スプリント戦線は今日も晴れのち地獄っす   作:冬眠復帰

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短めのものを週に数回を目標にしたい感じです


今年も1年頑張るっすよ!

 年が明けたのもつい最近な気がするっすけど気がつけばカレンダーは2月の真ん中あたりまで進んでいる今日このごろ。新年そうそうカレンチャンさんがトレーナーと二人で初詣に行っていたと聞かされて不貞腐れていたのももう過去の話っす。

 今年はクラシックに挑む年にはなるんすけど私の適正的にどう考えてもお話にならないので特に意気込んだりはしないっすね。マイル路線も考えはしたけどそれもきつそうでままならないっすね。

 

「そんなわけでなんか面白い話ないっすか?」

 

「私たちはクラシック路線やティアラ路線を走りますので、立場が違うので面白い話も難しいのではないでしょうか」

 

 どう考えても煽ってるようにしか聞こえないブルボンちゃんっすけど、これ本当に言葉のまま言ってるんだから面白いもんすよね。フラワーちゃんにライスちゃんも苦笑いしてるっすよ。

 いつものメンバーでお昼休みにグダグダしてるだけなんで問題ないとブルボンちゃんに伝えてっと。言っておかないと変な所で落ち込んだりしそうっすからね。マチタンちゃんは午前の授業中に何故か急に鼻血が出てきて未だに保健室。バクちゃんは昼休みの学園をパトロールしてきます! なんて言って学園のどこかをバクシンしてるんでしょうね。

 

「まあ、それはともかくまだ先っすけどそろそろ皐月も桜花も見えてきた頃っすけど調子どうっすか?」

 

「まだ先なのか、そろそろなのかどちらが正しいのでしょうか」

 

 相変わらずのブルボンちゃんのほっぺをウリウリしながら話し続ける。

 

「えーとね、ライスも準備はしてるけどやっぱり距離が短いかなって。スプリングステークスもうそうだけどやっぱりもう少し長いレースが嬉しいな」

 

「あー、ライスちゃんにとっちゃそうっすね。同じレースに出走予定のブルボンちゃんはどうっすか?」

 

「レースに関わることですので詳細は話せませんが、問題ないと判断します」

 

 いやー、この二人何もかも正反対で面白いっすね。同じレースに出るのに片や短すぎる、片や距離延長は大丈夫か、なんて記事にかかれるレベル。そうじゃなくても性格も体つきも正反対なのにいつの間にか仲良くなってるもんで。

 

「この中だと私だけがティアラ路線かな? 勝てるかどうかわからないけど精一杯頑張ります!」

 

 小さな体でフンスと気合を入れるフラワーちゃんも可愛いっすね。マイルまでなら私も走れるかもしれないけど、オークスがねー。なら裏路線行くってのも今の段階だと正直本職に勝てるかどうか。多分勝てない勝負じゃないっすけど微妙なラインな感じっす。てゼファーちゃんとフーちゃん今はちょっと厳しいっすね。

 よくよく考えなくてもバクちゃん、私が短距離。ゼファーちゃん、フーちゃん、フラワーちゃんがマイル。中長距離はマチタンちゃんにブルボンちゃん。長くなればなるほどのライスちゃん。この世代ちょっと地獄過ぎないっすかね? だからこそスプリンターから殴り込んだブルボンちゃんはホントにすごいと思うっす。

 

「どこに行っても逃げれない。いやはやほんと楽しい世代になりそうっすね」

 

 私のつぶやきにブルボンちゃん以外の二人から苦笑いが返ってきたけど二人共やばい方のカテゴリーなんすよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

「秋までは短距離のOP戦を何戦か走ってもらう。それで秋頃から重賞に入る予定で考えてる。問題ないか?」

 

「秋ってなるとスプリンターズステークスを目標にする感じっすか?」

 

 放課後トレーナーと今年の目標に向けてお話っす。本当ならカレンチャンさんみたいにマイル路線って予定だったんすけどどうやら私はカレンチャンさんよりも短距離に特化してるみたいっす。トレーナーの話では普通ならマイルでも勝負できるレベルらしいっすけど今年はちょっと周りのレベルが高すぎるとか何とか。まるで逃げてるように聞こえるそれのせいでひと悶着あったのはご愛嬌。

 何はともあれ、クラシックの一年短距離に特化してトレーニングとレースを選んでいくことになったっす。

 

「しっかし、こう見るとほんと短距離のレースって少ないっすね。特に重賞なんてシニア級のやつしかないじゃないっすか」

 

「まあこればっかりはな。これでも増えてきたって言えてしまうのが寂しいところだ。マイルははまだG1も増えてきているがスプリントはな……。というわけでまだ予定にもならない段階だがカレンには今年香港スプリントに出てもらうことを考えている。これはまじで喋るなよ」

 

 はえー、カレンチャンさん世界デビューっすか。でもまあ、確かにダービーやジャパンカップ、天皇賞や有マに並ぶような短距離のレースってなると海外に行くしかないんすかね。もちろん春秋スプリントも立派なG1っすけどやっぱり他の距離のレースと比べると格落ちとは言わないっすけど扱いがね……。特にうちのトレーナーは短距離が専門って言っていいレベルっすからなんとか地位向上を目指してんでしょうね。

 

「香港って私も走れるんすか? 秋のスプリンターズステークス取ったら実績的には行けそうなもんすけど」

 

「お前にはもう少し時間をかけてもらいたいと考えてる。今年でも十分入着以上も狙えるとは思う。だが香港スプリントは巷では凱旋門より遠いなんて言われるぐらいだ。そこでお前には入着ではなく勝利を。それも圧倒的な一着を取ってほしいと思っている。日本のスプリンターは世界に届く、いや世界に勝てると夢を見せてほしいんだ。……正直に言う。この計画には俺の気持ちが多分に入っている。お前が嫌と言うならもちろんそちらを優先する。どうだ?」

 

 珍しく真面目な、それよりも思い詰めたようなトレーナーの顔にこっちも真面目に考えてみる。気持ちだけで言えばカレンチャンさんについて行きたいし今年1年使えば勝つ自信もあるっす。だけどトレーナーは1年待ってくれという。トレーナーの腕は今更疑うもんではないし、今のままでは今年にはトレーナーの夢には間に合わないってことだと思うっす。一応念のため聞いてみるっすか。

 

「今のままでトレーニングして今年の香港は厳しいっすか?」

 

「お前なら勝負になると思う。だが絶対に勝てるとはいえない。色々見直したんだが本格化が間に合わない可能性もある。そうなると追い込みきれない可能性もある。俺も香港スプリントに勝ちに行くのは初めてだから読みきれない部分もある」

 

「ならなんでカレンチャンさんは行くんすか? 私のための下見とか言ったら……」

 

「その目的があることは否定しない。だがカレンの場合来年までピークを維持できない可能性もある。本人と話して今年行くことに決めたんだ。もちろん強要なんてしていない」

 

「まあ、そのへんは信用しますよ。カレンチャンさんならぶっつけ本番でもしれっと勝てそうですし」

 

 色々言いたいことも思うこともあるッスけどまずは私が海外のレースに出れるレベルになっていないと何も始まらないわけですし、目の前のことから一つ一つ勝っていくするっすかね。

 

「そうだな……。すまん、先走りすぎた。お前の言う通りまずは目の前のレースを一つずつ確実に勝っていこう」

 

 私の意見にトレーナーも納得してくれたようで一件落着っすね。しっかしトレーナーにしてはいきなり年末の話しだすとかかかりすぎじゃないっすか?

 

「それはそうかもしれんな……」

 

 なぜかより一層落ち込んでしまったトレーナーの話は私としても嫌なものだったっす。トレーナーはベテランではないけど若手でもないような年齢とキャリアの立場っす。今まで短距離を専門にそれなりの成績を残してはいるっすけどそれでも他の距離で目立つ実績はないそうで。それで周りからそろそろちゃんと結果を出さないとななんて言われたみたいでついかかり気味になってしまったみたいっす。

 確かにスプリンターで顕彰ウマ娘に選ばれたのは去年のタイキ先輩が初めてでそれ以外はみんな中長距離で結果を残したウマ娘ばっかり。もちろんみんなすごいウマ娘っすけどそれでも距離が違うだけでこうも違うのかとはどうしても思っちゃうっす。タイキ先輩も去年海外G1を勝ってやっと選ばれたってレベルですしもうなんか透けて見えるっすよね。

 そんなことより。我がトレーナーは短距離以外でも結果を出せって言われて、そこで海外のG1スプリントで見返そうとしてるっす。うん。バカっすね。でもそんなバカなトレーナーだから私も一緒にやっていこうって思ったわけですし?

 

「トレーナー。やるからにはとことんだよ。誰にも文句を言わせないような成績を残すのは確定として後はどこまで行けるか。そっちが大事なんだから」

 

「ああ。お前ならできると信じてるし、お前が勝てないなら今後数十年誰も勝てないさ。やるぞ」

 

 静かに闘志を燃やしながら右手を差し出してくる。私もそれをしっかりと目を見ながら握り返す。そうだ、最強を名乗るなら国内だけ見てちゃいけない海外も見ないといけないんだ。そう伝えるとトレーナーは困ったように苦笑いし始めた。なんすか! 今ちゃんと決めたじゃないっすか!

 

「どうどう、いやな? 国内だけじゃだめってのはそうだが、多分国内スプリントで一番になれればそのまま世界一にスライドできると思うぞ? 冗談じゃなく」

 

「……バクちゃんすね?」

 

「ああ。バクシンオーはやばいぞ。あれもお前と同じでどこまで行くかわからん化け物だ。怪我なく問題なく進めばまず間違いなく世界一速いウマ娘になるだろう……睨むな睨むな。そうだな、お前も世界一のスプリンターになる」

 

「ぶえー、世界一って意味知ってるんすか? 二人といないから一番なんすよ?」

 

「ああそうだな。二人の世界一。どちらが強いかはレースで決めるしかない。こればっかりは俺もおまえが勝つとは断言できん」

 

 まあそうっすよね。でも。

 

「でも本当にバクちゃんが一緒の世代で良かった。誰かの思い出の中じゃなくレースでどっちが速いか決めれるんだから。ああ早く走りたい。速く走りたい。私が世界一だって最強だって世界に見せつけたい……」

 

 血が疼くってこういうことなんだろうね。ああ本当にウマ娘で、この時代に生まれてよかった……!

 

「張り切るのいいが、まずはカレンと走ると抜かせなくなるのどうにかしような」

 

 もう! かっこよく決めてたんすから! ひどいっすよ!!

 


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