壺職人憑依記 ~壺がデスサイズで何が悪い~ 作:パラスチミン
「ああ…あっついな…」
ハッハッハッハ…と上から降ってくる笑い声、じりじりと照り付ける太陽が笑っているのだ。物理的に。比喩表現でも何でもなく太陽が笑っている。目があって、鼻があって、綺麗な歯が生えそろった大口を開けて笑っているんだ。俺が俺になる前にはありえなかった光景だ。熱波を放出しながら、下に向かって笑っている。俺はそれを務めて無視しながらクソ長い階段を軽快に段飛ばしで駆け上っていく。思えばこの階段にも慣れ切った。来た当初なんて上るだけで体力の半分を持ってかれたからな。
カラッと乾いた埃っぽい空気が喉を攻め立てる。たとえこの街がオアシスに中に建てられたものだったとしても空気までは変わるもんじゃない。だってここはアメリカのネバダ州の砂漠のど真ん中にあるんだから。何が登校中でも強靭な足腰を鍛えるため、だ。EATならともかくNOTのやつらにはホントに地獄だろうに。ほれみろ、下を見れば今にも死にそうな顔で登校するやつの山だぞ。実力主義でも限度があるんじゃないかね?
上り終えた俺の目の前にある巨大な城のような建物。なんかでっかい蝋燭ぶっ刺さった前衛アートみたいな学校、死神武器職人専門学校、通称「死武専」…俺が10才から数えて1年通っている学校だ。何をする学校と言えば「職人」と「魔武器」を育てるための学校、である。そもそもそれってなんだよ、という話は長くなるので後に回そう。
「そろそろパートナーみつけーねーとなあ…つってもぶっちゃけどの武器でもある程度使えるから波長がこれ以上なく合うやつがいいんだけど…あっ!やべ!」
KILLコーンカーンコーン♪と特徴的なチャイムが鳴ったので俺は急いで死武専の中に入り、迷路のような廊下を迷うことなく進んで一つの教室の中に入る。その中ではもうすでに何人かの生徒が教室の中でだべっていた。ドアを開けた俺に気づいたのは青い髪のツンツン、肩に星をつけた少年とベージュの髪を短いツインテにしてる少女、俺と同じ職人仲間だ。
「あ、キリクくんだ。おはよー」
「キリクじゃねえか!聞けよ、なんと今朝俺様の武勇伝が更新されたんだぜ!!!」
「マカ、おはよ。ブラ☆スター、それは後でじっくりと聞かせてもらうとするぜ」
ああ、自己紹介を忘れていた。今の俺はキリク・ルング、音楽が好きで、黒人で、んで前世の記憶がちょっとあるだけの職人見習い。今はパートナーの武器はいないけど、いつかビリビリ燃えるパートナーを見つけてそいつを死神様の武器「デスサイズ」にするのが目標の11歳だ。
「うっす、ちゃっす、ち~~~っす!おつかれさ~~ん。んで連絡事項なんだけど、今日からパートナー決めのためのお見合い会やるよ~~。んじゃ、あとはよろしく!」
そう言っておちゃめな髑髏っぽい仮面をかぶった黒いローブで全身を隠す何か「死神様」は鏡の中から消えてった。死神様はこの世界の頂点、ぶっちゃければ神様なんて言われてる凄い人物だ。人か何かも分からないけど、戦えば負けなし、無敵で素敵でおちゃめなみんなから慕われる神様。この世の秩序を担う存在である。
俺たちEATの職人は、武器に変身できる能力をもった人間、魔武器をパートナーとし、その魔武器を死神様が使う武器デスサイズに鍛え上げるのが俺たち職人の最終目標、そしてその鍛える方法というのが、魂を武器に吸収させることだ。正確には死神様のリストに載っている悪人99人の魂と一人の魔女の魂、それらを武器に吸収させるとデスサイズになることが出来る。
つまり俺たちは武器を鍛える為に99人の人を殺して、一人の魔女を殺す必要がある。同時にこれは世界に蔓延る悪を断罪するための処刑人としての役割を担うということだ。
ちなみにEATというのはクラス分けの話で、主に力の制御を学ぶ非戦闘員、生徒の9割が所属するNOTとデスサイズを作ることを主目的とした戦闘クラスのEATの二つに分かれている。さっき死神様が言ってたお見合いというのもEATクラスの職人と武器のマッチングをしてくれるという話なのだ。
「魔鎌、いるかなあ…」
「ひゃっはっは!俺様に合うようなBIGな武器はなかなかねえと思うけどな!」
「いいなあ…オックスくんとか、もうパートナー見つけてるんでしょ?」
「ああ、オックスは波長の合うパートナーを見つけるのが早かったみてえだな」
死神様の連絡だけというホームルームを終えた俺たちはまた結局集まって話すのだ。なんでこのメンバーなのかというと単純、パートナーがいない者同士だから。例えばツインテの少女、マカ・アルバーンは鎌職人志望、つまり武器を絞っているのでその武器に変身できるパートナーが来なければいつまでたっても職人見習いのまま。青髪の少年ブラック☆スターは武器はなんでもいいというが魂の波長の我が強すぎて組めるパートナーが見つからない。そしてかくいう俺はなんでもいいという適当さのせいで命を預ける武器にしたらたまったもんじゃないので見つからない。
魂の波長というのは人それぞれ違う魂のリズムのようなものでそれが合う人物同士じゃないと武器と職人はペアになれない。波長が合わない人物が波長の合わない武器を使おうとしても重すぎて持ち上げられなかったり、ひどけりゃ吐血してダメージを負ったりする。逆に合うもの同士は武器が職人の意思を読み取って動きをサポートすることで1+1が3にも4にもなるほど強くなることが出来る。だからマカの場合は波長のあう魔鎌の人間が必要で、ブラック☆スターには兎に角波長が合う武器が必要、というわけだ。
俺?俺は別。俺は大体の人間と魂の波長を合わせることが出来るので大概の魔武器を扱うことが出来る。だからこそ、パートナーが見つからないんだ。誰でもいい、というのは裏を返せば「俺、私じゃなくてもいい」ということなので命を懸ける武器側からしたらノーサンキューというふうになっちまう。くそう。でも、俺がこれと言える武器のパートナーが見つからないのも事実。困ったもんだ
「んでブラ☆スター、武勇伝の更新ってどうしたよ」
「登校前に100人抜きしてきたぜ!」
「もしかして階段の死屍累々はお前の仕業か?マカ、知ってるか?」
「死んだー」
「デスっ子言葉はやめろ。わからん」
デスっ子、つまり死武専があるデスシティーで生まれ育ったものが使うわからないという意味のスラングで返された。優等生で有名なマカが学校で机にぐてっとしながらそんなこと言うなんてパートナーが見つからないのが相当応えてるなこりゃ。揶揄って頭の一つでも撫でようかと思ったが分厚い本で思いっきりぶっ叩いてくる通称「マカチョップ」が怖いのでやめておこう。
「でもよー、ちょっと歯応えがなかったんだよなー…ってわけでおいキリク!組手やろうぜ!」
「おい待てブラ☆スター、教室でやるなんて馬鹿なことあぶねえっ!?」
「ひゃっはあ~!俺様がルールだ!」
言うが早いが理不尽に殴りかかってくるブラック☆スターの体術をいなして躱してついでに反撃しながら教室の中で大騒ぎする俺たち、授業が始まるまでの時間は短いのに何考えて…っておいそこ!どっちが勝つかてトトカルチョしてんじゃねえ!え?なに後ろ?ちょっマカさん!?俺は悪くな…ぐわあああああっ!?
「ほらもう授業始まるよ!」
「「…はい…」」
俺たち二人は頭を凹みたいな形にされた上で引きずられ、何とか授業に参加するのであった。俺悪くなくね?理不尽だわ。
「ああ、キリク。すまないがまたちょっと手伝ってもらっていいか?」
「シド先生、いいですけど…NOTの方ですか?今日パートナー探ししようと思ってたんで早めに終わりたいんですけど」
昼休憩が始まる、という前に死武専の先生兼凄腕の職人でもあるシド先生、死人・バレット先生に捕まった。どうやらまたNOTのクラスの手伝いに駆り出されるらしい。合法的に座学をサボれるので嬉しいんだけど…今日はお見合いがあるので長引くと困る。
「もちろん、授業時間内に終わらせる。俺は時間を守る、そんな男だ。それにお前の体質は貴重だからな、万能職人、EATに上がりたい武器たちのテスト要員としてこれ以上のものはない」
「パートナーいないんですから…あまりEATだNOTだ言えないと思うんですけどね…」
「ブラック☆スターとまともに組手出来る時点でEATの中でもかなりの武闘派だろうに。ともかく、頼んだぞ」
「ウーッス」
シド先生に頼まれたのはNOTクラスの武器たちの中でEATに上がりたい者たちのテストの職人役。もちろん職人もEATに上がりたいなら揃ってテストを受けるんだけどそうじゃない場合、武器だけでは困るので俺みたいに小器用に何でも使えるやつが試験官役をするわけである。シド先生について行って途中でやってみたい戦闘技術についてアドバイスをもらうことにした。あの、職人だけで戦う場合どう言った技術があるんです?え?魂の波長を武器からじゃなくて直接打ち込む技がある?何それ凄そう。魂威?はぇー、え?ブラック☆スターできんの!?まじか…これは負けてられん。
「時間だ、では今からEAT昇格試験を開始する。職人役はそこにいるキリク・ルングだ、では最初…エターナルフェザー!」
「よ、よろしくお願いします!」
「おう、よろしく」
すげえ名前の子来たな。しかも女の子か、名前を呼ばれて真っ赤になるほど恥ずかしがってるおさげにメガネの女の子。多分誰かに勝手に名前変更届け出されたやつだな~。死武専は芸名での活動を容認してるので2年間名前を変えられないことを利用したこういういたずらが流行ったりするんだ。かわいそうに
「それでは、武器に変身しなさい」
「はいっ!」
返事をした彼女の全身が光に包まれて、俺の右手に収まる。彼女はどうやら大ぶりのバタフライナイフのようだ。ナイフ職人は結構いるけど彼女のパートナーはNOTがよかったのかね。まあそれはともかく…波長はこうね、オッケーチューニング完了。俺の方で波長を合わせて彼女を振り回す。残像が残るほどの速さで斬撃、刺突、開閉を繰り返してみるがうーん、とこれはアカン。彼女の方からサポートして動こうという感じがない。武器は職人の思考を読み取って動く、力を加えなくても武器の方から動いて職人の動きをサポートするのが武器の仕事。EATの武器にはまだ早い、かな。
彼女が終わった後も俺は様々な武器たちを振り回すことに終始するのであった。結局、EATクラスに行く武器は現れなかったけど。死武専は弱肉強食が常なのでもっと魂を強くして頑張ってほしい。健全なる魂は健全なる精神と健全なる肉体に宿るともいうから。
「っべー!遅れた!」
「あら、遅い到着じゃない。武器?職人?」
「職人っす!もう始まってたり?」
「じゃ、このバッジ付けるんだよ!あとはほら、いったいった!」
結局、EATクラス昇格試験はお見合いパーティーの時間をがっつり超過してしまった。シド先生は俺から目をそらして口笛を吹いていたがパートナーのナイグス先生にファイルで頭を小突かれてた。3つ星職人がダメージを負う瞬間を見てしまった…じゃなくて!そろそろ俺もちゃんとパートナーを見つけないとダメなんだから!視界のそこかしこではすでにペアができかけてるのか試しに武器を持つ職人たちの姿がある。
「げっもうほとんど残ってねえ…!」
「おっ遅かったじゃねーかキリク!見ろ!俺様のパートナーが遂に見つかったぜ!」
「バカなっ!?あのブラ☆スターに先を越されたっ…!?」
「てめーどういう意味だああん?ボコされたいかコラ」
「えっ、あの…二人とも落ち着いて…」
「…よくこんなの捕まえたなブラ☆スター」
「だろ!?俺様のBIGさにかかれば余裕だぜ!なんせ俺様は神を超える男!」
ブラック☆スターの隣にいるのは武器のバッヂをつけた女の子だった。多分俺たちより年上らしい彼女、日系の黒髪に垂れ目のポニーテールの美人だ。あの唯我独尊俺が頂点と信じて疑わないブラック☆スターに合わせることが出来るなんて相当にやばいやつかと思うんだけど見た目的には普通どころか満点ではないだろうか?
「中務椿です。武器の種別は暗器で、色々変身できます」
「キリク・ルング、キリクでいい。こいつに付き合うのは大変だろうけど悪いやつじゃないし、強い。きっと頼りになるさ」
「おうとも!椿!BIGな俺様にどーんと任せとけ!」
ブラック☆スターが調子に乗って、何時もノリノリだけど…胸をドンと叩くのを微笑みながら見守る椿、何というかお似合いだな。うっわー、これでブラック☆スターも武器持ちか~、っとそれに気を取られている場合じゃなかった!他に武器の名札をつけてるヤツ…いねえ!ほぼペアができちまいやがった!ああ…とがっくりきそうになったが、ピクリと俺の魂に直接訴えかける何かがあった。優秀な職人が目覚めるという魂感知能力とは比べるのもおこがましいいわば勘。だけどこのリズム、俺の素の魂の波長とぴったり合う…!
足早に勘に従って移動する。椿に己の武勇伝を語って聞かせるブラック☆スターは無視でいい、今はこの波長の主を探さないと。どこだ?あそこか!
「え?」
「「???」」
カーテンの向こう、勘に従ってそこから顔を出すと小さな小さな双子の幼児が不思議そうに俺の事を見つめていた。
原作で強いはずなのに扱いが悪いキリク君をこの上なく強くしたかった作者の妄想です。近いうちに2話を投稿します。どんな武器でも扱える万能職人という濃ゆい個性もあの原作の中では薄まってしまうんですね…
次回は双子の壺のお話、感想評価よろしくお願いします