「はい! 私、サクラバクシンオーは無事トレーナーさんも見つかり、皆さんと競い合えることになりました!」
お昼休みの時間クラスメイトのサクラバクシンオーことみんなの委員長バクちゃんが声高々に宣言してる。いやー、おめでたいんだけど、もうちょっと声を抑えて欲しいかな。ちょっと周りからの視線が厳しいので。
「よかったっすねバクちゃん。でもちょっと声小さくしよ? それと、本当に大丈夫? ずっと短距離のことしか見てないトレーナーばっかりって言ってなかった?」
「ええ! ですがついに! 私の目標に賛同するトレーナーさんと出会うことが出来ました。これもみなさんの助けが有ってこそ。ありがとうございました!」
うーん、この元気の塊め。まあいっか。今はお祝いのほうが先だもんね。
「お、おめでとうございます。じゃあやっぱり、クラシック路線で進むんですか?」
フラワーちゃんは今日も可愛いなあ。
「でも正直そっちのありがたいっすね。バクちゃんスプリントの方に来ると大変だからね」
「いえ! 残念ながら委員長たる私であっても今すぐクラシックに乗り込むには力不足との結論になりました。ですので、まずは短距離マイルを勝ちながらスタミナを鍛えていく話になりました」
あー、結局そうなるんだ。バクちゃんちょっとどころか頭一つ抜けてるからあんまり真正面からやりたくないんだよなー。でも普通はそうするよね。バクちゃん本人から聞いた話だと正直マイルでも結構きつそうだし。それでも挑戦しようとするトレーナーに出会えたのはラッキーっすね。いやはや、やっと去年高松宮記念が短距離のG1になって、それでもG1二個だけっすもんね。いやー、もうちょっと頑張ってほしい。去年タイキシャトル先輩とかシーキングザパール先輩が海外で勝ってマイルも盛り上がってるし、ついでに短距離G1も何個か増えないっすかね?
「やーでも、バクちゃん来るとG1勝つの大変になりそう。ただでさえ数少ないのに。これじゃあ春秋スプリント連覇するの難しいかもしんないっすね」
「あなたも相当に優秀なスプリンターですからね。しかし私も優秀ですので、楽しみです!」
バクちゃん、やっぱ自信家だよね。出れないとか考えてもいないし。この自信はすごいと思う。ね、フラワーちゃんもそう思うでしょ。同意を求めたのに困ったような顔で返されてしまった。だめっすよ? フラワーちゃんはかわいいんだからそんな顔するより笑わないと。
「ありがとうございます。でもお二人共すごい自信ですね、私もスプリンターですけど、そこまでは……」
あー、フラワーちゃんは優しいっすからね。でもそんなことはないと言おうとしたら、
「大丈夫です! フラワーさんも素晴らしい素質を持っていると思います。私であってもそうそう簡単には勝たせてもらえないでしょう。さあ! 共に頑張りましょう!」
言いたいこと言われちゃった。でも、実際飛び級してきてるフラワーちゃんを甘く見ているウマ娘なんていないもんね。しかし私のまわりにはヤバそうなスプリンターが多くないっすかね? 生まれた時代が悪かったのか、でももう少し早かったら高松宮記念すらなく、年に一回しかG1取れなかったかもしれないし良し悪しっすね。
その後はいつもみたいな中身のないような話ばっかり。でも、これぐらいが丁度いいんすよね。
そろそろトレーニングの時間だ。運良くトレーナーに、しかも短距離の専門家に見つけてもらえたのはラッキーだった。G1を何個も勝たせているようなトレーナーでも距離が変わると全然、なんてこともあるんだから不思議な世界。
トレーナーのことは今はどうでもいいとして、早くトレーニング始まらないかな。もっと言えば早く先輩来ないかな。
「おお、待たせたな」
声をかけられたからそっちを見れば残念ながら居るのはトレーナーだけ、はあー、今はそうじゃないんすよ。
「ちっす、で先輩は?」
「おまえ、ほんとそればっかりだな。もう少し自分のレースとかトレーニングのことにも興味を持ってくれ」
「どうせ、スプリントなら私が勝つし、トレーナーのことも信用しているからトレーニングのメニューなんかも心配ないし。だったら考えることは一個しかないじゃないっすか」
「おまえな……、いや、その性格はレースには良いのかもしれないが。あいつはもすぐ来る。ほら、噂をすればだ」
指さされたほうを見れば、ああ! やった!
「ごめんなさーい、ファンだって言ってくれた子たちと写真撮ってて。ごめんね? お兄ちゃん」
「いや、まだ時間になってないから大丈夫だ。それよりこの後輩を……」
「カレンチャンさん! こんにちはっす! 今日もかわいくて最高っす!」
「ありがと、でもカレン前も言ったよね? そのさん付けやめてって。知ってるんだよ? 他の先輩はちゃんづけしてるって」
「いやあー、カレンチャンさんはカレンチャンさんですし」
怒った顔もカワイイなんて流石っすね! いやー、憧れの先輩が居るってだけでこのトレーナーに決めたかいがあるっすね。
「おい、俺はカレンのおまけか?」
いやいや、もちろんトレーナーの腕も信用してますよ? でもどうせなら嬉しいことはいっぱい有ったほうが良いじゃないっすか! 当たり前の事を言っただけなのに怪訝な顔をされてしまったっす。解せぬ。
「はあ、もう良い。良い時間だ。軽くミーティングしてトレーニングにはいるぞ。まずはカレン。この前言ったみたいにまずは桜花賞を目標として距離延長を目的にスタミナを重点的に鍛えていく。本来ならフォームの変更も行いたいが、それはマイル以上を走れるのが確認できてからだ」
「はーい、カレン頑張っちゃうからね」
「ああ、盛大に頑張ってくれ。で、こっちは基本はスプリント。だがある程度の時期からマイルも視野に入れていきたい。丁度いいからカレンと同じメニューをやってもらう」
は? なに言ってるの?
「ねえ? 私、短距離希望って言ったよね。なんでマイルなの? もしバクちゃんがいるから路線ずらすなんて言うなら覚悟してよね」
そんなことしかか考えられないようなら、もういらない。
「……いきなり真顔になるな、焦るだろ。逆だ。サクラバクシンオーがマイルも走るってのはそのトレーナーから聞いてる。ならマイルでも勝たないといけないだろ。それに、お前みたいな才能の塊を最初から短距離に縛り付けるのはもったいない。行けるなら上の距離も狙っていきたい」
「なーんだ。それなら良いっすよ。カレンチャンさんと一緒に練習ができるなんてトレーナー大好き!」
いやいや、トレーナーまでビビっちゃったかとおもってヒヤヒヤしたよ。でも、今は取り敢えず今日のトレーニング、併走とかも出来るかも、なんてルンルン気分でいたらカレンチャンさんにすごい顔で見られてた。え、もしかしてカワイクないポイントでもあった!?
「君、ほんと性格濃いよね。なんだろうね、後輩系唯我独尊みたいな感じ?」
「なんすかそれ、私は至って普通のウマ娘っすよ」
うーん。これはいくらカレンチャンさんの言うことでも納得できない。私は何処にでも居る平凡なウマ娘っすよ? ただちょっと短距離が強いだけで。
「だってさ、君の目標なんだっけ?」
「そんな面白いもんでもないっすよ? ただ今年からG1も増えたし春秋スプリントを連覇したいなってだけで」
「うーん、カレンがおかしいように思えてきちゃった。それ、相当厳しいよ。それに私も走るんだよ?」
「カレンチャンさんに勝てるかはわかんないですけど、他に負ける気はないっすから。ああ、でもバクちゃんいるから、そっちも考えないと。それに私はカレンチャンさんのカワイイを極める! って目標の方が大変だと思うっすよ? だって何より自分にまけられないんすから。私の目標は他の全員に勝てばいいだけっすから」
「……はあ、カレンもう知らなーい。お兄ちゃん、トレーニング始めよ?」
「こいつの大口がただのよくある自信過剰のビッグマウスか本物かはそのうち分かるだろ。さ! トレーニング始めるぞ!」
そうそう、まずは練習、練習また練習。今のままじゃシニアに殴り込んでも返り討ちっすからね。
それからガッツリ併走もしたけど、結局一度もカレンチャンさんを追い抜けなかった。うーん先は長いっすね。
トレーニングでヘトヘトになって重くなった脚を引きずってやっと寮に帰ってこれた。今考えれば私まだジュニアのメイクデビューも済んでないんすよ。少しは加減してたけど、カレンチャンさんと同じメニューとかおかしくないっすか?
次あったら問い詰めてやろうと胸に決めて今日はもう晩ごはん食べるより眠りたいなんて考えてたら、食堂の方からいい匂いがプンプンと。気になって行ってみたら、クラスのみんなが鍋を食べてるじゃないっすか。え、なんでこんな季節に? 聞いたらヒシアケボノちゃんが夏バテ対策ってことで作ったらしい。本人はビコーペガサスちゃんと一緒に美浦にも持っていったらしい。いや、この時期にクーラーガンガンにしてたとしても鍋は……
「おかわり! いやー、最高に美味しいっすね!」
結局、腹十三分目ぐらいまで食べてしまった。いやー、鍋! 最高っすね!
「おし、じゃあ今日はミーティング……なんだその腹?」
授業中もクラスの半分以上がぽっこりお腹なせいで来る先生来る先生に笑われてしまったっす。その時はみんなもいたから笑って終わったけど一対一だと流石に恥ずかしい……。いや、カレンチャンさんに見られてないだけマシということにしておくっす。いや、ちょっと待つっす。なんで携帯こっちに向けてるんすか?
「なに、可愛い後輩のおもしろいとこ見たいだろうと思ってな? カレンに写真送っただけだ」
はー!? なに考えてんすか! あ、メッセージ……カレンチャンさんからだ、
『そのお腹はちょっとカワイクないかもね? でも、そんな君はカワイイよ!」
う、うおぉぉのうんん? これは喜んで良いのか悲しめばいいのかどっちすかね?
「すごい声でてるぞ。まあいい。来月、デビュー戦の出走が決まった。頼むからそんな腹で出てくれるなよ?」
へー、来月になったんすね。流石にそれまでには引っ込むでしょ。
「了解っす。で、レース決まったら作戦とか決めるんすか?」
「やるにしても、もう少し近くなってからだな。お前の走りがどこまで仕上がるかにもよる。それに作戦いるか?」
「バクちゃんとフラワーちゃんいるんすか?」
「ニシノフラワーは俺達の前週のレースに出るらしい。サクラバクシンオーのトレーナーは本格化がまだ来ないから遅らせるって言ってたな」
「なら、いらないっすね。普通にやって普通に勝ってきますよ」
あの二人がいないのなら大丈夫でしょ。ブルボンちゃんとかライスちゃんは長めの距離でデビューしたいって言ってたし。だったら特に問題はないっすかね。
「……確かにお前は俺ですらどこまでいけるかわからないぐらいのウマ娘だ。だが油断はするなよ? 今名前をあげたウマ娘だけじゃないんだぞ」
「もちろんっすよ。クラスのみんなもトレセン学園に来るだけ有ってかなり出来ると思いますよ。でも、私の方が強い。それだけっすから」
「……メンタルケアとかいらなさそうなのは助かるが負けて折れるなよ?」
「へーきへーき、負けなきゃ良いだけっすから」
簡単なことっすよ。それでも、私の友達はやばそうな人多いから、燃えてくるっす。どこで戦うか、重賞か、G1か……、あ。
「そう言えば、勝負服のデザインとかそろそろ決めたほうが良いっすかね?」
「デビュー前のやつがバカ言うな。だが、まあ年末までにはいるだろうから秋頃にはそれも決めようか。それにお前またでかくなってきてるだろ。何度も採寸するの面倒くさいぞ」
なるほど、それもそっすね。じゃあまずは目の前のデビュー戦に向けて頑張るっすよ!
「本当に言うこともなく普通に勝ったな。いや、あの走りであの着差は普通なのか?」
「言ったじゃないっすか。普通に勝てるって。あ、写真撮ってくださいよ! 初勝利をカレンチャンさんに報告しなきゃ!」
「安心しろ、もう呼んである」
「へ?」
「お邪魔しまーす。あ、おめでとう! あれだけ言うだけ有って凄かったよ!」
カレンチャンさん! 見に来てくれてたんすね! ならもっと早く言ってくださいよ! なんて当然の権利を主張したのに、調子に乗るからだなんて言われてしまったっす。ひどい。
「それはともかく、これで本当の意味でウマ娘の君が始まったんだよ? ねえ、どんな気分?」
「そうっすね、やっぱり分かってても勝つのはめっちゃ嬉しいっすね! だからこれからも何回も勝っていくっすよ!」
さあ、これからガンガン行くっすよー!
今回は露骨だしすぐバレそうだけど、明確なネタバレは勘弁してくだしい