壺職人憑依記 ~壺がデスサイズで何が悪い~ 作:パラスチミン
正式に職人と武器の関係になって1週間、ポッド兄妹との生活は思ったよりもスムーズだった。とてもいい子たちだったのだ。そりゃあ子供らしくこのお菓子が欲しいとかそういうのはあるけど全然許容範囲で俺が掃除をすればお手伝いしてくれるし、料理してたら皿を並べてくれる。洗濯してたら畳むのを一生懸命やってくれる。ナイグス先生の教育というか育て方がめちゃめちゃはっきりわかった。
まあまだお風呂とかは一緒に入って洗ってやったりする必要があるし、ちょっとしたことで喧嘩もするけどすぐに仲直りする。ベッドだって一緒じゃないと寂しいとぐずるがそんなのは屁でもない。大事なパートナーたちなんだからと朝ごはんのベーコンエッグを焼いてる中、子供用のテレビ番組に夢中になっている二人を見て笑いをこぼした。戒律上喋れないってこと以外は別に不自由するわけじゃない。言葉は分かってるしきちんと聞き分けもいい。ナイグス先生は武器だから、武器の心得も仕込んでいるのだろうか。
焼きあがった半熟ベーコンエッグを皿に移してトーストにバターを塗り、サラダを用意して二人を呼ぶ。彼らは行儀よくテレビを消して食卓に座る、俺のまあ可もなく不可もなしな料理を食べながらそういえば今日の授業はなんだろなと時間割を思い出すとそういえば今日は全部体育だったはずだ。思いっきり訓練をして体を動かすことが出来る、この子たちも武器とはいえ動くこと自体は好きらしく同じEATの仲間に遊んでもらうのを楽しみにしてるようだ。
「あーこらこら、トマトを残すなよ。美味しいんだぞ?」
舌をベー、と出してトマトを避けようとした二人、嫌いなんだなと新しい情報を得たけど、残すのはいかんので注意した。二人は意を決したようにパクリと口に放り込んでもぐもぐと噛み、ごくんと飲み込んだ。どう!食べたよ!と得意そうな顔をした二人の頭をぐしゃぐしゃと撫でて褒め、俺のベーコンを半分づつ二人に分けてやる。褒められ上手め。と俺は二人より2枚多いトーストを大口開けてザクりと頬張った。すっと香るバターが旨い。ストロベリージャムを塗ったパンをサンダーが真似して頬張るけど、一口が小さくて少し笑えた。ファイアはベーコンに夢中、さって、そろそろ準備しないとな。
先に朝食を片付けた俺が二人の着替えを準備する。二人があわあわして早く食べようとするのをゆっくり食えと言って落ち着かせ、俺自身はサクッと着替える。いくつもある死武専の制服をテキトーに組み合わせたいつもの服装、黒ぶちの伊達眼鏡にドレッドヘア、見苦しくない程度にキメて後ろを振り向くと牛乳のひげを作った二人がこっちにかけてくるところだった。ほんとに仲がいいなと口元が緩む。タオルで顔を拭いてやり歯磨きをさせてお気に入りらしいオーバーオールとベレー帽に着替えた二人は準備万端、といった感じだな。
今日は時間があるので普段移動に使っている小型のバギーじゃなくて徒歩で行くことにしよう。ついでに朝市も見る時間があるかもしれない。そう思って二人の荷物が入った大きなリュックサックを背負って玄関を出るとちょうど隣の部屋から出てきたマカと鉢合わせした。
EATの寮は男女で別れてないし職人と武器が性別が違うなんて日常茶飯事なのでこういうことはよく起きる。共同生活前提なので部屋もでかいしな。まあブラック☆スターみたいに別の場所に住んでるやつとかもいるにはいるけど。ちなみに俺の右隣がマカ、左隣がオックスという槍職人の部屋になっている。
「あ、おはよ。ファイアくんもサンダーちゃんもおはよ。今日は早いんだね」
「ん、ああ今日は寝覚めがよくてな。バギー飛ばさないで済みそうだ」
「残念、載せてもらえるかと思ったのに」
「お前乗せるとデスサイズさんうるさいじゃねえかよ」
「またなんか言われたの!?もうパパったら…!」
よっす、という感じで片手をあげて答えた二人をマカが撫でて何と無しに雑談をする。マカの親父さんは死神様の武器、デスサイズの一人だ。しかも大鎌という厳密にデスサイズを名乗れるのは彼のみであるという凄い人…なんだけどマカからの評価はとても悪い。まあキャバクラ通いで浮気しまくった挙句離婚されて親権とられちゃったからな。いや確かにアレな人だけど悪い人じゃないんだよ?人間としてアレってだけで。遅刻しそうなときバギーで行こうとしたら同じく遅刻しそうなマカを載せていくことになってそれを見られた俺はそりゃもー色々言われたよ。
今はまー、悪い関係ではないかも。ブラック☆スターに魂威の事を聞いてもちんぷんかんぷんでうまく教えてくれないもんだから困った俺が相談したとは当然シド先生、そして彼にまた紹介されたのがデスサイズさんことスピリット・アルバーンさんだ。最初は男は教えね~などと言っていたんだけどファイアとサンダーのうるうるとした視線に負けてた。何でもマカが小さいころを思い出してしまったらしい。
それでも嫌だと鋼の意思を見せたデスサイズさんであるが、マカの欲しい本とか知りたくありません?って言ったら一発で落ちた。ちょろい。以来俺は魂威の練習を魂の波長のコントロールがめちゃくちゃに巧いデスサイズさんの元で続けている。教え方はクソ雑なんだけど的を射ていてさすがはデスサイズと尊敬の念を覚えたよ。マカにそれとなく欲しいものを聞いてみるがやはり本かパートナーらしい。気持ちはよくわかるけど。
そうして、結局玄関先で話し込んでしまって時間が経ってしまい、バギーで学校に向かうことになった。危ないので武器形態になったファイアとサンダーをマカに抱えてもらってバギーを出す。高回転のエンジン音がデスシティーに響き渡った。4人乗りだけどチャイルドシートはまだないんだ、すまん。
「はじめ!」
「ファイア、サンダー!魂の共鳴!」
ところ変わって死武専の授業中、体育という名の戦闘訓練の最中だ。そもそもなぜ魔武器が職人、ひいては死神様に必要なのかという話であるが魔武器には職人の魂の波長を増幅する機能がある。つまり俺が楽器ならファイアとサンダーがアンプなのだ。魂の共鳴という行為は武器に魂の波長を送ってそれを増幅、さらに職人に送り返し職人はそれを武器に返し、という作業を繰り返すことで莫大な力を得る手法、強大な魂の波長は一時的に武器の姿形を変えたり強力な必殺技を繰り出すためのパワー源になるというわけ。
ファイアとサンダーは特性として魂の波長を一定量送るとファイアは火を、サンダーは雷を出すことが出来る。火の壺と雷の壺ってわけ。で、魂の共鳴をした今、俺の両手にはすさまじい豪炎と膨大な稲妻が渦巻いている。地面が熱で溶け、雷で地面が焦げるが俺自身は一切何ともない。俺はその莫大な力を抑え込んで目の前のコンクリに思いっきりぶつける。すると大爆発が起きてコンクリは跡形もなく粉砕するどころかちょっとしたクレーターができた。制御しないでぶつけるとこんだけの威力になるのか…!破壊力が他に逃げないように工夫しないとな。
「よし!キリク、ファイア、サンダー!共鳴テスト満点!次!オックス、ハーバー!」
「キリク君、素晴らしかったです。ハーバー君、続きましょう!」
「ああ」
俺がテスト位置からずれると入れ替わりに追加のコンクリと次にテストを受ける反り上げた頭に耳の上に角みたいな珍妙な髪形をした少年、オックスとそのパートナーである雷槍ハーバーがそう声をかけてきた。その様子をパートナーがいない組でひたすら基礎鍛錬と長物使いなら必須のコンタクトマテリアルを繰り返しながら非常にぶすくれた顔でマカが見ていた。ちなみにその脇で俺の前にさっそく共鳴の新技を披露したブラック☆スターが自慢げに自分のサイン入り色紙を押し付けてマカチョップを食らっていた。学習しろよあいつ…
にしてもシド先生がいい武器と評するだけあってファイアとサンダーは非常に扱い易い。動きのサポートも的確だし、波長のやり取りもスムーズだ。NOTはまあって感じだけどEATは最低でも完璧な全身武器化と動きのサポートができないと入れないのでこの子たちは武器としての才能があるという部類に入ると思う。俺はそれに見合うように努力をして強くならねばならないわけだ。
手持無沙汰なので二人をつけたまま風を切るシャドーボクシングを始める。ステップで回り込んでワンツー、ジャブ、ボディ、アッパー、フックのコンビネーション。二人は鋭敏に察知して俺の動きを完璧にサポートする。もし今目の前に人がいたとすれば顔面は陥没し、肝臓は破裂、顎は砕かれ、右肩は粉砕しているというミンチよりひどいありさまを見せてくれるだろう。これがこと一般人ならともかく死神様のリストに載ってるような悪人の場合何らかの特殊能力や肉体の異形化をしていることが多いのでそんな甘くはないんだけど。
そして二人を使っていくうちに二人の能力は同一ではなく少し違いがあることに気づいた。属性が違うのはそうなんだけどサポートにおける違いがあるのだ。まず右腕のファイアはサンダーに比べてパワーが強い。一撃が重いフィニッシュブローに向いていると思う、そして左腕のサンダーはスピードと連射力に優れている。打ち込んで引き戻すまでが早い。まるで二人一組で使えと言わんばかりの性能の違い、この使い分けは非常に重要だと思う。お互いがお互いの長所を伸ばし、短所をカバーしているようで、ここでも仲良しなんだなと思ってしまった。
背後で雷が落ちたような音が響く、振り向くと凛々しいオックスとハーバーの姿、ではなく黒焦げの周りと波長の使い過ぎでぶっ倒れてるオックスの姿があった。気合い入れすぎて波長を使い尽くしたなありゃ…あっやべえ黒焦げのブラック☆スターが怒ってる。まあまあと宥める椿の声も届かずオックスに襲い掛かってシド先生に撃沈されてるや。元気だなブラック☆スター。
そして、コンタクトマテリアルを終えたマカの見つめる先には何ともやる気のなさそうな顔で空をボーっと見つめる銀髪赤目の姿が。まだあきらめてなかったのかマカのやつ、ナイグス先生にファイルでぶっ叩かれて渋々、体を光に包んだ彼が変わったのは瞳の装飾と赤と黒の禍々しい刃を備えた大鎌だった。なるほどあれはマカが絶対に組みたいと猛アタックをかけるのも分かる。だけどどうして誰ともコンビを組まないんだろうなあいつ、戦いたくないならNOTでいいのにEATに来てる時点でなんかおかしいやつだ。
「ああ、そうだ。キリクにブラック☆スター、武器と一緒にちょっと残れ」
「ん?おう」
「はい」
シド先生からそう声をかけられた俺とブラック☆スターはお互い顔を合わせて疑問符を飛ばした後、まあいっかと向き直って武器ありの組み手に入った。授業が終わるまで続いたそれは結局お互いに一発もクリーンヒットを入れることなく次回へ持ち越しになるのだった。
「課外活動だぁ!?…んだそれ?」
「ブラ☆スター…アレだよ。魂集め。でもどうしてそんな急に?」
「ああ、それなんだがな。お前らの実力なら現時点で星1相当の課外活動に出しても問題ないということだ。さっきの共鳴テスト、満点はキリクとブラック☆スターだけだったからな」
残された俺たちにシド先生とナイグス先生から話されたのは俺たちを課外活動、つまりデスサイズを作るのに必要な悪人の魂を集める校外活動への参加を許可するという内容だった、というのもその課外活動への参加条件が魂の共鳴を完璧に発動させることが出来るというものだったらしく。俺の頭の上でトーテムポールのように折り重なってる二人を気にしながら尋ねると帰ってきたのはそういう答えだった。
「それはソロでもってことです?」
「それは各々に任せる。必要なものは
「ひゃっはー☆椿、さっそく課外活動受けに行くぜ!」
「あっちょっブラック☆スター!?」
言うが早いがブラック☆スターは椿を置いて走り去ってしまった。多分あのまま受付に行って自分好みの高難易度っぽいやつを選んで椿の意見を聞かずに出発するんだろうなあ…目に浮かぶよ。椿はあたふたしながらもシド先生に頭を下げて急いでブラック☆スターを追いかけていった。さて、どうするかねえ、課外活動。
「お前らはどうしたい?」
トーテムポールを分離して二人を抱き上げて話す。二人は話自体は理解していたのかいつものようにぶんぶんと激しく頷くことはなく真剣に目を見つめて、こくんと一回頷いた。行きたいってことね、オッケーオッケー。俺もお前らはデスサイズにするためには他人の2倍頑張らないとダメだってのは分かってるので行くつもりでいたし、話し合いはこれで完了、だな。
俺もシド先生とナイグス先生に頭を下げてその足で窓口に向かうのであった。クエスト…ビリビリ燃えてきたぜ。
すいません魂集めは次回になりましたお許しください
ブラック☆スターって実力はクッソ高いはずなのに実技でも落ちこぼれって相当暗殺者として適当やってたんですよね多分。死武祭優勝してるくらいには強いのに。
ノット越えて本編1話まで魂ゼロ個ってまじ…?