしまった私もおかしいんだろう。

 

 

吊るされた場所からアダムと2Bを見る。私の隣にはボロボロの気絶した9S。2Bは激昂してアダムに斬りかかっていた。

 

「なぁ、9S。」

 

疑問に、思った事はないか?

人類会議にはきっと私の名前は出ていないんだろう。何故ならばそんなプログラムは存在していないから。私はこの世界において存在しない人間。だが、人間なんてとうの昔に滅んでいる。繰り返すだけの月面なんとかとやらは私を知らない。

言葉にはしなかった。彼はまだこの先の未来を知らない。言う必要もない、私は未来を変えるような事は決してしないから。

 

「アダム、お前の負けだ。」

 

剣が貫通する。そこから偽物の血が溢れ出す。冷たい機械はさらに冷たくなっていく。ただ、何かを呟いていた。これが死か、という声。

 

 

ではなかった。

 

「イヴ…!!」

「!??!!」

 

どこからか不意に現れた弟。2Bはもう一度剣を構える。これは、未来が変わってしまう原点なのでは。

 

「2Bィ!はやくトドメを刺せッ!!」

「!?I・o!!!」

「私の事はいい!」

 

奴が、回復するぞ!!!

ネットワークから切断し復活は出来ないアダム、しかしイヴが手助けをしてしまったら。イヴの力がアダムに注がれる。ネットワークによる自己回復が行われていると私は考える。

そして予想通り、腹の怪我は消えてしまった。

 

「うわっ!?」

「I・o、9S!!!」

 

括り付けられていた部分から落ちる。衝撃と痛みは来ず2Bが9S共々下から受け止めてくれたが、非常にまずい。

敵は2人に増えてしまった。

 

「2B、アダムだけを仕留めろ。」

「疑問:攻撃対象が2人でない事について。」

「イヴはまだネットワークに繋がっている。どれだけ攻撃しようが無駄だ。アダムは既に切ったからダメージは通るはず。それこそ機械生命体にもコアは存在するからそこを狙ってやればもう回復する事もない。」

「じゃあ、下がってて。怪我が開く。」

「下がる?無理な話だ。9Sほどではないがサポートさせてもらう。」

「…変わったね、I・o。」

「奴らと話していたら変わるよ嫌でも。」

 

前に対して敬語は使わなくなった。その方が話を伝えやすいと私は2Bからもらった予備の短剣を持つ。2Bはそれ以上私を止めなかった。

 

「確実に、一突き。」

「君たちの憎悪を見せてくれ。」

「コロス。」

 

隣の憎悪する弟を気にしろよと私は悪態をつく。

短剣を構えて直線、アダムの心臓へと突き立てる。それを見越して彼は下からの膝蹴り、予測でもしていない限り私はそれをもろに喰らい死ぬほど吐くだろう。

だが予測する。

後ろに下がる。勢いを付けていたかのように走ったがそれはフェイントである。足が上がったところで後ろに回り込む。

 

「2B、イヴの相手してやれ。」

「了解。」

 

さらに私の後ろに移動したイヴの気配。2Bがやつの攻撃をガードし押し返す。私は振り向いたアダムに対し短刀を振るも手で止められる。その手から血が滲み痛みからか顔を歪めるアダムが短剣ごと私を投げ飛ばした。

 

「I・o、お前の憎悪はその程度か!!?」

「な訳。」

 

吹っ飛んだ私は壁にぶつかる。痛い、背中が猛烈に。しかし怯むな。ここで奴らを逃せば未来が変わる。それだけは絶対に。

 

「必ず、改変なんてさせない。」

「?何を言って」

 

いる、の後は聞かなかった。落ちた私は短剣を投げた。それを簡単に躱して彼は笑う。まだまだだと言わんばかりに嗤う。

でも、そんなお前には分からないだろう。

 

「何の魂胆も無しに投げた訳じゃあねぇよ。」

「!」

 

走りながら言う。アダムは意味が分からないように眉をひそめたが後ろから聞こえる風を切る音に再び振り返る。

剣。私の短剣よりも刃渡りの長い白の契約が私に向かい投げられていた。

柄をジャストタイミングでキャッチ。くるりと向きを変えてすぐそばにいるアダムの心臓にもう一度刺そうとする。

 

「くッ…中々やるな。」

「剣は苦手なんだけどな。」

 

外れた。いや、外されたがその代わりに腕を切り落としてやる。右腕が以前の私の指と同じように宙を舞う。それも空中で掴み相手に投げる。

それに気を取られて彼は一瞬私から視線を外す。

あぁ、それだけで私は勝つというのに。

 

「さよなら、アダム。」

 

トップスピードで心臓を貫いた。

機械にねじ込む白の契約。それを彼は見て、次に私を見た。その目にもう生気はない。赤く淀んだ瞳に映った私の姿は見なかった。

 

「貴方との時間は、」

 

―――

 

呟いて剣を抜く。もたれかかってくるやつを受け止め地面に置く。目を閉じさせて私は2Bの方を向いた。隣のイヴは、放心しているかのようにアダムを見ていた。

 

「行こうか。」

「、しかしイヴは」

「今は意味が無い。ほら9S持って。」

「推奨:もう1人の人型機械生命体との戦闘。」

「意味がないと言っている。まずは9Sの修理が先だ。」

 

兄のそばに寄る弟。原作通りの兄弟愛に少し目を向け私は2Bと9Sと共に複製された街を去った。

これで、未来は元の軌道を辿る事になった。

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