魔法少女イデアル☆ことはICONOCLASM   作:エステル

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第4話 関東大空襲ってこと?

 百合牡丹のコンセプトは「会いに行けるアイドル」ではない。「参勤交代」である。彼女達はライブツアーなどしない。というか過酷スケジュールになる地方ライブは労働基準監督局が許可しないため、山戸撫市でしか活動しないのである。それを逆手に取ったのが彼女達のファンの行う「参勤交代」であり、ゆえに彼女達のファンはサムライと呼ばれている。

 しかし、今年のゴールデンウィーク。特別に百合牡丹の江戸下向公演が行われることとなった。関東を領土とする日本連邦構成国の一つ、日本国高官の強い要望もあり、江戸ドーム公演が開催されることとなったのだ。

 最大規模の公演をするにあたって、百合牡丹はクラスメイト達に関係者席への招待状を送りつけた。彼女達は学校でいじめを受けないために、こうして細目な気配りをしているのであるが、聖子や桜にとっては自分達の人気をアピールしてマウンティングを取っているようにしか感じられないのは実に皮肉な結果である。

「またこんな邪悪な集会を開催して。神様に対して申し訳ないとは思わないの?」

 招待状を手渡した見里に対しコトハは怒る。

「お前は来なくていい」と遊が言った。

「いいじゃない。江戸にはラビッティー・ランドがあるしね。ついでに遊びに行きましょうよ。で、交通費はでるの?」と聖子は言った。

「そこまで面倒みれねーっつーの!」

 百合は相変わらずファンに対するそれとはまるで別物の態度で返事をする。

「お母さんの持ってる新幹線の全線パスを使わせてもらえばいいよ。何人か一緒に乗れるし」とコトハは言った。

「はぁ!? 汚職じゃないの。私は汚職を暴くのは好きだけど、汚職を追及されるの嫌いなの!」

「じゃあどうするの? 聖子ちゃんのお小遣いじゃ新幹線なんてとてもとても乗れないよ」

「そうね。夜行バスで行きましょう」

「えーそれコトハも一緒に乗るってこと? いやだよ夜行バスだなんて。あれは悪魔の乗り物だよ」

「じゃあ商売をしましょうか。実は最近、あるものをたくさん集めているのよ」

 放課後、コトハは聖子に連れられて戎宮駅から徒歩数のところにある粗末な倉庫……ではなく青堀邸に連れてこられていた。

「聖子ちゃん、何か拾ったの? 拾ったもの勝手に売るのは犯罪だって聞いたことがあるんだけど」

「それは持ち主がいたらの話でしょ。私の拾得物は持ち主が絶対に居ないと確定しているからね。無主物先占って奴よ」

 聖子は全く手入れのされていない、惨めなアパートの裏庭に案内する。何らかの物体にブルーシートがかけられて、「触るな」と可愛い字で猫さんマークと共に書かれている。

「何なのコレ?」

「BMGよ」

「外車? ……にしては小さいような」

「それはBMW! キャリバー50、ブローニングM2重機関銃のことよ」

 ブルーシートの下には、黒光りする殺人兵器がでかでかと自己主張をしている。しかも1つや2つではない。ざっと見て10丁はある。

「にゃ……にゃぁ! こんなものどこで手に入れたの!?」

「撃墜されたB-29を軍より早く見つけて、銃座から取り外したの。」

「こんなの銃刀法違反だよ聖子ちゃん!」

「これを東京町のブラックマーケットで売るのよ。付いてきて」

「そんなことコトハが許すわけないじゃん! これは警察に届けなきゃ!」

「嫌よ。これは私の所有物よ。警察が欲しいってんなら、それ相応の金を払いなさい」

「言ってること滅茶苦茶だし。もう、通報するからね!」

 そういってコトハはiPhone17を取り出し911に発信する。

「残念ながら、日本共和国では10歳の子供に責任能力はないの。警察に言っても無駄よ。それとも何? この私を触法少女として児童養護施設送りにしたいの!?」

「もしもし警察ですか? 実は鉄砲を持った子がいるんです。はい、重機関銃です! M2重機関銃! それもたくさん持っててぇ……えぇ? ふざけてなんかないよ! 私は大まじめに、って何なの! 私の親の連絡先? うーん、直接は無理だから、デマルコさんに連絡したら? だからデマルコさんだって、デマルコ=ホワイト=サンダーソン。知らない? 首席補佐官だよ。にゃぁ、だからふざけてなんかないって! 嘘だと思うなら大統領に聞いてみなよ!!」

 iPhoneを叩きつけるように切る。信じてもらえないも無理はない。所轄は大統領とコンタクトを取ることなど無いのである。

「で、どうすんの? 私をポリに売った気分はどう?」

「そんな言い方しないでよ。お金を稼ぎたいならもっと真っ当な手段で稼ごうよ」

「例えば?」

「そのマシンガンを解体して金属として売るとか! 空襲のせいで金属不足らしいからきっと高く売れるよ」

「仕方がないわねぇ。運ぶの手伝いなさいよ」

 

 それから機関銃を解体し、リアカー2台に金属塊を満載して工業地帯にあるスクラップ屋へ持ち込んだ。コトハの言う通り今は深刻な金属不足なので、B-29からの金属回収はホームレス達を中心に大ブームになっていた。2人の少女はホームレスに混じって行列に並び、1時間並んでそれなりの金を受け取って帰路に就いた。

「この私がホームレスの真似事なんて、屈辱よ」と聖子は拳を握りしめて行った。

「そーゆー言い方はやめるんだよ。みんな頑張ってるんだから」

「私は家なき子を見ても涙を流さないタイプの人間なの。まあ金は入ったからこれでラビッティーランドで豪遊できるわね」

「見里ちゃん達のライブを見に行くんじゃないの?」

「んなもん見てどうすんのよ。楽屋でケータリング食べたらすぐ遊びに行くわよ」

 

 やってきたクラスメイトの大半は、このライブを子供だけで旅行する口実に使っており、そのほとんどは百合牡丹のライブではなくラビッティー・ランドに行ってしまった。

 夢の国、ラビッティー・ランド。合衆国資本が建設したこの楽園は、極東にエデンの園を築くことを目標に、広大な埋め立て地をすべて買収して全域をリゾート化している。一度パークに入れば、その視界に入るのは夢の国だけ。現実的なビルも、工場も、絶対に目に入らないように構成されている。子供達、いや人類の夢を実現するために、合衆国資本は努力を惜しまなかったのだ。

 聖子はその観察眼で大人気キャラのラビッティー君を目ざとく見つけると、写真を撮ってもらおうと近くの女子に声をかけた。

「あら、なぜあなたのような貧乏人が、このような富裕層の居るべき場所に存在いたしますの?」

 いつもと違うツインテールにうさ耳を付けていたから分からなかったのだが、その女子は戎宮桜であった。

「ごめんごめん、人違いだったわ桜。私の目の前から消えていいわよ」

「なんですって!? あら、アヤさんカナさん、ラビッティー君ですわよ!」

「本当ですわ桜さん」

「可愛いですわラビッティー君!」

 桜と手下2人がラビッティー君の元へ駆けて行こうとしたので、聖子はその首根っこを掴んで引き留めた。

「触らないでくださいまし! 貧困菌で魂が穢れますわ!」

「ラビッティー君は私が見つけたの。私が先に写真を撮るのよ」

「あなたが見つけたという証拠はありますの!?」

「証拠なんて必要ない。私の目は誤魔化せない」

「もうそんなことどうだっていいじゃん! ラビッティーなんてただの偶像だよ。行こうよ聖子ちゃん!」

 コトハも年相応に楽しんではいるが、アトラクションは好きでもキャラクターに熱中するのは彼女の信仰からして許せないのである。聖子の手を無理矢理桜から引き剥がし、ラビッティー君から遠ざける。既にラビッティー君には人込みが出来ており、一緒に写真を撮ってもらおうと子供達が我先にと群がっている。

「やだやだ、絶対写真を撮るんだから!!」

 そういって聖子はその集団の中に入っていった。コトハは溜息をついて、近くのベンチに腰を下ろし、そして、サイレンが鳴り響いた。

「東部軍情報。敵梯団が方向を変えて、関東方面に向かいつつあります。繰り返します。敵梯団が方向を変えて、関東方面に向かいつつあります。直ちに屋内に批判し、テレビ・ラジオを付けてください」 

「空襲警報? ……ここ江戸だよね!?」

 コトハは辺りを見回す。関東地方に空襲警報が鳴るのは100年ぶりだ。空襲に慣れていない子供達の中には泣き出す者も居て、キャストも慌てふためきパニックに陥りつつある。空から白い鳩が下りて来て、コトハの肩に止まった。

「コトハ、南からB-29の大編隊が接近中だよ。迎撃するかい?」

「で、でも……今変身したらみんなにばれちゃう」

 迷っているうちに聖子が集団を縫うように全速力で走ってきて、コトハの手を掴んで猛然と走り出した。

「ジョセ、どこかに従業員用の地下通路があるわ。そこへ行くわよ」

「で、でもコトハは」

「急ぐわよ!」

 北からやってきたグリペンが次々と音の壁を切り裂き、夢の国にソニックブームを叩きつけた。パークを徐々に侵食する現実。キャスト達は我先にと逃げ出し、子供達は恐怖に逃げまどう。桜が走ってきて、聖子を呼び止めた。

「ど、どこへ行くんですの聖子さん?!」

「地下よ、あんたも付いてきなさい!」

「は、はい聖子さん。行きますわよ、アヤさん、カナさん!」

 徐々に近づく重低音。B-29は速度を上げて関東の上空に接近する。空軍の戦力の大半は近畿地区、中部軍管区に集中している。地方には大した戦力を振り分けておらず、ある程度の戦闘機数を有するのは百里基地の第7空軍しかない。彼らは実に効率的な仕事をやってのけたが、B-29の圧倒的物量を前にしては虎と戦う蚊のようなもの。

「間に合わない……! ラビット・マウンテンに逃げ込むわよ」

 時すでに遅し。B-29は500ポンド爆弾を雨あられのように投下し、江戸南部に対し無差別爆撃を開始する。聖子はコトハと桜の襟を掴んで、とっさに自分の元へ引き寄せる。ラビット・マウンテンを貫く爆弾。入り口からは爆風が砲撃のように直進し、地面に伏せる5人の頭上を通過した。

「ったく日本軍は何やってんのよ! 国民から血税を吸い上げてこの様?!」

「あ、あなたのような下層階級の貧乏人が天下国家の財政に対する文句など言うものではありませんわ」

「うるさい桜!」

「無理もないよ。だって今まで山戸撫市しか空襲されたことはなかったんだもん」

「ピーチフィールド大統領が無能なのが悪いんですわ。おーっほっほっほっほ!」

「都合の良い時だけ政治のせいにしてんじゃないわよ!」

 気づけば彼女達の頭上には、アフリカの大地にひしめくヌーの大軍のようなB-29の群れに覆われ、逃げ場などどこにもありそうにない。今すぐ逃げなければ死ぬ。しかし一歩でも動けば殺される。そんな矛盾した感情が彼女達の足を止める。降り注ぐ爆弾は夢の国を一切の躊躇もなく破壊していく。子供達が爆風にふっ飛ばされ、腕や足がちぎれて宙を舞っている。

「もう我慢できない、ちょっとトイレ行ってくる! 絶対に追ってこないで!」

 コトハはそう言って、聖子の元から逃れて爆風の中へ突っ込んでいく。聖子に選択肢は残されていない。何としてもB-29を全機撃墜し、コトハを守らなければならない。

「桜、目をつぶってなさい」

「はぁ? なぜですの!?」

「爆弾の破片が目に入ったら失明するからよ! 目をつぶって伏せてなさい!」

「は、はひっ!」

 

「お願い、マスタード・シード!」

 コトハはからし種一粒の宝石が輝く十字架をかざす。私服のワンピースがはじけ飛んで、体を撫でるようにピンク色のドレスが形成されて行く。変身と同時に、コトハは空を貫く勢いで空に舞い上がった。

「ラファーッル!」

 コトハは全身に魔力を纏って1機のB-29の胴体に突っ込んで、その機体を真っ二つに引き裂いた。そのまま上空に抜けて敵編隊を一網打尽にするための大規模魔法を準備しようとして……下から打ち上げられた雷によって、目標の編隊30機ほどが一瞬にして爆散する。爆風の中から現れたのは……箒に乗った魔女の姿であった。

「げっ」

「あー! ユイちゃんだ。ユイちゃんもB-29と戦ってるの?」

「ユイエル卿と呼びなさい。私は本土防空の切り札にして市民の味方。B-29を撃ち落とすのは当然よ。あなたこそ、独善的な犯罪者のくせにたまには慈善もするのね」

「私は犯罪なんてしてないよ!?」

 コトハと聖子は、向かってくるB-29を片っ端から撃ち落としながら大声で叫びあう。それからそれぞれ敵編隊の中に突っ込んでいき、相対する敵機をバラバラに焼き尽くしながら最後尾まで一気に抜けた。

「行くよ、ユイちゃん。C&Y長距離殲滅コンビネーション」

「あんたとコンビ組むなんて絶対に嫌。ディ・セットゥ! ティレ・ア・ラ・ミトラィユーズ!」

 聖子は抜け駆けして魔法の機関砲を放ちながら飛んでいく。B-29の紙切れのように薄い装甲は魔法に対してはほとんど無力で、防弾タンクも魔法がかするだけで炎上して海の藻屑となってしまう。

 17分ほどでB-29は片付いたが、先頭の梯団は既に爆撃に成功しており、江戸南部の工業地帯と下町は壊滅的被害を被った他、山手線内側の都心部もごくわずかではあるが攻撃を受けてしまっていた。被害は旧皇居から靖国神社、神保町付近に多く、あとほんのわずかでも北上を許していれば、6万人弱が集結している江戸ドームに直撃弾を食らっていた可能性すらあった。悪夢は間一髪で回避されたのである。

 江戸とはつまりは旧東京のことであり、大戦末期の京都還都に伴いその名称を元に戻したというだけだ。江戸大都市圏の市街地面積は近畿大都市圏を上回り、人口もほぼ拮抗している。そのため江戸大空襲は日本連邦政府に深刻な衝撃を与えた。日本国首相、鳩山湛山は空軍の近畿一極集中体制をエミリー大統領の失策だと非難し、他の連邦構成国も連邦政府に対し連邦軍の展開を要請した。連邦軍の山戸撫市防空網は大幅に弱体化し、それをカバーするためにヒメリカ合衆国空軍と3個空母機動部隊が増派されることとなった。合衆国から独立を勝ち取ったことを歓喜をもって迎えた日本連邦共和国の革新派にとってしてみれば、これは日本の軍事的独立を再び脅かすものであることに違いなく、ヒメリカ合衆国にしても再びの瀬戸内海油田に対する野望も見え隠れしていると思われても仕方がない動きであった。なにしろ、日本には4個空母機動艦隊が展開しており、いつでも近畿の制空権を握ることが出来る状況にあるのだ。在日ヒメリカ軍には地上戦力こそなかったが、追加兵力には最新のステルス戦闘機も混じっていた。連邦空軍のF-17とF-15では、合衆国のF-22とF-35に立ち向かうのはほぼ不可能。現状だけ見れば、この空襲で一番利益を得たのがヒメリカ合衆国であることは、誰の目にも明らかであった。

 

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