魔法少女イデアル☆ことはICONOCLASM   作:エステル

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第2話 悪魔と契約するってこと?!

 非常事態が日常と化した日々。青堀聖子も最初ははしゃぎ回っていたのだが、今では大人しく空襲警報が響けば町の防空壕に隠れるようになっていた。戎宮北口駅の地下シェルターでは、自然とクラスメイトが集まって安否確認をする習慣が出来つつあった。それを始めたのは当の聖子なのであるが、今日も同じように点呼を取り始めた。

「桜……桜はいる? 居たら返事をしなさい!」

「うるさいですわね。わたくしに貧困菌を移すつもりですの?」

 艶のある長い黒髪をポニーテールで結び、なぜか巫女服を着ている同級生の少女、戎宮桜は、友人のアヤとカナを引き連れ、小さなテーブルを持ち込んで優雅にお茶を楽しんでいた。

「子分もいるわね」

 桜の友人、アヤとカナをひとまとめにカウントすると、聖子は次の点呼に移る。聖子は女子の確認しかしない。なぜなら男が嫌いだからである。女なら自分を嫌っていようが差別していようが保護対象。それが青堀聖子の思想なのだ。

「聖子ちゃん、アーサー君がいないよ!」

 男子の点呼をとっていたクラスメイトの男がやってきて、聖子の肩を叩いた。聖子は全身を震わせ、嫌悪感丸出しにして肩を払う。

「触らないで十三! もう一度触ったら、この手で首を折ってやるわ」

「ごめんよ、でもアーサー君がいないみたいなんだ」

「あんなレイシストマチズモ男がいようがいなかろうが、私には何の関係もない。えーっと、アンナとアシュレイ、まりにメアリー……メアリー? アシュリー、メアリーは?」

「織田さん? そういえば今日は見てませんね」

 忍者のような格好をした目の美しい少女、アシュレイはきょとんとして言った。彼女は宗教上の理由で目以外を男に見せる訳にはいかないのである。

「あなた達いつも一緒に来てるじゃない!」

「で、ですが……」

「今日の空襲は急だったからな。迎えに行く間がなかったんだ」

 アンナと呼ばれたショートヘアの少女は、アシュレイを庇う様に言い訳する。聖子は防空壕の入り口に向かって走り出した。それを目にした母鞠子は、飛び掛かる様にして彼女を羽交い絞めにした。

「何をするの!?」

「馬鹿なことはやめなさい!」

「不穏な噂を聞いたのよ。最近、空襲のどさくさに紛れて強姦する輩がいるって。織田さんが犯されてるかもしれない」

「だからと言ってあなたが探しに行くことはありません」

「うるさいッ!!」

 親に向かって張り手を飛ばす聖子。彼女は長幼の序という概念を持っていないのである。さらに聖子は鞠子の首を絞めあげ、彼女の意識を飛ばす。それからアシュレイとアンナに、この美しい母親を男どもがレイプしないよう見張るように厳命した。

「じゃあ、私は行ってくるから」

「マジかよ」

 アンナがあっけにとられる中、聖子は戦火に包まれる市街に飛び込んでいく。

 

 見上げれば空には爆撃機の編隊が焼夷弾を撒き散らしながら悠々と飛んでいる。その間を縫うように連合軍の戦闘機が飛び交い、ミサイルが飛び交ってB-29は大爆発を起こし次々と撃墜されてく。撃墜されたB-29は市街地に落下し、結局爆撃したのとあまり変わらない結果が引き起こされていた。

 聖子はとても目が良い。ちらりと空を見るだけで、焼夷弾の落下地点は大体予測が付いた。だからこの殺意の雨の中を平然と走り抜けられた。真横の家が貫かれ、木造住宅が炎を上げ、そしてコンクリートのマンションに突き刺さっても、まるで恐れることもなく走り続けたのだ。

 爆撃機の重い騒音に混じり、女性特有の甲高い叫び声がかすかに聞こえた。近くの小さな公園からだ。男達の下衆な笑い声も聞こえる。聖子は腰にぶら下げてあった2本の特殊警棒を抜いて両手で構え、思い切り振って伸長させる。彼女は剣道の心得があるのだ。

「オスども、そこまでよ! 汚い精子発射棒を仕舞って、両手を頭の上で組んでひざまずきなさい」

 織田メアリーは地面に押さえつけられ、今まさに男の肉棒が挿入されようとしている。だがその男は聖子を見た瞬間、口角を上げてメアリーを囲んでいる男の一人に向かって差し出した。

「これはこれは、聖子じゃねぇか。自分からのこのこやって来るとは、これは神の思し召しか?」

「アーサー=ジョージ=ルイス……! あんた空襲のどさくさに紛れてクラスメイトをレイプして……恥を知りなさい!」

「クックック……お前も犯してやるよ。お前の方がよっぽど上玉だ。神よ、感謝します」

 アーサーは舌なめずりしながら聖子を見つめる。男達は聖子を囲むようにじりじりと距離を詰める。

 聖子は一番左側に居た長髪のヤンキー風の男の頭に向かって、渾身の力で跳躍横払いを放った。チタン製の砲身は人間の頭蓋骨を易々と叩き割り、男は頭の横から血を流してその場に倒れる。

「こいつ、翔君を殺しやがった」

 隣のサングラスをかけたチンピラ風の男が聖子に飛び掛かる。聖子は恐ろしいまでの正確さで男の目を照準し、特殊警棒の尖端を両目に突き刺した。

「ぐあっ……」

 断末魔と共に目を貫かれた男。聖子が特殊警棒を引き抜くと、彼の右目まで一緒に抜け、残った穴からは脳の破片がはみ出てきた。

「このクソガキ、殺してやる」

 バタフライナイフを取り出したもう一人のヤンキー。彼が聖子に飛び掛かろうとしたところ、破裂音がして脳に風穴が空いた。刺さった目を振り落とした聖子は、アーサーを睨み付ける。

「殺したら犯せねえだろうが、ジャップが……」

 アーサーの手に握られていたのは拳銃。銃口は舐めるように聖子の体に向けられる。

「けど抵抗されるのも面倒だ。足を撃って逃げられなくするか?」

 聖子はアーサーの懐に突っ込もうと重心を落とす。だがそれがいけなかった。拳銃という脅威に意識が行き過ぎて、側面から飛び掛かってきた男への対応が一瞬遅れた。聖子はヤンキーの喉に突きを放とうと構えなおそうとして、特殊警棒を掴まれてしまう。そのまま男の拳は容赦なく聖子のみぞおちを捉えた。

「……っ!!」

 それで勝負は付いた。聖子は自身の運命を悲観し舌を噛み切ろうとして、アーサーが布を口に突っ込んだ。

「死ぬつもりか? させるかよ」

 詰め込まれたのはメアリーの破られたパンツだ。アーサーを睨む聖子の目に涙が浮かぶ。聖子は両腕を押さえつけられ、無理矢理足を開かされ、そしてアーサーは目の前でズボンのチャックを下ろし、そそり立つ精子発射棒を見せつけた。聖子は心の中でコトハに謝罪した。なぜなら、彼女は自殺を決意したからだ。この男に犯され、回された後、もしも自分が自由になったら、その時点で自殺しようと、心に固く誓った。自殺しなくとも殺されるかもしれない。それでもいい。どの道、その後の人生に生きる価値などないのだ。

 ペニスが接近する。メアリーは既に犯されている。力があれば、と聖子は思った。もう少し力があれば、メアリーを救い、自分を救うことも出来たかもしれない。そう……例えばあのB-29のような圧倒的な力があれば、こいつらを皆殺しにできるだろう。

「汝、弱き者よ。力が欲しいか」

 そんな声が、地の底から響いてきた気がした。一羽の漆黒の烏が、ヤンキーの死体を啄もうと舞い降り……いや、そうではない。烏は聖子を見つめているのだ。

「もう一度問おう。力が欲しいか?」

「欲しいわ」

 聖子は即答する。これは啓示だと思った。神を信じていない無神論者にもかかわらず、これは啓示だと思ったのだ。しかし神の啓示ではない。それは違う。なぜなら聖子は神を認められないからだ。ならば誰の啓示か。決まっている。

「私に渡しなさい、悪魔の力を!」

「ならば授けよう。そなたに我の力、魔王の力を」

 腹の底から込み上がってくるような怒りの力。悪魔の王、サタンの呪われし力が、全身を駆け巡るのを聖子は感じた。突如輝き出した聖子に対し、ヤンキー達は恐れをなして腕を放し後ずさる。燃え上がったのか? B-29が落としたM69焼夷弾が直撃し、その体が発火したとでもいうのか。

 光はさらに強くなる。男達は目を塞ぐ。目を開けたとき、光の中から出現した者は、世にも恐ろしい、悪魔との契約者、漆黒の魔女の姿であった。黒いローブに黒い三角帽、身長ほどもある、巨大なサファイアが埋め込まれた杖を右手に持ち、左手には死を呼ぶ分厚い魔導書。肩にとまっているのは、その黒と同じくらい深い漆黒の烏。

「私は魔王の使い、エマ。魔女ユイエル卿よ、そなたは我が主との契約を交わした。我が主の望みはただ一つ!」

 烏は老婆のようなしゃがれた声で言う。

「はいはい、どうせ人類滅亡とかでしょ。私も丁度、滅ぼしたしたいと思っていた所よ。この地球から、一匹残らず、男をね!」

 聖子が杖を掲げると、漆黒の魔法陣が現れ、脳紺色の呪いの波動が杖の先に集まってくるのを感じた。

「……し、しばし待て」

「殺してやる……滅ぼしてやるわ、すべての男をね!!」

 聖子が男達を睨み付けると、魔導書が勝手にパラパラとめくられ、悪魔的魔術が記されたページを自動的に開いた。

「答えよ、ディ・セットゥ。闇のすべての道はその契約と証とを守る者には慈しみであり、真である。魔の王よ、御名のために、我の罪を贄にくべる。我の心の悩みを反射し、我を苦しみから引き出したまえ。神よ、かつてイスラエルで敗北したように、すべての力をもって汝を滅ぼさん! ラ・カストラスョン!」

 そして聖子が放った呪いの炎は、強姦者達の大事な部分を包み込み……その闇の中へと引きずり込んだ。汚い悲鳴を上げる豚ども。アーサーの妊娠未遂棒はミキサーを掛けられたようにぐちゃぐちゃに引き裂かれ、精子が出るはずの所からは鮮血が噴出していた。

「いい気味ね、これであんた達は、死んでもセックスできない体になったのよ。うふふふ……あはははは……はーっはっはっはっは!」

 両眼を限界まで見開き悪魔じみた高笑いをして勝ち誇る聖子。ちょうどその頃上空では、B-29が魔法少女によって次々と撃墜されていた。

「卿よ、あの飛行機は放っておくのかね?」

 烏は黒い羽で空を指して言う。

「あぁ、あれはドローンって話だからね。無人機なのよ」

「……街が燃やされているようだが」

「で?」

 聖子は純粋なる疑問を抱いて聞き返した。

「いやなに……女子供が殺されているのではないかと思ってな」

「そうかもしれないけど、レイプされているわけじゃないし。いい? レイプは魂の殺人よ。普通殺よりもっと重いんだから!」

 聖子は意識を失っていたメアリーの所へ行って、パンツをはかせ自分の上着を掛けてやった。もう彼女は犯されてしまって、元に戻すことは出来ない。もしも彼女が自殺を選ぶなら介錯をしてやろうと聖子は思っている。烏はしつこく空を指してカーカーと鳴いていた。

「なによ、悪魔の使いのくせに街を守れって説教するのつもり? 街を守るのは私じゃなくて軍の仕事でしょうよ!」

「そ、それはそうかもしれぬが……魔王様が望むのは人間どもの苦しみであり、あのような無差別殺戮ではないと思ってな」

「この私を誰だと思ってるの。憲法の擁護者にして忠実なる正義の執行者、大魔女ユイエル様よ。たかが鳥ごときが、この私に意見してるんじゃないわよ」

「……なに、意見するつもりなどない。そなたは力を得た。それを生かすも殺すも卿しだいよ」

「ちっ……分かったわよ。守りゃいいんでしょ、守りゃ!」

 聖子は局部を抑えもだえ苦しむアーサーの顔に向かって手加減なしの回し蹴りを放つと、虚空から箒を引っ張り出してその上に仁王立ちする。

「ブレ・ドン・ル・シエル!」

 聖子が杖を振ると、箒は直角に空に上がって行く。男達の苦悶の声を背景にして。

 

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